復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

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中心市街地の再生・マネジメント

事例名 エリアマネジメントによるまちの持続可能な魅力創造と早期営業再開のための段階的整備
場所 岩手県大船渡市 大船渡駅周辺地区
取組時期 応急期復旧期復興前期復興後期
取組主体 大船渡市、株式会社キャッセン大船渡、大船渡商工会議所、独立行政法人 都市再生機構、大和リース株式会社(エリアマネジメント・パートナー)

取組概要

 大船渡市では気仙(けせん)地域の中心的な商業・業務集積であった大船渡駅周辺地区の再興をめざして、「土地区画整理事業」による用地集約および基盤整備と、復興の拠点となる市街地を用地買収方式で緊急に整備する「津波復興拠点整備事業」を並行して行った。
 商住一体型の商店街から安全に配慮した職住分離型のまちづくりと、持続可能な魅力ある商業・業務、観光・交流、防災活動など諸機能の集積拠点形成について、エリアマネジメント手法により民間が主体的にまちの価値創造と維持管理を行う仕組みをつくり、民間企業の協力、民間人材の登用による推進体制を整備した。
 また早期の営業再開のために先行整備地域を設け、中心地域の施設を段階的に整備するとともに、区画整理による住宅整備との整合を図った。

具体的内容

チャレンジと検証を繰り返すまちをつくる ―エリアマネジメントの導入―

 津波により壊滅的な被害を受けた大船渡駅前地区は、大船渡市ならびに気仙地域の商業・業務機能の中心として隣接する大船渡港とともに発展してきた。一方で、人口減少・高齢化が進む中で住宅兼店舗が集積するこのまちでは、いわゆるシャッター商店街化も進んでいた。このような課題への対応も踏まえ、市の復興計画(2011年10月策定)において、この地区を「商業・業務機能の再集積、物流・観光の拠点」と位置づけ、魅力と競争力があり、かつ将来の生活者の価値観や社会状況の変化にも対応できる持続可能なまちの形成をめざして、民間主体の「エリアマネジメント」によりチャレンジと検証を繰り返すことができるまちづくりの仕組みを創ることになった。

土地利用ゾーニングの再編と段階的なまちびらき

 土地利用としては、JR大船渡線を境として山側はJR大船渡線と背後の嵩上げにより、L2クラスの津波にも対応できる安全な住宅地を区画整理事業によって整備した。海側はL1クラス津波に対応する防潮堤との間を災害危険区域に指定し居住を禁止し、津波復興拠点事業により売却意向の民有地を市が買取し、商業・業務ゾーンとして民間に貸し出し新たな中心市街地を形成した。
 また段階的にまちの整備を進めることにより、被災した商店や事業所等の移転先の早期確保を図った。2012年度から進めている土地区画整理事業(総面積33.8ha・図1、2020年度完了予定)の進捗に先駆けて、津波復興拠点(10.4ha・図1)に先行整備区域を設定して諸機能の段階的整備を行った(開業2017年~)。

エリアマネジメントに向けた取り組み

1)基礎的検討段階(2011~2013年度)
 制度設計について官民連携したワーキンググループで検討し、区画整理と津波復興拠点制度の活用により、住民、事業者が主体となり市と協働で「まちを育てる」仕組み(エリアマネジメント)を導入することを決定した。また津波復興拠点の土地(市有地)は街区ごとに原則として事業者に貸し付けることとし、20~30年の借地期間終了後は将来の状況に応じて新たにまちを見直す仕組みとした。2012年度には駅周辺地区まちづくり全体について検討を行い、2013年度には津波復興拠点について「エリアマネジメント」「行政施設」「商業業務施設」の3部会に分かれた検討を行った。
 さらに、まちづくりに民間のノウハウを取り入れるためにエリアマネジメント・パートナーを公募し(大和リース株式会社に2013年度決定)、駅前周辺地区まちづくりグランドデザインおよびその中で商業・業務の中心となる津波復興拠点整備事業基本計画を策定した。


〇 津波復興拠点地区と先行整備区域の整備方針(「大船渡地区津波復興拠点整備事業基本計画」)
<先行整備区域>:「津波防災ゾーン」として、山側への避難や応急活動の容易性、平常時の利便性を確保する一方、「観光・交流ゾーン」として宿泊施設や広場を整備し、「近隣商業ゾーン」として商店街の早期再開を支援する。
<先行整備区域外>:「観光・交流ゾーン」として飲食店や産直施設などの商業施設を配置し、「近隣・広域商業ゾーン」として、先行区域内の商店街への集客効果を考慮しつつ、大型店舗群を配置する。また段階整備する街区の一体性を確保するため、メインストリートと区画整理事業で整備する幹線道を活用する(図2)。

