21)
まちづくりの合意形成プロセス
復旧期復興前期復興後期
② 多様な被災者に対する情報提供・合意形成をどのように行うか
③ 時間の経過とともに変化する住民意向をどのように把握するか
東日本大震災における状況と課題
発災後、具体的なまちづくりの計画が策定されるまでには時間を要したが、住民等の不安を払拭し将来への希望に繋げていくため、行政と住民がまちづくりの方向性を早期に共有する必要があった。
また、東日本大震災では被害が甚大であったため、被災者は広域に分散して避難することを余儀なくされた。加えて、被災者は職業、年齢、世帯構成等が様々であった。このように広域的な分散避難した被災者、あるいは多様な属性の被災者に対する情報提供や意向把握、合意形成には時間や工夫を要した。多様な主体が関与した復興まちづくりプロセスは、地域コミュニティの醸成状況や既存のまちづくり活動の有無、外部の第三者の関わりによって、多様な展開を見せた。
さらに、時間の経過とともに、住民・事業者の再建意向に変化が起きた。復興事業の規模が大きく事業期間が長くなったことが住民の再建意向に影響を与えたという指摘もなされた(1)。
東日本大震災における取組
復興まちづくりへ向けた首長の取組姿勢や基本的考え方の早期発信(課題①)
大災害が発生した直後においては、不安を抱える被災者に向けて、地方公共団体が復興に向けて動いているという力強い姿勢を示すことが求められた。岩手県釜石市では、発災直後から市長が各避難所を周り市民と対話を繰り返すとともに、震災から1か月後の2011年4月11日に、不撓不屈の思いをメッセージとしてプレスリリースした。併せて、復興まちづくり基本方針として「目指す方向性」と「復興まちづくりスケジュール」等を発信した(2)(3)。
丁寧な情報提供(課題②)
住民や事業者が再建を検討するにあたっては、復興まちづくり計画による居住制限の有無、復興事業による財産補償の有無、生活再建に要する時間や費用、整備される宅地の条件などに関する必要な情報が十分に得られなければ、意思決定をすることは困難である。特に、既存コミュニティによる情報交換が困難な賃貸型応急住宅居住者や広域分散避難者への対応や、障害者や外国人などへの配慮が必要となった。このため、説明会をはじめ個別相談会などの機会を設けるほか、広域分散避難者に対するニュースレターやメディアを通じた情報提供等が行われた。
世帯単位・個人単位のきめ細かな住民意向の把握(課題②)
住民全員を対象とした説明会等住民が集う場での全体的な意向の把握に加えて、全体の場では意見が言いにくいこともあることから、個別相談会等を通じた世帯ごとの個別具体的な意向の把握も行われた。さらに、世帯内でも意見が異なるケースが多いこと等も踏まえ、個別面談や個別アンケートといった個人レベルの意向把握も行われた。宮城県石巻市では、2011年11月の事業説明会の内容をもとに、2012年5~6月に地区ごとの個別相談が実施され、今後の住まい等に関しての意向確認が行われた(3)。
多様な合意形成プロセス(課題②)
被災地では復興まちづくりの合意形成に向けて、住民と行政の関わり方に応じて様々な取組が行われた。
宮城県岩沼市玉浦西地区(事例21-1)では、沿岸部6地区から玉浦西地区への集団移転について、市が大学の協力を得てワークショップを開催し、住宅や集会所の配置、公園・道路等の整備方針に対して住民が話し合った意見がまちづくり計画に反映された。また、宮城県東松島市では、震災前から市が地域自治組織の育成や市民センターの設置など市民と協働したまちづくりを進めており、集団移転が実施されたあおい地区(事例11-1)でも、まちづくり整備協議会を通じて住宅の配置や道路整備等に住民の意向が反映された。
防潮堤の整備に対して多くの住民が反対した宮城県気仙沼市内湾地区(事例21-2)では、地域住民や事業者で構成するまちづくり協議会が設置され、地域住民等が専門家の支援を受けて、地域の多様な意見を集約し、眺望を確保した防潮堤の計画案を県・市に提案し、協議を重ねて地域の安全とまちづくりが両立した防潮堤の整備について合意形成が図られた。
岩手県大槌町赤浜地区では、住民有志が「赤浜の復興を考える会」を組織し、大学の協力を得て作成した復興計画案と模型を地域復興協議会を通じて町に提出し、住民の意向が町の復興計画案の策定に生かされた(4)。
継続的な住民意向の把握(課題③)
岩手県宮古市では、住民の再建意向について、過去の意向調査や個別面談(被災全世帯対象)の記録を全て一つのデータベースに整理(個人単位のカルテ、地区単位、事業単位の意向一覧表を作成)し、再建意向の推測、意向の変化に応じた事業計画の見直しに役立てた(5)。
大規模災害後の復興計画の策定には時間を要し、一方、被災者の方々の生活の落ち着きにも時間を要する中で、スピード感と計画の熟度はトレードオフの関係にある。行政の復興計画の策定と被災者の生活再建を考えるサイクルとを考慮した進め方が必要である。
まずは首長が早期に復興まちづくりへの基本的考え方を力強く発信する。
賃貸型応急住宅居住者、広域・分散避難者や障害者や外国人など住民の多様性に配慮した分かりやすい復興まちづくり情報を、行政が適切なメディアなどを通じて確実に提供・発信する。
地方公共団体や被災地域の規模、地域の特性、まちづくりの経験の有無、外部支援者の有無など、さまざまな条件を考慮して、地域の実情にあった合意形成の方法・プロセスを選択する。
説明会、個別相談会、住民ワークショップなどを様々な機会を通じて住民意向を把握する。
行政は平時から住民との協働まちづくりを推進し、信頼関係を構築する。
時間の経過とともに、住民の再建意向は変化するため、意向把握を継続的に行う。
意向の状況は、個人単位、世帯単位ごとにデータベース等にまとめて整理し活用する。
(1) 朝日新聞「被災地、目立つ空き地 宅地整備に時間、戻る人少なく]2020年11月12日
https://www.asahi.com/articles/ASNCC71Z9NC5ULUC02D.html
(2) 釜石市「東日本大震災からの復旧・復興に向けた市長メッセージ」2011年8月11日
(3) 国土交通省都市局「東日本大震災による津波被害からの市街地復興検証委員会(第2回事務局説明資料)」2020年9月
https://www.mlit.go.jp/toshi/content/001365987.pdf
(4) 窪田亜矢・黒瀬武史・上條真司他「津波被災集落の復興検証」,萌文社,2018
(5) 国土交通省都市局「津波被害からの復興まちづくりガイダンス」2016年5月
https://www.mlit.go.jp/toshi/toshi_tobou_fr_000027.html