復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

17)

被災した子どもの心身のケア

応急期復旧期復興前期復興後期

課題
① 震災孤児・遺児のケア・生活支援をどのように行うか
② 被災した子どもの心身のケアをどのように行うか
③ 中長期的な子どもの支援体制をどのように整備するか

東日本大震災における状況と課題

 東日本大震災で両親を亡くした震災孤児は243人、どちらか一方の親を亡くした震災遺児は1,557人に上り(2020年3月時点、厚生労働省調べ)、震災孤児・遺児等への支援が必要となった。
 また、震災によって家や家族・友人を失ったり、津波の被害を目撃したりしたことで、不安や不眠などのストレス症状が現れ、場合によっては生活に支障を来すなどしてその後の成長や発達に大きな障害となることもあって、被災した子どもの心のケアが重要な課題となっている。
 さらに、被災した子どもの心のケアは発災後長らく支援を継続する必要があり、子どもの心のケアを行う拠点を各地に設けるなど、中長期的な支援体制の整備が求められた。

東日本大震災における取組

震災孤児・遺児の個々の状況に応じた支援(課題①)

 岩手県では、震災孤児94人全員が親族の下で養育されることとなったため、岩手県保健福祉部児童家庭課は、2011年度に、震災によって子どもの養育を行う親族(祖父母・兄姉等)を支援する「親族里親等支援事業」を開始した(1)。この事業は、県里親会の幹部と県社会福祉協議会の担当者が親族養育者に対し、定期的にサロンを開催し、養育の相談等を受けるもので、現在も実施されている(2)
 宮城県仙台市・石巻市、岩手県陸前高田市に設立された「あしなが育英会東北レインボーハウス」では、施設内に子どもたちが悲しみや様々な感情(グリーフ)を表出するために工夫された様々な部屋を設置したり、同世代の同じような体験をした子どもたちが自分の気持ちや経験を語り合えるワンデイプログラムやつどい(お泊まり会)などのプログラムを開催しており、これらの活動を支えるボランティア「ファシリテーター」の養成にも取り組んでいる(事例17-1)。

子どもの心のケアの支援(課題②)

 文部科学省では、被災した地方公共団体等が学校などにスクールカウンセラー等を派遣する「緊急スクールカウンセラー等派遣事業」を実施し、被災地の要望を踏まえ、必要なスクールカウンセラー等の派遣を支援してきた(3)。また、本事業においては、高校生への進路指導・就職支援を行う進路指導員や、特別支援学校における外部専門家、生徒指導体制を強化するための生徒指導に関する知識・経験豊富なアドバイザーなどの専門家の派遣も支援してきた(3)。このほか、心のケア等への対応のための特別な教職員定数の加配措置も行っている。加えて、2014年3月に、教職員用の指導参考資料「学校における子供の心のケア―サインを見逃さないために―」を作成・公表するなどして、子どもの状況・発達段階や地域の特性・学校の実情に応じた心のケアの支援を行っている(4)
 社会福祉法人恩賜財団母子愛育会日本子ども家庭総合研究所では、厚生労働省の要請に基づき、2011年10月に「東日本大震災中央子ども支援センター」を開設し、被災地の子どもの状況に関する情報を収集・分析するとともに、被災各県の実情に応じて専門家の派遣調整、子どもの心のケアに関する研修会の企画、子どもの支援に携わる保育士や教員に対する相談支援を行った(5)
 福島県の「未就学児を対象にした心のケア事業」(福島県臨床心理士会に委託)では、公益財団法人日本ユニセフ協会の支援により、2011年6月から、県内外の臨床心理士などの専門家が、乳幼児健診や子育てひろばなどが開かれる会場や保育所、幼稚園、避難所、仮設住宅などを巡回して、子どもたちの心の状態を把握し、未就学児や保護者への心のケアを実施した(6)

地域の専門機関による長期的な支援(課題③)

 岩手県では、2011年6月から順次、宮古、気仙、釜石の各地区に「子どものこころのケアセンター」が設置された。さらに、長期的に安定した子どもの心のケアの支援が展開できる全県拠点を整備するため、2013年5月、クウェート国・日本赤十字社の援助により、「いわてこどもケアセンター」を矢巾町に開設(岩手県医科大学に委託)した。児童精神科クリニックにおける診療や沿岸地域での診療、多職種による症例検討会や支援者研修を実施するなど、子どもの心のケアを中心とした被災地診療と診療にまつわる支援・相談・地域連携に取り組んでいる(事例17-2)。

教訓・ノウハウ
① 震災孤児・遺児の個々の状況やニーズを踏まえた支援を行う

個々の子どもの状況に応じて支援を展開し、里親等に対しても継続的に支援する。

震災孤児・遺児が自身の気持ちや経験を語り合える場や施設を設置する。

② スクールカウンセラー等専門家を派遣し、被災した子どもの心身のケアを行う

被災地の要望を踏まえ、被災した学校にスクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーや進路指導・就職支援等を行う専門家を派遣する。

未就学児の子どもには、乳幼児健診や子育てひろば等を通じて心身の状態を把握し、保護者等も含めた漏れのないケアを行う。

③ 震災対応に留まらない地域の専門機関による長期的な支援を行う

子どもの心のケアを専門的にサポートするネットワークを整備する。

<出典>
(1) 社会福祉法人 岩手県社会福祉協議会「あの日から 東日本大震災 岩手県社会福祉協議会の記録」7岩手県里親会の取り組みp.46-48
http://www.iwate-shakyo.or.jp/_files/00003766/shinsai_anohi07.pdf

(2) 和泉広恵「『痛み』と共にある支援-東日本大震災における親族里親等支援事業の意義-」家族研究年報 第39号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/afs/39/0/39_37/_pdf

(3) 文部科学省「平成元年度 文部科学白書」第2部 第1章 東日本大震災からの復興・創生の進展
https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab202001/1420041.htm

(4) 文部科学省「学校における子供の心のケア-サインを見逃さないために-」
https://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/1347830.htm

(5) ふくしま子ども支援センター
https://ccscd.beans-fukushima.or.jp/description/

(6) 公益財団法人日本ユニセフ協会「未就学児の心のケア、福島県でも日本ユニセフ協会/福島県臨床心理士会が実施」
https://www.unicef.or.jp/kinkyu/japan/2011_0624.htm

教訓・ノウハウ集トップに戻る