復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

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まちの再建・移転の事業手法の工夫

復興前期

課題
① まちの再建・移転において事業手法のどのような工夫ができるか

東日本大震災における状況と課題

 東日本大震災の被災地では、地方公共団体によるまちの再建・移転の事業手法として、防災集団移転促進事業、被災市街地復興土地区画整理事業※1(以下「土地区画整理事業」という。)、津波復興拠点整備事業※2、漁業集落防災機能強化事業※3等が活用され、東日本大震災復興特別区域法で創設された復興交付金制度により国から財政支援がなされた。事業手法の選定にあたっては、都市構造や被災状況、住民意向を考慮する必要があった。しかし、例えば、現地再建あるいは内陸部や高台等の被災地外へ移転で住民の意向が分かれる場合もあった。
 また、安全性に加えて、漁業や水産加工業といった産業・生業の再建、商業・福祉といった生活機能の確保も考慮できるよう事業の選択や組合せを考えていく必要があった。

東日本大震災における取組

特性を踏まえた市街地復興事業手法の選択(課題①)

 まちの再建・移転にかかる各種事業には、それぞれに特性がある。
 例えば、防災集団移転促進事業は、被災者の意向に応じた移転地選択を可能にしつつ、居住地を安全な場所に集団で移転できる手法である。移転先の土地の確保が重要なポイントとなる。
 土地区画整理事業は、被災前の権利関係を保全しつつ、インフラ整備や宅地の整序ができ、商業や工業、公共公益施設など多様な土地利用が混在したまちの再建が可能となる。東日本大震災被災地については一定の条件を満たせば嵩上げも可能となったことから、安全性を高めた上での現地再建にも活用された。ただし、所有者が換地後の土地利用方針を決めるまでの間は空き地が発生しうる。
 津波復興拠点整備事業は、早期の拠点機能の復興を図るものであり、用地買収方式により土地を整備し、嵩上げも可能である。
 多くの地区で上記の事業が活用されたが、同一の事業手法であっても様々な目的・使われ方がなされた。都市構造や被災状況、住民意向を考慮の上、それぞれの事業の特性を踏まえた手法選定が行われた。
 リアス式海岸の半島部に位置する小規模集落である岩手県釜石市の多くの地区では、現地再建では安全性の確保が難しかったことから、防災集団移転促進事業により被災エリアの後背地の高台を造成し集落単位で移転された(1)。宮城県岩沼市では、平野部の海岸近くで被災した集落を同事業により内陸の玉浦西地区に集団移転し、併せて同事業の公益的施設として商業施設やクリニックなど生活利便施設の誘致や被災した公立保育所の再建が実現した(事例21-1)。岩手県大船渡市越喜来地区では、被災エリアの後背地で被災を免れた集落内に点在する空地をひとまとめにして防災集団移転先の住宅団地とみなすことにより、集落のまとまりを維持しつつ早期に移転先の整備が行われた(2)
 中心市街地(町方地区)が被災した岩手県大槌町では、現地での再建を図ることとし、土地区画整理事業を活用し、津波に対する安全性を向上させるための土地の嵩上げと基盤整備が行われた(3)。また、宮城県東松島市大曲地区では、災害危険区域として指定され居住ができなくなった低平地を、同事業を活用して産業系の市街地として再整備が行われた(4)
 岩手県大船渡市は中心市街地における早期の拠点整備のため、土地区画整理事業と併せ津波復興拠点整備事業を活用した(事例24-1)。宮城県気仙沼市の赤岩港水産加工団地地区では産業の拠点整備のため津波復興拠点整備事業を活用した(5)
 地震動による被害として、関東地方沿岸部の埋立て地や内陸部の旧河道等の広範囲で液状化が発生し、市街地液状化対策事業に取り組む地方公共団体もあったが、住民の合意形成が困難な地区もあった。

漁業集落の復興まちづくり(課題①)

 漁業集落では伝統的な共同体型コミュニティが残っており、過去の津波災害を教訓に防災意識が高い地区も多かったため、この力を復興事業に生かして復興を進める地域も存在した。岩手県釜石市の花露辺地区では、東日本大震災以前から津波に襲われた場合の対策として防潮堤の必要性が行政と自治会、漁業者の間で議論されてきた結果、防潮堤のない漁村復興まちづくりが選択された。同地区の災害危険区域では、漁業集落防災機能強化事業により漁業関連施設や集落道等が整備され、被災世帯は防災集団移転促進事業によって造成された高台に移転した(6)

効果的な事業の組合せ(課題①)

