復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

26)

建設型応急住宅の確保

応急期復旧期

課題
① どのように大量の建設型応急住宅を迅速に確保するか
② どのように高齢化や生活利便性等に配慮するか

東日本大震災における状況と課題

 東日本大震災においては、地震と津波による甚大な住家被害が発生したことから、迅速かつ大量の応急仮設住宅の確保が求められ、後述の賃貸型応急住宅の確保とともに、大量の建設型応急住宅の建設が行われた。その際、必要戸数の確定や建設するための用地確保、マンパワーの確保などが課題となった。
 建設される住戸や団地の設計では高齢者等要配慮者への対応や、防寒、生活利便性などへの配慮も課題となった。

東日本大震災における取組

必要戸数の調査(課題①)

 被災後、必要戸数を確定させるため、各市町村が避難所などで被災者に対する入居希望アンケートなどの調査を行った。しかし、市町村の人員不足や原子力事故関連の避難、後述の賃貸型応急仮設住宅の提供などの影響で必要戸数の確定が困難となった (1) 。岩手県では、被災直後で被災状況が十分に把握できない中で、避難想定世帯数の約半数として2011年3月14日に8,800戸の建設申請を行った。しかし、被害の甚大さから必要戸数の増加が予想されたため、支援物資受入に向けて同様の想定をしていた保健福祉部と協議し、必要戸数の見直しを行った。3月段階での想定は15,000戸ほどであったが、阪神・淡路大震災で当初の見込みより多くの建設が必要となり、建設が長期化したことを踏まえ、3千戸多い18,000戸を必要戸数とした。その後市町村から入居申込数を聞き取りつつ、5月9日に14,000戸に見直し、最終建設戸数13,984戸となった。賃貸型応急住宅への入居者が多く、必要戸数の検討に時間を要した宮城県や福島県に比べ早い時期に必要戸数を確定できた(2)

用地の確保(課題①)

 予め選定していた建設型応急住宅建設予定地が津波で浸水したことなどによって建設不可能となった地域もあり(3)、発災直後より県と市町村が連携し、建設型応急住宅の建設用地の確保が行われた。用地選定に当たっては、余震等の不安が続く中、国有地や農地、民有地の情報が集められ、建築(躯体全般等)・土木(外構等)・設備(水廻り等)・電気(電気設備等)の技術職員による各用地の調査がなされた。その上で、自衛隊駐屯地やがれき置き場、災害公営住宅用地等との優先順位について、難しい調整が求められた(1)。例えば岩手県釜石市花露辺地区では災害公営住宅を地域内に建設するため、あえて建設型応急住宅を地域に建設しなかった(4)。民有地を活用する際には借料の支払いや固定資産税の減免が行われた(3)。被災市町村内に適切な用地が見つからなかった宮城県気仙沼市や女川町などでは、別の市町村への建設(1)や、狭い用地を効率的に活用した2~3階建ての建設型応急住宅建設も行われた(5)
 建設後には、当該用地の元の機能への配慮がなされた。例えば、岩手県宮古市では、地域公共交通確保維持改善事業を活用し、バス停までの距離が500mを超える仮設住宅に対し、新規バス路線の運行、加えてバス停までの送迎タクシーの運行等が始められた(6)。校庭が建設型応急住宅用地となった学校では、体育の授業や屋外での部活動等のために児童の別施設へバスの送迎支援がなされた(7)

建設型応急住宅整備支援のための職員派遣(課題①)

 発災直後の2011年3月12日から、東北地方整備局や被災3県への駐在職員派遣が国土交通省で開始された。企画専門官~課長補佐級の職員を中心に各組織1名ずつの派遣がなされ、被災県の建築住宅部局の立ち上げサポートや現地窓口として情報収集や本庁との連絡を同年7月まで行った。また、建設用地の調査にも延べ27行政庁及び都市再生機構(UR)から技術職員の派遣がなされた。8月末までに被災3県に7,000人ほどが派遣された(1)

