アンデックス株式会社

アンデックス株式会社

【宮城県仙台市】

IT技術を駆使して水産業を効率化
被災地の漁業復興の一助となる

企業情報

  • 企業名 アンデックス 株式会社
  • ヨミガナ アンデックス カブシキガイシャ
  • 業種 情報サービス業
  • 代表者 三嶋順氏[代表取締役]
  • 所在地 宮城県仙台市青葉区大町1-3-2 仙台MDビル5階
  • TEL 022-397-7988
  • WEB https://and-ex.co.jp
  • 創業年 2008年
  • 資本金 600万円
  • 従業員数 52人
  • 売上高 非公開

企業概要

iPhone/Androidアプリの制作をはじめ、Webサイト制作、システム開発、各種自社サービス、派遣事業など、幅広く事業を手掛ける宮城県仙台市のIT企業。特に力を入れている「水産×IT」事業では、漁業の安定化を目指して、定置網に水中ウェブカメラを設置、太陽光パネル・通信装置・小型の無線装置を組み合わせたシステムを構築し、水産業の活性化を目指している。

東日本大震災ですべての事業が停止。事態収束までの間に新企画を打ち出し困難を乗り切る

2008年のリーマン・ショックにより事業計画が崩れながらも、その年の11月に宮城県仙台市で創業したアンデックス株式会社。2009年から始めた東北工業大学との共同研究や、2010年に立ち上げたスマートフォンなどを活用した「観光及び交流」に関する事業といったさまざまな新規プロジェクトを進め、ようやく会社の経営が軌道に乗ったかと思われた矢先に襲いかかってきたのが、東日本大震災だった。

「震災でプロジェクトはすべて止まりました。社員が皆無事だったのがせめてもの救いで、事態がある程度収まるまでは出社しなくていいと社員たちには指示を出しました」と語る、代表取締役の三嶋順氏。

代表取締役 三嶋順氏 代表取締役 三嶋順氏

事態があらかた収束するまでの間、三嶋氏は数人の有志の社員たちと共に事務所を片付けたり、会社の行く末に思いを巡らせたりしていた。そして、「どうせ仕事はすぐ戻ってくるわけじゃない。時間はたっぷりあるのだから、今のうちにさまざまな企画を立ち上げよう」という境地に至り、それが後に形になっていくことになる。

その企画の一つが、東北工業大学クリエイティブデザイン学科の堀江政広研究室と共同で開発した、観光と街周遊を促す観光支援アプリ「マプコミ」だ。「マプコミ」はGoogleマップとGPSを利用したマップアプリで、飲食店や観光地などの紹介記事をマップ上に表示できる。被災経験を踏まえ、観光情報だけでなく避難所情報を含む地域の防災情報をカテゴリーごとに閲覧できるシステムを取り入れているのが特徴だ。2012年、特定非営利活動法人ITS Japanが主催する「ITS防災・減災情報の利用に関する検討会」の中で行われた、「人と物の移動に役立つITS防災アプリアワード」で見事、最優秀作品としてゴールド賞を受賞した。この受賞によりアンデックスは、IT業界内でぐんと知名度を高めた。

また、創業とほぼ時を同じくして、三嶋氏はみやぎモバイルビジネス研究会という団体を立ち上げていた。スマートフォンを使って何か面白いことをしようと、スマホについて学んだりアイデアを話し合ったりする研究会だ。活動の一つとして、「宮城のIT業界はへこたれていない」とアピールするため、東日本大震災から約3カ月後の2011年6月19日に「ICT復興支援国際会議」を仙台市青葉区の仙台国際センターで開催。

首都圏のIT企業に来てもらい、宮城県のIT企業とビジネスマッチングをする場としたことで、実際にいくつかコラボレーションが生まれたという。アンデックスもこの会議が縁で、ITでさまざまな業界のビジネスサポートを行うゼブラ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社と協業。中小食品加工業者向け物流管理システム「Smatra 〜SMART-Trace〜」の開発につながっている。

水産業をITでサポート。「勘と経験」の見える化を図る

さらに東日本大震災後は、傷ついた被災地が立ち直る一助になりたいという思いから、アンデックスはさまざまな分野で新たな提案を行っている。

代表的な取り組みとして積極的に推進を図ったのが、漁業へのIT活用だ。具体的には宮城のカキとノリの養殖に焦点を当て、漁場をリアルタイムに監視する海洋環境可視化システムを提案。公立はこだて未来大学の和田雅昭教授の協力を得て、2014年より漁にIT技術を組み合わせる取り組みを始める。そして2018年、通信網を提供する株式会社NTTドコモと協業することで実際にパッケージとして提示した。

