31)
コミュニティ等に配慮した災害公営住宅の建設
復旧期復興前期復興後期
② 災害公営住宅の建設に際してまちづくりとの調和、生活利便性の確保をどのように実現するか
東日本大震災における状況と課題
東日本大震災においては津波被害が広域かつ甚大であり、復興事業により、まちの構造が大きく変化する地域もあった。このため、従来とは異なった形の新たな住まいやコミュニティが形成されることになり、災害公営住宅についても計画時から、高齢者・地域コミュニティへの配慮や、居住と様々な機能が一体となった持続可能なまちづくり、まちなかの再生などまちづくりとの調和、生活利便性の確保などが求められた。
東日本大震災における取組
入居者希望者への意向調査での工夫(課題①②)
被災した各地方公共団体が災害公営住宅に係る意向調査を繰り返し実施する中で、入居者中の高齢者数や、高齢者向け住宅、車椅子対応住宅、グループ入居、入居後の生活支援サービス(見守り・介護、買い物支援など)の希望など、高齢者等やコミュニティへの配慮、生活利便性の確保等に向けた聞き取りが実施された(1)。
立地・施設配置の工夫1―元の居住地近くでの建設と避難先での建設(課題①)
リアス海岸部などでは、元々のコミュニティの維持等に向けて、防災集団移転促進事業の宅地と、比較的小規模の災害公営住宅が一体として計画された場合が多くみられた。防災集団移転促進事業の自力再建住宅と調和するよう、木造の戸建・長屋タイプの住宅が中心とされた(2)。このように災害公営住宅を単独で建設するのではなく、面的整備事業の造成地に一体的に建設することは、用地確保の観点からみても有効であった(3)。
一方、岩手県では、内陸に避難して賃貸型応急住宅に入居し生活基盤を築いていた人々も多くいたことに加え、沿岸部の公営住宅の応募倍率が高かったこともあり、内陸部の盛岡市などに災害公営住宅が建設された。その際、沿岸部からの人口流出が懸念されたため、沿岸市町村との意見交換の上、既に内陸部に避難していた者のみを入居対象として建設を進めた (4)(5)。
立地・施設配置の工夫2―コンパクトシティの形成や被災市街地の再生、生活利便性確保(課題②)
復興を機にコンパクトなまちづくりを進めるため、災害公営住宅を特定の拠点エリアに集中して計画する市町村もあった(2)。移転先の新市街地に建設する際には災害公営住宅の規模に応じて公共施設や公共交通機関を併せて整備し、商業施設を誘致したケースもみられた(3)。被災した元の市街地を再生させる目的で、土地区画整理事業での嵩上げ等を行った上で、東日本大震災の浸水エリアに災害公営住宅を積極的に計画する事例もみられた(事例31-1)。
ただし、住宅の立地に関して、既存市街地内の公有地には既に建設型応急住宅が建設されていたことや、浸水エリアの土地は嵩上げ工事等のためすぐには使用できなかったことなどから、比較的生活利便性の低い郊外部に建設される場合もみられた(2)。また、高台への集団移転と一体的に災害公営住宅が計画された際にも、生活利便性の低下が懸念されるケースがあった。そのような場合には、地域コミュニティバスの運行や、医療福祉送迎サービス、往診や集会所での巡回診察、移動商店、巡回見守り等、民間と積極的に連携しながら地域の実情に応じた各種サービスを提供する例もあった(3)。
→関連項目:12)恒久住宅移行後の見守り
→関連項目:20)復興まちづくり計画の策定
→関連項目:24)中心市街地の再生・マネジメント
住戸・住棟の工夫(課題①②)
住戸の工夫として、居間を共用部分に面するよう配置して室内にいる入居者の姿が外からでも見えやすくし、相互の見守りや、挨拶、立ち話等が生まれやすくするリビングアクセス型の住戸を計画する事例がみられた(事例31-2)。また、木造の戸建の災害公営住宅を建設する事例もみられた(事例30-1)。これは、地元工務店等の産業振興や住宅の払い下げ(中長期的な維持管理コストの低下)なども意図したものでもある(7)。