2)実施準備段階(2014~2018年度)
 まちづくりの方向性を決定する官民連携まちづくり協議会(津波復興拠点の予定借地人企業等、市、商工会議所、エリアマネジメント・パートナーなどで構成)が、エリアマネジメントの方針や体制を具体的に議論し、まちづくりの実務の中心となるタウンマネージャーの公募による民間からの登用、まちづくり会社設立、まちなか再生計画認定などが実現した。先行整備地区でのホテル、スーパー、ホームセンター、商店街、お菓子のファクトリーショップなどが順次完成してショッピングエリア「キャッセン大船渡」が開業(2017年4月)、市の防災観光交流センター「おおふなぽーと」もオープンし(2018年6月)エリアマネジメントが本格的な実施段階へと移行した。


〇 まちづくり会社の設立(2015年12月)、都市再生推進法人指定(2018年3月)
 「株式会社キャッセン大船渡」設立:「キャッセン」は地元の言葉で「いらっしゃい」の意味。市(24.9%出資)のほかに大和リース株式会社や商工会議所など複数が出資。民間主体で事業を行い、市がサポートする体制。市は都市再生推進法人に指定し(2018年3月)、まちづくりの担い手として位置づけた。

〇 まちづくり会社の業務
 ①「大船渡駅周辺地区全体のエリアマネジメント」:住宅地も含めた地域全体の景観形成や魅力創出(都市再生推進法人としての事業エリア(44.7ha・図1)が対象)
 ②「津波復興拠点のエリアマネジメント(高質化)」:周辺街区と連携したハード・ソフト両面での景観や魅力づくり(10.4ha・図1、財源:エリアマネジメント分担金)
 ③「市からの借地内での自社の商業施設運営」:不動産賃貸(商業施設を商業者に賃貸)、自主事業(外装等のデザイン、地域内のソフト事業実施、リテールマネジメント等)
〇 まちなか再生計画策定・認定(2016年1月策定、2月認定)
 「大船渡市まちなか再生計画」が復興庁に認定され、株式会社キャッセン大船渡が津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金の対象に採択された。


3)エリアマネジメント実施段階(2019年度以降)(図3参照)
 エリアマネジメント分担金制度もスタートし(2019年4月)、まちづくり会社が中心となり、市と企業、市民等関係者が支援して「100年後に引き継ぐマチ文化創造」をめざした活動が続いている。具体的には、県外での販売促進(キャッセンキャラバン)、エリア全体のPR等広報宣伝などをはじめ、市民向けの祭り等イベント、エリア内の回遊性向上、景観保全、人材育成(まちもり大学等)、インターンの受け入れなど多彩な活動を展開し、市の新たな魅力と活動拠点を支えている。


〇 エリアマネジメント分担金
 津波復興拠点でのエリアマネジメント事業の財源にあてるため、エリアマネジメントに参画する借地人から分担金を徴収する。代わりに市への地代を固定資産税相当額に減額するこの方式は「大船渡版BID(Business Improvement District)」と呼ばれている。

エリアマネジメントに向けた取り組み

図1:大船渡駅周辺地区全体図(都市再生推進法人のエリアマネジメント対象地区)
(出典:大船渡市)

エリアマネジメントに向けた取り組み

図2:津波復興拠点の土地利用方針図
(出典:大船渡市)

エリアマネジメントに向けた取り組み
エリアマネジメントに向けた取り組み
エリアマネジメントに向けた取り組み
エリアマネジメントに向けた取り組み

図3:津波復興拠点 施設の状況(2020年現在)
(出典:大船渡市)

エリアマネジメントに向けた取り組み
エリアマネジメントに向けた取り組み

写真1:整備されたショッピングエリア「キャッセン大船渡」(出典:大船渡市)

エリアマネジメントに向けた取り組み
エリアマネジメントに向けた取り組み

写真2:夏祭りなどのイベント開催風景(出典:大船渡市)

<出典>(他の事例集等への掲載)
・大船渡市「復興に向けて 大船渡駅周辺地区のまちづくり」(2020年10月)
https://www.city.ofunato.iwate.jp/site/hukkou/11049.html

・大船渡市「大船渡地区津波復興拠点整備事業 エリアマネジメントワーキンググループ 第1回資料」(2013年4月)
https://www.city.ofunato.iwate.jp/uploaded/attachment/9697.pdf

・大船渡市「大船渡地区津波復興拠点整備事業基本計画」(2014年3月)
https://www.city.ofunato.iwate.jp/uploaded/attachment/7504.pdf

・大船渡市「復興に向けて 土地区画整理事業の取り組み(平成25年度以前)」(2019年4月)
https://www.city.ofunato.iwate.jp/soshiki/tochiriyo/756.html

・復興庁「大船渡市まちなか再生計画」(2016年2月)
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-15/20160209100846.html

・キャッセン大船渡ホームページ
https://kyassen.co.jp/

<活用制度>
・津波復興拠点整備事業
・土地区画整理事業
<事業費>
・土地区画整理事業 約207億円
・津波復興拠点整備事業 約60.2億円

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