復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

36)

海岸堤防等の復旧・復興

復旧期復興前期復興後期

課題
① 海岸堤防の早期復旧・復興をどのように進めるか
② 海岸堤防等の整備に当たって、津波防災への対応とまちづくりとの調整をどのように進めるべきか

東日本大震災における状況と課題

 東日本大震災では、当時の設計対象の津波高をはるかに超える津波が襲来してきたことから、海岸保全施設等の多くが被災し、背後地に甚大な被害をもたらした。これを受けて、2011年6月に内閣府の中央防災会議は、L2津波(発生頻度は極めて低いものの発生すれば甚大な被害をもたらす最大クラスの津波)には住民等の避難を軸とした総合的な津波対策を構築し、L1津波(最大クラスの津波に比べて発生頻度は高く、津波の高さは低いものの大きな被害をもたらす津波)には海岸保全施設等を建設することで対応するという方針を示した。併せて、L1津波の高さを超えた場合でも施設の効果が粘り強く発揮できるような構造物※の必要性を示した。他方、まちづくり等の観点から、海岸保全施設のあり方に様々な要望が寄せられた(1)

東日本大震災における取組

仙台湾南部海岸における災害復旧の直轄代行(課題①)

 東日本大震災により、宮城県南部に位置する仙台湾南部海岸は、箇所によっては高さが10mを上回るほどの大規模な津波が来襲し、一連の海岸沿いに設置されていた海岸堤防がほぼ全線にわたって全半壊するなどの壊滅的な状況となった。被災した海岸堤防等の復旧に当たっては、2011年3月30日に宮城県知事の緊急要望を受け、国土交通省東北地方整備局が一体的な災害復旧の代行を実施した。海岸堤防等の復旧は、仙台空港や下水処理場等の地域の復旧・復興に不可欠な施設が背後にある区間においては2012年度末に、残る区間も2016年度末に完了した。

まちづくりの議論などを踏まえた海岸堤防の復旧・復興(課題①②)

 海岸堤防等の海岸保全施設が甚大な被害を受けたことから、津波・高潮による二次災害を防止すべく、緊急復旧工事を段階的に行うとともに、被災地復興に向けた海岸堤防の本復旧を進めるため、堤防等の天端高を新たに定めることが必要となった。このため、農林水産省及び国土交通省では、「海岸における津波対策検討委員会」の議論を踏まえ、2011年7月に復興計画策定の基礎となる海岸堤防の高さの決定の基準となる設計津波の水位の設定方法等を示した。これを踏まえ、岩手、宮城、福島3県は、関係市町村などの意見を踏まえ、2011年10月までに3県の地域海岸(同一の津波外力を設定しうると想定される一連のまとまりのある海岸線)ごとの設計津波の水位を決定し (2)(3)(4)、この設計津波の水位を前提として、海岸の機能の多様性への配慮、環境保全、周辺景観との調和、経済性、維持管理の容易性、施工性、公衆の利用等を総合的に考慮しつつ、市町村によるまちづくりの議論などを踏まえながら、海岸管理者である県及び市町村が海岸堤防の高さを定めた(5)
 まちづくりの観点では、「現地がL2の津波に浸水しない地域(概ね浸水深さ2m以下)」については現地再建、「現地がL2の津波に浸水する地域(概ね浸水深さ2m超)」については、盛土による嵩上地や高台への移転、あるいはそれらの組合せといった、市街地の復興方策などが議論された (6)
 まちづくりと一体となった海岸堤防の復旧・復興を進めた結果、被災6県においては、災害危険区域の指定や高台への集団移転等の状況を踏まえ、着工済みの621箇所の約3割にあたる197箇所の海岸堤防について、地域との議論などを踏まえ、堤防の高さを設計津波の水位より下げる、海岸堤防の位置を変更する等の見直しが海岸管理者である県及び市町村により行われた(5)

河口水門・河川堤防の整備(課題①)

 海岸堤防の整備に加え、河川の河口部では水門の再建・新設や、既存堤防の嵩上げ・新設等の津波遡上対策がなされた。宮城県では水門方式ではなく堤防方式を基本とした復旧が行われた(7)(8)(9)。同方式の採用にあたっては、堤防の表・裏法面と天端をコンクリートで覆うこととして復旧工事が進められた(10)

多様な観点の考慮(課題②)

 海岸堤防の復旧の中心は海沿いの連続的な構造物となることから、地域の景観に及ぼす影響に配慮することが重要であった。
 そのため、国においては、復旧後の対象地域の景観の維持、向上を目的として、河川、海岸工学及び景観工学の専門家、関係行政担当者により、「河川・海岸構造物の復旧における景観配慮の手引き」をとりまとめ、国、県等による施設復旧にあたっての景観への配慮について支援した。
 地域においては、地元との合意形成が進められる中で、下記のような多様な観点を考慮した海岸堤防等が整備された。

