復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

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移転元地等の効率的な活用

復興前期復興後期

課題
① 防災集団移転促進事業の移転元地等をどのように効率的に活用するか

東日本大震災における状況と課題

 津波で甚大な被害を受けた低平地のうち、再び居住に供することが適当でない危険な区域は、災害危険区域とされ、同区域内にあった宅地は、防災集団移転促進事業により市町村に買い取られ(買い取られた土地を以下「移転元地」という。)、移転が促された。ただし、その結果として、被災した低平地では、公有地となった移転元地と買取対象とならなかった民有地が混在するエリアが数多く発生することとなった(移転元地とその周辺の民有地を合わせ、以下「移転元地等」という。)。このような権利が輻輳した移転元地等は、産業用地としての大規模な土地利用には使いづらいものとなった。産業用地としての需要があるようなところでは、移転元地等を集約、整地することによって民間活用を図る事例もあったが、土地需要が乏しいところでは市町村が移転元地の保全・管理をしていく必要があった。
 復興初期の段階では、被災者の住宅再建が優先され、移転元地等の活用に向けた取組が本格的に行われた地区は少なかったが、住宅再建等が進む中で、地域の活性化のために移転元地等をどのように活用すればよいか議論が始まり、また、活用されない土地の管理は市町村の負担となることが懸念されたため、どのように保全するべきか、各被災地方公共団体において検討が進められてきた。
 移転元地2,121.5haのうち、活用が決まっているのは、1,522.8ha(全体の72%)となっている(2019年12月時点)。

東日本大震災における取組

行政における取組体制の整備(課題①)

 岩手県大船渡市は、津波被災を受けた移転元地等の活用が地域の活性化に欠かせないと考え、2015年には移転元地等の土地活用の推進を専従的に担当する部署を設置し取組を進めた(1)

ニーズや土地の状況に応じた移転元地等の多様な活用(課題①)

 防災集団移転促進事業の移転元地は公有地であり、被災地方公共団体において、そのニーズに応じて取扱いが判断されることとなる。例えば、公共施設の用地、あるいは産業用地等に活用することで地域活性化を目指しているところもあれば、自然的・粗放的に保全することで管理コストを抑えているところもある。元々、住宅の移転を促進するため買い取られた移転元地は立地や形状等が様々であり、その状況に応じて、それらの移転元地に対するニーズや実際の活用状況は大きく異なっている。
 移転元地等は、防潮堤や公園など公共施設用地として活用されたほか、民間活用が図られた例がある。立地条件がよく産業立地のニーズが高いと想定される地域では、移転元地を含む区域を土地区画整理事業で整備し産業団地とした例がある。東松島市大曲浜地区では、移転元地を活用して土地区画整理事業により事業用地が造成され、運輸業や製造業、建設業などの事業者が立地している。宮城県仙台市では、東部沿岸部の移転元地等について、市民や各分野の専門家で構成された検討委員会などにより、活用に係る基本理念や土地利用方針として「仙台市東部沿岸部の集団移転跡地利活用方針」が策定され、この方針の下、民間の自由な発想を生かして新たな魅力を創出するための公募が行われ、例えば、荒浜地区では、周辺の地域資源、広大な土地やアクセスの良さなどを活かし、体験型の観光農園などの立地が決まっている。また、三陸沿岸の地域では、もともとまとまった平地が少ないことから移転元地が産業用地等として有効活用されたところもある(後述する大船渡市の事例)。また、岩手県山田町では移転元地を含む区域が土地区画整理事業により商業用地、水産加工業用地として整備、活用されている。
 一方、市街地等と隣接していない集落部では、防災集団移転促進事業で高台に移転した後の元地に、漁業集落防災機能強化事業が活用され、漁業者のための資材置き場や網置き場等として整備されている。宮城県岩沼市は農山漁村地域復興基盤総合整備事業を活用し、大区画のほ場を整備するとともに農業用施設用地としても活用した。立地が必ずしも良好ではなく産業用地として活用が難しい場合には、地縁団体やNPO等と連携し、コミュニティでの活用や自然的な保全を行う例もある。海水浴場の後背地の広場や地域住民のコミュニティガーデンとして整備した事例(宮城県石巻市)がある(2)
 福島県南相馬市では、産業復興のため、新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクトである福島イノベーション・コースト構想の一環として、居住が制限される災害危険区域に「福島ロボットテストフィールド(RTF)」が整備された(3)(4)

