仙台ターミナルビル株式会社 JRフルーツパーク仙台あらはま

仙台ターミナルビル株式会社 JRフルーツパーク仙台あらはま

【宮城県仙台市】

観光農園というビジネスモデルで
復興から地域貢献・農業振興へと前進

企業情報

  • 企業名 仙台ターミナルビル株式会社 JRフルーツパーク仙台あらはま
  • ヨミガナ センダイターミナルビルカブシキガイシャ ジェイアールフルーツパークセンダイアラハマ
  • 業種 農業/食料品製造業/宿泊業/その他の事業サービス業
  • 代表者 松﨑哲士郎氏[代表取締役]
  • 所在地 宮城県仙台市若林区荒浜新2-17-5
  • TEL 022-390-0770
  • WEB https://stbl-fruit-farm.jp/arahama/
  • 創業年 1976年
  • 資本金 18億円
  • 従業員数 556人
  • 売上高 非公開

企業概要

1978年に仙台駅に開業したショッピングモール「S-PAL」の運営会社として設立された、東日本旅客鉄道株式会社の連結子会社。2021年に、被災した仙台市若林区荒浜地区の復興開発の一環として、観光農園「JRフルーツパーク仙台あらはま」をオープン。約11haの広さを誇る農園では、イチゴやブドウ、リンゴなど8品目156品種を栽培。収穫されるフルーツは首都圏へも出荷され、海外輸出も目指している。

農業事業は地域の未来にコミットするための具体案

東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の連結子会社として、宮城県、山形県、福島県の南東北3県でショッピングセンター事業、ホテル事業を両輪に展開している仙台ターミナルビル株式会社。JR東日本グループ全体が新たな事業の一つに第1次産業を掲げる中にあり、東日本大震災以降はそのトップランナーとしてビジネスモデルを確立してきている。

仙台ターミナルビルは2015年2月に仙台市農業園芸センター再整備事業に応募、6月に採択され、2016年4月より日比谷花壇グループと仙台市との3者の共同事業体として運営を開始。2017年にはせんだい農業園芸センターと改称され、今では「みどりの杜(もり)」の愛称で仙台市民にとどまらず、多くの人々に親しまれている。

農業・園芸の試験、研究および指導による農業振興の場となっている「せんだい農業園芸センター みどりの杜 観光果樹園」 農業・園芸の試験、研究および指導による農業振興の場となっている
「せんだい農業園芸センター みどりの杜 観光果樹園」

さらに2017年12月、仙台市集団移転跡地利活用事業の公募に申請し、2018年3月に採択される。仙台市の沿岸部、若林区荒浜地区約11haの整備を進め、2021年3月に「JRフルーツパーク仙台あらはま」を開園させた。「JRフルーツパーク仙台あらはま」は、1年間を通して季節の果物や野菜を生産しているだけでなく、来園者が収穫できるという体験型の観光農園である。

JRフルーツパーク仙台あらはま。約11haのうち約8haが果樹園 JRフルーツパーク仙台あらはま。約11haのうち約8haが果樹園

仙台ターミナルビルはなぜ、これほどまでに農業事業に積極的なのか。その理由について代表取締役社長の松﨑哲士郎氏は「東日本大震災からの復興の一助になりたい、鉄道会社としてより地域と連携したいという思いがわれわれにはあります」と前置きした上で、こう続ける。

仙台ターミナルビル株式会社 代表取締役社長 松﨑哲士郎氏 仙台ターミナルビル株式会社 代表取締役社長 松﨑哲士郎氏

「JR東日本グループ内に『農業を新たな事業分野に』という動きがある中で、私たちはJR仙台駅などに入っているショッピングセンター『S-PAL』で食品を販売していますし、ホテル事業でレストランも運営しています。そうした意味でも農業というのは非常に親和性が高いのです。元々地元のものを積極的に使ってきましたし、農業に興味がある社員が比較的多いという背景もありました。農業事業は地域の未来にコミットしたいというわれわれの気持ちを具体化したものでもあります」。

