復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

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復興まちづくり計画の策定準備

応急期復旧期

課題
① 計画策定のための情報、条件をどのように整理するか
② 計画策定に必要な組織体制、人材をどのように確保するか
③ 復興事業の着手までの間、緊急措置としてどのような措置が必要か

東日本大震災における状況と課題

 平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震は、観測史上最大の超巨大地震であり、その後に発生した津波も広域に伝播し沿岸域を中心に甚大な被害を出した。丸ごと流出した市街地や集落では、新たなまちを一から作り直すことを余儀なくされたところもある。地方公共団体の既存の総合計画や都市計画のマスタープランには事前復興は想定されていなかったことから、新たな考え方でまちづくりを検討する必要に迫られたところもあった。
 被災した地方公共団体の多くは事業型まちづくりの経験が少なく、中には行政機能が大きく損なわれたところもあり、情報や人材、技術的ノウハウが不足する中、被災状況の把握や計画策定をどのように進めるかが課題となった。
 国土交通省による津波被災市街地復興手法検討調査が始まった2011年6月頃には、多くの被災地方公共団体が復興まちづくりの検討に着手したが、「東日本大震災復興特別区域法」は震災から9ヶ月後、「東日本大震災復興交付金要綱」は10ヶ月後に制定というように復興まちづくりの具体的な事業制度や財源が確定されない状況での計画策定を余儀なくされた。
 具体的な復興計画、復興事業を決めるまでに時間を要する中で、計画的な市街地整備のために建築制限をかけることと、被災者の早期再建を図ることとのバランスも課題となった。

東日本大震災における取組

国土交通省直轄調査による被災状況の把握と復興パターンの検討(課題①②)

 国土交通省は、関係省庁と連携しながら2011年6月より、津波被災市街地復興手法検討調査(直轄調査)を開始した。まずは、被災状況等の調査として、津波により被災した青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉の6県62市町村を対象に、津波浸水エリア、建築物・インフラ等の被害状況、住民の避難状況等の調査を実施し、調査結果を地方公共団体に提供するとともにWEBで公表した。また、同省は市町村の要望に応じ6県43市町村において、被災状況や都市の特性、地元の意向等に応じた被災市街地の復興パターンや、具体的な市街地の復興手法について検討し、市町村の復興計画や事業計画作成への支援を行った。同調査の委託コンサルタント事務所を現地に開設させるなど、現地に密着し、地元地方公共団体との調整に配慮して調査を行った。同調査が実施された地方公共団体はその結果を活用し復興計画を策定することが可能となった(1)

多様な専門セクターの活用による計画事務の遂行(課題②)

 東日本大震災からの復興にあたっては、一地方公共団体の対応能力をはるかに超えた計画事務が発生した。国、県、他の地方公共団体による応援職員の派遣、都市再生機構(UR)による支援、民間コンサルタント等の活用により、これに対応した。
 宮城県石巻市北上地区では、行政だけで進めるのではなく、積極的に大学や民間団体の支援を受けながら細やかに被災住民の意向を聞き、復興ビジョンの策定を行った。支援に当たっては、第三者が入ることで、行政と被災住民の対立構図になりにくく前向きな議論が出来た(2)。岩手県野田村(事例22-1)では早期(2011年4月)にUR等の応援職員の派遣を受け入れて、復興まちづくり計画の策定段階から技術的ノウハウの提供や他地域の情報入手が可能になったとしている(3)

建築基準法等に基づく建築制限等(課題③)

 被災地域における市街地の計画的な整備の支障となるような建築を防止するため、建築基準法第84 条に基づき、宮城県及び石巻市が2011年4月8日に建築制限区域等を指定し、建築物の建築の制限を同年5月11日まで実施した。さらに、災害の発生した日から6ヶ月(延長の場合、最長で8ヶ月)まで建築を制限・禁止することが出来ることとする、「東日本大震災により甚大な被害を受けた市街地における建築制限の特例に関する法律」(2011年4月29日成立・施行)の規定に基づき、宮城県及び石巻市が建築制限区域等を指定し、一部の地域を除き、建築制限を同年11月11日まで実施した(1)。一方、岩手県と福島県においては、建築基準法第84条に基づく建築制限区域の指定は行わなかった。岩手県は、災害危険区域(建築基準法第39 条)又は被災市街地復興推進地域(被災市街地復興特別措置法)の制度内容について被災市町村に説明を行うとともに区域指定の検討を要請し、多くの市町村では当面の間の建築自粛を市民に呼びかけるという対応をとった(4)(5)

