復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

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適切な量の災害公営住宅の早期整備

復旧期復興前期復興後期

課題
① どのように住民の入居意向を把握し、適切な戸数や仕様を決定するか
② 膨大な量の災害公営住宅をどのように建設するか

東日本大震災における状況と課題

 東日本大震災においては被害が広域かつ甚大であったため、8県合計で約3万戸に上る膨大な戸数の災害公営住宅が整備されている(1)
 災害公営住宅の整備戸数の算定や各住宅の仕様の検討に向けて住民意向の把握が求められた。被災者数が多く、賃貸型応急住宅の供与が被災地域外でも可能となった影響もあって避難が広域的かつ長期的になり、また、時間の経過やインフラの復旧状況等に伴い住民意向が変化していく中で、どのように意向調査を実施し適切な戸数や仕様を決定するかが課題となった(2)
 整備にあたっては、市町村が県と連携しつつ主要な役割を担い(2)、多くの市町村で数百~数千戸という膨大な数の災害公営住宅を早急に整備することが求められた(3)。建設用地として適していた土地の多くが津波被害により使用できず、建設型応急住宅用地等との調整が求められた(3)。また、元々の公営住宅の整備実績が少ない地方公共団体が被災し、建築・土木職等技術職員や用地取得に対応できる職員が圧倒的に不足していたため、他の地方公共団体からの応援職員派遣を受けてもなおマンパワー不足が続いた(3)。早急な用地確保や、市町村が直接建設する以外の方法が求められ、国や県、都市再生機構(UR)、民間事業者との連携等が進められた。

東日本大震災における取組

災害公営住宅の建設に向けた繰り返しの意向調査(課題①)

 多くの被災した地方公共団体は、災害公営住宅の入居希望に関する意向調査を繰り返し実施し、整備が必要な戸数や各住宅の仕様等を精査していった。また、国土交通省住宅局がその支援策等として、意向調査結果の分析などを行った(2)。各地方公共団体においてこのような意向調査に基づく供給戸数の算定・調整が行われたことにより、災害公営住宅の入居率は岩手県で91.0%、宮城県で95.9%、福島県で88.4%(2019年12月時点)と高くなっており、適切な戸数が供給された(4)

多様な連携による建設の促進(課題②)

 岩手県では、県が広域的に大規模共同住宅を、市町村が各地域に小規模戸建て等を役割分担して整備した事例や、県が市町村から委託を受け建設を代行した事例がみられた(5)(6)。宮城県でも県が市町から委託を受け建設を代行した事例がみられた。福島県では、津波・地震被災者向けは市町村の建設、原発避難者向けは県の建設という役割分担がなされた(2)。また、宮城県では用地確保に際して、県が所有する遊休地等の情報を関係市町に提供し、多賀城市では県有地が払い下げられ用地確保が進んだ(3)
 国は復興交付金事業を創設し、災害公営住宅の建設・買取・借上費用の補助率を通常の激甚災害時より嵩上げ(3/4→7/8)して建設を支援した。さらに、用地取得造成費が補助対象とされたことや建設用地に国有地が活用されたことにより建設用地の確保を促進した。また、復興需要による建設費高騰、軟弱地盤における特殊基礎工事、離島での建設時の資器材運搬費用など、被災3県の地域の実情等に応じた工事費の特例加算の拡充等を行った(3)
 URと連携した事例もみられた。宮城県では、各市町からの要請を受けて、URが設計から工事までを行い、完成した住宅を市町が買い取った。URは市街地整備事業を含めたコンストラクションマネジメント(CM)方式による包括的な工事執行の支援や用地購入も含めた支援も実施した(3)
 民間事業者と連携して建設した事例もみられた。具体的な手法として、a)市町村が確保した敷地で民間事業者が設計・建設した建物を完成後に買い取る買取方式や、b)敷地の確保も含めて民間事業者からの応募を求める敷地提案型買取方式、c)民間事業者が建設した若しくは既存の民間賃貸住宅(3)を一定期間借り上げる借上方式などがみられた。また、d)地元の設計者・工務店・木材供給者等が生産能力を高めるために(7)新たに設立した協議会に、市町村が木造戸建ての災害公営住宅の建設を一括で発注する形の買取方式もみられた(事例30-1)。
 宮城県では、こうしたURや民間事業者からの買取方式が全体の約2/3を占めており、積極的に活用された。b)のように地方公共団体ではなく民間が用地確保を行う方式は用地確保に効果的であった。ただしc)は借上期間終了時の継続居住ニーズの課題などもあり、あまり活用されなかった(全体の1.4%)(3)(8)
 このように多様な方式により早期かつ円滑な建設が進められたが、建設を急ぎ、施工の効率性が優先された結果、コミュニティ等への配慮に欠ける面があったとの指摘や、一方で民間事業者が丁寧に設計を行った住宅が他の住宅と比べ華美に過ぎると批判を受ける事例もみられた(7)

教訓・ノウハウ
① 入居意向調査を繰り返し丁寧に行う

被災者の意向は時間が経過すると変化するため、災害公営住宅の建設前に入居者の意向調査を繰り返し丁寧に行うことを通じて必要戸数や仕様を適切に決定する。

② 多様な団体が連携、役割分担し整備を行う

大量整備が求められる場合には、市町村・都道府県・国、UR、大手や地元の民間事業者等の間で役割分担し、ニーズに対応する。その際には、市街地部でのまとまった整備や集落における小単位での整備など地域の特性に応じた整備方法を検討する。

<出典>
(1) 復興庁「災害公営住宅及び民間住宅等用宅地の供給状況(令和2年12月7日)」
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-15/20150618121926.html

(2) 国土交通省国土技術政策総合研究所, 国立研究開発法人建築研究所(長谷川洋, 内海康也, 佐藤英明, 米野史健, 水谷明大)「東日本大震災における災害公営住宅の供給促進のための計画に関する検討―災害公営住宅等に係る意向把握方法に関する研究―」2016年12月
http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0946.htm

(3) 宮城県土木部住宅課「東日本大震災からの復興 災害公営住宅整備の記録」2020年6月
https://www.pref.miyagi.jp/site/ej-earthquake/seibinokiroku.html

(4) 国土交通省調べ
(5) 岩手県「災害復興公営住宅の整備に関する方針について(平成25年9月30日版)」(2019年2月20日更新)
https://www.pref.iwate.jp/kurashikankyou/kenchiku/saigai/kouei/1010344.html

(6) 岩手県「災害公営住宅の整備状況について」(2020年9月3日更新)
https://www.pref.iwate.jp/kurashikankyou/kenchiku/saigai/kouei/1010345.html

(7) 株式会社新建築社「集合住宅の新しい文法―東日本大震災復興における災害公営住宅」「新建築」, 第91巻, 13号, 2016年8月別冊
(8) 市川英恵「阪神・淡路大震災被災地における借上復興住宅立退問題と訴訟」日本災害復興学会誌「復興」、23号、Vol.8、No.5、pp.21-26、2020.3、
https://f-gakkai.net/wp-content/uploads/2020/09/23-1-3.pdf

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