建設業者の確保・木造仮設住宅の実現(課題①②)

 建設型応急住宅の建設に当たっては、従来と同様、災害協定を事前に都道府県と結んでいたプレハブ建築協会の規格建築部会が中心となったが、膨大な建設が見込まれたことから同協会の上部団体である住宅生産団体連合会にも要請があり、同協会の住宅部会のハウスメーカーも建設にあたった(1)(8)。また、速やかな建設や被災地域の雇用情勢の改善・経済活性化、継続的なメンテナンス等の観点から地元業者等に対し公募が行われた。岩手県では公募要件を低く設定し中小工務店の参入を促した(2)。2011年10月時点で43,206戸がプレハブ建築協会(規格建築部会28,660戸、住宅部会14,546戸)、9,307戸が地元業者によって建設された(1)。地元業者による建設では、地域材を活用した木造建設型応急住宅が多く実現した(5)。建設型応急住宅の提供主体ごとに建設の早さや費用、居住性が異なるといった課題もみられた(9)

高齢化や生活利便性等に配慮した建設(課題②)

 高齢者等、要配慮の入居者に配慮し、バリアフリー対応の建設型応急住宅が建築された(11)ほか、入居者同士が協力できるよう共用の食堂等を併設するグループホーム型の建設型応急住宅や、介護等のサポート拠点を併設した建設型応急住宅も作られた(事例26-1)。
 また一つの建設型応急住宅団地内でバリアフリーに配慮した「ケアゾーン」や子育て中の入居者に配慮した「子育てゾーン」と「一般ゾーン」をゾーニングし、また、コミュニティ配慮等の観点から、玄関を向かい合わせにした住戸プランの建設型応急住宅も岩手県などで建設された(事例26-2)。濡れ縁や屋外のテーブルやベンチを設置するなどの工夫も見られた(10)。入居が始まった建設型応急住宅団地において、居住者の意見も聞きながら、新たに交流スペースを建設する取組(みんなの家)なども行われた(11)
 岩手県宮古市田老地区などでは市の要請に基づき建設型応急住宅と物販・飲食店舗などの仮設施設が併設され居住者の生活利便性に配慮するとともに地域商業の再生に貢献した(1)

ユニットハウスの活用(課題①②)

短い施工期間で、一定の居住性能の確保が可能なユニットハウスが、岩手県、宮城県、福島県等の各被災地域に建設型応急住宅として2,000戸以上供給された(12)(13)

教訓・ノウハウ
① 平時からの被害想定に基づく必要建設戸数を想定しておく

災害後の建設型応急住宅建設戸数を賃貸型応急住宅の供給等も踏まえて適切に計算する方法(14)を確認し、それに基づいた想定(訓練)をしておく。

建設戸数の算定に当たっては、必要に応じて建設部局と支援物資受入を行う福祉部局とで協力する。また、必要戸数の見積もり後も、被災住民への意向調査等によりニーズ把握を行い、必要に応じ戸数の見直しを行う。

なお、(意向の変化などにより)建設型応急住宅にある程度の空きが発生することはやむを得ないことから、空きの想定を事前に国と協議した上で必要戸数の算定を行う。

② 想定必要戸数に応じた建設用地の確保対策等を講じる

災害前より、建設用地に充てられる公共用地や民有地を選定し、がれき置き場、復興住宅用地等との調整を検討しておく。民有地の借用にむけては借料等の検討をしておく。

市町村内に適切な用地が確保できない場合は、周辺の市町村と連携を検討しておく。

交通の便が悪い土地への建設が予想される際には民間バス事業者や地域等と連携し、新規路線の運行を検討するほか、住民要望による運行ルートの変更・増便を行う等変化する地域の利用ニーズに柔軟に対応する。

