復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

55)

NPO等による高齢者・子どもの見守りと生活支援

復旧期復興前期復興後期

課題
① 高齢者等の見守り支援をどのように確保・継続するか
② 高齢者等の生活支援をどのように実施するか
③ 子どもたちへの支援をどのように実現するか

東日本大震災における状況と課題

 避難所から応急仮設住宅、恒久住宅へと被災者が移っていくそれぞれの段階で、高齢者、障害者等の要配慮者への見守り支援や通院、買い物などの生活支援が課題となった。また子どもたちについては放課後の学習支援、居場所づくりが課題となった。これらの個別の要配慮者のニーズすべてをきめ細かく把握するのは行政機関の対応だけでは難しいことも多く、地域に密着したNPO等が要配慮者と行政機関とのつなぎや支援において重要な役割を担った。

東日本大震災における取組

NPO法人と社会福祉協議会等とが連携した見守り(課題①)

 NPO法人仙台傾聴の会は、震災前から、高齢者が抱える問題や悩みを聞き孤独や不安を和らげる傾聴活動を行い、高齢者の自殺防止活動を行ってきた。発災後は避難所や応急仮設住宅で被災者の傾聴活動を行うとともに、宮城県内の社会福祉協議会の要請を受けて、応急仮設住宅等の高齢者の見守り支援に必要な傾聴ノウハウを生活支援相談員等が学ぶ講座を実施した(1)。その後も活動を広げ(2)、2019年度には、社会福祉協議会など13の団体に対し講座を実施し、計848名が本講座を受講した(3)

民間の宅配サービスを活用した高齢者の見守り支援(課題①)

 2011年11月より、応急仮設住宅に住み一人では料理を作ることが困難な高齢者に対する夕食の宅配サービス行っていたみやぎ生活協同組合は、2012年、宮城県及び県内地方公共団体との間で見守り協定を締結した。これにより、生協の宅配員が夕食を届けた時に利用者の異変に気付いた場合、宅配員は速やかにみやぎ生協事業所の所属長等に連絡し、緊急度が高いと判断すれば生協事業所から社会福祉協議会や地域包括センターなどに連絡する体制が整えられた(4)。2020年7月現在、約15万人が宅配サービスを利用している(5)

高齢者の健康づくりのための活動拠点の整備(課題①)

 NPO法人りくカフェは、地元住民のみならず、ボランティアや仕事で陸前高田市を訪れるすべての人々の交流の場となる「りくカフェ」を設立した。本カフェには、会議やイベントにも使えるWi-Fi完備のコミュニティスペースが併設され、管理栄養士による栄養相談、健康寿命を延ばすための運動・講座・昼食がセットになったイベントが開催されており、地域の交流の促進につながった(6)

交通手段を持たない被災者への移動支援(課題②)

 NPO法人移動支援Reraは、病院や商業施設から離れた応急仮設住宅で生活する被災者や高台移転した場所で住まいを再建した被災者に対して、買い物の行き帰りや病院への送迎など、人々の足として支援を行ってきた。2018年度までに累計158,965名の送迎を行ってきたほか、外出が難しい要介護者に対し、介助を伴った花見や温泉旅行などを定期的に開催、田畑の被災によって農作業ができなくなった高齢者たちを農園に送迎して農作業を体験させるなど、移動支援に留まらない移動の目的作りにも力を入れている。また2016年度からは、移動にまつわる課題を議論するフォーラムを主催しており、行政職員(交通、福祉、復興関係)、事業者、大学など多様なアクターが参加している(事例55-1)。

NPOの専門性を活かした高齢者への生活支援(課題②)

 NPO法人フェアトレード東北は、2011年7月から、石巻市より委託を受けて高齢の在宅避難者宅を一軒一軒回り、支援が必要と判断した在宅避難者に対し、医師、弁護士、臨床心理士、精神保健福祉士、看護師等の訪問や、市の保健、福祉、介護等各種サービスの紹介を行っている(7)。訪問に当たっては、従前より行っていたひきこもり対策で得たノウハウを生かし、まず、支援物資を配って信頼関係を作り、その上で高齢者のニーズ把握と健康状態のチェックを行うようにした。その後、体調面、心理面の状況を見て支援の程度を決定した。

子どもたちへの学習支援・居場所づくり(課題③)

 認定NPO法人カタリバは、宮城県女川町と岩手県大槌町で、仮設住宅や仮設校舎で学ぶ子どもたちのために、放課後の居場所として「コラボ・スクール」の設置を行った。この「コラボ・スクール」では、小学生から高校生の子どもたちを中心に、放課後の学習指導を行うだけでなく、子どもたちが安心して放課後を過ごすことができる居場所づくりと心のケアを行っている。また、2017年からは、福島県広野町に開校した「ふたば未来学園」において、中高生たちが地域の活性化や自分の興味のある事柄への理解を深める活動への支援も行っている。
 宮城県女川町と岩手県大槌町における本事業については、2011年度から、文部科学省「緊急スクールカウンセラー等派遣事業」により支援を行っている。カタリバの「コラボ・スクール」の活動は、2016年の熊本地震で大きな被害を受けた熊本県益城町にも広がり、クラウドファンディングを活用した資金調達を行っており、収益構造を強化している(事例55-2)。

教訓・ノウハウ
① ノウハウを持つNPO等への業務委託や民間の既存サービスを活用して高齢者の見守りや健康維持を支援する

生活支援相談員を設置し、高齢者の見守りや生活相談、日常生活の支援を行う。

高齢者へのサービスを提供する民間事業者と提携して、高齢者の見守りを実施する。

高齢者の健康維持と孤立防止のため、NPO等が高齢者の健康に配慮する交流の場を創出する。

② NPO等が高齢者一人一人の支援ニーズを把握し、移動支援など必要な支援を行う

高齢者や障害者の移動支援を行い、通院や買い物を支援する。

個別訪問によって高齢者がどのような支援を必要としているかを把握し、必要に応じて医師や弁護士といった専門職能とのマッチングを行う。

③ 行政機関とNPO等が連携して、子どもたちの学習支援やこころのケアを行う

経験やノウハウを持つNPO等に事業委託し、子どもたちの心のケアや学習支援を行う。

NPO・NGOがこころのケアや学習支援の活動を継続するうえで、クラウドファンディングなどの資金調達手段を有効に活用する。

<出典>
(1) 株式会社日本能率協会総合研究所「平成27年度 東日本大震災の被災地におけるNPO法人等による復興・被災者支援の推進に関する調査 報告書」2016年3月
https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/uneiryoku/pdf/h27_result.pdf

(2) NPO法人仙台傾聴の会「傾聴ボランティア養成講座の実施状況」
http://sendai-keicho.sakura.ne.jp/wp/jinzaiikusei/youseikouza/jisseki/

(3) NPO法人仙台傾聴の会「令和元年度事業報告書」2020年
http://sendai-keicho.sakura.ne.jp/archive/annualreport_2019.pdf

(4) 日本生活協同組合連合会「CO-OP Press Release」2013年4月26日
https://jccu.coop/info/press_130426_01_02.pdf

(5) 株式会社マイナビ「みやぎ生活協同組合【みやぎ生協・コープふくしま】」
(6) NPO法人りくカフェ「2019年度 事業報告書」2020年
https://www.npo-homepage.go.jp/npoportal/document/003000485/hokoku/201970/2019年度事業報告書等.pdf

(7) 公益財団法人あしたの日本を創る協会「あしたのまち・くらしづくり活動賞 24年度の受賞団体概要」2015年
http://www.ashita.or.jp/prize/24/24summary.htm

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