農業経験と地域連携で復興を目指す

2012年にJR東日本グループが発表した「グループ経営構想Ⅴ~限りなき前進~」は地方創生・活性化が大きな目的となっており、その具体的施策として、以前から大規模体験型観光農園の計画を構想していたという仙台ターミナルビル。その構想背景として、まず宮城県は隣県の福島県や山形県と比較して果樹園が少ないこと。さらに仙台市内には大規模な観光農園が無いことに着目した。

そこで応募したのが仙台市集団移転跡地利活用事業だ。荒浜地区の広大な土地は大規模体験型観光農園に適しており、被災地での新たな魅力を創出できる。加えて、せんだい農業園芸センターでの経験も大きかったという。

「応募する時点で、われわれには3年弱の農園運営経験がありました。既に仙台市にもその取り組みを認めてもらえていたのは大きいです。ただ、荒浜地区は津波の被害が大きく、条例で暮らすことがかなわなくなった土地ですから、どのような提案をすべきか悩みました」。

強く訴えたのは、地域の農家をはじめ復興事業に携わっている関係者との連携を模索し、さまざまな立場の人々をつなぐ橋渡し役をやるという姿勢だった。「いろんなコラボレーションが生まれるように、私たちがまとめ役として汗をかきますと伝えました。JR東日本本体が応援してくれているのも後押しとなりました」。

採択された段階では土地整備が進まず、採択されてから1年程度は積極的な整備に移れなかったが、その間にさまざまな調査を行ったところ、「⼟壌」「水はけ」「灌水」「風」の問題が浮かび上がった。

土地整備途中の「JRフルーツパーク仙台あらはま」 土地整備途中の「JRフルーツパーク仙台あらはま」

「借り受けた土地は基本的に砂質で水持ち、肥料持ちが悪い。宅地跡ということもあって、場所によっては排水にも問題がありました。果樹を栽培するのに大きな改良が必要だったのです。その改良作業は今も続いています」。開園までの間に、有機物を土壌に入れ、園芸培土も利用し、水はけを良くするために暗渠(あんきょ)の設置なども行った。

風については、「防風林が無く、通り放題」という状況。これに対する一つの解決策が「防風ネットの設置」「ジョイント栽培」だった。主枝の先端部を隣の木へつなぎ直線的な樹木群を作る技術で、枝の高さを低く設定できるので、栽培効率が上げられる。

ジョイント栽培を取り入れているリンゴ園 ジョイント栽培を取り入れているリンゴ園

「ジョイント栽培によって摘み取りがしやすくなりました。この栽培法は風にも強く、ナシ、リンゴ、イチジクに採用しています」。

こうした取り組みが実を結び、2021年度の収穫量はイチゴ、ブルーベリー、イチジク、ブドウ、ナシ、リンゴ、キウイ、スグリ類の8品目74品種で18.2tと想定を上回った。この結果に松﨑氏は相好を崩す。

「開園時の記者会見で、初めはイチゴ以外ありませんと申し上げたんですけど、1年目からかなりの品目が収穫できました。2022年度の収穫量は前年比160%の29.2tを当初計画としましたが、これも上回りそうです。ここまで順調にきていると思います」。

想定超す客数。さまざまな工夫でさらなる魅力アップを図る

コロナ禍での開園となったJRフルーツパーク仙台あらはまだが、2021年度のレジ客数は13万人ほどと、収穫量と同じく想定を上回った。2022年度のレジ客数は15万人程度を想定するが、これもクリアできる見込みだ。

好調の理由の一つは、カフェ・レストランとマルシェの人気にある。カフェ・レストランでは収穫したフルーツをふんだんに利用した料理やデザート、ドリンクが楽しめ、マルシェでは園内で取れた作物や、販売契約を結ぶ42の地元農家の農作物が購入できる。収穫体験だけにとどまらない施設全体の魅力が客を呼び込んでいるが、さらに客数を増やすべく、さまざまな取り組みも次々と実行している。

「メイン客層であるファミリー層にとって、より魅力的な施設になるように取り組んでいます。例えば、子どもが読んでも分かる文章で園の紹介をした総合案内・品種説明看板や、小さな子どもが安心して遊べる遊具やベンチを園内に設置しています。ほかにも、フルーツパーク内で周遊しながらクイズを楽しめるサインを置いたり、フォトスポットを設けたりといったことで、施設の魅力を高めています」。