学校校庭など応急仮設住宅の供与に使用した場合に、本来目的での使用に対し支障を及ぼすおそれのある土地については、建設型応急住宅の建設地としての利用は可能な限り避けるよう留意する。

③ 建設に係る業者・団体等との協定など事前の連携対策を講じる

建設事業者団体や、地元建設業者などと平時より協定を結ぶなどして、建設型応急住宅の建設にむけての情報交換、資材部材・人員の確認等を行い、災害時の対応について備えておく。

④ 高齢化や生活利便性に配慮した応急仮設住宅の仕様を検討する

バリアフリーやコミュニティケアなど高齢化や生活利便性、建設地の気候などに配慮した様々なタイプの建設型応急住宅の建設が可能となっており、それらの課題(建設の速さ、費用、入居者間の公平性など)も踏まえつつ、自らの地域に適した建設型応急住宅のタイプを災害前から検討しておく。

<出典>
(1) 国土交通省「資料2:東日本大震災における応急仮設住宅の建設に係る対応」(2011年10月・国土交通省 報道発表資料 東日本大震災における応急仮設住宅の建設に関する報告会の開催について
https://www.mlit.go.jp/common/000170090.pdf

(2) 岩手県県土木整備部建築住宅課「東日本大震災津波対応の活動記録~岩手県における被災者の住宅確保等のための5か月間の取組み~」2011年10月
http://iwate-archive.pref.iwate.jp/wp/wp-content/uploads/2017/02/R0000036M001R0000001.pdf

(3) 宮城県「東日本大震災―宮城県の発災後 1 年間の災害対応の記録とその検証―」2015年3月
https://www.pref.miyagi.jp/site/kt-kiroku/kt-kensyou3.html

(4) 公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構研究調査本部「災害時の生活復興に関する研究-生活復興のための12講-研究調査報告書」p.13,
https://www.hemri21.jp/contents/images/2019/06/seikatsufukkou_rev_5081.pdf

(5) 国土交通省「資料3:東日本大震災における応急仮設住宅の建設事例」(2011年10月・国土交通省 報道発表資料 東日本大震災における応急仮設住宅の建設に関する報告会の開催について)
https://www.mlit.go.jp/common/000170074.pdf

(6) 宮古市総務企画部企画課長山崎政典「事例紹介宮古市における公共交通の復旧・復興に向けた取組」
http://www.estfukyu.jp/pdf/2012tohoku/03_miyakoshi.pdf

(7) 復興庁「岩手県及び宮城県の学校校庭にある仮設住宅の解消見込みについて 別紙」2018年9月25日
https://www.reconstruction.go.jp/topics/m18/09/20180925_koutei-kasetu-kaisho_nr_bessi.pdf

(8) 東洋経済ONLINE「進まぬ仮設住宅に潜む次なる大震災への不備」2011年5月25日
https://toyokeizai.net/articles/-/7006

(9) 川崎直宏「仮設住宅等における建築生産システムについて」都市住宅学98号, SUMMER, pp.33-37, 2017,
https://www.jstage.jst.go.jp/article/uhs/2017/98/2017_33/_pdf/-char/en

(10) 福島県「応急仮設住宅の建設にかかる対応状況等報告会」(2011年10月・国土交通省 報道発表資料 東日本大震災における応急仮設住宅の建設に関する報告会の開催について)
https://www.mlit.go.jp/common/000170083.pdf

(11) NPO法人HOME-FOR-ALL ホームページ,
http://www.home-for-all.org/

(12) 三協フロンテア株式会社「ユニットハウスとは」
http://www.sankyofrontier.com/unithouse/support/about/

(13) 三協フロンテア株式会社「社会との関わり」
http://www.sankyofrontier.com/corporate/csr/society.html

(14) 国土交通省住宅局住宅生産課「応急仮設住宅建設必携中間とりまとめ」2012年5月
https://www.mlit.go.jp/common/000211741.pdf

教訓・ノウハウ集トップに戻る