復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

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災害公営住宅入居者への支援

復興前期復興後期

課題
① 災害公営住宅入居者の居住の安定をどのように確保するか
② 応急仮設住宅等で形成された人のつながりをどのように維持するか

東日本大震災における状況と課題

 東日本大震災では、多くの被災者が住まいを失い、応急仮設住宅での避難生活を余儀なくされた。被災者の安定的な暮らしを回復するため、一日も早い災害公営住宅への入居が求められた。
 震災当時、公営住宅に入居する場合、原則として、①収入基準が一定の水準以下であること、②現に住宅に困窮していることとの要件を満たす必要があったが、東日本大震災においては、生活再建が困難な単身者や要配慮者の避難生活が長期化し、災害公営住宅の入居者資格の緩和や家賃負担の軽減が求められた。家賃設定等において地方公共団体の裁量が認められているが、どのように家賃設定をするかは大きな課題であった。
 また、阪神・淡路大震災では、災害公営住宅に高齢者が集中し、認知症や精神疾患、閉じこもりの高齢者等も増加し、見守りやコミュニティの形成が課題となった(1)。こうした過去の災害の教訓を受けて、東日本大震災では、応急仮設住宅から災害公営住宅への移行にあたり、被災者が築いていたコミュニティを維持し、入居者同士が助け合える環境の創出が課題となった。

東日本大震災における取組

入居要件の緩和(課題①)

 東日本大震災では、居住していた家が全壊、全焼、流出しただけなく、大規模半壊・半壊であって、家の解体を余儀なくされた被災者も災害公営住宅の入居対象となった(2)。また、2011年12月に東日本大震災復興特別区域法が施行され、認定により最大10年間収入基準の要件を緩和することができるようになり、被災者の住まいの安定に向けた支援が拡充された(3)

家賃の低減(課題①)

 災害公営住宅の家賃については、地方公共団体が家賃を低廉化する際に要する費用を助成する災害公営住宅家賃低廉化事業に加え、東日本大震災では、特に低所得の被災者が無理なく負担しうる水準まで家賃を低減化するため、国はさらなる経費を助成する東日本大震災特別家賃低減事業を創設した。事業期間は10年間、当初5年間は特段の減額措置、6年目から段階的に通常水準まで家賃を引き上げるものである(4)
 国の特別家賃低減事業と同等の減免措置を行う地方公共団体も多かったが、2017年11月に復興庁より発出された通知では、被災地方公共団体が独自に家賃を減免することが可能であることが示された。この通知を受け、各被災地方公共団体では特に低所得の被災者や収入超過者等への減免等の対応について検討し、地域の実情に応じた対応がなされた。宮城県女川町や南三陸町、名取市では、独自の家賃減免措置や家賃補助の取組を行った(5)。地方公共団体が家賃設定の検討を行うため、一定の前提の下に長期的なシミュレーションを行ったところ、黒字が大きく出たり、あるいは赤字となったりするケースも散見された。これは、長期シミュレーションの場合、将来の入居率や管理費といった前提の置き方次第で結果に大きな差が生じ得るためである。

コミュニティの維持や世帯の個別事情に配慮した入居(課題②)

 災害公営住宅への入居は、入居資格を満たす被災者を対象とした公募が基本となるが、市町村によっては、入居者の募集方法を検討する委員会等を設置し、学識経験者や民生委員などの意見を取り入れ、入居資格の条件や優先入居枠が設定された(6)
 福島県いわき市では、約1,500戸の災害公営住宅が整備され、入居希望者の要望や課題の調査検討を行うため、学識経験者及び災害公営住宅建設地区代表者で構成される「いわき市災害公営住宅入居選考基準検討委員会」が設置された。2013年9月に策定された「いわき市災害公営住宅入居選考基準」では、「震災時に同じ地区に居住していた被災世帯がグループとなって災害公営住宅への入居を希望する場合」、「震災時に居住していた地区に戻る世帯」などの配点が高く設定され、地域コミュニティの形成及び地元居住が優遇された。さらに、各世帯の状況に細かく配慮するため、「高齢者世帯」、「障害者・要介護者世帯」、「世帯人数」及び「多子世帯」など程度に応じて細かく配点がなされた(事例10-1)。
 宮城県仙台市においても、災害公営住宅への入居に当たって、5世帯以上でまとまって申込みができるコミュニティ入居や、一般抽選に2~4世帯のグループ申込みの枠が設けられるなどした。あすと長町地区の災害公営住宅では、約80世帯のコミュニティ入居が実現し、応急仮設住宅で育まれたコミュニティを災害公営住宅へ継承させ、自治組織の立ち上げへ発展していった(7)(8)

教訓・ノウハウ
① 地域の実情に応じて災害公営住宅の入居資格の緩和や家賃負担の軽減を図る

被災者の生活の安定を確保するため、災害公営住宅の入居資格や家賃の引き下げなどを地域の事情に応じて柔軟に検討する。

家賃設定等の検討に当たり長期収支のシミュレーションを行うことも考えられるが、入居率や管理期間等といった前提条件の置き方により結果は大きく変動しうることに注意が必要である。いくつかのパターン分けを行うなど幅を持った見方が必要である。

② コミュニティの維持や世帯事情に配慮した入居方法にする

学識経験者や支援関係者などによる会議を設置し、災害公営住宅の入居方法を検討する。

入居者の公募にあたっては、高齢者世帯や子育て世帯など各世帯の事情に配慮する。

グループ単位の入居など被災者が築いたコミュニティの維持に配慮した入居方法にする。

※災害公営住宅:災害により住宅を失い、自ら住宅を確保することが困難な被災者に対して、地方公共団体が整備する低廉な家賃の公営住宅。
<出典>
(1) 兵庫県「1.17は忘れない-阪神・淡路大震災20年の教訓-伝える」p78
(2) 国立研究開発法人建築研究所「東日本大震災における災害公営住宅の供給促進のための計画に関する検討-災害公営住宅基本計画等事例集-」No.165号(2015(平成27年)4月)第1章災害公営住宅供給の流れ
https://www.kenken.go.jp/japanese/contents/publications/data/165/

(3) 復興庁「東日本大震災復興特別区域法」
https://www.reconstruction.go.jp/topics/000344.html

(4) 復興庁「復興交付金基幹事業」
https://www.reconstruction.go.jp/topics/120405gaiyou.pdf

(5) 宮城県土木部住宅課「東日本大震災からの復興 災害公営住宅整備の記録」2020年6月,p167-168
https://www.pref.miyagi.jp/site/ej-earthquake/seibinokiroku.html

(6) 宮城県土木部住宅課「東日本大震災からの復興 災害公営住宅整備の記録」2020年6月,p97
https://www.pref.miyagi.jp/site/ej-earthquake/seibinokiroku.html

(7) 仙台市都市整備局復興公営住宅室「復興公営住宅の入居者募集方針の詳細が決まりました(発表資料)」2013年6月市長記者会見資料
http://www.city.sendai.jp/sesakukoho/shise/gaiyo/shichoshitsu/kaiken/2013/06/boshuhoshin/shiryo.html

(8) 認定NPO法人つながりデザインセンター「これまでのあゆみ~復興コミュニティデザインとは~」
http://www.tsuna-cen.com/activity/

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