大橋機産株式会社

大橋機産株式会社

【福島県川内村】

“人財”育成で先祖の故郷・福島から
世界に誇るものづくりを

企業情報

  • 企業名 大橋機産株式会社
  • ヨミガナ オオハシキサンカブシキガイシャ
  • 業種 生産用機械器具製造業/輸送用機械器具製造業
  • 代表者 大橋匠氏[代表取締役社長]
  • 所在地 本社:埼玉県さいたま市中央区大戸3-14-10
    川内工場:福島県双葉郡川内村大字下川内字田ノ入15
  • TEL 048-825-5211(本社)
  • WEB https://kisan.co.jp/
  • 創業年 1946年
  • 資本金 2,000万円
  • 従業員数 324人
  • 売上高 75億円

企業概要

1946年に創業し、主に建設機械部品と自動車部品の製造を行う。また電設工事・車両用等の各種ウインチを自社開発し、製造販売する。埼玉県で創業したが、創業者の故郷である福島県にも工場を建設。素材の調達から、各種機械加工や熱処理、表面処理、さらには塗装、溶接、組み立てまで請け負う「一気通貫生産」により、低コスト&短納期を信条とする。顧客にはもちろん、環境にも優しいものづくりを心がけている。

地域貢献のため、再び川内での工場稼働を決意

自動車や建設機械の部品メーカーとして80年近い歴史を誇る大橋機産株式会社。鋼材や鋳鍛造に必要な素材の調達から、各種機械加工や熱処理、表面処理、さらには塗装、溶接、組み立てまで請け負う「一気通貫生産」をモットーに、低コストを実現しながら高品質の製品を短期間で納品し、業績を伸ばしてきた。

本社は埼玉県さいたま市だが、製造を行う工場は福島県田村市、そして川内村に拠点を置いている。その理由を代表取締役社長の大橋匠氏に聞いてみると、次のように答えてくれた。

代表取締役社長の大橋匠氏 代表取締役社長の大橋匠氏

「創業者は私の祖父で、元々は大工でしたが、曽祖父と一緒に移り住んだ埼玉で創業したそうです。生まれはかつての田村郡大越町(現田村市)だったこともあり、人材確保のために故郷の人たちにも声をかけ、下宿をしてもらいながら働いてもらっていたと聞いています。そんな中で、いずれは故郷に錦を飾りたいという思いが強かったことが、現在の(田村市の)船引工場につながっていると思います」。

その船引工場は、東西2拠点に拡大し、生産の拠点としてフル稼働している。さらなる受注も増える中で、2021年には川内村に新工場が完成。現在は隣接地に川内第2工場も建設中だ。実は、大橋機産が川内村に工場を建設するのは、今回が初めてではない。1974年にも工場を建設し、約8年間稼働した後、閉鎖された歴史がある。

「最初の船引工場が完成したのは1967年。当時は東北自動車道も全線開通しておらず、交通網が整備されていませんでした。納品は丸1日かけて行っていたそうです。そんな中でも新工場を川内に決めたのは、祖父の母、私の曽祖母に当たる人の故郷だったことが大きかったようです。しかし、冬に降雪があると安全な輸送ができなくなることも影響して川内工場は閉鎖を余儀なくされたようです」。

無念の工場閉鎖から39年。受注拡大に伴い、新工場が必要となったことで、復活を果たした川内工場。再びこの地でものづくりを始めた裏には、曽祖母の故郷で雇用促進に協力したいという思いもあったという。

「東日本大震災後、幸い建設機械業界は好調を続けています。だからこそ、震災復興支援の取り組みも考えている中で、かつて工場があった川内も含めていくつかの候補が挙がりました。その中で、周辺が緑に囲まれた牧歌的な環境で、近隣住宅への騒音対策なども考慮している川内の田ノ入工業団地の良さに引かれたのです。会社の歴史も踏まえ、ゆかりのある川内の発展に微力ながら貢献したいと考えました」。

東日本大震災の時は、福島第一原子力発電所の事故の影響もあり、2週間ほど工場の操業を止めなければいけなかったが、大きな被害はなかった。さらに、建設機械業界の好調という背景もあったからこそ、全村避難という悲しい出来事があった先祖の生まれ故郷に活気を取り戻したいという気持ちになったと大橋氏は当時を振り返る。

2021年、川内村に新設された工場 2021年、川内村に新設された工場
2022年現在、川内工場のすぐ隣に川内第2工場を建設中 2022年現在、川内工場のすぐ隣に川内第2工場を建設中

社内教育プログラムを確立させ、職人技の継承に取り組む

川内工場再開に当たって、一番の課題は人材の確保。ここ数年、製造業界では首都圏での人手不足の影響もあり、人材確保競争が激しいという。まして人口も減っている川内村で、普通なら「人が集まるだろうか」と不安に駆られそうなものだが、大橋氏の視点は異なる。

大橋氏

「人口は少ないですが同業者はいなかったので、存在感を示し、地縁・血縁を活用すれば、必要な人数は確保できると考えたんです。元々、人の多い首都圏で勝負をすることなく、地方でポジションを取っていこうというスタンスでしたので。実際、つてを通じて入社してくれた人もいますし、その社員から紹介してもらった人もいます。近隣の市町村で働いている川内の人が、地元にそういう会社ができるなら働きたいと入社してくれたケースもあります」。

