ニューフロンティア株式会社
【福島県田村市】海の無い町でウナギの陸上養殖を行い
ブランド品として価値を高める
INDEX
企業情報
- 企業名 ニューフロンティア株式会社
- ヨミガナ ニューフロンティアカブシキガイシャ
- 業種 水産養殖業
- 代表者 秋元眞樹氏[代表取締役]
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所在地
本社:福島県田村市船引町船引字畑添1-1
養殖場:福島県田村市滝根町菅谷字矢立松37-1 - TEL 0247-61-6657(養殖場)
- WEB http://www.fuku-unagi.com/
- 創業年 2015年
- 資本金 300万円
- 従業員数 3人
- 売上高 約2,200万円
企業概要
一部が避難指示区域となった田村市にて、地域の新しい特産品をつくりだして、復興を後押ししようという考えから、2015年にウナギ養殖事業を始める。あぶくま山系の清らかな伏流水(井戸水)を用いて養殖場で稚魚から育てることで、特有のにおいが無いウナギ「福うなぎ」を年間約2〜3t養殖することに成功。地元で有名な旅館にウナギを卸すほか、加工品がふるさと納税の返礼品に採用されるなど、地域のブランド品へと成長しつつある。
地元を元気にしたいという社長の思いに共感し、福島に骨うずめる覚悟
阿武隈高原に位置する福島県田村市。あぶくま洞をはじめ、自然の息吹を感じられるスポットが点在し、あぶくま山系の清らかで豊富な井戸水が得られる場所でもある。そんな風光明媚(めいび)な地で、ニューフロンティア株式会社はウナギの養殖に取り組んでいる。
会社を立ち上げたのは、結婚後にこの地に嫁いだ秋元眞樹氏。福島第一原子力発電所の事故により避難を余儀なくされ、帰還後に希望を失っている多くの住民の姿を見て、何か役に立てることは無いかと考えたのが始まりだった。そんな中、ある本の中で『山間部で陸上養殖』という言葉に出合い、これだ!と思った。
同時に、東日本大震災で大きな被害を受けた福島県沿岸部で若者の漁業離れが著しいことも耳にする。「育てる漁業」という形を提案できれば山間部の町の新たな産業にもなると考え、秋元氏は陸上養殖の会社設立を決断した。
その後、知人を通じて、岡山県で養殖設備や技術を提供するベンチャー企業を立ち上げていた会社に協力を依頼。その会社の担当者が山下尊宣氏(現養殖部顧問・場長 兼 外商・品質管理)だった。
秋元氏の協力要請を引き受けた山下氏だったが、場所選びは難航した。学校跡地、仮設住宅跡地など、市の協力も得ながら場所を探すがなかなか決まらない。設備が無いと養殖業の許可申請書を提出できず、その期限も迫っていた。
「万事休すかと思いましたが、今の場所を市から紹介してもらい、不動産会社に連絡を入れ、値引き交渉もして何とか場所を確保できました」。申請期限に間に合い、養殖設備を整え、技術指導を始めた山下氏。実は、一定の指導が終われば実家のある兵庫県へ戻ろうと思っていたが、考えが変わったという。
「養殖技術の習得には時間を要し、販売先も探さなければならず、事業はスタートラインに立ったばかり。ここまでやってきて途中で抜けるのはどうかと思うようになったんです。何より、会社の利益よりも地元で育てたウナギを食べて住民に元気になってほしいという秋元社長の思いに感銘を受けました。私自身も阪神・淡路大震災を経験し、町が復興していく様子を目の当たりにしてきた経験もある。この町に名産をつくるために、福島に骨をうずめようと決断しました」。
水質保持に不可欠なバクテリアの選定から、かば焼きのたれまで妥協を許さず
山下氏は、友人と設立した岡山県の会社の株式を譲渡し、福島での単身赴任生活を始める。養殖したウナギは、生きたまま飲食店などに卸す活ウナギだけでなく、スーパーなどでも販売できるようにかば焼きなどの加工品としても取り扱うことに決めていた。
最初に課題となったのは、ウナギ特有のにおいをどう無くすかという問題だ。
「豊富な井戸水があり、水温調整も含めて水質をいかにして保つかがポイントになりました。水質維持にはバクテリアが必要なのですが、何十種類もいる中からどれがいいかを選別するのも大変でした。同業者の中には、そこまでこだわらないという人もいますが、町のブランド品としてにおいの無い最高級のウナギをつくろうとしていたので、妥協することはありませんでした」。
バクテリアは、ウナギの排せつ物や餌の食べ残しを分解してアンモニアに変えてくれる。この働きが水質維持に必要なのだが、自らにおいを持つ性質のバクテリアもいるという。それでは水質維持ができないため、いくつもの種類のバクテリアを試し、試行錯誤を重ねた。今では適したバクテリアがすみ続けており、補充の必要は無くなったが、選定までは約1年の歳月を要したという。