 <まちから海への眺望の確保>

  堤防の新設により、海が見えなくなることへの懸念が地元住民から示されたため、宮城県女川町では、高台移転や嵩上げ等を組み合わせることで対応した。また、宮城県気仙沼市日門漁港では景観そのものが地域の財産であるという住民意見を踏まえ、堤防背後の道路から海が見えるよう、堤防整備と併せて国道嵩上げも実施されることとなった。宮城県気仙沼市内湾地区ではフラップゲート式堤防や陸側の嵩上げ等を組み合わせ、まちから海への眺望が確保された(事例 36-1)。

 <観光産業への配慮>

  宮城県気仙沼市内湾地区や宮城県名取市閖上地区などでは、公共・商業施設が一体となった堤防が整備された。前者では施設の一階が市街地に、二階が堤防上に接続し、市街地と海辺をつなぐウォーターフロント施設となっている。後者の例では堤防上に商業施設が建設され、水辺で食事ができる心地よい空間となっている(事例36-1)。また、岩手県釜石市根浜地区では、堤防の嵩上げは行われず、二線堤となる道路整備等を行うことで、海辺に海水浴場等を残している(11)

 <景観や自然環境への配慮>

  福島県の沿岸部(12)や、宮城県気仙沼市日門漁港、宮城県岩沼市、宮城県石巻市雄勝町浪板地区などでは、景観への配慮等から緑化や石の装飾を施した堤防が計画・整備された。中にはその整備や管理・活用に住民等が参加し、地域になじみやすい景観となるよう工夫されている事例もみられる(事例36-1)。
 また、その設計や施工計画の中で周囲の生態系への配慮が丁寧になされている事例もみられる。先述の日門漁港では、周辺に上陸する鳥類に配慮した施工計画が練られている(事例36-1)。同じ気仙沼市の中島海岸(13)では、鳥類以外にも底生生物や植生にも配慮しそれらの移植を行っている。

教訓・ノウハウ
① 津波被害を受ける前から海岸保全施設と市街地の復興方策を一体的にイメージしておくことが有効である

L1津波とL2津波に対する防災対策を基本に、市街地の復興方策をイメージしておくことにより、迅速な復旧・復興が可能となる。

② 設計津波(L1津波)の水位を基本とするものの、地域の状況に応じて海岸堤防の高さを決定する

地元住民等との合意形成を進めつつ、安全性に加え、まちから海への眺望の確保、観光産業への配慮、景観や自然環境への配慮等の観点を考慮した海岸堤防整備を行う。

※津波が海岸保全施設等を越流した場合でも、施設の破壊、倒壊までの時間を少しでも長くする等により、浸水量の低減、避難のためのリードタイムを長くできる堤防等(1)
<出典>
(1) 中央防災会議「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/chousakai/tohokukyokun/index.html

(2) 岩手県「岩手県沿岸における海岸堤防高さの設定について」
https://www.pref.iwate.jp/kendozukuri/kasensabou/kasen/fukkyuu/settei/index.html

(3) 宮城県土木部「東日本大震災の記録(暫定版)」2011年9月
(4) 福島県海岸保全行政事務地方連絡協議会 記者発表資料「福島県沿岸における海岸堤防高さの設定について」2011年10月8日
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/10265.pdf

(5) 国土交通省水管理・国土保全局「地域の状況に応じた海岸堤防の高さ等の見直し」
https://www.mlit.go.jp/river/kaigan/main/fukkyufukko/index.html

(6) 国土交通省都市局「東日本大震災による津波被害からの市街地復興事業検証委員会 第3回 事務局説明資料〜市街地復興事業のあり方検証~」2020年11月
https://www.mlit.go.jp/toshi/content/001377246.pdf

(7) 岩手県「主要な河川・海岸施設の津波災害からの復旧・整備状況について」2020年6月17日更新
https://www.pref.iwate.jp/kendozukuri/kasensabou/kasen/fukkyuu/1009847.html

(8) 宮城県「東日本大震災に伴う復旧工事進捗状況について紹介します」2020年9月30日更新
https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/kasen/sinntyoku.html

(9) 平野勝也「東日本大震災からの復興まちづくりと防潮堤問題」, 2015年度(第51回)水工学に関する夏期研修会講義集, 2015.8,
http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00027/2015/51-B02.pdf

(10) 宮城県土木部「東日本大震災災害復旧工事における景観・ 環境に配慮した取組」(2017年3月)
https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/kasen/keikan-kankyou-hairyo.html

(11) 国土交通省都市局「津波被害からの復興まちづくりガイダンス」2016年5月,p4-34
https://www.mlit.go.jp/common/001133356.pdf

(12) 渡邉洋太他「福島県における防災緑地の整備の現状と課題」, 都市計画報告集 No.14, p242-246, 2016.2 ,
https://www.cpij.or.jp/com/ac/reports/14_242.pdf

(13) 宮城県「中島海岸及び津谷川・外尾川災害復旧事業に係わる取り組み状況」2014年8月更新
https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/kasen/nakajima-tuya-torikumijyoukyou.html

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