24)
中心市街地の再生・マネジメント
復興前期復興後期
② 災害前から空洞化していた中心市街地をどのように再生させるか
③ 魅力あるまちなみを再生するにはどうすればよいか
④ 整備された空間を有効に活用するためにはどうすればよいか
東日本大震災における状況と課題
東日本大震災では各地方公共団体の中心市街地が被災するケースも多かった。復興後の地域活力を維持・発展させるためには、中心市街地の再生は必須課題である。また、早期再建を望む事業所が域外へ流出するのを抑え、被災者の生活基盤を確保する意味でも中心市街地の早期再建が望まれた。中心市街地の再建にあたっては、地域の拠点として、基盤整備だけでなく生業や公共施設のあり方も含めて将来ビジョンを地方公共団体と地域住民がしっかり議論し、早期回復をめざして取り組む必要があったが、多くのケースでは十分な備えがなく非常に困難であった。
一方で、中心市街地の壊滅的な被害を逃れたまちであっても、震災前から空洞化が生じていたところが多く、こうした中心市街地では、震災を機に都市機能の再編・強化を図り、復興の拠点となるような整備が望まれた。
さらに、津波により故郷の景観が失われた中で、復興にあたっては市民の誇りとなるような魅力あるまち並み、シンボル的な空間整備、町の記憶の継承など景観形成も求められた。
土地区画整理事業等により造成された市街地において、地権者の意向変化等に伴い未利用となっている宅地が見られ、にぎわい等の観点からその有効活用が課題となった。
東日本大震災における取組
商業施設等復興のためのまちづくりの推進(課題①②)
面的な市街地整備の事業である土地区画整理事業や津波復興拠点整備事業と、まちなか再生計画に基づきにぎわいを創出する商業施設等復興整備事業などを併せて活用し、商業施設等復興のためのまちづくりが推進された(1)。
宮城県石巻市では、既成市街地の旧北上川沿いのエリアにおいて、河川管理者が実施する河川堤防整備と同市が実施する土地区画整理事業による事業用地集約、基盤整備が連携した「かわまちづくり」が進められた。同地区を含めた中心市街地において「石巻市まちなか再生計画」が策定され、まちづくり会社によるテナント型商業施設「いしのまき元気いちば」等のにぎわいの拠点づくりが進められた。
福島県新地町では、甚大な津波被害を受けたJR常磐線の新地駅周辺地区について、地震・津波の教訓を踏まえ、土地区画整理事業や津波復興拠点整備事業等を活用した地盤の嵩上げや、中心拠点の整備が実施された。同地区には、消防・防災センターや災害公営住宅などの公共施設、再生可能エネルギーの供給を目的とした地域エネルギーセンターが整備されるとともに、複合商業施設やホテル、文化交流センターが整備されて、公共施設、住宅地と商業・産業地等の再生・集約が実施され、安心・安全な市街地形成と産業復興が進められている。
→関連項目:22)まちの再建・移転の事業手法の工夫
→関連項目:43)にぎわいの創出・再生
壊滅的な被害を受けた市街地の再建とエリアマネジメントによる付加価値の創造(課題①④)
壊滅的に被災した岩手県大船渡市の中心市街地では、早期再建を図るべき拠点エリアの整備が行われるとともに、地権者の土地売却意向に応えるため、土地区画整理事業の施行区域の一部を除外した上で、用地買収方式で緊急に整備することが可能である津波復興拠点整備事業が活用された(1)。土地の所有と利用を分離することで、事業者は借地で事業を再開することになり再生への促進が図られた。同市ではJR大船渡駅周辺地区において地域住民、事業者、行政などが一体となり、エリアマネジメントを行うことを目的としたワーキンググループが2013年に設置され、「まちを育てる」仕組みをもった持続可能な中心市街地のあり方が検討された。事業推進にあたっては、同市は民間事業者とエリアマネジメント・パートナー契約を締結し、株式会社キャッセン大船渡が中心となって商業借地人の選定をはじめ地域の付加価値を高める事業を展開してきた(2)(3)(事例24-1)。
既存の中心市街地における活性化―公共・公益機能の集約化による拠点整備(課題②)