提案内容は、海上に設置したブイから測定データをクラウドに送信するという仕組み。東日本大震災以降、今まで取れていた魚が取れなくなったり、一方で取れなかった魚が急に取れるようになったりなど、海の変化が激しい状況が続いていた。漁師たちにとって、海の変化の原因を知るには、長年の勘と経験が記された過去の日誌しか情報源がなかったという。宮城県水産技術総合センターが公開している水温や栄養塩などのデータはあったものの、タイムラグがある、自分たちの漁場データではないなどの理由で分析が非常に困難だったのだ。

そこで、アンデックスは漁場から得られるセンサー情報を閲覧できるアプリ「ウミミル」とクラウドサーバーを提供。このサービスの導入により、水温や出漁状況など蓄積したデータを活用して「勘と経験」がどの程度正しかったのかの検証もでき、無駄がより省けるようになった。漁場の状況を遠隔で知ることができるので、漁場を見ること以外に時間を使えるようになり、漁船の燃料も低減。作業の高効率化、安定化を図ることができたのだ。その結果、現在このシステムのユーザーは被災地にとどまらず全国の漁業者にも広まっている。

センサー情報を閲覧できるアプリ「ウミミル」 センサー情報を閲覧できるアプリ「ウミミル」
クラウドに測定データを送るため海上に設置しているブイ クラウドに測定データを送るため海上に設置しているブイ

「当初、カキの養殖をされている方々にプレゼンテーションした時はあまり歓迎されませんでした。皆さんにはそれぞれ確立したやり方があって、こちらには実績もなかったわけですから。でも、若い人が目を向けてくれたんです。そこが突破口になりました」。

課題としては初期投資が決して安価ではないこと、月ごとに使用料が発生するなどの現状から、個人の漁師が利用するケースは少ないが、漁協単位など一定程度人数の集まった団体での活用が進んでいる。「現状のターゲットは、漁協さん、水産会社さん、自治体。今後さらに多くの漁場で利用されていくはずです」と三嶋氏も手応えをつかんでいる。

さらに、今後は同じスキームを使って、陸上養殖の効率化も図っていきたい考えだ。

「NTTドコモとも話し合っていますが、海上養殖はどうしても気象など環境に左右される部分が多いんです。より安定的に生産するのであれば陸上養殖に目を向けざるを得ません。海上養殖と共に陸上養殖にITを活用する提案をどんどん進めていきます」。

とことん東北発・宮城発にこだわり、地域社会を良くしたい

アンデックスには被災地のIT企業ならではの事業が実に多い。2017年12月に総務省から市区町村単位で地域事業者が提供する無線電気通信システム、いわゆる「地域BWA」無線免許の付与を受けた。これを活用し、防災に役立つ事業展開を計画している。

地域BWA免許取得のハードルは高い。自治体と協定書等を結ばなければ総務省に申請できない上、一自治体一事業者という条件があり、免許取得者は公共の福祉に関するサービスなどを行うことが義務付けられている。現在、約500局の基地局(携帯電話やドローンなど移動体通信サービスと通信するために、陸上に開設する移動しない無線局)を整備中だ。

2019年には仙台国際センターで行われた第2回世界防災フォーラムに合わせて、仙台市若林区の荒浜海岸で、地域BWAを利用して防災ドローンの実証実験を実施。

ドローンによる津波避難広報の有効性を確認する実証実験 ドローンによる津波避難広報の有効性を確認する実証実験
実証実験時の防災ドローン 実証実験時の防災ドローン

「開発している防災ドローンは、Jアラート(全国瞬時警報システム)が鳴ったら、自動的にドローンが飛んでいって人がいたら『逃げなさい』とアナウンスをするものなんです。このドローンの実証実験を行って、国や自治体等から大変高い評価を頂きました。今は実装に向けた取り組みを行っているところです」。

