![株式会社ナラハプラントファクトリー](/jireishuu/2022jirei/27/thumb.jpg)
株式会社ナラハプラントファクトリー
【福島県楢葉町】トマト養液栽培で町内居住率6割の町に
雇用を生み、農業復興へ
企業情報
- 企業名 株式会社ナラハプラントファクトリー
- ヨミガナ カブシキガイシャナラハプラントファクトリー
- 業種 農業
- 代表者 青木浩一氏[代表取締役]
- 所在地 福島県双葉郡楢葉町大字上繁岡字中原17-2
- TEL 0240-23-5903
- WEB 無し
- 創業年 2020年
- 資本金 500万円
- 従業員数 16人
- 売上高 8,000万円
企業概要
東日本大震災後に再建が断念された会社のトマト養液栽培施設を引き継ぐ形で、2020年に設立。安全なトマト作りのために早期のJGAP取得を目指し、2021年に取得。出荷時にJGAP取得のシールを貼るなど、安全性のアピールにつなげている。現在、栽培しているトマトの木は約2万3,000本で、年間300tのトマトの安定的な出荷を目指す。雇用については、特定技能外国人にも積極的に働きかけ、創業時に必要な15人を確保した。
長年携わったトマト栽培で楢葉の農業復興を手助けしたい
「トマトを通じて福島県の食の安全をアピールし、いまだに残る風評被害の払拭につながればと考えました」。
そう話すのは、敷地面積1.1haという広大な敷地でトマトの養液栽培(※)を行っている株式会社ナラハプラントファクトリーの代表取締役社長、青木浩一氏だ。福島県楢葉町は、水稲栽培を中心に農業が盛んなエリアで、以前から民間事業者がトマトの養液栽培も行っていた。
※養液栽培:土を使わず、肥料を水に溶かした培養液によって作物を栽培すること。
しかし、東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故の影響で全町避難を余儀なくされ、2015年に避難指示は解除されたが、住民の町内居住率は6割にとどまる。町では住民の帰還を促す意味でも、水稲栽培はもちろん、新たにサツマイモ栽培にも取り組むなど農業復興に力を入れている。その一環として、かつて栽培を行っていた会社が再建を断念して町に譲渡した施設を使用してトマト養液栽培を再建してくれる事業者を、2017年に町が募集した。それに応募したのが青木氏だった。
当時、福島県いわき市のトマトブランド「サンシャイントマト」の栽培を行う大野水耕生産組合に勤務。15年以上のキャリアを持ち、トマトの養液栽培についての知識も豊富だった。
![トマト栽培の再開が町の帰還促進にも必ずつながると語る青木浩一氏](/jireishuu/2022jirei/27/jirei27-1.jpg)
「楢葉町で栽培を行っていた業者の方は、かつて私が勤めていた会社に研修に来るなど顔見知りだったんです。再建を模索したものの、人材確保などいろいろな課題が解決できず断念した経緯も聞かされていました。長年トマト栽培に関わった者として、楢葉のトマト栽培が再開されれば、いわきのサンシャイントマトグループの発展、さらには町の帰還促進にも必ずつながると思いましたので、応募しました」。
応募書類作成を進めていく中で、青木氏が一番重視したのは、健全な経営と安全性をアピールすることだった。
「安全なトマト作りには何が必要か。収穫したトマトをどのように流通させるか。その2点でアピールするには、早期のJGAP取得、そして、これまでお世話になった大野水耕生産組合をはじめとするサンシャイントマトグループの流通網を活用させてもらうことでした」。
楢葉のトマトをブランド化させるためにも、サンシャイントマトを含めた浜通り南部産のトマトブランドの価値を高める必要がある。そのためには、複数の会社が競い合いながらおいしいトマトを作ることが一番。そして、すでに流通網が整備されているグループに加わることで、「楢葉のトマト」をいち早く知ってもらえるようになると考えたという。
![広大な敷地に設けられた施設でトマトの養液栽培が行われている](/jireishuu/2022jirei/27/jirei27-2.jpg)
特定技能制度を活用し、外国人労働者も積極的に雇用
青木氏の人脈や経験を生かした事業計画案が町の承認を得たのは2018年。前任企業が使っていた施設を町が修繕し、譲り受けることが決まっていた。困難が予想されたのは人材の確保だった。帰還割合が低い地元からの応募だけに頼らず、ハローワークをはじめ多方面に求人広告を出し、JAから登録支援機関の紹介を受けて特定技能外国人にも働きかけるなどして、創業時に必要な15人ほどの人材を探した。
初めから精力的に人材を探したことが功を奏して、無事に希望人員を確保できた。その中にはトマトの養液栽培経験者もおり、人材教育の面で助けられたという。
![人材の確保には力を入れた](/jireishuu/2022jirei/27/jirei27-3.jpg)
![トマトの色などは人の目でチェックする](/jireishuu/2022jirei/27/jirei27-4.jpg)
「施設内の管理はコンピューター制御で、温度、湿度、日射量などさまざまな項目が24時間計測され、栽培に適した環境が整えられます。しかし、収穫する際のトマトの色、病気や害虫の有無は人の目でチェックしなければいけません。マニュアルも作成して伝えているのですが、文字だけではイメージしづらいこともあります。創業当時から、どんなささいなことでも気が付いたことがあれば何でも報告してほしいと伝えていました。そういう場面でも経験者の方が、指示を出したり教えたりと積極的に動いてくれているので、本当に助かっています」。
