23)
まちの再建・移転の事業加速化と住民意向変化への対応
復興前期復興後期
② まちの再建・移転に時間を要する中で、住民の変化する再建意向にどのように対応するか
東日本大震災における状況と課題
もともと規模が小さく、その上著しく被災し人的・施設的に機能が損なわれた多くの被災地方公共団体では、土地の取得・造成から始めて新たなまちを作る大規模な事業を執行するための体制や技術力が不足するなど実務上の課題があった。
事業着手後も、大規模な事業の完成までには時間を要し、時間の経過とともに住民の再建意向は変化した。事業期間が長くなったことで、転出した被災者が多くなり事業で嵩上げ造成したものの使われていない土地が多く発生したのではないかとの指摘もなされた。事業主体である地方公共団体が、住民の再建意向の変化に対応して、継続的に事業手法、事業計画の変更を行うことが必要となった。
東日本大震災における取組
住宅再建・復興まちづくりの加速化措置(課題①)
事業執行のボトルネックに対して、国は2013年から2015年にかけて100近い加速化措置を実施した。
例えば、事業の早期段階で直面した用地取得の課題に対しては、財産管理手続きにおける裁判所の審理期間の短縮、土地収用手続きの期間の短縮、用地取得事務における補償コンサルタントへの外注等の手法を用地取得加速化プログラムとしてまとめ、被災地方公共団体にきめ細かく助言した。埋蔵文化財調査に関しては、調査手法の工夫や全国からの専門職員派遣等により事務処理の迅速化が図られた。
また、被災地方公共団体における事業執行体制の確保のため、国、県及び他の地方公共団体による職員の派遣、都市再生機構(UR)による支援、民間コンサルタント・建設会社等の活用が実施された。事業の執行においてはコンストラクションマネジメント(CM)方式※1、市街地総合コーディネート(PMC)業務方式※2、設計・施工一括発注方式など民間等の技術力とマンパワーを活用する多様な発注方式が活用された。
さらに、工事の施工体制の確保のため、主任技術者の兼任要件の緩和、発注ロットの大型化、労務単価の引上げ、民間・公共による生プラントの設置等により、技術者・技能者、資材の円滑な確保が図られた(1)。
→関連項目:61)応援職員の派遣(応援地方公共団体の取組)
→関連項目:62)長期にわたる職員派遣の継続
住まいの再建に向けた見通しを立てるための復興まちづくりの見える化(課題②)
被災者の方々に住まいの再建に向けた見通しを立てていただくため、住宅用の宅地や災害公営住宅の供給状況や供給予定を、「住まいの復興工程表」として国、県、市町村が一体となって作成し、2013年3月に発表、定期的に更新してきた(2)。
また、それぞれの地方公共団体においても復興まちづくりの見える化の取組を行っている。例えば、宮城県においては、県内の復興まちづくり事業の計画を把握できる「復興まちづくり事業カルテ」を作成し2013年3月より公表、更新してきた(3)。岩手県大槌町では、主要地区において、公共施設や個々の敷地ごとの地権者の再建意向等を地図にまとめ、まちの再生する姿を「見える化」して公表する取組みが2016年7月より進められた(4)。
住民再建意向の変化に応じた事業手法・事業計画の見直し等(課題②)
宮城県名取市閖上地区においては、最初の計画では全域現地再建とし土地区画整理事業での宅地の嵩上げと二線堤整備による多重防御を図る復興をめざしていた。しかし、住民説明会において今後の災害リスクへの意識の相違により、現地再建と内陸部への移転再建に意見が割れ、また、低平地の産業系の土地活用の目途も立たないことから合意形成が難航した。このため、土地区画整理事業と防災集団移転促進事業の併用に方針を変更し、災害危険区域内の土地の買収や土地区画整理事業区域内での移転希望者の用地買収、他地区での災害公営住宅整備などの事業を組み合わせて総合的な対応がなされた(5)。
岩手県宮古市田老地区では、土地区画整理事業の地区内に、早期現地再建意向のある地権者の土地がある一方で、活用の見込みが不確実な防災集団移転促進事業による市の買収地もあった。同市は継続的な住民意向把握を行い、早期現地再建意向のある地権者の土地を集約し先行的に整備した。需要が不確実な市有地については、細街路を極力整備せず大街区化して、未利用地の維持管理の効率化を図っている。