地域BWAを活用した防災の取り組みとしてはさらに、避難所Wi-Fi設置の構想がある。

「2021年2月に避難所Wi-Fi関連の実証実験も行いました。災害時に大手キャリアさんは通信量に制限をかけます。一気に使用量が増えるからですね。でも、われわれの展開する通信網ではそういうことはしません。今までだったら防災無線を通して本部とやりとりするというコミュニケーション手段が用いられていましたが、それだとリアルタイムで情報が分からないし、データも送れない。避難所Wi-Fiを利用すればやりとりが非常にスムーズになります」。

若手の蔵人にIoT活用を進言。昼夜問わずの働き方に変化が起きた

そのほかの特徴的な取り組みとしては、2020年より宮城県の蔵王酒造株式会社と行っている、日本酒製造にIoTを活用する実証実験。アンデックスが取引する金融機関の企業見学会での出会いがきっかけだ。

「蔵王酒造は専務も杜氏(とうじ)も30代半ばと若く、子育て世代ということで、昼夜を問わずお酒の見張りをするこれまでのような働き方は変えなければという意識をお持ちでした。そこで私共が、IoTを酒造りに活用されてはどうかと提案したところ、一緒にやってみましょうとプロジェクトが立ち上がりました」。

日本酒造りで何より大事とされるのが、醸造中の温度管理。現在も多くの酒蔵では人の手で行っている。これまではいつでも状態を確認できるよう、酒蔵の近くで寝泊まりして対応してきたのだ。この手間を改善するべく、まずは各種センサーを用い、数値化した。酒造庫、酒造タンク、ろ過室などの温度、気圧、照度、湿度を測り、どのような条件になれば、どのような変化が生まれるかというデータを集め、その対応も遠隔で行えるようにした。

専用装置を開発し、センサーを用いて酒蔵の温度や湿度を管理 専用装置を開発し、センサーを用いて酒蔵の温度や湿度を管理

「結果的にこの試みが日本酒造りの効率化と品質向上につながることが分かりました。技術伝承の問題もある程度、データを用いることで解決できることも見えました。作業の効率化によって働き方が変わって、休みもしっかり取れ、余裕を持って作業できるようになります。こういう取り組みは次の担い手づくりにもつながっていくのではないでしょうか。

ただ、このシステムでこれまでの作業を代替できるのは7、8割程度。残りの2、3割は杜氏の舌や鼻がどうしても必要です。つまり利き酒は人間が行わなければならない。杜氏さんの腕の見せどころはこれからも変わりません」。

プロジェクトは一定の成果をあげたが、システムは製品として完成したわけではなく、まだ開発途中だ。課題は価格にあると三嶋氏は話す。

「大体、どこの酒蔵でも造れる酒の量は決まっていて、売り上げは数億円ぐらいが主。そこに見合う、安価で導入しやすいシステムでなければ商売にならないと思っています。そこをクリアしたパッケージが完成したら、多くの酒蔵さんにご利用いただきたいですね」。

このように、三嶋氏が宮城県の企業と協業し、とことん東北発・宮城発にこだわるのは、何より地域社会を良くしたいという強い願望があるからだ。「お客さん、地域社会のベネフィットを追求します。そして、アンデックスの社員とその家族の『最大限幸福』を実現するために、これからも全力を尽くしていきます」。

課題

・東日本大震災によりすべてのプロジェクトがストップ。収入がゼロになる危機にひんする。社員の生活、会社を守るための一手が求められた。

・復興の一助となるべく開発した、漁場をリアルタイムに監視する海洋環境可視化システムは当初、漁師の理解が得られなかった。長年の「勘と経験」によって行う作業を決めており、それ以外のやり方に対し拒否感が見られた。導入費用が高額で個々の漁師が個人で利用するのはハードルが高い。

解決策

・プロジェクトが止まった事態を逆手に取り、企画、開発に時間、人的リソースを割けるという発想の下、アプリの企画、開発に乗り出す。

・ITリテラシーの高い若手の漁師と話をしたところ、反応が良く、そこから徐々に受け入れられるように。個人ではなく団体をターゲットに定め、漁協、水産会社、自治体が主な営業先になっている。

効果

・観光と街周遊を促す観光支援アプリ「マプコミ」が、2012年のITS防災アプリアワードで最優秀作品としてゴールド賞を受賞。アンデックスの名はより広く知られるようになった。

・「勘と経験」がどの程度正しかったのかの検証もでき、無駄がより省けるようになった。漁場の状況を遠隔で知ることができるので、漁場を見ること以外に時間を使えるようになり、漁船の燃料も低減できた。

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