復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

11)

恒久住宅への移行に伴うコミュニティの形成

復興前期復興後期

課題
① 恒久住宅で住民のつながりや住民自治をどのようにつくり、進めるか
② 被災地内外の交流を通じてどのように被災地域の活性化を図るか

東日本大震災における状況と課題

 応急仮設住宅から災害公営住宅など恒久住宅への移行にあたっては、それまでに構築された被災者のコミュニティや自治組織を維持し、恒久住宅移行後も地域で住民同士が助け合える関係性を保つことが求められた。特に災害公営住宅は、公募によって入居者が決まり、入居時に初めて顔を合わせる住民もいたことから、入居者同士の交流や災害公営住宅における自治会の設立に対する支援が重要となった。また、少子高齢化が進行する被災地においては、地域における住民や支援団体による活動の持続、被災地へ継続的に訪れる交流人口や移住者を増やす取り組みなど、地域の持続的な活性化に向けた活動が重要となった。

東日本大震災における取組

防災集団移転団地での住民自治の推進(課題①)

 宮城県東松島市では、2008年12月に「東松島市まちづくり基本条例」を制定し、協働のまちづくりを推進しており、地域自治組織の育成等が進められてきた。こうした平時からの住民自治の基盤が震災後に力を発揮し、防災集団移転促進事業によって整備された東矢本駅北地区(現:あおい地区)では、2012年11月に移転を選択した住民による「東矢本駅北地区まちづくり整備協議会」が立ち上げられた。同協議会では、「日本一暮らしやすいまち」を目指し、造成された宅地における世帯の区画決めや災害公営住宅の間取り、街並みルール等について積極的な話し合いが行われ、住民主体のまちづくりが進められた。移転後は、団地内の各地区に組織された自治会を横断する「あおい地区会」を設立し、見守り活動や親睦イベントの企画、集会所の維持管理など地域横断的な課題への対応が住民自治のもとで行われている(事例11-1)。

災害公営住宅の自治会設立・運営支援(課題①)

 岩手県の災害公営住宅「県営栃ヶ沢アパート」では、岩手県と陸前高田市及び岩手大学三陸復興・地域創生推進機構等の関係団体から構成される「県営栃ヶ沢アパートミーティング」により、住民総参加型の自治会設立・運営支援が行われた。2016年8月の入居開始後、9月末には顔合わせ会が開催され、入居者同士の自己紹介や交流が図られるとともに、共益費や自治会の必要性が説明された。自治会設立に向けて設置された自治会設立準備委員会では、役職・組織案や自治会規約案の提示、役員候補選出方法の協議、事業計画・予算案の協議など運営に関する様々なサポートが行われた。従来は行政機関が入居前に選任していた共益費の集金・支払いを担う管理人も、栃ヶ沢アパートでは入居者全員の話し合いによって選出されるなど、住民主体の自治会の設立・運営支援が行われた(事例11-2)。

コミュニティ交流員によるコミュニティ形成支援(課題①)

 福島県では、2012年6月に「3.11被災者を支援するいわき連絡協議会(愛称 みんぷく)」が設立された(2017年4月より「NPO法人みんぷく」に名称変更)。「みんぷく」は、福島県が実施している「生活拠点コミュニティ形成事業」を受託し、各復興公営住宅団地にコミュニティ交流員を配置している。コミュニティ交流員は、復興公営住宅入居前の顔合わせに始まり、入居後のお茶会やイベントを通した入居者の交流支援、各団地での自治会の設立・運営支援、周辺地域との交流支援等に段階的に取り組み、コミュニティ形成を支援している。例えば、いわき市では、復興公営住宅団地自治会合同で災害時要配慮者について考える懇談会や、地域の区役員と団地役員の懇談会等が行われており、団地入居者が近隣住民と良好な関係を築き、安心・安全に暮らしていける環境づくりを進めている(1)

誰もが集えるまちの居場所づくり(課題①②)

 認定NPO法人つながりデザインセンターでは、災害公営住宅における自治組織の立ち上げや運営支援のほか、災害公営住宅の集会施設で地元の大学生やボランティア団体が食事を提供するイベントを定期的に実施し、入居者や近隣住民の交流を促進している。また、空き家を有効活用してシェアハウスをオープンし、入居者や近隣住民が共にハウスの庭に花や野菜を植え、収穫した野菜で親睦を深めるパーティーを開催するなど、誰もが集えるまちの居場所づくりに取り組んでいる(2)

交流人口や移住・定住者の創出(課題②)

 NPO法人SETは、岩手県陸前高田市広田町を拠点に「『やりたい』が『できた』に変わる町」を目指し、田舎だからこそ得られる学びと思い出づくりの機会を提供する民泊事業、地域人材のキャリア教育、全国から来た大学生と地元住民が共に「やってみたい!」を考え実行する1週間の地域おこし実践プログラム、4か月間広田町に滞在し、やりたいことにとことん挑戦する移住留学プログラムなど様々な事業を展開している。こうした事業を通して、地域内外の人材交流を促進し、年間約1,500人の交流人口を生み出すとともに、広田町に移住する若者の増加にも貢献している(3)

教訓・ノウハウ
① まちづくり協議会や自治会など住民主体で生活課題の協議や意思決定ができる体制を構築するための支援を行う

平時から住民が主体的に地域課題の解決に取り組む風土を醸成する。

災害公営住宅では、入居者の顔合わせから自治会の設立・運営、近隣住民との交流に至るまで段階的・継続的な支援を行い住民自治の体制を構築する。

② 被災地内外のヒトやモノのつながりを形成し地域を活性化する

被災地における支援の担い手・受け手のコーディネートや、被災地外から人を呼び込む体験プログラムの創出等により、地域に関わる人の輪を拡大し、被災地の活性化を図る。

※復興公営住宅:法制度上は「災害公営住宅」であるが、福島県では原子力災害による避難者の居住の安定を確保するための災害公営住宅を「復興公営住宅」と称している。
<出典>
(1) みんぷく コミュニティ交流員ホームページ
(2) 認定NPO法人つながりデザインセンター
http://www.tsuna-cen.com/about/

(3) NPO法人SET

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