株式会社リード

株式会社リード

【福島県新地町】

思い切った設備投資に戦略的撤退――
「さて、そのつぎは」と、常に先を読み時代をリード

企業情報

  • 企業名 株式会社リード
  • ヨミガナ カブシキガイシャリード
  • 業種 生産用機械器具製造業
  • 代表者 鍋谷陽介氏[代表取締役]
  • 所在地 本社:神奈川県横浜市西区みなとみらい2-2-1 横浜ランドマークタワー43階
    福島工場:福島県相馬郡新地町杉目字飯樋19-2
  • TEL 0244-26-4441(福島工場)
  • WEB https://www.read.co.jp
  • 創業年 1973年
  • 資本金 6,000万円
  • 従業員数 198人
  • 売上高 34億円

企業概要

ダイヤモンド工具の製造・販売および精密加工サービス業務を主として創業。現在は世界の中で日本が得意とする半導体・電子部品、磁石などの高付加価値な材料加工に適した精密長尺ダイヤモンドワイヤをはじめ、精密加工用ブレードや精密コアドリルといった加工用製品を、オーダーに合わせて最適化して製造する。

被災した社員の姿見て会社の発展を決意。先代も大きな決断

社員が居ても立ってもいられず工場に来て、地震で棚が倒れて物が散乱している中で片付けをしていた姿を思い出し、株式会社リード代表取締役社長の鍋谷陽介氏は「今思い出しても涙が出ます」と、当時のことを振り返る。東日本大震災が起きたとき、鍋谷氏は次期社長の立場だった。「美談になってしまうのは嫌なのですが、会社を継ぐ者として、従業員の職場への思いを受け止め、会社を発展させなければいけないと決意したのは確かです」。

代表取締役社長の鍋谷陽介氏 代表取締役社長の鍋谷陽介氏

ダイヤモンド工具の製造・販売を手がけるリードは鍋谷氏の父、忠克氏が1973年に横浜市で創業し、翌年法人化。2011年当時は、新潟県胎内市に新潟工場、宮城県亘理町に仙台工場があった。いずれも被害は軽微だったが、仙台工場はインフラが止まった影響で数週間稼働できなかった。

もちろん災害は無いに越したことはない。しかし、起きてしまった災害によって確認できたことがあった。それは、海外の顧客から心配する声が多数寄せられ、「世界に必要とされている物を自分たちが作っている」という自覚が社員間でも強くなったこと。あとは、仙台工場が稼働できない間も震源から離れた地域にある新潟工場は被害が無く稼働を続け、異なる拠点を持つことによる事業の継続性を確認できたこと。「机上の空論ではなくBCP(事業継続計画)の妥当性が確認できたのは、振り返ってみると収穫でした」。

そして何より大きかったのは、家を流されるなど自身も被災しながら、工場の後片付けや再開に尽力する社員たちの存在。「支援物資を渡す程度しかできませんでしたが、会社自体が無くなってしまったら彼らが生活の基盤を失って、もっと大変になってしまう。会社を継続し、発展させ、還元し続けることが支えになると考えていました」。

創業者で当時の社長だった父親の忠克氏も、発災から2週間もたたないうちに、復興の旗印として宮城県亘理町の仙台工場の敷地内にR1工場(現開発研究棟)を建設することを決める。同時に、当時リードを含めた同業各社が参入しながらも需要が伸びていなかったダイヤモンドワイヤの生産を加速させた。これは、復興はもちろん社員のための会社の存続と発展を見据えてかじを切るという意志表明でもあった。

ダイヤモンドワイヤは簡単にいえばピアノ線にダイヤモンドの粒を固着させた糸のこの刃。それまで2台しか無かった製造設備を20台、2011年に開設したR1工場に導入したのだ。

需要急増による工場フル稼働、そして戦略的撤退と路線変更

その大きな決断をした先代が2012年に逝去。鍋谷氏が跡を継いだ後、2014年ごろから太陽光パネル向けシリコンインゴット(精錬したシリコンの塊)の切断用にダイヤモンドワイヤの需要が急増し、生産が追い付かなくなる。居抜きで急きょ、新地町で新地駒ケ嶺R2工場を立ち上げ、さらに2015年に同じく新地町に新地南R3工場(現福島工場)を立ち上げ、3工場合わせて月20万kmを生産(ダイヤモンドワイヤの生産量は長さで表す)。

新地町の福島工場 新地町の福島工場

折からの環境意識の高まりに福島第一原子力発電所の事故も影響し、化石エネルギーから再生可能エネルギーへ転換する機運が急速に高まっており、太陽光パネルの生産は急速に拡大。ダイヤモンドワイヤの需要は拡大の一途で、リードは24時間365日体制でも供給が追い付かない状況になる。

生産すればするだけ売れるという状況は一見理想的だが、薄利多売の世界に突入していくことも意味する。中国の工場との価格競争が進み、それに対応するうちに労働環境の悪化を招いた。

「これ以上やるとドツボにはまる」。そう判断した鍋谷氏は「自社にしか無い技術で品質の良いものを作ることを会社の価値にしていこう」と方向転換を図る。「何千人という人を雇って、劣悪な環境下で24時間稼働させるような会社運営はしたくないと思いました」。

当時の顧客に迷惑をかけないことを念頭に、太陽光向けの製品に関し、現地材料で生産できる仕様を中国企業に提供して生産体制を担保した上で、新地駒ケ嶺R2工場を閉鎖し戦略的に撤退。現在、中国の工場では月1,000万kmが生産されており、月20万kmの生産ですら労働環境の悪化があったことを考えれば、当時の判断は正しかったと鍋谷氏は確信している。

