8)
応急仮設住宅等における見守り
復旧期復興前期
② 応急仮設住宅等の被災者の健康支援をどのように行うか
③ 被災者の中長期的な心のケアにどのように対応するか
東日本大震災における状況と課題
応急仮設住宅の整備が進むにつれて、避難所等で被災者支援にあたっていた保健医療チーム等の多くが活動を終了した。応急仮設住宅団地等では、要介護高齢者等の日常生活に支援が必要な入居者に対する福祉・介護サービスの提供や見守り体制の整備が課題となった。また、被災により中断・縮小した地方公共団体や医療機関の保健医療サービスを復旧させ、被災者への継続的な健康支援を行うことが求められた。心のケアについても、応急期の心のケアチームの活動を引き継ぎ、中長期的に被災者の心のケアに対応する体制の整備が必要となった。
東日本大震災における取組
応急仮設住宅地域への高齢者等のサポート拠点の設置(課題①)
応急仮設住宅における要介護高齢者等の日常生活を支えるため、厚生労働省では、地方公共団体が応急仮設住宅に入居する高齢者等に対する総合相談や生活支援サービスを提供するサポート拠点等の設置に対する支援を行った(1)。介護等のサポート拠点は応急仮設住宅入居者に対する総合相談のほか、地域住民を対象としたアウトリーチの機能も担った(2)。
岩手県の釜石市平田地区では、障害者や高齢者世帯が居住するケアゾーンとその他世帯が居住する一般ゾーンの間に「平田地区サポートセンター」が整備された。センターは、生活や介護に関する総合相談、訪問介護やデイサービス等の介護保険事業、診療、地域交流事業等を提供する拠点として、24時間体制で入居者を見守る体制を整備した。また、市の保健師等と情報共有しながら応急仮設住宅の自治会長らによる見守り活動も行われ、官民が協力して入居者を支える仕組みが構築された(事例26-2)。
→関連項目:26)建設型応急住宅の確保
→関連項目:55)NPO等による高齢者・子どもの見守りと生活支援
被災者の雇用による見守り支援業務(課題①)
岩手県大船渡市の応急仮設住宅では、緊急雇用創出事業により雇用された生活支援相談員による入居者の見守りや相談支援が行われた(事例14-2)。これにより、多くの被災者が相談員として雇用され、見守り体制の充実とともに被災者の自立支援にもつながった。一方、こうした生活支援相談員には被災者支援の経験がない者も多く、相談対応に関する知識・技術の習得やストレスケアの研修機会を確保するなど、サポートが重要となった。
→関連項目:12)恒久住宅移行後の支援
→関連項目:14)支援人材に対するケア・育成
応急仮設住宅入居者等の健康調査・健康支援(課題②)
厚生労働省では、「被災地健康支援事業」を通して、応急仮設住宅等での巡回健康相談や健康教室、健康診断等の実施及びこれらの活動に従事する専門職の確保を支援した(3)。
福島県では、多くの避難者が生活するいわき市において、2012年6月に福島県相双保健福祉事務所いわき出張所が開設された。同出張所には県職員のほか、被災地外の地方公共団体からの派遣保健師、地元で臨時雇用された看護職等の専門職が配置され、応急仮設住宅等の戸別訪問による避難者の健康調査や継続支援が行われた。また、市町村等が実施する交流サロンや健康教室へ専門職を派遣し、健康相談や体操、講話等の健康支援が行われた(事例8-1)。
応急仮設住宅入居者の孤立防止と健康支援(課題②)
宮城県石巻市大橋地区の応急仮設住宅では、孤立しがちな男性入居者が増えていたことから、市の管理栄養士や保健師、歯科衛生士、市社会福祉協議会の訪問支援員とコーディネーター、宮城県看護協会の保健コーディネーターらが集まって対策を検討し、「大橋メンズクラブ」と銘打った健康教室が開催された。健康教室では、調理実習や運動など多様なプログラムが提供され、終了後には受講生らによる自主グループが設立されるなど、住民同士の交流の促進にもつながった(4)。
応急仮設住宅に隣接する診療所の開設(課題②)