インドネシア出身の特定技能外国人の社員も2人在籍。働ける期間は入社から5年と決まっているが、熱心な仕事ぶりには青木氏も頭が下がるという。
「本当に一生懸命働いてくれていて、いずれは自分の国で事業をやりたいという意欲を持っています。雇用確保という意味でも特定技能外国人は今後も積極的に採用できればと思います」。
![サンシャイントマトグループの流通網を活用](/jireishuu/2022jirei/27/jirei27-5.jpg)
![一番右がJGAP認証書](/jireishuu/2022jirei/27/jirei27-6.jpg)
人材確保という課題は今のところクリアできているが、安全性アピールにおいてはまだ途上といえる。全国的にトマトの出荷量が多くなると、福島産の相場が他県産に比べて下がるケースもあるからだ。だからこそ、青木氏は早期にJGAPを取得した。取得に当たっては、トマトの品質はもちろん、会社の経営状況など審査項目は約250にも及ぶ。その書類作成は大きな負担となるが、青木氏は「風評に立ち向かうには絶対に必要」と判断した。
苦労のかいあって2021年にJGAPを取得し、出荷の際に取得を示すシールを貼るなど、安全であることをアピール。その効果もあり、今では市場を通して「楢葉のトマトが欲しい」という声が届くようになっているという。
「施設内の直売所でも『楢葉のトマトは本当においしい』と言ってくださる方が増えています。市場評価も徐々に高まっている印象はありますので、これからも安定した栽培ができるように努力を続けたい」と青木氏は笑顔を見せる。
また、脱炭素といった環境問題にも積極的に取り組んでいる。化石燃料の使用を抑えるため、ヒートポンプを活用した施設内の温度調整システムを導入。重油とのハイブリッド方式で二酸化炭素排出を抑制するだけでなく、経費削減にもつなげているという。
イチゴの試験栽培など将来の事業拡大へ準備を進める
現在、ナラハプラントファクトリーで栽培されるトマトの木は約2万3,000本。そのほとんどが大玉の「りんか」で、年間300tの出荷を安定的に行えるように栽培を進めている。長期栽培で1日の出荷数は1t前後。大きなロットで収穫ができているため、市場でも大口取引がしやすいという。
「創業から2年ほどですので、すべてが軌道に乗るにはもう少し時間がかかるかと思います。コンピューター制御で管理していても、暑さが続くなどすると、わずかですが収穫にも影響が出てきます。そういったものも改善しながら、安定した出荷量をキープできるようにしていきたい」。
![ハウス内の環境はコンピューター制御で管理](/jireishuu/2022jirei/27/jirei27-7.jpg)
![トマトの箱詰めを行うライン](/jireishuu/2022jirei/27/jirei27-8.jpg)
会社が軌道に乗れば、トマトの育苗が終わった後の時期を利用し、トマト以外の食物の栽培にもチャレンジしたいという青木氏。養液栽培ではトマト以外にも、イチゴ、パプリカ、ブルーベリーなどの栽培が行える。青木氏は今後の事業拡大も見据え、すでにイチゴの試験栽培に着手し、一定の成果が見られたと教えてくれた。
「イチゴ狩りは、冬場のレジャーで女性を中心に高い人気を誇っています。この施設内でイチゴ狩りができるようになれば、県内外から多くの観光客を呼ぶことも考えられますし、風評の払拭にもつながるはずです。もちろん、トマトと一緒に直売所で販売したり、市場に出荷したりもして、楢葉産の農産物としてアピールしていきたいですね」。
事業拡大においても、福島の食の安全を多くの人に知ってもらいたいという基本理念は変わりない。
「栽培の中で出荷の規格に合わないものは、加工品に回すことで形を変えて食卓に届けられればと思いますし、地産地消という理念から言えば、学校給食に活用するのも手段の一つ。地元の子どもたちに食べてもらうことで、『このソースは、あそこのハウスで作られたものなんだよ』といった会話も生まれ、農業や食に関心を持ってもらうことにもなるでしょう。そうした意識が広がることで、食材の無駄を無くすことにもつながるのではないかと期待しています」。
楢葉の農業復興のために、尽力する青木氏。「今基盤をつくっておけば、後世に伝えていくこともできますので」と、将来を見据える。楢葉に新しい農業の形を築くため、その挑戦はまだまだ続く。
![出荷を待つ楢葉ブランドのトマト](/jireishuu/2022jirei/27/jirei27-9.jpg)
![課題](/jireishuu/assets/images/jirei-article-task.png)
・風評は根強く残っている。市場で供給が多くなると、福島産の値段が下がる傾向がある。
・町内居住率6割の町での人材確保。経験者はもちろん、今後の発展を考えると若い人材の確保も必要となる。
![解決策](/jireishuu/assets/images/jirei-article-solution.png)
・JGAPを取得し安全性をアピール。青木氏が以前働いていたサンシャイントマトグループに加入することで、販売網も確保した。
・募集広告を多方面で掲載。特定技能制度を活用し、外国人労働者の力を借りることもいち早く決めた。
![効果](/jireishuu/assets/images/jirei-article-effect.png)
・大口の出荷が可能となり、楢葉トマトのブランド化が前進。消費者の評価も徐々に高まっている。
・創業時に欠かせない人数を確保。インドネシア出身の特定技能外国人も正社員として入社し、会社の礎を共に築いてもらっている。