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応急仮設住宅入居者への支援
復旧期復興前期
② 応急仮設住宅で入居者のつながりをどのようにつくるか
東日本大震災における状況と課題
災害救助法に基づく応急仮設住宅には、災害発生後に緊急に建設される建設型応急住宅と既存の民間賃貸住宅等を借り上げて提供する賃貸型応急住宅があり、東日本大震災では、建設型4万9千戸、賃貸型6万9千戸の入居が決定された(1)。
被災者が広域に分散避難したことから、被災者が早期に入居できるようわかりやすい情報提供や入居手続きが求められた。また、応急仮設住宅の入居に当たっては、震災前の住民が互いに顔見知りでつながる地域コミュニティが維持されるよう、入居者の選定が課題となった。
東日本大震災における取組
住宅に関するワンストップ電話相談窓口や避難所掲示による情報提供(課題①)
岩手県では、2011年4月に「住まいのホットライン」(電話相談・フリーダイヤル5回線)を開設し、土日祝日を含め、応急仮設住宅や県営住宅への入居、自宅の再建に関する支援制度等に関する相談対応を行った。「住まいのホットライン」は、避難所の解消の見通しがついた2011年8月まで継続し、累計相談件数は2,006件となった。また、避難所には、住まいの「かわら版」を掲示し、応急仮設住宅の建設状況や内装・設備、グループホーム型や高齢者等サポート拠点施設の整備状況に関する情報を提供した(2)。県では、避難所にホットラインのチラシを掲示するなどしたが、伝達手段が限られている発災直後は、ホットライン開設そのものの周知が課題となった。
迅速な相談窓口立ち上げには平時からの準備が必要であり、岩手県では、東日本大震災等の教訓から、市町村が開催する住宅相談会や個別相談に専門の相談員を派遣する「災害時等住宅相談員派遣事業」を創設し、住宅再建に係る相談体制を整えている(3)。
賃貸型応急住宅に関する情報の一元的提供(課題①)
被災者に入居可能な公営住宅等に関する情報を一元的に提供し、入居申込窓口を案内するため、国土交通省は、2011年3月22日に「被災者向け公営住宅等情報センター」を設置した。同センターでは、地方公共団体の公営住宅や都市再生機構のUR賃貸住宅等に加え、同月 28 日からは民間賃貸住宅や国家公務員宿舎等の窓口も案内対象に加え、被災者の住まいの確保を支援した(4)。
被災者自ら探す賃貸型応急住宅(課題①)
厚生労働省は、2011年4月30日付の通達で、被災者自身が探した物件を行政機関が賃貸型応急住宅として借り上げるという特例的な対応を認めた。これにより、賃貸型応急住宅への入居が促進され、2012年5月までに建設型応急住宅は約5万5千戸が建設されたのに対し、民間賃貸住宅の借上は約6万8千戸であり、建設型応急住宅を賃貸型応急住宅が上回った。
建設型応急住宅への入居事務に係る県と市町村の連携(課題①)
岩手県では、被災者の建設型応急住宅への円滑な入居のため、完成前に入居者を事前に決定することや、鍵渡しの際には家電等の生活用品が極力揃った状態となること等を考慮し、着工から入居までの流れを整理したフロー図を作成して市町村へ周知した。また、家電の搬入スケジュールに合わせ、建設型応急住宅の完成予定日及び図面等を2週間前までに市町村へ通知するようにし、市町村が入居決定手続きに必要な情報を早期に得られるように配慮した(2)。
コミュニティ形成や住民個々の事情に配慮した入居者選定(課題②)
建設型応急住宅の入居者の選定方法は市町村によって様々であり、妊産婦や高齢者、障害者等の優先枠を設けた選考や、入居者同士が助け合えるように要配慮者を含む世帯とその他の世帯を一定割合で同じ建設型応急住宅団地に入居させるなどの工夫がみられた(5)。
岩手県宮古市では、市内に62箇所2,010戸の建設型応急住宅が建設され、2011年5月の入居開始から約3ヶ月間で1,680戸、3,885人が入居した。市では、「地域一括」・「被災地近接」・「ソーシャルミックス」(世代混合)・「通学に配慮」を4原則とし、建設型応急住宅の入居にあたっては各被災者の希望を聞き取り、できるだけ従前の地域ごとに入居できるよう配慮した。また、抽選は行わず、全て市側で部屋割を行った(6)(7)。
地域コミュニティごと(地区単位)の入居(課題②)
宮城県岩沼市では、地区単位で集まって避難所生活が送られており、建設型応急住宅についても地区単位で入居する方針が立てられた。2011年4月5日から入居申込受付が開始され、被災地で最も早く4月29日~6月4日で入居が完了した。3箇所384戸、最大で379戸の入居があった。(事例21-1)。
一方で、賃貸型応急住宅は早期に入居を実現する上では効率的な手法であったが、広域に分散して入居が行われるため、地域コミュニティの維持は課題となった。
地方公共団体は、入居可能な応急仮設住宅の情報や入居希望者の相談・申込に対応する一元的な相談窓口を設置し、被災者の円滑な入居をサポートする。なお、災害時には伝達手段が限られていることを踏まえ、相談窓口等の周知方法を事前に検討しておく。
応急仮設住宅を整備する県と入居事務を行う市町村との間で完成時期の連絡や鍵の引き渡しなどが円滑に進行するよう連携体制を整備する。
地方公共団体は、住民がなるべく従前の地区単位で入居できるよう配慮する。
妊産婦や高齢者、障害者等の要配慮者を含む世帯だけではなく、多様な世帯が同じ建設型応急住宅団地に入居することで、入居者の共助や交流を促進する。
(1) 国土交通省「災害時における民間賃貸住宅の活用について」2012年11月
https://www.mlit.go.jp/common/000232197.pdf
(2) 岩手県県土整備部建築住宅課「東日本大震災津波対応の活動記録~岩手県における被災者の住宅確保等のための5か月間の取組み~」
https://www.pref.iwate.jp/kurashikankyou/kenchiku/saigai/tsunami/1010325.html
(3) 岩手県「東日本大震災津波からの復興―岩手からの提言―」2020年3月,p118-119
(4) 国土交通省「東日本大震災の記録-国土交通省の災害対応-」2012年3月11日,p63
https://www.mlit.go.jp/saigai/kirokusyu.html
(5) 宮城県「東日本大震災-宮城県の発災後1年間の災害対応の記録とその検証-」2015年3月,p583-603
https://www.pref.miyagi.jp/site/kt-kiroku/kt-kensyou3.html
(6) 宮古市「東日本大震災 宮古市の記録」第2巻(上)<復興・防災編>2017年3月,p87-96
(7) 宮古市「宮古市における被災者住宅確保等のための取組み」2012年度第1回中部ブロック災害時住宅支援に係る連絡調整会議資料