20)
復興まちづくり計画の策定
復旧期復興前期
② 計画上、まちの持続可能性をどう確保するか
東日本大震災における状況と課題
復興まちづくり計画の策定に向けては、津波浸水に対する防災・減災への新たな指針が必要とされたことから、2011年6月に中央防災会議より今後の津波防災対策の基本的考え方が示された。これに基づいて、比較的頻度の高い津波(L1)は海岸保全施設等の整備で備え、東日本大震災と同等又はそれ以上の最大クラスの津波(L2)はまちづくりや避難対策で対応することを基本に、被害の最小化を主眼とする減災に向けた復興まちづくり計画の策定が被災地方公共団体に求められた。
震災直後には、二度と被災を受けないような、ほぼリスクゼロの復興計画を希求する傾向も強かったが、まちの安全性を高めるために事業規模が大きくなると再建までに要する時間も長くなる、いわばトレードオフの関係が想定されることから、復興計画上の安全性と事業規模のバランスのとり方が課題となった。
また、被災地で進行していた人口減少、高齢化の傾向が加速した。人口減少や高齢化が進行する地方都市の復興にあたっては、地域の持続可能性を高めるために、将来人口等を見据えた適正な計画規模とすることや、商業・医療・福祉など地域生活を維持する基本機能を集約したまちづくりが求められた。特に、小規模な団地については、人口減少、高齢化の進展により、将来の持続可能性に対する懸念も指摘された(1)。
東日本大震災における取組
都市構造や被災状況、津波シミュレーションによる被災想定等を踏まえた復興計画の検討(課題①)
被災市町村においては、国土交通省直轄調査(津波被災市街地復興手法検討調査)も活用し、都市構造や被災状況、津波シミュレーションによる被災想定等を踏まえ、復興まちづくり計画の検討が行われた。
その上で、浸水区域内で恒久的な建築制限の対象となる災害危険区域の設定をどのように行い、住民の理解をどのように得るかが大きな課題となった。災害危険区域の指定のあり方は、津波シミュレーション等に基づく浸水深の考え方、建物の用途や構造の基準等の組み合わせにより多様である(2)。
各市町村において複数のパターンが検討され、結果として、①現地再建(堤防等により安全性を高め、現位置で市街地を再生)、②嵩上再建(被災前の市街地を嵩上げし、安全性を高めて再建)、③新市街地整備(高台等に新たな市街地を整備し、都市機能を移転)、④嵩上再建+高台移転(嵩上げに加え、一部は高台移転、現地再建等と組み合わせ)等のパターンで復興が進められたところが多かった(3)。例えば、①現地再建としては、岩手県釜石市の中心市街地である東部地区では、一定の津波浸水は許容しつつも湾口防波堤及び防潮堤に加え、商業エリアを含む盛土状の構造で津波の力を減衰させる考え方により、元の市街地に嵩上げ等の造成をすることなく早期の再建が図られた。②嵩上再建としては、岩手県大槌町町方地区では、壊滅的な被害を受けた中心市街地において嵩上げ等を行い安全性の高い市街地を整備する計画とされた。③新市街地整備としては、宮城県東松島市野蒜地区では、被災したまちをJR仙石線とともに後背の高台を造成した新しいまちに移転・整備する計画とされた。④嵩上再建+高台移転としては、宮城県女川町で住宅は高台移転とする一方、海に近いエリアは嵩上げ造成した上で商業地とする計画とされた。また、岩手県陸前高田市のように、市街地全体を嵩上げや高台移転によって安全性向上を図った地方公共団体もある。
→関連項目:19)復興まちづくり計画の策定準備
→関連項目:22)まちの再建・移転の事業手法の工夫
→関連項目:36)海岸堤防等の復旧・復興
国・県・市町村間の総合調整(課題①)
復興まちづくり計画の策定に際しては、国管理、県管理、市町村管理の社会基盤施設の計画との調整が必要となる。例えば県の海岸事業、河川事業、道路事業と、市町村の防災集団移転促進事業等の計画を整合させながら検討を行うことが必要な場合がある。特に防潮堤の整備については復興まちづくりの重要な論点となった。速やかに調整がつかず時間を要した地区もあったが、例えば、岩手県大槌町赤浜地区では、地元の意向を踏まえ、防潮堤の整備だけを議論するのではなく、後背地の土地利用も含めた包括的な議論が行われ、国土交通省の調査で整理された防潮堤と県道、居住地の整備の組み合わせパターンも活用しつつ、同町が防潮堤等の管理者と調整しながら検討を行った (4)。
持続可能なコンパクトなまちづくりの推進(課題②)
岩手県大船渡市では、被災前の人口1,300人に対して、計画人口730人と抑制的な値での計画となっているほか、居住区域や産業区域等のゾーニングを再編しJR大船渡線の山側にコンパクトな居住区域を配することにより効率的な嵩上げを実施した。また、ハード・ソフト両面を同時に検討し、商業地の早期立地を誘導した。
宮城県岩沼市では、既存の集落に隣接した内陸部に複数の集落(6地区)を集約移転し、商業施設や高齢者や子どもに必要なクリニック、保育所を立地させている。また避難所、仮設住宅の時点から自治会単位で災害公営住宅に入居できるよう配慮し、地域コミュニティの分散を防ぐとともに、地区全体の復興まちづくりのイメージや将来像について話し合う場を設けることで、将来の住民の意向を反映した、帰還しやすいまちづくりを進めた(事例21-1)。
宮城県山元町では、被災した10の集落を3つの新市街地に集約移転しコンパクトシティをめざした計画の策定が行われ、被災したJR常磐線の移設と連動して、新駅周辺等に新たな市街地を形成した。公共・商業ゾーンに位置づけられている2地区と医療・福祉ゾーンに位置づけられている1地区は、JR常磐線でつながって補完しあう形となり、コンパクト化とネットワーク化が図られている (3)。
複数集落を集約再建する、既存の地域の隣接地に再建するなどにより、まちのコンパクト化を図り、さらに商業、産業、医療・福祉といった都市機能の誘致、まちづくりと整合を図った交通機能の確保等を行うことで、持続可能なまちの構造に変えていく。
そのような市街地整備を進める前に、住民参加による丁寧な検討プロセスを経て、持続可能な地域づくりの将来ビジョンを関係者間で共有しておく。
人口減少、高齢化を始めとした社会経済情勢について災害による変化も踏まえ、ニーズ・需要を見極めたうえで、まちの持続可能性が確保された計画を策定する。
震災直後には、二度と被災を受けないような、ほぼリスクゼロの復興計画を希求する傾向も強いが、ハードによりリスクゼロを求めるのではなく、住民等の避難や土地利用などソフトも組み合わせリスクを減ずる総合的なまちづくりの考え方が重要である。
事業を実施する過程においても、住民の再建意向は変化することから、特に工事規模が大きくなる嵩上げ造成は必要最小限のエリアに限る。
(1) 河北新報「増す空き家に危機感 進む高齢化見えぬ未来」2021年1月11日
(2) 松本英里・姥浦道生「東日本大震災後の災害危険区域の指定に関する研究」都市計画論文集,Vol50,No3,2015
(3) 国土交通省都市局「東日本大震災による津波被害からの市街地復興事業検証委員会 第3回事務局説明資料」
https://www.mlit.go.jp/toshi/content/001377246.pdf
(4) 窪田亜矢・黒瀬武史・上條真司他「津波被災集落の復興検証」,萌文社,2018