インフラを縮減し大区画化した土地の活用(課題①)

 被災前の住宅地に設けられたインフラ(例:小規模な道路)は産業用地としての利用に必ずしも適していない場合がある。また、不要なインフラの復旧は維持管理コストを増やし、持続可能なまちの復興に資するとは言えない。このため、被災したインフラの復旧を抑えつつ産業用地向けに再整備して土地活用を図った例がある。宮城県名取市は、閖上東地区において、被災前より道路を減らし産業用地に相応しい大区画での土地区画整理事業を行った。岩手県大船渡市では、末崎町小河原地区の被災前の住宅団地の区画道路を廃止し、団地全体を1つの敷地にまとめ産業用地として整備し、トマト工場を誘致した(5)

公有地と民有地が混在した土地の整序(課題①)

 公有地である移転元地と周辺の民有地とが混在している場合、土地を交換することによって、まとまった敷地とすることができる。国は、復興整備事業を実施するために公有地と民有地とを交換する際の登録免許税を免税とする特例を2016年に措置した。岩手県、宮城県、福島県も、同様の場合の不動産取得税を免税する特例を同年に措置した。岩手県大船渡市は、これらの特例措置を活用しつつ、コミュニティ広場や産業用地の整備を行った(2)。例えば、同市越喜来地区において、同市が民有地、公有地の一体利用の調整や、企業による地元説明に対する協力など積極的な誘致活動を行うことで、いちご栽培施設の立地を実現している(6)

土地情報提供等による民間活用の推進(課題①)

 移転元地等については、土地の状況が筆ごとにまちまちであるが、民間主体による活用を推進するため、市町村が一般的な不動産取引の重要事項説明に準じた基礎的な情報を筆ごとに整理し、WEBで公開する取組を行った例がある。さらに、移転元地と周辺民地とを一体で活用しやすくするよう、民有地の所有者の同意を得てその土地情報を提供している例もある。宮古市では、赤浜地区の移転元地について、インフラや利用上の法規制の状況等を示した「土地カルテ」を公表するとともに、移転元地と一体利用できる可能性がある民有地も示す取組を行っている(7)

教訓・ノウハウ
① 土地のポテンシャル、ニーズに応じた移転元地等の多様な活用を検討する

災害危険区域であるという前提の下、移転元地等がもつポテンシャルやニーズにもとづいて、活用や保全の方針を検討し、必要に応じて土地の整序や基盤整備を行うことで新たな活用を促進する。

全ての移転元地を活用しなければならないということはなく、自然的・粗放的な保全も含め検討する。

② 関係者と連携して土地の有効活用に取組む

移転元地は公有地であり、まずは、行政の取組が必須である。役場に専従組織を設置するなど行政の取組体制を整備する。

移転元地等は元々、住民の居住地であったことから地域住民の思い入れの強い場合もある。土地活用の方針について地域住民の合意形成を行う。

産業用地として活用する場合は企業への情報提供、コミュニティ活用や自然的な保全などでは地縁団体やNPO等も重要な担い手になりうるので、土地のポテンシャル等に応じ、各方面の関係者と連携する。

<出典>
(1) 復興庁「被災市街地における土地活用の促進等に係るガイドブック-事例集―「事例2-2」」
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-15/material/20190517-5_jireishu.pdf

(2) 復興庁「防集移転元地の活用に関する事例集(追加版)」2017年6月
https://www.reconstruction.go.jp/topics/m17/06/20170630_motochijireisyu_kisya.pdf

(3) 福島ロボットテストフィールド
https://www.fipo.or.jp/robot/

(4) 南相馬市「南相馬市復興関連事業概要「5.工業団地(福島ロボットテストフィールド)整備」」2019年3月
https://www.city.minamisoma.lg.jp/material/files/group/7/201903.pdf

(5) 復興庁「東日本大震災の復興施策の総括に関するワーキンググループ第3回(資料3)」2019年9月11日
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat7/sub-cat7-2/20190911_wg3_04_sumaitomachi.pdf

(6) Web東海新報「越喜来の被災跡地 産業用地の整備完了 陸前高田の事業者が立地へ」2019年7月12日
https://tohkaishimpo.com/2019/07/12/257058/

(7) 宮古市「防災集団移転促進事業で取得した市有地の利活⽤者を募集します」

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