教訓・ノウハウ
① 災害後早期に計画策定・遂行のプロセス、スケジュール、体制を明確にする

災害後早期に、被災状況の把握、過去の復興記録の整理等を行いつつ、今後の復興に向けて、どのようなプロセス、スケジュール、体制で取り組むのかを明確に示していく。

そのため、市街地の被災状況や被災者の状況等の把握のための適時適切な調査を行う。

② 復興計画策定のための体制を確保する

上記①で示された方針に基づき、復興計画策定のため、地方公共団体内部の体制を立ち上げるとともに、必要に応じ、他の地方公共団体等からの応援職員、学識経験者、コンサルタント、まちづくりNPO等も含め必要な人材を確保する。

③ 市街地において甚大な被害が発生した場合には建築制限を検討する

市街地において甚大な被害が発生し、復興計画の策定や事業の着手に一定の時間を要する場合は、市街地の計画的な整備の支障となる建築を防止するため、緊急的な措置として一定期間の建築制限を検討する。建築制限の手法はいくつかあることから、被災の状況、復興計画策定のスケジュール、被災者による現地早期再建の状況等を踏まえ検討する。

④ 事前に復興まちづくりの準備を行う

上記①~③の対応を災害直後の非常時に、限られた時間・体制で実施することになる。時間的・体制的に多くの困難を伴うのみならず、冷静な判断が難しくなる状況も想定されることから、事前に復興まちづくりのための準備をしておく(例:地域防災計画に復興体制・復興手順・復興訓練を位置づける。津波防災については津波防災地域づくり法に基づく取組を行う。)。また、都市計画に関する市町村マスタープランに復興事前準備の取組を位置づけることも有効と考えられる。

事前準備の具体的な取組として、復興計画策定に必要な土地利用状況やインフラ整備状況等の基礎データの平時からの収集・整理、継続的な更新や復興に取り組む関係者の役割分担、指揮命令系統を決めた復興体制の確認を行う。また、地方公共団体内部だけでなく外部組織との協力・信頼関係の構築や事前の体制整備も有効である。

災害時には元々のまちづくりの課題が顕在化あるいは加速化することから、平時より人口減少や高齢化など社会経済状況の変化に向き合い、将来を見据えながら事前の復興まちづくりを考えておくことが有効である。

復興まちづくりは、平時のまちづくりの基本的考え方を示す市町村の総合計画における目標や都市計画のマスタープランにおける将来都市構造を踏まえることが基本となるが、大規模災害時により市街地が壊滅し、社会経済活動に甚大な影響が生じた場合には、従来のまちづくりの方向性を再考しなければならない事態もありうる。そのような場合への事前準備として、被災状況や住民意向等を踏まえ、必要に応じ、復興で目指す都市構造の方向性を市町村マスタープランに位置づけることが考えられる。

※上記の詳細については、「津波被害からの復興まちづくりガイダンス」及び「復興まちづくりのための事前準備ガイドライン」(国土交通省)も参照。
<出典>
(1) 国土交通省「東日本大震災の記録」2012年3月11日
https://www.mlit.go.jp/common/000208803.pdf

(2) 国土交通省都市局「東日本大震災による津波被害からの市街地復興事業検証委員会第2回事務局説明資料」2020年9月
https://www.mlit.go.jp/toshi/content/001365987.pdf

(3) 野田村役場地域整備課ヒアリング(2020年10月26日)に基づく
(4) 贄田純平・姥浦道生・苅谷智大・小地沢将之「東日本大震災後の初動期における建築規制とその空間形成への影響に関する研究」都市計画論文集 Vol.53 No.3 2018年 10月
(5) 岩手県県土整備部建築住宅課「東日本大震災津波対応の活動記録~岩手県における被災者の住宅確保等のための5か月間の取組み~」2011年10月
https://www.pref.iwate.jp/kurashikankyou/kenchiku/saigai/tsunami/1010325.html

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