川内新工場の人材を確保し、現在、取り組みを進めているのが育成だ。数年前から社内に技能向上委員会という組織を設立。機械加工や切削加工、溶接、研磨、表面処理など、社内で扱うさまざまな分野ごとに技術を磨くための技能マイスター育成を進めている。このように教育制度を整えるのには、職人技を明文化して、的確なノウハウを継承していこうという意志がある。

「昔は、技を見て覚えるというのが常識のように言われていました。しかし、本人が分かっていても、他の人には分からない点も多い。だからこそ、技を継承していくためにも、会社として教育カリキュラムを作成し育成につなげる。その学びを生かすことで社員には技能のレベルアップをしてもらう。もちろん人事評価にもつながる制度にしているので、社員のモチベーションも上がるはず。まだ改善点も多い制度ではありますが、より良いものをつくり上げて、社内の人材育成に役立てたいと思います」。

現在、教育できるインストラクターまで成長した社員は6人。今後は、この人数も増やしてより良い育成環境を整えていきたいという。

人材育成に力を入れる理由には、もう一つある。若手の成長を促すためだ。

「現在、社員の平均年齢は38歳くらい。経験の浅い若い人にも重要な作業をやってもらわないといけない状況にあります。だからこそ現場任せではなく、教育制度を確立して人を育てる仕組みをつくらなければいけない。組織が何もしなければ前には進めませんから」。

工場内には多くの大型機械が導入され、効率化が図られている。しかし、それらの機械を正しい知識で扱い、最後に細やかなチェックをするのは、人だ。人を大切に育てることが、会社の利益に大きくつながることが分かっていたのだ。

工場内の様子
工場内の様子

受託生産の範ちゅう超え、自社製品の開発も視野に

近年のコロナ禍、世界情勢の関係などで、半導体をはじめとした部品供給の面で不安は抱えているが、今のところ大きな影響は出ておらず、「状況を見守るしかない」と大橋氏。冷静な考えを持てる裏には、東日本大震災での経験が大きく影響しているという。

「今、東日本大震災の経験も踏まえて、新たなBCP申請も視野に入れています。まだ準備段階のため具体的なことは話せませんが、2022年に大きな地震が発生した際も、現場は主体的に行動し、すぐに情報を集約。お客さまにもすぐに情報を提供するなど、的確な動きをしてくれました。このように自然災害を経験することで緊急時の意識感度は高くなっている。だからこそ体制構築も含め、緊急時にどのような対応をすることが当社にとってベストなのかを考え、将来につなげたいと思います」。

2019年、東日本を中心とする各地に大きな被害を与えた台風19号。その際、サプライチェーンに被害が生じたことで1カ月の間、受注と売り上げが激減したこともあった。それでも、組織として柔軟に対応し、生産調整を行うなど、危機を乗り切ったという。

さまざまな課題もクリアし、建設機械の部品メーカーとして成長を遂げている大橋機産。2022年度中に完成する川内第2工場では油圧部品の生産もスタートする。「油圧部品の生産には、シビアな技術が要求されます。社内教育にもさらに力を入れなければいけません」と語る大橋氏は、会社全体のステップアップについても目標を語ってくれた。

「雇用創出という観点で見れば、若い人に興味を持ってもらうことも必要になります。そういう意味でも、新しいことへのチャレンジは欠かせません。2年前には初めてメッキ処理に取り組み始めました。技術的に面白い取り組みは積極的に行い、この会社に入ればいろいろなことができそうだと思ってもらいたいですね」。

新しい取り組みを積極的に行うことは、若者の興味を引くためだけではない。将来的には、自社で製品を開発し、品質評価なども行っていきたいという。

「従来、下請けに求められているのは原価低減。ただそこに向かって努力を続けても、未来に希望は持てないと思います。そうではなく、自社製品を作れるようになれば新たな強みができる。それを日本だけではなく海外にも売り込んでいければ、打開策になるかもしれないと考えています」。

工場内も自動化を進めることで、合理化を図りながら生産性を高めている。その先に見据えているのは、下請けでの部品加工にとどまらず、自社製品の製造という新たな扉。世界に冠たるものづくり企業を目指し、大橋氏は今後も挑戦を続けていく。

課題

・受注拡大に伴い、川内工場の新築を決定。かつて工場があった自治体・地域だが、「人材が確保できるかどうか」が課題だった。

・復興支援事業の拡大もあり建設機械業界は好調。その中で、若手人材をどのように育てていくかという課題があった。

解決策

・人材を確保するために、地縁・血縁を活用した募集を行う。規模の小さい自治体の特長を生かす戦略を取った。

・分かりにくいといわれる職人技を誰にでも伝えられるようにカリキュラムを作成。組織として人材育成の強化に努めた。

効果

・入社した社員の知り合いが新たに入社するなど、つながりによって人材も増加。地元住民の雇用促進にもつながっている。

・一定の技能を取得し、教育できる立場となったインストラクターは6人。今後もその人数を増やし、体制強化を図っていく。

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