復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

12)

恒久住宅移行後の支援

復興前期復興後期

課題
① 包括的・継続的に被災者を支援する体制をどのように整備するか
② 被災者の自立・互助をどのように促進するか

東日本大震災における状況と課題

 応急仮設住宅地域では、高齢者等のサポート拠点が設置され被災者の見守り・支援体制が構築されたが、災害公営住宅など恒久住宅への移行に伴い、応急仮設住宅で構築された見守り・支援体制を見直し、地域包括ケアシステム(住民が住み慣れた地域で自立した生活を続けることができるよう医療、介護、生活支援等に係るサービスが包括的に提供される体制)など平時の支援体制との融合を図ることが必要となった。また、少子高齢化や人口減少が進み、地域・家庭・職場等における支え合いの基盤の弱体化が懸念される中で、被災地においては、被災者の自立促進や地域における互助関係の醸成、多様な主体の連携体制のさらなる強化が求められた。

東日本大震災における取組

生活支援相談員等による災害公営住宅入居者等の見守り(課題①)

 被災者の日常生活を継続的に支えるため、厚生労働省では、「被災者見守り・相談支援事業」を実施し、社会福祉協議会等に相談員を配置して応急仮設住宅や災害公営住宅を巡回し支援が必要な被災者を把握したり、地域の支援関係団体が見守り・相談支援ネットワークを構築したりすることを支援した(1)
 岩手県釜石市では、岩手県の緊急雇用創出事業を活用して震災後に定職をなくした人たちの新規雇用を創出する「仮設団地支援連絡員制度」が設けられ(2)、総勢約80名の支援連絡員が入居者の見守りや相談支援を行った。支援連絡員の活動は災害公営住宅にも引き継がれ、「生活再建移行期被災者支援連絡員事業」として市内全ての災害公営住宅入居者を対象に巡回による見守り活動や相談対応が行われている(3)(4)

災害公営住宅と周辺地域の同化・共生(課題①②)

 宮城県七ヶ浜町では、災害公営住宅の入居者に対する見守りの取組を地区で共有する「見守り連絡会」が行われている。連絡会では、災害公営住宅入居者と地区の住民代表者、七ヶ浜町社会福祉協議会の担当者が集まって訪問対象者の現況や地区サロンの開催状況を報告し、共有した情報が各々の活動に還元される。連絡会は、災害公営住宅入居者の困りごとや要望を地区や行政機関に伝える窓口であるとともに、入居者が同じ地区住民としてつながる入口となっている(5)

住民参画の地域包括ケアシステムの構築(課題①②)

 宮城県石巻市では、行政機関や市医師会、社会福祉協議会のほか、石巻仮設住宅自治推進連合会が参画した「石巻包括ケア推進協議会」において、被災当事者の視点を重視した「石巻市地域包括ケアシステム推進計画基本構想」が策定された。また、多種の専門職で構成される包括ケアセンターにおいて、住民や専門職から寄せられる複雑な事例の相談に対応したり、住民に我が事として地域包括ケアシステムを捉え、見守りや共助を実践してもらうため、地域で出前講座を行ったりしている。さらに、2020年5月には地域包括ケアを推進する拠施設点として「石巻市ささえあいセンター」が開設され、子育てに関する相談支援や子どもの居場所づくり、「ダブルケア」(子育てと介護)や「8050問題」(高齢の親と無職で引きこもり状態にある子が同居)など複合的な問題を抱えている世帯の相談に対応する「福祉まるごと相談窓口」の設置など、包括的な支援や地域共生の推進に向けた活動が展開されている(事例12-1)。

地域における助け合いの創出(課題①②)

 岩手県大船渡市では、2015年4月に市長を本部長とする「大船渡市地域包括ケア推進本部」が設置された。また、同月には、地域包括支援センター、市内11地区の助け合い協議会、医療・介護事業者、社会福祉協議会、市民活動支援センター等から構成される「大船渡地域助け合い協議会」が設置された。同本部や協議会では、地区単位では解決が難しい課題が協議される仕組みとなっている。また、地区レベルでは、構成員から選出される「生活支援コーディネーター」をリーダーとする助け合い協議会が設置され、ボランティア等の生活支援の担い手の養成・発掘、関係者間のネットワークづくりが進められている。こうした地区単位から市全域までの重層的な推進体制により、住民や関係機関への地域包括ケアシステムの浸透と実装が図られた(6)

地域の未来を考える会議の設置と住民運動の展開(課題②)

 岩手県陸前高田市では、「陸前高田市保健医療福祉未来図会議」において、保健医療福祉に関するあらゆるテーマについて、関係者のみならず住民誰もが参加して議論を行った。同会議で提案された「はまってけらいん、かだってけらいん運動(通称「はまかだ運動」)」により、市内複数箇所に「はまかだスポット」が設置され、各スポットで健康相談やお茶会、育児相談、体操、農作業、カラオケ、太鼓等様々なイベントが開催されている。市では、こうした運動を通して、「ノーマライゼーション(誰もがあたりまえのように過ごせる環境をつくること)という言葉のいらないまちづくり」を目指している(事例12-2)。

教訓・ノウハウ
① 平時の医療・介護等の支援事業・支援体制に被災者支援を組み込む

高齢者の生活支援や地域包括ケアシステムなど、平時の支援事業や支援体制に被災者支援を組み込み、持続可能かつ効果的な支援を目指す。

② 被災者自身や多様な支援関係者の参画のもとで地域の見守りや支援事業を推進する

地域における支援体制を協議する場や支援事業に被災者や多様な支援関係者に参画してもらい、地域課題を共有するとともに事業の担い手として協働を促進する。

<出典>
(1) 厚生労働省復興対策本部「東日本大震災からの復興に向けた厚生労働省の対応について」2016年1月19日
https://www.mhlw.go.jp/topics/2016/01/dl/tp0115-1-01-01p.pdf

(2) 東北復興新聞「釜石市 支援連絡員制度を開始 3月1日から本格実施」2012年2月24日
http://www.rise-tohoku.jp/?p=1088

(3) 特定非営利活動法人@リアスNPOサポートセンター「事業・活動報告」
https://rias-iwate.net/about/organization-report/

(4) 特定非営利活動法人@リアスNPOサポートセンター「2011.3.11以後の活動について」
(5) 東北関東大震災・共同支援ネットワーク地域支え合い情報編集委員会 編集「隔月刊 地域支え合い情報 83」,2019年10月,NPO法人全国コミュニティライフサポートセンター発行
https://clc-japan.com/sasaeai_j/

(6) 大船渡市「地域包括ケア」
https://www.city.ofunato.iwate.jp/soshiki/houkatsu/488.html

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