水質維持と同時に取り組んできたのが、加工品の軸となるかば焼きの味をどうするかという問題だった。知人の紹介で加工を行ってもらえることになった福島県いわき市の会社に通い、串打ち、焼き加減など、さまざまな工夫を凝らしていったという。中でも困難を極めたのが、たれの味と焼き加減だった。
「においの無いウナギを養殖できるようになったので、白焼きに関しては問題ありませんでした。しかし、たれがかかったかば焼きの場合、福島県の中でも地域の特性があり、好みが違ったんです。沿岸部の浜通りでは少し甘めが好まれ、山間の会津では濃いめが好まれ、田村市のある中通りではその中間の味が主流。まずは県内での流通を定着させなければいけなかったので、3つの好みの中間点をどう表現するかは本当に苦労しました」。
約1年間に及ぶ度重なる試作を経て、ふっくらしたウナギ本来の味を引き立てる程よい甘みとうまみがあるたれを完成させた。今では、このかば焼きにウナギの肝と吸い物の素をセットにした商品も開発し、売り上げを伸ばしているという。
飲食業界から否定的な声もあった「うなおむすび」が加工品の主力に成長
ウナギは高級品というイメージがあるが、「おいしいウナギを誰にでも食べてもらいたい」というのが秋元氏の願いだ。そこで山下氏は、おにぎりにウナギをトッピングする商品を考案した。それを隣接する福島県郡山市の弁当店などに冷凍品として提案したが、おにぎりはその日に作って販売するものだと敬遠されたという。それでも山下氏は商品化を諦めず、卸先でもあるいわき市のフランス料理店にどうしても世に出したいと相談する。
「かば焼きや活ウナギを仕入れてもらっていることもあり、うちのウナギに対する理解もありました。自分たちでこういうものを作ろうと思っていると話したら、誰もやらないならうちでやるよと言ってくれて、完成したのが『うなおむすび』です」。
うなぎのたれで炊き込んだおにぎりには、電子レンジで温めた時にふっくら感が出るようにもち米を配合するなど、製法に工夫を凝らした。適度にカットされたかば焼きの食感も相まって、うな丼を食べている気分に浸れる。
「1尾で10〜14個のうなおむすびが作れます。そうなると1尾当たりの付加価値が大きくなり、利益も出やすくなる。今では会社の売り上げで6割を占める主力商品に育ってくれました。良い反応が無いからとやめずに意志を貫いたのが良かったです」。
安価でウナギが提供できたことで、秋元氏の「おいしいウナギを誰にでも食べてもらいたい」という思いも達成された。うなおむすびやかば焼きなどの加工品は、ふるさと納税の返礼品に採用されるまでに成長。これも、秋元氏の強い願いと山下氏の行動力があったからこそ、生まれたものだといえるだろう。
商品の知名度は着実に上がるも、課題は多くまだ道半ば
どこにも負けないと胸を張る養殖ウナギをつくり上げた山下氏。その自慢のウナギを広めるため、販路開拓にも力を入れる。
「ふくしまみらいチャレンジの協力も得ながら、地元で有名な旅館や日本料理店、小売店など、たくさんの飛び込み営業も行ってきました。そんな地道な努力が実り、今では県内外を含め多くの取引先ができました。かば焼きを含めた加工品も本格的に動き出した2019年9月以降、地元の新聞社やテレビ局などから取材が続き、徐々に知名度も上がっていきました」。
販路開拓のため、自治体にも働きかけを行い、福島県観光物産館でも商品を販売。さまざまなイベントにも参加し商品を販売しているほか、地元の観光スポット、あぶくま洞のレストランでもニューフロンティアのウナギを使ったメニューを提供している。
2021年には地産地消活動で東北農政局長賞を受賞するなど、会社としての認知度も上がっている。設立から今までを山下氏に振り返ってもらった。
「土地の取得から始まり、設備の設置、ウナギの飼育、販売先の確保、加工品開発など、ゼロの状態から始めて、よくここまでできたなというのが率直な感想です。でも、ウナギの供給も十分にできていませんので、現状に慢心することなく努力を続けていきたい。会社設立10年目を迎える3年後には、売り上げ5,000万円を達成したいですね」。
ひょんなことから縁が生まれた福島の地で走り続けて7年。「福うなぎ」を町のブランド品に成長させるため、これからも止まらずに前へ。
・東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故の後、避難指示区域が解除されてからも住民たちは元気が無く、街は活気を失っていた。さらに、東日本大震災で大きな被害を受けた福島県沿岸部で若者の漁業離れが著しい。
・地元の山間部でウナギ養殖事業を立ち上げ、新たな特産品で復興を後押しし、安くておいしいウナギで人々に元気になってもらう。
・特有のにおいが無いウナギを年間2〜3t養殖することに成功。地元で有名な旅館にもウナギを卸すなど、県内外に取引先が拡大。メディアに取り上げられることも増え知名度も上がった。活ウナギだけでなく、加工品でも福うなぎをアピールできるまでに成長した。