14)
支援人材に対するケア・育成
応急期復旧期復興前期復興後期
② 被災者支援業務に従事する人材をどのように育成するか
東日本大震災における状況と課題
東日本大震災では、自らも被災者でありながら被災者支援に従事する行政職員や教職員、支援活動の中で被災地の惨状や被災者の悲嘆を目の当たりにする警察職員等に対して、職場での相談支援や専門家によるケアが受けられる体制づくりが必要となった。
また、被災地の市町村社会福祉協議会等に、被災者支援に従事する生活支援相談員等が配置されたが、相談員の採用の方法、経験やスキル、業務の範囲や内容が地域によって多様であったため、支援における質の保証を図るために、被災者支援に係る知識・技術の習得が課題となった。
東日本大震災における取組
生活支援相談員や民生委員に対するこころのケア(課題①)
福島県相双保健福祉事務所いわき出張所は、ふくしま心のケアセンターいわき方部センターと連携し、応急仮設住宅の生活支援相談員や民生委員に対して、グループミーティングを通じて悩みごとや困りごとの相談への対応、被災者への見守り業務についての助言・指導、支援者自身が行うセルフケアや自殺予防についての研修を行った(1)。
支援活動に携わったハイリスク者に対するこころのケア(課題①)
宮城県では、県精神保健福祉センターを中心として関係部局が連携し、被災者支援に当たった県職員や、救援・捜索活動に従事した警察職員、避難所の運営に携わった学校の教職員に対して、相談窓口の設置や職員自身によるメンタルチェック、定期的な健康調査を実施した。各部局が行った健康調査でハイリスクと診断された職員や所属部署にはメンタルヘルス対策について助言を行った(事例14-1)。
医師や教師などの専門家に対する研修や助言(課題①②)
被災地域外からの支援として、兵庫県こころのケアセンターが東北3県を中心にこころのケアチームを派遣し、被災地の医師・臨床心理士・精神保健福祉士・保健師等を対象とした研修の継続実施やこどもの心のケアの問題に対する相談活動を行っているほか、被災地の心のケアセンター運営についての助言も行っている(2)。
「国の緊急スクールカウンセラー等派遣事業」により、被災地の学校に対し県内外からカウンセラーの派遣があった。カウンセラーが子どもたちに対する支援方針を教員と話し合い、助言を行うことによって、教員の心のケアにつながった事例もあった(3)。
被災者である生活支援相談員に対する研修(課題②)
岩手県大船渡市では、公益財団法人日本財団といわて連携復興センターが、被災支援の経験がない応急仮設住宅の入居者が中心の生活支援相談員等に対して、相手の話にじっくり耳を傾ける傾聴スキル、心身に強いストレスを感じる人の気持ちをやわらげるストレスケアや、パソコン操作の研修などを実施した。(事例14-2)。
→関連項目:8)応急仮設住宅等における見守り
→関連項目:12)恒久住宅移行後の支援
官民連携による相談員へのサポート(課題②)
宮城県では、2011年9月、生活支援相談員に研修を行う宮城県サポートセンター支援事務所が設置された。2012年度には、雇用期間が終了した生活支援相談員が知識や経験を生かして介護や福祉の仕事に就けるよう、介護職員初任者研修の受講費を補助し、2013年度には、受講者が将来的に地域福祉の担い手として活動していくこと、さらに各地域の支援団体同士が連携するためのネットワークづくりを目的とした地域福祉コーディネート研修を企画・実施した(4)。
被災地での現地研修による行政職員の資質向上(課題②)
兵庫県では2012年以降、「東日本大震災被災地から学ぶ」というテーマで新任職員研修を行っている。NPOや社会福祉協議会等の指導のもと、被災地の仮設住宅等でのボランティア活動を通じて、必要とされる被災地支援の心構えを身につけ、奉仕の心の涵養、災害対応力の習得など行政職員の資質向上を図っている(5)。
全国保健師長会は、従来から災害時の保健活動に関するマニュアルを作成していたが、東日本大震災等での被災者支援活動を受けて、新任期(基礎研修)から統括者・管理者向けのものまで体系的に災害対応に係る研修を人材育成計画に位置付けた(6)。このほか、厚生労働省では社会福祉士など福祉に係る専門職のマニュアル、ガイドラインも整備している(7)。
災害対応に当たる行政機関では、平時からメンタルヘルスに関する教育・研修を実施するなど、組織的に対策を講じておく。
平時から、県のこころのケアセンターや精神保健センター間で情報共有しておく。
被災者支援の経験が少ない生活支援相談員や民生委員に、業務に必要な知識・技術を習得する研修を行い、支援の質を高める。
雇用期間が終了した生活支援相談員に対し、知識・経験を生かした職に就けるよう研修の参加を促し、地域福祉を支える人材として育成する。
平時から行政職員や教職員等の研修に被災者支援のプログラムを設ける。
(1) 福島県相双保健福祉事務所「東日本大震災における活動の記録誌」2014年3月,p99-106
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21160a/2603kirokushi.html
(2) 兵庫県こころのケアセンター「平成26年度事業報告書」 p26
(3) 復興庁「被災者の孤立防止と心のケアに関する関係省庁連絡会議参考資料:被災者の孤立防止と心のケアに関する取組事例」2013年2月1日
https://www.reconstruction.go.jp/topics/2521_4.html
(4) 公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構「生活復興のための15章(復興庁2013年度委託事業)」 2014年3月,p17-18
(5) 兵庫県「令和元年度県職員研修実施結果」
(6) 日本公衆衛生協会/全国保健師長会「災害時の保健活動推進マニュアル」p125-127
http://www.nacphn.jp/02/saigai/index.html
(7) 厚生労働省「災害時における福祉支援体制の整備等」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000209718.html