復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

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まちの再建・移転の事業手法の工夫

事例名 被災者に真摯に対応した、きめ細やかなまちの再建・移転事業の早期実現
場所 岩手県野田村
取組時期 応急期復旧期復興前期復興後期
取組主体 野田村、復興計画策定委員会(協力:岩手大学)、21世紀むらづくり委員会

取組概要

 岩手県内で最も早く災害公営住宅が建設されたほか、防災集団移転促進事業が着工され、早いペースでまちの再建・移転事業が進められた。事業を進めるにあたっては、小規模自治体であることから、首長をはじめ役場職員と被災者が顔の見える関係であることが基礎となって、被災した集落ごとに、被災者一人ひとりに真摯に向き合い、多様な再建の選択肢を準備した。また、被災地域外の住民も参加した住民懇談会を開催するなど、村全体で復興に取り組んでいることが特徴である。

具体的内容

第三線提となる高盛土を築き、多重防災型のまちづくりを推進

 岩手県野田村は、津波シミュレーションの結果に基づき、第一線提として高さ14mの防潮堤、第二線堤となる国道45号と三陸鉄道に加えて、津波減衰で浸水被害範囲の軽減、避難時間の確保など、津波に備えた緩衝機能を有する第三線提となる高盛土を築いて多重防災型のまちづくりを行った。第二線提と第三線提のポケット状の緩衝地帯は公園に整備され、東日本大震災と同じ規模の津波では、第三線提より内陸側の居住地は浸水しない。
 広範囲にわたり災害危険区域(76.2ha)による居住制限をかけることになったが、過去に何度も津波を経験しており、居住を希望する住民はいなかったことから、合意形成はスムーズに行われた。

直轄調査の活用

 被災直後の救援活動等を通じて概ねの被害状況は把握していたが、被災者支援やライフラインの仮復旧などで手いっぱいであり、被災状況を公表するための基礎調査を行う余裕はなかった。そこで国の直轄調査を担当するコンサルタントに、それまでに消防団、役場職員が収集したデータや税務データなどにより被災状況の詳細調査、最終確認、整理する作業を依頼した。
 また、役場職員が何度も被災地を踏査し現場知として浸水6メートルラインを想定し、それより海側には居住制限をかけることを基本方針とした。県による防潮堤整備の高さが決まり、直轄調査による津波シミュレーションを活用して、この6メートルラインを科学的に検証し、確定するとともに、第三線堤の高さを複数パターン検討して、居住エリアの浸水が免れる第三線堤の高さを決定した。

集落単位を重視したまちの再建・移転

 野田村では中心市街地(城内地区)と沿岸の小規模集落(米田、南浜、下安家、中沢地区)の計5地区が被災した。小規模集落では、集落のまとまりに配慮し、それぞれの地区内で移転、再建を行っている。
 下安家、中沢地区は、防災集団移転促進事業による高台移転のみを想定していたが、2011年4月時点で下安家地区の住民から地域の再建について要望があった。当該地区は、漁業を生業としている住民が多いことと、東北一の鮭の孵化場があり、そこに携わる住民もいたことから現地再建を望む住民が多かった。また、安全を重視し高台移転を望む住民の意向もあり、宅地嵩上げによる現地再建と高台移転は、漁業集落防災機能強化事業を活用した。中沢地区も同様とした。下安家地区の現地再建では、嵩上げする宅地にあわせて、最大4.5mの県道の嵩上げを県に要望し実現させた。さらに同事業では、支援のない住宅再建の借り入れに係る利子補給について、防災集団移転促進事業の対象者と差が生じないよう東日本大震災津波復興基金を活用し補助を行った。米田、南浜地区については、防災集団移転促進事業により地区内の近隣の高台に移転を行った。
 一方、中心市街地であった城内地区では、被災市街地復興土地区画整理事業により宅地、道路、公園、上下水道などの基盤整備を行い、防災集団移転促進事業等により高台移転を行った。住民は事業区域に関係なく多様な選択が可能となるよう対応した。災害危険区域の住宅宅地は村が防災集団移転促進事業で買収を行った。また、災害危険区域内における都市公園事業での用地買収も結果として合意形成に寄与した。一方、区画整理事業区域内の住民で高台への移転を希望する場合は、先行買収により、高台住居を選択することが可能となった。また、土地区画整理事業では、内陸側に向かい複数の道路を整備し、避難路の確保や保健センターを兼ねた避難ビルの整備も併せて行っている。
 高台団地では住民からの要望により、自主再建住宅と災害公営住宅をゾーン分けせずに混在させて、コミュニティの維持に配慮した。

住民参加で検討、計画し住民との協働により維持管理されている都市公園

 村の規模からすると約19haの都市公園整備は一大事業であり、開園後の利活用や維持管理の体制を整えておく必要があった。このため、事業の推進にあたっては構想、計画段階から住民参加型で行った。整備の内容や利用方法について、未来を担う子どもたちの意見を反映するため、村内の小学校、中学校、工業高校の児童・生徒を対象にワークショップを実施したほか、村内全地区の住民代表と各種団体で構成される「21世紀むらづくり委員会」においてワークショップを開催した。
 開園後の維持管理については、村内の各種団体等が有償ボランティアによりトイレ清掃や草刈り作業などを行っている。多目的イベント広場には、遊具が整備され、安心して子どもを遊ばせることができる空間となっていることから、近隣市町村の保育所等の遠足にも利用されている。冬期間は雪が少ない気候であるため、多目的活動広場には近隣市町村から高齢者等も多く来場し、年中を通してパークゴルフを楽しんでいる。このように子どもから高齢者まで幅広く利用できる憩いの場となっている。

被災した地区だけでなく、村全体で地区別懇談会を実施

 野田村は2011年11月に津波復興計画を策定した。策定にあたっては素案が概ね固まった2011年9月の段階で、10日間かけて村内全地区で住民懇談会を開催した。その後も、震災前からあった住民懇談会の枠組みを活用して、年に1回は、村内全地区で懇談会を開催し、被災していない住民にも復興の進捗状況や事業への理解と協力を継続的に求めていった。
 また、2012年9月から村内全地区の住民代表、各種団体で構成される「21世紀むらづくり委員会」による検討を重ねて、2013年4月に「野田村復興むらづくり計画」にバージョンアップさせ、街並み整備ガイドラインも策定している。

<出典>(他の事例集等への掲載)
・岩手県野田村「野田村復興記録誌」(2018年3月)
・2020年10月26日実施のヒアリング結果に基づく
<活用された制度>
・防災集団移転促進事業
・被災地復興土地区画整理事業
・漁業集落防災機能強化事業
・都市公園事業
<事業費>
事業名事業費(円)
防災集団移転促進事業2,183,131,768
被災地復興土地区画整理事業1,398,336,781
漁業集落防災機能強化事業439,522,551
都市公園事業2,186,197,736
合      計6,207,188,836
まちの再建・移転の事業手法の工夫

中心市街地(城内地区)の区画整理事業と都市公園整備

まちの再建・移転の事業手法の工夫

避難ビルを兼ねた保健センター(区画整理区域内)

まちの再建・移転の事業手法の工夫

災害公営住宅(区画整理区域内)

まちの再建・移転の事業手法の工夫

新町地区(防災集団移転促進事業)

まちの再建・移転の事業手法の工夫

米田地区(防災集団移転促進事業)

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