株式会社アルムシステム

株式会社アルムシステム

【福島県双葉町】

「無いものはつくる!」 
被災後町内初のホテルを活性化の起点に

企業情報

  • 企業名 株式会社アルムシステム
  • ヨミガナ カブシキガイシャアルムシステム
  • 業種 宿泊業
  • 代表者 清信祐司氏[代表取締役]
  • 所在地 本社:北海道帯広市清流西2−19−4
  • TEL 本社:0155-47-0953
  • 所在地 ビジネスホテルARM双葉:福島県双葉郡双葉町中野堂ノ前31
  • TEL ビジネスホテルARM双葉:0240-23-6040
  • WEB https://www.armsystem.co.jp/
  • 創業年 1988年
  • 資本金 4,340万円
  • 従業員数 458人
  • 売上高 非公開

企業概要

北海道帯広市を拠点とし、不動産賃貸事業、高齢者向け福祉事業、太陽光発電事業、ホテル運営事業など幅広く展開する。帯広で複数のホテルを運営しているノウハウを生かし、2021年に福島県双葉郡双葉町に「ビジネスホテルARM双葉」を開業。「地域の発展とともに地域に必要とされる人間・会社を目指す」ことを企業理念としている。

「ビジネスホテル進出」 北海道から縁のある双葉町の支援に

1988年に北海道帯広市で創業し、道内で居宅介護サービスや不動産賃貸を手がける株式会社アルムシステム。2013年に太陽光発電事業、2015年にバイオガス発電事業、2018年にホテル事業を始めるなど、経営多角化を進めている。

1996年ごろから福島県郡山市の企業と業務提携を結び、郡山市内でも介護事業を展開していたが、東日本大震災により状況が一変。発生直後の心境を、代表取締役の清信祐司氏が語る。

代表取締役の清信祐司氏 代表取締役の清信祐司氏

「郡山がどんな状況になっているか一切分からず、電話をしても連絡がつかないので大変心配していました。テレビで現地の様子を見て初めて状況が分かって、これは大変だと」。その後、福島第一原子力発電所の事故が発生。「食べ物の心配がありましたので、電話がつながるようになってから、介護事業を行っている事業所のスタッフ宛に牛乳や生鮮品を届けました」。

その後も福島への支援を考えていた清信氏。2020年に提携先の企業から、全町避難中の双葉町が企業誘致のために産業用地を整備しているという情報を得て、視察に訪れる。祖父母と父親の出身地という縁のある福島県南相馬市に近いことから運命を感じて双葉町への進出を決め、町と立地協定を締結する。

「うちの事業の中で何かやれるものがあるのか考えたとき、復興を進めるには宿泊できるところが必要だろうし、ホテルなら役に立てるかもしれない。町とやりとりして、産業用地はホテルを建ててもいい場所なのか聞いたところ、ぜひお願いしたいということだったので事業計画を組みました」。

南相馬市に近いとはいえ、右も左も分からない双葉町。「地域の事情やニーズ、どういうお客さんが泊まりそうかということなど、町の方からいろいろとアドバイスを頂きました」。当面は除染作業や復旧・復興工事に関わる人、東京電力および関連会社の人の利用が多いだろうと見込み、単身シングルの利用を想定した客室構成とした。

ホテルの様子

2021年4月、「ビジネスホテルARM(アルム)双葉」が完成。5月1日に営業を始める。当時のことを清信氏は「住民ほぼゼロの中で不安もありましたが、地域からの期待も感じたので励みになりました」と振り返る。

誰も住んでいない町での開業。その思いと苦しい現状

工事関係者の利用が見込まれたとはいえ、全町避難が続いていた町で宿泊施設を開業するという決断にはどんな思いがあったのか。清信氏はこう語る。

「町役場の方とやりとりして交流が深くなるうちに、町が活力を失っているという実情を知りました。双葉町に住んでいた人は大変な苦しみを経験されており、避難指示が解除されたからといって、なかなか戻ってこないだろうと。われわれのようなよそ者ががんばって雇用の場を生み出すことで、長期的な支援にもつながるのではないかと思いました」。

ビジネスホテルARM双葉は木造2階建て3棟、延べ床面積2,469㎡で、客室は134室。地域に元々住んでいた方が訪れることを想定し、高齢者用にバリアフリー対応ルームも設ける。元住民の宿泊が少ないのでまだバリアフリー対応ルームの利用実績は無いが、いつでも受け入れる態勢は整っている。

食堂では1日一つ、北海道の食材を使ったメニューを提供している。「以前から福島の方に北海道の農産物を送ると大変喜んでもらっていましたので、北海道に本社を置くホテルの一つの特色として続けています」。それと同時に、福島第一原発原子力発電所の事故による風評被害に苦しむ生産者を支援しようと、福島県浪江町の請戸漁港で獲れた魚介を使ったメニューも定期的に用意する。

落ち着いた雰囲気の食堂 落ち着いた雰囲気の食堂
朝食はビュッフェ形式 朝食はビュッフェ形式
アルムシステムならではといえる、北海道の新鮮な農産物 アルムシステムならではといえる、北海道の新鮮な農産物
ご当地グルメの「なみえ焼きそば」や、北海道の食材など、名物は看板でアピール ご当地グルメの「なみえ焼きそば」や、北海道の食材など、名物は看板でアピール