住棟の工夫では、集会所を建設し、入居者以外も利用可能とすることでコミュニティの形成を促す事例(2)や、玄関や階段付近等に交流スペースを設置する事例、相談室兼LSA(生活援助員)の事務室を設置した事例、住戸を屋内廊下でつなぎ食堂等の共用スペースを充実させて共助を促進する長屋型・グループホーム型の災害公営住宅を建設する事例、花壇や広場等のスペースと生活動線が連続したつながりとなる配置計画とした事例などがみられた(3)(6)。例えば、福島県相馬市原釜地区では、高齢者のコミュニティ形成・孤独防止の観点から、昔の長屋生活で井戸を共有していたように洗濯機を共有スペースに設置し共同で利用するなどの工夫がなされた「井戸端長屋」と呼ばれる災害公営住宅が整備された(6)。
ただし、見守り用の窓にカーテンを閉め切っている入居者が生じるなど、当初の想定どおり十分に機能しないようなケースもみられた(3)。
宮城県気仙沼市や石巻市(8)などでは、東日本大震災の浸水エリアに、津波避難に配慮しつつ低層部を商業施設等とする災害公営住宅を建設した(事例31-1)。
建設前に高齢者等やコミュニティへの配慮に向けた意向調査を丁寧に行う。
小規模の団地とすることで元々の居住地の近くなどにも建設しやすくし、地域コミュニティの維持に役立てる。
住戸や住棟の計画においては、高齢者の見守りやコミュニティ形成のための工夫を行う。見守り等のサービスを行う事業者や担当部署、入居予定者等とより使いやすい空間について協議をした上で、より使いやすい住戸・住棟計画を検討する。
コンパクトシティの形成や被災市街地の再生など中長期的なまちづくりの方針を検討した上で戦略的に災害公営住宅の立地や配置計画、建築計画、構造形式等を設定する。
建設型応急住宅の建設等他用途との用地調整など、土地利用の検討を事前に行う。
津波浸水エリアに災害公営住宅を建設する際には津波避難対策を講じる。
(1) 国土交通省国土技術政策総合研究所, 国立研究開発法人建築研究所(長谷川洋, 内海康也, 佐藤英明, 米野史健, 水谷明大)「東日本大震災における災害公営住宅の供給促進のための計画に関する検討―災害公営住宅等に係る意向把握方法に関する研究―」2016年12月
http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0946.htm
(2) 米野史健「応急仮設住宅から災害公営住宅等の恒久的住宅への移行の実態と課題―東日本大震災から5年―」, BRI-H28講演会テキスト, pp.41-52, 2017.3,
https://www.kenken.go.jp/japanese/research/lecture/h28/pdf/T5.pdf
(3) 宮城県土木部住宅課「東日本大震災からの復興 災害公営住宅整備の記録」2020年6月
https://www.pref.miyagi.jp/site/ej-earthquake/seibinokiroku.html
(4) 岩手県「東日本大震災津波からの復興―岩手からの提言―」2020年3月
http://iwate-archive.pref.iwate.jp/wp/wp-content/uploads/2020/06/fukkou_teigen_i_all.pdf
(5) 岩手県「災害公営住宅の整備状況について」2020年9月3日
https://www.pref.iwate.jp/kurashikankyou/kenchiku/saigai/kouei/1010345.html
(6) 復興庁「「新しい東北」住まいのこだわり設計事例集」
https://www.reconstruction.go.jp/portal/juutaku_koukyou/20131206171957.html
(7) 宮城県土木部住宅課「東日本大震災からの復興 災害公営住宅整備の記録 資料編」2020年6月
https://www.pref.miyagi.jp/site/ej-earthquake/shiryou.html
(8) 株式会社新建築社「集合住宅の新しい文法―東日本大震災復興における災害公営住宅」2016年8月「新建築」, 第91巻, 13号, 2016年8月別冊