小さな子どものために設置した遊具やベンチ 小さな子どものために設置した遊具やベンチ

加えて、知名度アップのために他社とのコラボレーションにも盛んに取り組んでいる。

「飲料メーカーと開発した梨スカッシュや、飲食会社と連携したブドウ使用のクラフトビールなど、弊社で栽培した果物を使ったさまざまなコラボレーションが動き出しています。他社と組んで加工品を販売することで、全国にJRフルーツパーク仙台あらはまの存在を伝えていきたいですね」。

これらのコラボレーションは知名度アップだけでなく、生産したフルーツを最大限活用するすべでもある。皮が柔らかすぎる、傷が付きやすいなどの理由で、A級品としてそのまま提供するのに向かない作物の利用法としても、加工品製造の意義は大きい。さらに「加⼯品であれば海外展開も⾒えてくる」と松﨑氏は展望を話す。

観光農園というビジネスモデルの拡大を目指す

仙台ターミナルビルは同事業開業時に仙台市と30年間の定期借地契約を結んでいる。開業から7年で黒字化、20年で投資回収するという計画を立てているが、「その実現のために、生産量を右肩上がりに高めていく」と松﨑氏。

現在の収穫量、客数には一定の手応えを得つつも、楽観視はしていない。「急速な気候変動が起きていますし、実際、2022年の夏は6月の暑さでブドウに被害が出ました。地震も大きなものが開園してから2回あり、幸いなことに大きな被害はありませんでしたが、今後はどうか分かりません。そうしたリスクも折り込んで、それでもしっかり運営できる力を付けていかなければならないと胸に強く刻んでいます」。

その上で、培ったノウハウを生かし、観光農園というビジネスモデルを他の地域でも展開したいと考えている。既に次のプロジェクトの検討を進めているという。松﨑氏は「できることは全部やりたい」と力を込めた。

JRフルーツパーク仙台あらはまは、2022年度より年間を通して果物狩りが可能になった。今後は東北圏全体へのプロモーションを主軸としつつも、首都圏からの観光ツアーなどの誘致を拡大していく。沿岸部の事業者との連携もさらに深め、荒浜地区の観光と農業を通じてさらなる地域活性化を図る。

課題

・東日本大震災からの復興の一助となり、鉄道会社としてより地域と連携したい。

・荒浜地区は土地が砂質で水持ち、肥料持ちが悪く、宅地跡ということもあり、場所によっては排水の問題があった。果樹を栽培するのに土壌改良が必要。防風林が無く風による影響も想定する必要があった。

・8品目で150を超える品種のフルーツを生産しているが、皮が柔らかすぎるなどの理由で、A級品として提供するのに向かない生産物がある。しかし加工施設を自前で用意し、一から取り組むのはリスクが大きい。

解決策

・仙台市集団移転跡地利活用事業に応募し、被災した広大な土地に大規模観光農園の開業を計画。

・開園までに、有機物を土壌に入れ、園芸培土も利用。水はけを良くするための暗渠の設置などを行った。風の問題に対しては、「防風ネットの設置」「栽培管理を簡易化・省⼒化できるジョイント栽培」を採用することで対策。

・食品加工業を営む他社と積極的にコラボレーションする道を模索。飲料メーカーや飲食会社などと実際に協業が始まり、続々とJRフルーツパーク仙台あらはまで生産したフルーツを使った加工品が誕生。

効果

・開業初年度の収穫量は18.2t。レジ客数は13万人ほどと想定を上回った。

・土壌調査を行ったことで、どの農作物であれば育てやすいかなどをしっかりと見極めることができ、実際に収穫量は想定を上回っている。「防風ネットの設置」「ジョイント栽培」などにより、風による影響も軽減されている。

・収穫数、客数が増加。さらに加工品の販売が始まることで、より広くJRフルーツパーク仙台あらはまの認知度アップにつながる。今後は加工品の海外展開も視野に入れている。

福島宮城岩手の最新事例30