i-step株式会社

i-step株式会社

【福島県いわき市】

少子高齢化や人口流出に負けない!
ニーズに沿ったケアや若手育成ですべての人々を笑顔に

企業情報

  • 企業名 i-step株式会社
  • ヨミガナ アイステップカブシキガイシャ
  • 業種 社会保険・社会福祉・介護事業
  • 代表者 藤井秀徳氏[代表取締役]
  • 所在地 福島県いわき市平上荒川字桜町21-1
  • TEL 0246-46-3322
  • WEB https://www.i-stepproject.jp
  • 創業年 2012年
  • 資本金 300万円
  • 従業員数 63人
  • 売上高 非公開

企業概要

「いわきの高齢者・障がいのある人たちの人生を豊かにする」「いわきで活躍する若い人たちを育てる」を経営ビジョンに掲げる介護事業所。アクティブな高齢者を対象にしたフィットネス型デイサービスに始まり、在宅生活を安心して過ごせる訪問看護・訪問リハビリ事業、福祉用具レンタル、介護タクシーなど事業は多岐にわたる。育成については、「毎年、新規事業を若い人たちとつくる」ことを目標に、若手スタッフへ積極的な事業参加を促す。

「手に職を付けたい」思いからUターン。介護と福祉に携わる

かつては炭鉱の町として、今は映画『フラガール』の舞台となった町としても知られる福島県いわき市は、東北では宮城県仙台市に次ぐ2番目、福島県内では最多の人口を誇る中核都市だ。

いわき市は太平洋の大海原に面していることもあり、東日本大震災による津波で、港に隣接した小名浜魚市場やアクアマリンふくしまなどの施設は大打撃を受けた。交通網やライフラインも寸断し、避難者や亡くなられた方も大勢いた。

現在、港付近の施設はかつての姿を取り戻し、道路や大きなショッピングセンターも整備され、にぎわいを取り戻している。目に見える復興が進み、生活が便利になったように感じるが、高齢者や障がいのある人には当てはまらないのが現状だ。

こうした地域の課題に真っ向から取り組んでいるのが、i-step株式会社だ。主な事業は要介護者・障がい者のデイサービス、さらに脳梗塞リハビリ、福祉用具や車両レンタルまで、福祉に関わる全般。代表取締役の藤井秀徳氏はいわき市出身で、柔道整復師、介護支援専門員の資格を持つ福祉のスペシャリストだ。

代表取締役の藤井秀徳氏 代表取締役の藤井秀徳氏

「最初の仕事として選んだのは整体師。高校時代、テニス部に所属していたんですが、けがのたびに整骨院のお世話になっていて、施術された患部が良くなっていくことに感動して、手に職を付けるならこれだと思うようになっていました」。

藤井氏は福島県郡山市に新しく開校した整体の専門学校の夜間部で勉強に励み、昼間は整骨院を併設するクリニックで見習いとして働いた。

「東京で専門学校に通うことも考えましたが、両親が暮らすいわき市まで車で1時間ちょっとの郡山市の専門学校で腰を据えて自分のスキルを高めようと思いました」。

働いていたクリニックは整体だけではなく高齢者向けのデイサービスも展開しており、藤井氏は介護と福祉に携わった。
「クリニックに14年勤めてデイサービスやケアマネジャーを経験したことで、今の自分があると思っています。特に最後の4年間、ケアマネジャーとして利用者のケアプランや給付管理を経験できたことは大きなことでした」。

「無いなら自分でつくり出す」 自らの理想を実現するため起業

藤井氏は東日本大震災後の2012年12月、地元いわき市でi-stepを立ち上げた。

「両親に何かあったときのことを考えると、いわき市で立ち上げるのが現実的でした。それにかゆいところに手が届かない、自治体の福祉サービスに危機感を感じたことも要因です。寝たきりの人、重度の人、ちょっと元気な人、それぞれに合ったピンポイントのサービスをするのがなかなか難しい。でも、現場にいるとどの人にも同じようなサービスしか提供しないことが当たり前になってしまう」。

藤井氏は、ケアマネジャーを経験したことで現場を俯瞰(ふかん)的に見られるようになり、介護の現場では当たり前のようだった平たんなサービスを「変えていかないといけない」という使命感に駆られた。

「できないのであればできるように新たにつくってしまった方がいいという感じですね。介護の現場やケアマネジャーをやっていたときに、『もっとこうすれば、こういうことができる』というイメージを持っていました」。

「会社を立ち上げるに当たって、介護と障がいの両方を考えていました。当社の経営理念は『全ての人に健康と笑顔と元気を』。いわきの高齢者・障がい者の暮らしを豊かにすることをビジョンに掲げています」。

現在、i-stepでは介護、障がい、リハビリ、用具レンタル、レンタカーなど多岐にわたる福祉事業を展開。さらに近年、在宅介護・診療の増加を受け、介護福祉士や看護師、リハビリの専門家チームを備えている。利用者の健康状態などは、チーム内で連携し情報を共有することで備えを怠らないようにしている。

