復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

28)

賃貸型応急住宅の確保

応急期復旧期

課題
① どのように既存の民間賃貸住宅を活用した賃貸型応急住宅を円滑に供給するか
② 大量供給に向けた膨大な業務をどのように処理するか

東日本大震災における状況と課題

 東日本大震災における応急的住まいの供給では、地震と津波による甚大な住家被害や原発避難者が発生したことから、迅速かつ大量の応急仮設住宅の確保が求められた。その際、プレハブ等の建設型応急住宅の建設や公営住宅等の空き家提供といった従来の方法のほかに、既存の民間賃貸住宅を地方公共団体が借上げ、応急仮設住宅として供給する対応(賃貸型応急住宅)が広くなされた。2012年5月までに建設型応急住宅は約5万3,000戸が建設されたのに対し、民間賃貸住宅の借上は約6万8,000戸(1)であり、建設型応急住宅を賃貸型応急住宅が上回った。賃貸型は建設型と比べ早期に住宅を供給できる等のメリットがあった(2)。応急仮設住宅としての借上げを実施するにあたり、震災前から関係団体と地方公共団体との間で災害時の民間賃貸住宅の活用について協定を結んでいる例はあったものの、内容が実務的でなかったこと、提供可能な住宅の把握に時間を要したこと等から迅速な借上げができなかったなどの課題が顕在化した(3)
 その中で、どのように既存の民間賃貸住宅を確保して円滑に供給するか、また、民間賃貸住宅の借上げや入居期間延長等に伴う膨大な業務をどのように処理するかも課題となった。

東日本大震災における取組

地方公共団体のマッチングによる住宅の供給(課題①)

 入居可能な物件と入居希望者を地方公共団体がマッチングさせる賃貸型応急住宅が被災3県で発災直後から供給された。しかし、この方式は2011年4月末時点で745戸(岩手14戸、宮城4戸、福島727戸)であり、あまり活用が進まなかった(4)
 福島県いわき市ではこのマッチング方式が最も活用され、695戸が供給された。当初、不動産関係3団体が県に提供した物件リストに重複があるなど仕組みが十分に機能しなかったが、市職員が市内の不動産業者を直接訪問し物件を確保するなど多大な努力がなされ実現した。高齢者や障害者、妊婦等のいる世帯の優先入居がなされるなどの効果があった。一方、地方公共団体によるあっせんのため、条件の悪い物件でも入居を断りにくいといった課題がみられた(4)

厚生労働省通知・被災者自身による物件の選定(課題①)

 厚生労働省は、2011年4月30日付で応急仮設住宅としての民間賃貸住宅の借上げの取扱について通知を発出した(5)。この通知は、被災者が自ら民間賃貸住宅に入居している事例が多いこと、建設型応急住宅の用地確保等の課題があり避難所生活が長期化していることを踏まえ、発災以降に被災者名義で契約した物件であっても、その契約時以降、県(その委任を受けた市町村)名義の契約に置き換えた場合、国が経費負担する応急仮設住宅として認めるというものであった。
 宮城県では、2008年の岩手・宮城内陸地震と同様、民間賃貸住宅の借上げにより応急仮設住宅を供与することとし、市町村に通知したが、厚生労働省通知により国庫負担対象範囲が拡大したことから、県は事務取扱を見直し、5月13日付けで市町村に通知した。被災者にとっては早期入居が可能なこと、通勤や通学の利便性を考えて自分で物件を選定できるなど利点が多かったため、急激に申請が増えることとなった。一方で、制度が正確に周知されず県に苦情が殺到するなどの混乱が生じた(2)

賃貸型応急住宅の被災地域外供与(課題①)

 物件を探すことが遅れるなどにより被災した居住地近くで物件を確保できなければ、物件がより多くある市街地部などで物件を確保する必要があるため、被災時に居住していた市町村・都道府県以外の地域でも多数の賃貸型応急住宅が供与された(6)(7)。その中で、他の都道府県に避難した住民に当該都道府県が民間賃貸住宅を借上げる対応が広く行われた(8)。その結果、被災地域外への人口の流出を促した面もみられた。

民間賃貸住宅の円滑な活用についての協定の締結(課題①)

 厚生労働省と国土交通省は、2012年2月に災害時における民間賃貸住宅の活用について検討会を設置し、同年4月、県と関係団体との役割分担や借上げ住宅の基準をはじめ、県自ら物件を借上げ入居者を決定する方式、被災者自ら入居を希望する物件を申請する方式それぞれの契約手続きを明示した協定例を中間取りまとめとして公表し、各都道府県あて締結の推進を依頼した(9)