岩手県宮古市では、既存の都市計画マスタープランでの位置づけを継承し、宮古の「かお」として中心市街地の再生が取り組まれた。同市は、2014年に「宮古市中心市街地拠点施設整備事業・基本構想」を策定し、津波復興拠点整備事業を活用して防災拠点の整備、公共施設の集約化を図り「災害に強いコンパクトなまち」をめざした(4)。
シンボル空間を整備し、新たなふるさとの景観を形成(課題③)
壊滅的な被害を受けてまちの大半の機能を失った宮城県女川町では、若手住民が中心となって「女川町復興連絡協議会」を組織し、商店街の復興だけでなく、まちづくりや住宅整備も考慮しながら、中心市街地再生に取り組んだ。同町は津波復興拠点整備事業と土地区画整理事業を活用して、JR女川駅の駅前広場とそこから女川湾に伸びる歩行者専用道路「レンガみち」を整備し、商業・業務、交流施設、公共機能が集積する町のシンボル空間を新たに創った。また、同町は「女川町まちなか再生計画」を策定し、まちづくり会社によるテナント型商業施設等の整備・運営を図ったり「女川町復興まちづくり まちなみデザイン誘導ガイドライン」を策定し、「女川町商店街景観形成創出事業補助金」を設けて継続的にまちなみ形成に取り組んでいけるよう仕組みを整えたりしている(5)(6)。
岩手県陸前高田市気仙町今泉地区では、宿場町として栄えた歴史的景観が津波によりすべて失われた。歴史的なまち並みの中心的存在であった醤油醸造蔵跡地に被災事業者らが商業施設「発酵パークCAMOCY(カモシー)」(7)をオープンさせ、まちの記憶の継承に努めようとしている。
土地の有効活用の推進(課題④)
地権者の意向変化等に伴い使われていない土地区画整理事業等の造成宅地等の有効活用を促進するため、民間のエリアマネジメント組織や不動産取引事業者等と連携した土地のマッチング等の有効活用の取組が行われた。
土地・建物の所有と利用を分離し、早期に事業を再開させたり、消費者ニーズに応じたテナントを誘致したりするなど、エリアマネジメントによる持続可能なまちの再生をめざす。
災害前から都市計画マスタープランや立地適正化計画において、空間整備と生業のあり方を連動させて考える機会を行政、市民、事業者で設け、将来ビジョンを共有しておく。
公共施設の再整備は中心市街地の再生にとって貴重な資源となる。整備にあたっては、中長期的な視点で検討された既存のまちづくり計画や今後の人口動向などに鑑み、位置、規模、機能の集約化などを検討し効果的な整備を行う。
単に商業業務機能の回復や誘致だけでなく、魅力あるまちなみづくりなどの景観形成を考えて事業を行う。
地域の暮らしの連続性やまちの歴史・文化を途切れさせないため、歴史的な街並みの再建、まちの記憶を継承する景観形成を行う。
有効活用すべき土地が発生した場合には、民間のエリアマネジメント組織や不動産取引事業者等と連携した土地のマッチング等の取組が有効である。また、平時より、市街地における遊休土地の有効活用において同様の取組が有効である。
(1) 国土交通省都市局「津波被害からの復興まちづくりガイダンス」2016年5月
https://www.mlit.go.jp/toshi/toshi_tobou_fr_000027.html
(2) 河北新報「水産のまち 資源活用探る」 2020年9月11日
(3) 国土交通省都市局まちづくり推進課官民連携推進室「自治体等による民間まちづくり支援の取り組み事例2018年度版」
https://www.mlit.go.jp/toshi/common/001274272.pdf
(4) 宮古市「中心市街地地区復興まちづくり計画(中心市街地地区復興まちづくり検討会)」
(5) 女川町「復興まちづくり まちなみデザイン誘導ガイドライン【女川駅前商業エリア・鷲神浜商業エリア編】」
http://www.town.onagawa.miyagi.jp/pdf/keikan/201807_machinamidesign_guideline.pdf
(6) 女川町「商店街景観形成創出事業補助金」
http://www.town.onagawa.miyagi.jp/05_17_04_07.html
(7) 岩手日報「「発酵の里」来年開業へ 陸前高田・みそやビール販売」 2019年11月20日