岩手県陸前高田市では、2011年8月に岩手県医師会が運営する「岩手県医師会陸前高田診療所」が開設された。同一敷地内には応急仮設住宅が隣接しており、被災地で不足していた皮膚科、小児科、耳鼻咽喉科をはじめ計11診療科が設けられ、県内陸部等の医師が交代で診療にあたり、土日、祝日、年末年始なども利用できる医療機関として機能した(5)。宮城県石巻市においても、2012年5月に応急仮設住宅群内に石巻市立病院開成仮診療所が開設され、24時間365日の訪問診療・訪問看護、訪問リハビリが提供された(事例12-1)。こうした診療所は、被災者の住宅再建や地域の基幹病院の復旧が完了するまでの間、被災者の健康を支える重要な医療資源となった。
中長期的な心のケアを担うセンターの開設(課題③)
東日本大震災の後、精神科医療の提供が難しくなった福島県の相双地区では、福島県立医科大学の心のケアチームが被災者のメンタルヘルスケアを担っており、この活動を継続させる形で「認定NPO法人相双に新しい精神科医療保健福祉システムをつくる会(通称「なごみ」)」(2019年6月に認定取得)が発足した。2012年1月には「相馬広域こころのケアセンターなごみ」が開設され、戸別訪問による相談支援や地域でのサロン活動を行ってきた。2012年2月に福島県より委託を受けた精神保健福祉協会が開設した「ふくしま心のケアセンター」は、「なごみ」をモデルに設置されており、福島市内の基幹センターのほか、県内に4つの方部センター(相馬方部センターの業務は「なごみ」が受託)と2つの出張所が設置され、被災者の相談支援、心のケアに関する普及啓発や人材育成・人材派遣、心のケアに関する情報収集等に取り組んでいる。また、基幹センターには、被災者相談ダイヤル「ふくここライン」(フリーダイヤル)が開設されており、県内外の避難者から寄せられる相談に専門の相談員が対応している(6)(7)。
高齢者等要配慮者の生活支援を担うサポート拠点を応急仮設住宅と一体的に整備する。
専門職や自治会との連携、生活支援相談員への被災者の雇用により、応急仮設住宅入居者に対するきめ細かい見守り・支援を行う。
応急仮設住宅入居者等への戸別訪問により被災者の健康状態を把握する。
交流の場づくりと健康支援を組み合わせて被災者の心身の健康維持を図る。
応急仮設住宅に隣接して診療所を開設するなど入居者の医療アクセスを確保する。
心のケアの相談支援・普及啓発や、人材育成・人材派遣、心の健康に関する実態調査や情報収集等をする拠点(心のケアセンター等)を設置し、精神科医療保健福祉に係る関係機関とのネットワークを整備する。
(1) 厚生労働省「応急仮設住宅地域における高齢者等のサポート拠点等の設置について」(2011年4月27日厚生労働省老健局振興課通知)
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001amh8.html
(2) 復興庁被災者支援(健康・生活支援)タスクフォース「被災者支援(健康・生活支援)総合対策~現場の課題への対応による施策の具体化と新たな取り組み【被災者支援50の対策】」2015年1月23日
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat2/
(3) 復興庁・内閣府・総務省・文部科学省・厚生労働省・国土交通省「被災者に対する健康・生活支援の手引き」2014年5月13日
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat2/20140526144504.html (4) 復興庁男女共同参画班「男女共同参画の視点からの復興~参考事例集~第13版」2017年5月
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-16/material/20170531_danjyo.pdf
(5) 岩手県「東日本大震災津波を教訓とした防災・復興に関する岩手県からの提言」2015年1月,p41
https://www.pref.iwate.jp/kensei/seisaku/bousaikaigi/1012174.html
(6) ふくしま心のケアセンター
http://kokoro-fukushima.org/
(7) 一般社団法人福島県精神保健福祉協会ふくしま心のケアセンター「ふくしま心のケアセンター活動記録誌」2018年度
http://kokoro-fukushima.org/activityreport/