開業から1年半がたったが、「同じ福島の被災地でも地域間競争があり、これまでの実績は想定を下回っています」と清信氏。「双葉町にはうちのホテルしかありませんが、周辺の町には復興事業に従事する方をターゲットにするホテルはたくさんあり、そこと競争した場合、町に何も無いのでどうしても不利ですね」と苦い表情を浮かべる。

2022年夏現在、産業復興や観光交流の中核施設で、フードコートや土産物店、貸事務所や会議室が入る双葉町産業交流センターがあるほかは、周辺には整地された野原と道路しか無い。誰も住んでおらず夜は工事車両も通らない「静けさ」と、住居や街灯の明かりが無いこの地でしかお目にかかれない「星空の美しさ」が印象的だと清信氏。今しか体験できない観光資源ともいえるが、ますますの努力を星空に誓うのであった。

動き出した町に必要なものを、地域や他の事業者と共同で創出

福島県内で唯一、全町避難が続いていた双葉町。2022年8月30日、帰還困難区域のうち特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が解除された。福島第一原子力発電所の事故から11年半、やっと居住が可能となったのだ。

避難指示が解除されたからといって、すぐに住民が戻ってくるわけではない。清信氏はホテル建設の段階から、町に必要なものがまだ整備されていないことを実感していた。

「コンビニなど日常生活を営むために必要なインフラがありませんし、今後戻ってくる住民に向けたレクリエーションとなるものも、人々が集まる機会も無い。観光の売り物になるものも無い。町自体が動いていなかったので仕方がないですが、これからそういうところを町に要望し、できることは自分たちで取り組まなければいけないとも思っています」。

「できることは自分たちで」の一環として、ビジネスホテルARM双葉の第2期工事に着手。人工温泉と居酒屋、さらにはレジャーやレクリエーションに訪れる人向けのツインルームを中心とした客室の増築を進めており、2023年4月の完成を予定する。

「双葉町に1日、2日帰還しても誰かに会える場所や機会はまだ無いと思いますが、同じホテルに宿泊していれば温浴施設で会えたり居酒屋で会えたりと、交流が生まれるかもしれないですよね。そういうことが、東日本大震災後、初めて双葉町にできたホテルの役割だと感じています」。

2022年春にはコンビニの誘致を嘆願する署名活動を行った。これも2023年には実現させるべく、「どこも来てくれないんだったら、自らやろうという気持ち」で、コンビニ大手と交渉している。

一方で、継続的な町づくり、ひいては自社のホテル事業を継続するためにも、地域に事業者が増えていくことが欠かせないと考えている。「何でもかんでも自社でやるのではなく、例えばホテルの中のお土産屋さんやカラオケボックス、スナックなどは地域の方にやっていただくなど、役割分担をしながら地域をつくることが、ホテルの長生きにつながると考えています」。

この町に必要とされる企業となり、復興の主人公と共に歩む

自身のルーツが南相馬市にあり、郡山市に業務提携先があったことから、北海道の企業でありながら双葉町の復興に大きく関わることになった。行政の人たちはどのような反応を示しているだろうか。

「いろいろ声をかけてくれるので、民間企業が、しかも北海道から来て復興に携わっていることをありがたいと感じてもらっているんだなというのは、折に触れひしひしと感じています。この地域にはアルムシステムが、アルムのホテルが必要だと思ってもらって、共に栄えていくことを目標にやっていきたい」と清信氏。

企業としては事業の収益、継続性も感情抜きで考えなければならない。そこも経営者として当然、そろばんをはじいている。双葉町に限らず地方でのビジネスについて、「土地代が安いということがまずあります。仕事さえ見つかれば田舎暮らしがしたいという方も多いので、雇用もそれなりに見込めます」と明かす。「特に、復興に関する土木や建設の仕事に比べてサービス業の求人はあまり無いので、サービス業に就きたいという方の選択肢になります」とも。

アルムシステムという受け皿があることで、ここで働くことを選んだ人たちが、町の復興、発展に携わっていく主人公であるべきだとも考えている。「私みたいに1カ月に1回しか来ない人がそれらしいことを言っても長続きしないでしょう。町に戻ってきた人たちが、新しく町で暮らし始めたうちの従業員とも一緒にアイデアを出したり、楽しみを見いだしたりしてもらいたい」。

双葉町がこれからどのように発展してもらいたいかと清信氏に問う。「月並みかもしれませんが、『この町に戻ってきていがったねえ、住んでていがったねえ』と言われる地域になってもらいたいですね」。

「いがった」は「よかった」の方言で、北海道でも福島でも使われる。今はただ静寂と星空が広がる双葉の地にいずれ、ホテルの湯に漬かり、居酒屋で酒をくみ交わし、笑顔で「いがったねえ」と言い合う人たちの声が響き渡るだろう。

課題

・北海道から右も左も分からない双葉町にホテルを進出することになった。

・同じ福島県の被災地でも地域間競争があり、ビジネスホテルARM双葉と交流センターの他には何も無い双葉町は不利で、利用実績は想定を下回る。

解決策

・地域の事情やニーズ、想定客層など、町の職員からアドバイスを得る。

・日常生活のインフラや観光の売り物の整備を町に働きかけるとともに、できることは自分たちで取り組む。

効果

・除染作業や復旧・復興工事に関わる人向けに、単身シングルの利用を想定した客室構成とした。

・人工温泉と居酒屋、ツインルームを中心とした客室の増築を進め、コンビニ大手と交渉。

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