宮城県石巻市では、まちづくりに係るアンケートや住民との意見交換を経て、2011年11月から住まいに係る事業の説明がされ、それをもとに2012年5~6月に個別相談による意向確認が行われ、各事業の規模を計画した。それ以後も、再建にかかる費用などより具体的な内容を相談会で示しながら、意向の把握が行われている。さらに、事業案段階においても継続的な意向把握が行われ、例えば新蛇田地区の計画人口は2013年4月時点で約6,200人であったものが、2019年4月時点で約5,300人となっている。こういった状況の中で、3つの土地区画整理区域に分け土地の需要を見ながら各地区で段階的に事業着手された。また、住宅団地での自主再建から災害公営住宅への入居に意向が変化した住民がいたことを踏まえ、土地区画整理区域内の住宅団地を縮小した(5)。
岩手県大船渡市では、発災直後、事業化前、換地設計時、宅地完成時など、段階的・継続的に意向調査が実施された。同市の中心市街地では、当初、全区域が土地区画整理事業の対象として計画されたが、地権者の土地売却意向に応えるため、土地区画整理事業の施行区域の一部を除外した上で、用地買収を行う事業である津波復興拠点整備事業を組み合わせて適用することとされた(5)。
防災集団移転促進事業の住宅団地は、市町村がきめ細やかな住民意向把握を継続的に行いながら計画、整備を進め、空き区画の発生は少なかった。それでも発生した空き区画については、国庫補助で取得した財産の処分手続きを行うことで、同事業の対象とならなかった被災者やさらには一般の方への分譲等が可能になることから、市町村がそうした仕組みを活用することで土地を有効活用し地域活性化に役立てようとした例が見られた。
以上の具体事例のように、それぞれの土地区画整理事業では、事業実施段階での住宅再建希望者の減少に応じ、嵩上げ造成するエリアを縮小したり、地方公共団体が被災者から買い取った土地は集約のうえ当該エリアでの区画道路を減らして大区画化したりするなど事業費の縮減を図る取組が行われたものの、結果として、造成されたが使われていない土地が発生している地区もある。岩手県大槌町や陸前高田市では、復興まちづくりの見える化(上記)のほか地域の不動産取引業者と連携し土地の所有者と使いたい者をマッチングする取組等により造成された宅地の活用に努めている。
コンストラクションマネジメント(CM)方式、市街地総合コーディネート(PMC)業務方式、設計・施工一括発注方式などにより民間等多様な専門セクターの技術力・マンパワーを活用する。
甚大な被災により復興のための事業期間が長期にわたることが想定される場合には、被災者の方々に住まいの再建に向けて見通しを立てていただくため、住宅再建・まちづくりの復興事業に係る目標や進捗状況、将来のまちの姿を見える化することが有効である。
事業実施段階でも、住民意向はなお変化することが想定されることから、継続的に住民意向を把握し、事業の段階的実施や組み換え等を行うなど柔軟性を持たせる。
事業見直しを適切に行ってもなお発生する使われていない土地については、不動産取引事業者等と連携した土地のマッチング等の取組が有効である。
※2 市街地総合コーディネート(PMC:Program Management Consulting)業務方式:企画担当業務や各事業課担当業務等の行政事業そのものの執行を支援する発注方式。各事業において、全体予算管理や事業間・部局間の調整をはじめ、施策等の企画や構想・計画検討を実施する方式。
(1) 復興庁「住宅再建・復興まちづくりのための加速化のための施策集」2016年7月
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-15/20160708_sesakusyu.pdf
(2) 復興庁「住まいの復興工程表」
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-12/20130730105832.html
(3) 宮城県「東日本大震災再生期前半(平成26・27年度)の取組記録誌」2017年3月pp.223
(4) 大槌町「中心市街地の見える化について」
https://www.town.otsuchi.iwate.jp/gyosei/docs/437547.html
(5) 国土交通省都市局「東日本大震災による津波被害からの市街地復興事業検証委員会 第3回 資料1」
https://www.mlit.go.jp/toshi/content/001377246.pdf