 都市構造や被災状況、住民意向を踏まえ、かつ、防災性向上や被災者の生活再建等の観点も盛り込みながら、複数の事業を組み合わせて活用することが効果的となった事例がある。
 例えば、岩手県野田村では、沿岸の被災した小規模集落(米田、南浜、下安家、中沢地区)について、集落のまとまりに配慮しつつ、高台移転あるいは生業を考慮した現地再建の意向を踏まえて、防災集団移転促進事業や漁業集落防災機能強化事業といった事業手法を選択、または組み合わせることにより再建、移転を行っている(7)(8)事例22-1)。
 平野部で、内陸への津波浸水を抑制するため、海岸堤防に加え、津波の力を減衰させる二線堤防としての機能を有する嵩上げした公園や道路を整備した地区がある。宮城県石巻市の市街地部では、海岸に並行して東西に通過する高盛土道路や防災緑地を二線堤防とし、これらより内陸部において、原位置復旧による市街地整備が行われた(9)
 高台への移転を防災集団移転促進事業により実施し、併せて移転元地を含む区域の土地利用転換を土地区画整理事業で実施する組合せも見られた。例えば、宮城県石巻市では、津波で甚大な被害を受けた海岸に近い釜・大街道地区、南浜・門脇地区等の住居は防災集団移転促進事業により内陸の新蛇田地区に移転するとともに、移転元地を含む区域は産業系の市街地として土地区画整理事業で整備した(9)
 また、福島県相馬市原釜地区・尾浜地区では、高台移転する被災者の中に自力再建と災害公営住宅入居の両方の希望者がいたことから、防災集団移転促進事業による自力再建用宅地及び公共施設(コミュニティ施設等)の整備と災害公営住宅整備事業を組み合わせて移転先団地を整備した。

教訓・ノウハウ
① 被災地の特性、住民の再建意向に応じて事業手法を選定し計画する

都市構造や被災状況、住民意向(現地再建、地区外再建等)を踏まえた上で、適切な事業手法を選定する。

複数の復興まちづくり事業手法の併用や、面的なまちづくり事業との一体的な災害公営住宅整備など、再建の選択肢を複数用意しておくことが、効果的な場合もある。

時間の経過とともに生じる被災者の再建意向の変化に対応するためには、換地を前提とする土地区画整理事業の事業区域(特に、比較的大きな投資を要すると見込まれる嵩上げ等盛土造成を行う区域)は必要最小限にとどめ、防災集団移転促進事業や津波復興拠点整備事業の買収型事業と組み合わせる、がけ地近接等危険住宅移転事業等の活用により自主再建を促進し、さらには事業地区や工区を分割して段階的に実施する等の手法が有効である。

※1 被災市街地復興土地区画整理事業:被災した市街地の復興を図るため、公共施設と宅地を計画的かつ一体的に整備することのできる事業。被災前の土地の権利関係を保全しつつ、原位置での嵩上げが可能であり、被災した現地での面的な復興に活用された。なお、事業主体は市町村。
※2 津波復興拠点整備事業:津波により被災した地域の復興を先導する拠点とするため、住宅、公益施設、業務施設等の機能を集約させた津波に対して安全な市街地を用地買収方式で緊急に整備するため、一団地の津波防災拠点市街地形成施設として都市計画決定された都市施設を整備する事業。早期の拠点機能の復興に活用された。なお、事業主体は市町村。
※3 漁業集落防災機能強化事業:相当数の住宅、公共施設その他の施設の滅失又は損壊等の著しい被害を受けた地域の円滑かつ迅速な復興を図るために、被災地の漁業集落において、安全・安心な居住環境を確保するための地盤嵩上げ、生活基盤や防災安全施設の整備等を実施する事業。なお、事業主体は市町村。
<出典>
(1) 釜石市「釜石市復興まちづくり基本計画スクラムかまいし復興プラン」2011年12月
http://infra-archive311.jp/data/doc/keikaku/iw/kamaishi20111222.pdf

(2) 公益財団法人後藤・安田記念東京都市研究所「都市調査報告(17)東日本大震災からの復興と自治―自治体再建・再生のための総合的研究―」2017年3月11日
https://www.timr.or.jp/publish/208_chap3sec4.pdf

(3) 大槌町「被災市街地復興推進地域の決定について」
https://www.town.otsuchi.iwate.jp/gyosei/docs/374905.html

(4) 宮城県土木部復興まちづくり推進室「宮城県復興まちづくり通信 vol.35」2018年10月
(5) 気仙沼市「赤岩港地区計画のあらまし」
https://www.kesennuma.miyagi.jp/sec/s097/3-2-1.akaiwaminato.aramasi.161221.pdf

(6) 国土交通省東北整備局 復興まちづくり事例「釜石市」
http://www.thr.mlit.go.jp/bumon/b06111/kenseibup/pdf_tokai/h25.5_03jirei.pdf

(7) 野田村「野田村復興記録誌」2018年3月
(8) 野田村役場地域調整課ヒアリング(2020年10月26日)に基づく
(9) 石巻市「石巻市震災復興基本計画」2013年3月
https://www.city.ishinomaki.lg.jp/cont/10181000/7742/7742.html

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