復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

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NPO等による地域コミュニティの再生支援

復興前期復興後期

課題
① 人と人とのつながりが強い地域コミュニティの再生をどのように支援するか
② 就労の機会喪失と人口流出への歯止めをどのように実現するか

東日本大震災における状況と課題

 東日本大震災の被災地では、農山漁村を中心とした地域の共同性の強い被災地特性があること、そして人口の流出が避けられないという事態も加わり、人々のつながりやコミュニティ関係の維持・再生が重要な復興のテーマとなっている(1)。いくつかの地域では、NPO等はこれらの課題の解決を目的に、地域の主体を結び、合意形成を図りながら、地域資源を活用したコミュニティの再生に取り組んでいる。
 一方で、被災地では、多くの被災者が仕事を失い、定住の場が奪われたことで人口流出が進展する事態がおきた。若者もその例外ではなく、地元での就職の機会が失われた。障害者等の自立のための就労はさらに厳しい状況におかれた。

東日本大震災における取組

行政機関、住民、事業主、地権者等によるコミュニティ再構築に向けた協働戦略(課題①)

 地域における良好な環境や地域の価値を維持・向上させるには、住民・事業主・地権者等が主体的に取り組むエリアマネジメント(2)が有効であった。被災を契機に、住みよいまちを主体的に創出する試みが行われた。
 岩手県大船渡市が津波被害からの復興の拠点として整備したキャッセン大船渡(事例24-1)では、「公共空間と民間空間とを横断した魅力創出」「周辺街区と連携したプレイスメイキングや周辺街区と連携したタウンプロモーション」「商店主と連携した商店街活性化プロジェクトの立案と実行」による商店街区を基軸としたコミュニティが形成された(3)
 NPO法人都市デザインワークスでは、津波被害を受けた仙台東部の農村集落「南蒲生」において、個人が所有・管理する屋敷林である居久根(いぐね)を、杜の都仙台の貴重な景観・環境資源として捉え直し、新しい価値観・仕組みにより多様な主体の参加を得ながら「みんなの居久根」として再生・継承することを共通の目的にすえた。この目的のために町内会と市をつなぎ、災害危険区域の線引きの変更などまちづくり計画に反映させることによって、移転、現地再建、移転希望が混在するコミュニティを再生する活動を行った(4)

移住促進・若者の起業支援(課題②)

 一般社団法人まるオフィスが運営する「気仙沼市移住・定住支援センターMINATO」では、震災で人口が減少する気仙沼市への移住者誘致や移住者の定住サポートを行っている。首都圏などで地方移住を考える人を対象にフェアを開催して気仙沼市の魅力をPRしつつ、空き家を持つ人とつなぐことで、外部の人材呼び込みと空き家問題の解決に取り組んでいる(5)
 起業支援事業「ぬま大学」では、気仙沼市からの委託を受けて、気仙沼で事業を始めたい10代から30代までの若者を対象に起業支援プログラムを実施している。本プログラムの卒業生は、被災地の保育士たちが集まり勉強会を行う「保育カフェ」や、地域の名産であるサンマの形をした鯛焼き店をオープンするなどの新たな事業を興している(6)

企業との連携による障害者の就労支援(課題②)

 障害者の自立支援を行っているNPO法人しんせいは、日清製粉と連携し、洋菓子の製造、梱包、販売に係る事業に障害者を参加させることで就労支援を行った。日清製粉は本団体に対し、商品開発や品質の均質化といったノウハウ供与、社内販売会を実施するなどの販売支援を行った。結果、本製品は2014年から2016年までの3年間で15,000箱を販売することができた(7)

資金源の確保によるソーシャルビジネスにおける雇用の創出(課題②)

 一般社団法人RCF復興支援チーム(現一般社団法人RCF)は、企業や地方公共団体等の関係者間調整を行う「社会事業コーディネーター」として、事業収益の拡大や行政機関からの委託、企業からの出資など多様な資金源によるソーシャルビジネスを展開している。このうち、被災三県の水産・観光事業を支援する復興庁の委託事業「企業間専門人材派遣支援モデル事業」は、RCFが株式会社ウインウイン、株式会社パソナ東北創生と共同で実施している。具体的には、求人する企業が持つ経営課題や人材ニーズの把握、募集ページの作成、応募者管理、採用と企業への定着のための研修までを一手に担っている。2017年より事業を行い、3年目の2019年時点で39社に累計61名の雇用を支援した(8)

教訓・ノウハウ
① NPO等が様々な主体を結び、コミュニティの再生に向けた協働戦略を構築する

エリアマネジメントの手法を活用し、行政機関、住民、事業主、地権者等が協働で地域を再生する。

地域の既存資源を軸としてコミュニティを再構築する。

まちづくりの過程に住民が参加することで、地域の協働を促進する。

② NPO等が地域の魅力の発信を通じた移住・定住の促進や、企業と連携した就労支援を実施する

地域の魅力を発信し、空き家を持つ人と地方移住を考える人を結び、定住を促進する。

若者の起業を支援し、若者の定着を促進する。

社会貢献を目指す主体と連携し、福祉事業所における障害者の就労を支援する。

「社会事業コーディネーター」機能を担い、社会貢献に積極的な企業等と連携し、災害を契機として生じる諸課題を解決する。

<出典>
(1) 櫻井常矢 伊藤亜都子「震災復興をめぐるコミュニティ形成とその課題」「地域政策研究」第15巻,2013年2月,p.42
(2) 国土交通省土地・水資源局「エリアマネジメントのすすめ」2010年3月
https://www.mlit.go.jp/common/001206668.pdf

(3) 株式会社キャッセン大船渡「キャッセン大船渡について」
https://kyassen.co.jp/about/

(4) 都市デザインワークス「南蒲生地区復興まちづくり」
http://www.udworks.net/works/create/minami-gamo

(5) 一般社団法人まるオフィス「気仙沼市移住・定住支援センターMINATO」
https://www.minato-kesennuma.com/

(6) 一般社団法人まるオフィス「ぬま大学 卒業生インタビュー」
http://numa-ninaite.com/category/numauniversity/numauniversity-interview/

(7) 日清製粉グループ「東日本大震災復興支援活動 2016年度」
https://www.nisshin.com/csr/philanthropy/shien/2016/

(8) 一般社団法人RCF「東北被災3県の復興支援から、全国の社会課題へ」
https://rcf311.com/project/

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