入居に係る膨大な業務の外部委託(課題②)

 賃貸型応急住宅は基本的に家主(貸主)・県(借主)・被災者(入居者)の3者による契約で提供された(10)。宮城県では2年間の賃貸借契約を結び、供与期間が延長される都度、再契約をした。再契約には貸主及び入居者の意向確認を行い、双方同意すれば契約締結となった。貸主が不同意の場合には、プレハブ建設型応急住宅、公営住宅等に空きがなければ、民間賃貸住宅の他の物件に移れるという仕組みを作った(11)
 被災地で最多の最大約26,000戸を提供した同県では、3者契約や賃料支払い、供与期間延長時の再契約等の業務が膨大な量となり、支払業務を県の指定金融機関である銀行に委託するなど関連作業の外部への業務委託が進められた(事例28-1)。

教訓・ノウハウ
① 賃貸型応急住宅として提供可能な民間賃貸住宅の情報を把握する

関係団体等(不動産関係団体等)とあらかじめ協定を締結する。

② 関係団体等と契約の形態や入居期間、家賃などの借上条件を設定しておく

地方公共団体によるマッチング方式、被災者自らが探す方式をあらかじめ検討しておく。

家主(貸主)・地方公共団体(借主)・被災者(入居者)との三者契約の形態や賃貸借契約による入居期間の設定、家賃の設定など借上げ条件を設定しておく。

③ 貸主・入居者との膨大な契約事務を効率的に処理する仕組みを検討する

民間賃貸住宅の借上契約や家賃収納や供与期間延長等の膨大な事務処理を効率的に処理するため、応援職員等の活用を検討する。さらに事務が膨大な場合は関係府省にも相談をした上で関係団体等のコールセンター等を活用するなど、外部委託も検討する。

<出典>
(1) 内閣府「平成24年度版防災白書」P11-12
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/pdf/H24_honbun_1-4bu.pdf

(2) 宮城県「東日本大震災保健福祉部災害対応・支援活動の記録」2012年12月
(3) 国土交通省「参考資料 震災を踏まえた新規施策・政策見直しについて」2012年3月9日
https://www.mlit.go.jp/common/000194178.pdf

(4) 小川美由紀他「東日本大震災における借上げ仮設住宅「一般型」の供給実態に関する考察」, 都市計画論文集, Vol.51, No.1, pp.86-93, 2016.4,
https://www.jstage.jst.go.jp/article/journalcpij/51/1/51_86/_pdf

(5) 厚生労働省社会・援護局長通知「東日本大震災に係る応急仮設住宅としての民間賃貸住宅の借上げの取扱について」2011年4月30日
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001b0qj-img/2r9852000001b0u9.pdf

(6) 米野史健「岩手県の借り上げ仮設住宅における契約物件及び入居世帯の実態 一東日本大震災後の借り上げに係る賃貸借契約書の記載情報の分析より一」, 都市住宅学, 83号, AUTUMN, pp.85-90, 2013,
https://www.jstage.jst.go.jp/article/uhs/2013/83/2013_85/_pdf/-char/ja

(7) 米野史健「岩手県の借り上げ仮設住宅における退去及び居住地移動の実態」, 日本建築学会計画系論文集, 第83巻, 第746号, pp.717-723, 2018.4,
https://www.jstage.jst.go.jp/article/aija/83/746/83_717/_pdf/-char/ja

(8) 高澤由美, 葛西リサ「東日本大震災における被災地以外でのみなし仮設住宅の供給実態 山形県の場合」, 日本建築学会計画系論文集, 第79巻, 第696号, pp.469-474, 2014.2,
https://www.jstage.jst.go.jp/article/aija/79/696/79_469/_pdf/-char/ja

(9) 国土交通省「災害発生時の民間賃貸住宅の活用に係る検討について」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000013.html

(10) 宮城県「応急仮設住宅(民間賃貸住宅)の基本的な仕組み」(2018年8月31日更新)
(11) 重川希志依他「借上げ仮設住宅施策を事例とした被災者の住宅再建に関する研究-恒久住宅への円滑な移行を目的とした住環境の分析-」, 住総研 研究論文集, No.41, 研究No.1313, pp.145-156, 2014,
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jusokenronbun/41/0/41_1313/_pdf/-char/ja

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