「2019年の豪雨災害では、ご家族がおらず、移動も困難な利用者の安否確認を行いました。有事に備えていれば多くの命を守ることができます」。

i-stepにとって、利用者の健康だけでなく、命を守ることも大切な使命なのだ。

i-stepの様子
i-stepの様子
i-stepの様子
i-stepの様子

「まずはやってみる」 地域のニーズとスタッフの熱意に応える

高齢者デイサービスのほかに、障がい児向けの、運動型・個別型・就労準備型の「放課後等デイサービス」も展開。中でも運動型放課後等デイサービスを行っている事業者は市内では少ない。

「運動型を発案したスタッフは療育指導を学んだ元サッカー選手。自分の経験を落とし込みながらプログラムを組み立てています。ほかにも作業療法士・障がい者施設経験者なども、お子さんたちの成長をサポートしています」。

絵画や造形などの創作活動も取り入れ、子どもたちの表現力や自主性、自己肯定感を引き出す。運動療育で子どもたちの体力の向上を図り、心を充実させる。そして、小学校高学年から高校生の発達障がいのある子どもが、生活のための自立訓練や社会に出て働くための準備をサポートする就労準備型放課後等デイサービスにも力を入れている。

さらにi-stepは2022年5月、福祉車両のレンタル事業とタクシー事業も開始。

福祉タクシー

福祉タクシーは利用者の通院や入退院、転院搬送、日常の買い物やお墓参り、観光旅行など利用の範囲も広く、関東圏への長距離利用もあった。「家族と旅行をしたい」とキャンピングカーのレンタルをした利用者もいた。福祉タクシーだけではなく、利用者の要望に合わせた柔軟性とスピード感でサービスを提供するのはi-stepの強みでもある。

福祉や介護の分野から少子高齢化や復興という大きな問題に対して取り組んできたi-step。一方で、「いわきで活躍する若い人たちを育てる」「いわきから100の経営者・100の事業を生み出す」という経営ビジョンも掲げている。

実はいわき市では若者の地元離れが深刻だ。15歳〜24歳の年代では約5,000人減少というデータもあり、将来、町のシステム自体が立ち行かなくなることも考えられる。

「若手とのミーティングで『子どもや親御さん向けのECサイトを立ち上げ、収益を子ども向けの次の事業につなげたい』、セラピストで作業療法士の経験があるスタッフから『企業の健康経営に関わりたい』など、具体的で意欲的な提案があります。これらが形になれば若手も育っていくのかなと思っています」。

時代や地域のニーズを見ながら、スタッフの熱意と経験を生かせるものを事業化する。それは藤井氏のスタッフに対する信頼と若手にチャレンジさせる心意気が表れたものでもある。

「当社では新しいサービスを一つひとつ形にしながら、個人が健康的に笑顔で元気に過ごせる町をつくり、もっと多くの人々を巻き込んで、より良い地域を一緒につくり、いわき市を盛り上げていければと思っています」。

i-stepの様子

10年間蓄積したノウハウを地域の福祉サービスに還元

設立から10年。これまでのノウハウを地域に還元していくことに注力したいと藤井氏は意気込む。

「少子化が進む日本は、今後、必然的に高齢化も進んでいきます。国民が健康な暮らしをするためには予防しかありません。これからは企業が地域のために、健康づくりに貢献していかなければいけないと思っています」。

いわき市内では新型コロナウイルス禍の影響で、業態転換が増えてきている。その際もi-stepが貢献できると考えている。

「業態転換でデイサービスを始めたいという相談を受けることがあります。いわき市の福祉サービスの輪を広げるきっかけにもなるので、ぜひ相談してほしいです」。

いわき市の福祉サービスを充実させ、「全ての人に健康と笑顔と元気を」。この理念がi-stepを突き動かす原動力となっている。

課題

・利用者の健康状況に合わせた、細やかな福祉サービスが提供できていない。

・市内山間部の高齢者世帯や高齢者数の把握が難しく、介護支援を必要としている住民がどのくらいいるのか分からない状況だった。

・主に若者の人口流出に対して、町の活性化に向けてどのような対策をするか。

解決策

・高齢者向けサービス内容を細分化し、障がい児向けの放課後等デイサービスを立ち上げ、福祉タクシーなどを事業化。

・行政からの委託事業として、山間部で地域住民を対象とした認知症予防などの講演会を行った。セラピストや看護師を派遣し健康講座も開いた。

・i-stepでは「いわきから100の経営者・100の事業を生み出す」をビジョンとして掲げ、若手社員による新規事業の提案や立ち上げなど、育成に努めている。

効果

・利用者に合わせたサービスの事業化により、職員たちの部署間異動に伴う専門知識の向上、人材育成が進んだ。

・当初は講演会の参加者が少なかったが、回を重ねるうちに参加者による隣近所や親戚などへの声がけの協力もあり、増加。認知症予防などの啓発だけでなく、健康相談の場となり、山間部に住む高齢者の状況把握につながった。

・若手社員に新規事業等の立ち上げを任せることで、働く意欲の向上がみられるようになった。明確な目的を持って入社する社員が増えた。

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