「詳細は機密」だが、現在は日本が競争力の高い分野向けに精度の高いダイヤモンドワイヤを提供している。「超量産技術では中国に勝てませんが、品質では絶対に負けないダイヤモンドワイヤを作れる自信があります。その技術を日本の企業に提供して、自国の産業発展に生かしていきたい」と力を込める。

工場の様子

失敗経て社内環境整備に注力。「学び直し」テーマに教育も

厳しい電気産業界をサバイブしてきたリードの社訓は「さて、そのつぎは」。今、鍋谷氏が最重要視するのが人材育成だ。超過需要に対応しようと福島で2工場を稼働していたころ、労働環境の悪化に伴い離職が増え人材が育たなかったことを反省材料に、労働環境の改善、人材育成、社員の関係性強化に力を入れている。

「若い人を中心に集めたので反発も多かったですし、こちらも一人ひとりと向き合って組織の一員として受け入れる準備もできていない中で、ただノルマをこなすことが目的になってしまっていました」と鍋谷氏は正直に明かす。

「もちろん従業員に利益を還元することはずっとやってきましたが、お金ではないんですよね。いい職場かどうかは最終的に人間関係に尽きます」。上司と部下、同僚との関係改善のために才能診断の手法を用いて個々の強みを見える化し、その強みを掛け合わせていかに業務に生かしていくかといった勉強会を行っている。3年以上継続してきたことで、その効果が表れてきているという。

「本音で語れる環境が醸成されてきています。いろんなことが好転し始めて、『カイゼン』やQCサークル(小集団改善活動)が活発になって仕事の中身がどんどん濃くなっていく。そうすると、ただノルマをこなすのではなく、働くのって面白いんだなと思ってくれる従業員も増えてきました」。

社員が希望すれば大学や大学院への通学、資格取得や英会話のようなスキル習得への支援を惜しまない。それは鍋谷氏自身の経験を踏まえてのことだ。「同じことをただ続けるのではなく、学んでいかないと能力も上がらないし給料も上がらない。私自身も『学び直し』を自分自身に課して、社長になった後でも精力的に学び続け自信を付けてきました」。

社員の成長は顧客にも良い影響を及ぼす。最終的にはそれが経営の本質だとも語る。「顧客満足(CS)と従業員満足(ES)が同レベルであって、その両輪がうまく回ることがわれわれの経営者満足(MS)につながります」。

創業50周年に向け体制強化。地域と共に100年企業へ

地域貢献にも積極的だ。「世界で活躍している製品が地元で作られていることを知ってもらおう」と行っている工場見学会。工業用ダイヤモンドの粒を小瓶に入れ、キーホルダーとして配布すると子どもたちは喜び、「お母さんに渡そう」などかわいらしい反応もある。毎年度決算後には、工場のある新地町、宮城県亘理町、新潟県胎内市に教育振興金として現金100万円を寄付している。

桜の植樹も行っている。社内で誰かに何かを手伝ってもらったり助けてもらったりした際、桜の花びらをあしらった「サンキューカード」に感謝の言葉を書き入れて感謝の気持ちを伝え、枯れ木が描かれた紙に貼り付けていく。カードがいっぱいに貼られて枯れ木が満開になったら桜の木を1本、町内に植樹。社員の関係性強化と地域貢献を同時に実現するこの素晴らしい取り組みは、社員の発案によるもの。

左から「サンキューカード」、「健康宣言」、そしてCSR活動や英会話、女性/子育て支援など「社内/外活動」の取り組みを紹介する社内掲示 左から「サンキューカード」、「健康宣言」、そしてCSR活動や英会話、女性/子育て支援など「社内/外活動」の取り組みを紹介する社内掲示
社員同士、感謝の気持ちを伝える「サンキューカード」。“満開”になったら新地町内に1本桜を植樹している 社員同士、感謝の気持ちを伝える「サンキューカード」。“満開”になったら新地町内に1本桜を植樹している

「地域の支援がなければ企業は成り立ちません。地に足を着けてこそ事業ができる。どれも大きなことではないですが、地域への感謝を形にしています」と鍋谷氏。

地域の支えもあって2023年に創業50周年を迎える。2022年夏現在、仙台工場を新設中。東日本大震災後も地震や豪雨災害を経験し、3工場それぞれで同じ製品が作れる体制を整えるため、基幹システムの刷新など大規模な投資を行っている。DXを活用して品質保証から性能保証へと、顧客の信頼度を高める取り組みも行う。

その中で自動化やロボット化も進めるが、人の手が介在する部分でこそ差別化が生まれる。「100年企業」の基盤をつくる上で、人材育成の重要性は増していくだろう。少子化や人口流出が進む中、地元での人材確保には苦労しているが、いずれダイヤモンドの入ったキーホルダーを手にしたかつての子どもたちがリードの門をたたき、「そのつぎ」をつくるだろう。

課題

・東日本大震災による被害は軽微だったが、会社が存続できない事態になっていたら従業員が生活の基盤を失っていた。

・ダイヤモンドワイヤの需要急拡大で供給が追い付かず、労働環境の悪化を招く。

・超過需要に対応しようと稼働した結果、離職が増え人材が育たなかった。

解決策

・会社を発展させることを決意し、ダイヤモンドワイヤの生産を加速。

・品質の良いものを作ることを価値にしようと方向転換を図り、生産体制を担保した上で戦略的に撤退。

・労働環境の改善、人材育成、社員の関係性強化に力を入れる。

効果

・太陽光パネル向けシリコンインゴットの切断用に需要急増。

・日本が競争力の高い分野向けに精度の高いダイヤモンドワイヤを提供し、自国の産業発展に寄与。

・社員が本音で語れる環境が醸成され、「カイゼン」やQCサークルが活発化。

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