農業法人 株式会社ソーシオ

農業法人 株式会社ソーシオ

【宮城県石巻市】

オリーブで地域を元気に
若者たちに継承できる産業の土台をつくる

企業情報

  • 企業名 農業法人 株式会社ソーシオ
  • ヨミガナ ノウギョウホウジン カブシキガイシャソーシオ
  • 業種 農業
  • 代表者 阿部栄三郎氏[代表取締役社長]
  • 所在地 宮城県石巻市井内字三番108−2
  • TEL 0225-98-6847
  • WEB https://socioagri.co.jp/
  • 創業年 2019年
  • 資本金 1,000万円
  • 従業員数 4人
  • 売上高 非公開

企業概要

東日本大震災の影響で人口減少や高齢化が進む被災地で、地域活性化のために若者が働きたいと感じる魅力ある新産業が必要だと考えた有志3人により、2019年設立。オリーブの栽培のほか、稲作、ドローン活用事業などを行う。2020年よりオリーブ茶の販売を開始。2024年よりオリーブオイルの出荷・販売を見込むほか、将来的にはオリーブ畑を活用した観光農園の設立を目指す。

地域活性化を目指し、若者に魅力のある新産業を模索

農業法人株式会社ソーシオの創設は2019年1月。宮城県石巻市で産業廃棄物収集運搬、および産業廃棄物処分を主事業とする株式会社サンクリーン工業会長だった日野準氏(2021年5月逝去)と、同社社員の上松健氏(現取締役総務部長)、日野氏と同業で旧知の仲だった阿部栄三郎氏(現代表取締役社長)の3人で立ち上げた。

志半ばで病魔に倒れた日野氏の遺志を継ぎ、阿部氏、上松氏は今、ソーシオ農園の経営を軌道に乗せようと懸命な努力を続けている。親会社となるサンクリーン工業の経営を担う日野氏の子息4人全員が、ソーシオ農園の役員に名を連ね、物心両面で支えている。

東日本大震災後、復興需要が被災地の経済を下支えしたが、復興が進むに連れ特需は終わりを迎える。日野氏は、地域活性化のためには、地元の若者が働きたいと感じる魅力ある新たな産業が必要だと考え、上松氏、阿部氏に思いを伝えた。3人で議論を重ねた結果、たどり着いたのが農業であり、オリーブの栽培だった。

代表取締役 阿部栄三郎氏 代表取締役 阿部栄三郎氏

「被災地は人口減少や高齢化が急速に進行し、農業の担い手不足は誰の目にも明らかです。自分たちの手で傷ついたこの地を元気にしたい、若者たちに継承できる産業を起こしたい、そういう発想から日野会長はオリーブ栽培への挑戦に思い至ります」と阿部氏は語る。「私もそのアイデアを聞いてすごく引かれました。宮城では目新しいし、健康志向の現代にも合っている。付加価値も高い。そして何より、若者も面白がってくれると思ったのです」。

オリーブの産地といえば、世界的にはイタリアやスペインが本場で、日本では温暖な気候で知られる瀬戸内海の香川県・小豆島が有名。それらの地域と比べると宮城県は冬場の気温が低く気候の面で心配がある。そこで上松氏は日野氏の命を受けて調査に乗り出す。その結果、石巻市が2014年からオリーブの実証栽培を行っており、実際にオリーブが育っていることを知る。その事実に上松氏は興奮を覚えた。

取締役総務部長 上松健氏 取締役総務部長 上松健氏

「石巻市での実証栽培の結果には本当に勇気づけられました。寒い石巻市でも育つんだなと分かって、がぜんやる気が出ました」。

2018年、3人は小豆島を訪れ、栽培のノウハウを教わる。オリーブは実を収穫するまで植えてから5年ほどかかることから、早期に製品化できるものとしてオリーブ茶というアドバイスも受け、石巻へと帰ってきた。

地域の協力で耕作面積拡大。オリーブ茶の生産に乗り出す

2019年1月にソーシオを設立し、事業を開始。主軸はオリーブ栽培だが、初年度からの売り上げ確保のため稲作事業にも着手した。

「日野会長は農家の出身で、耕作地を3.2ha所有していました。これをソーシオで担当させてもらうことになりました。JAいしのまきの仲介もあって、2022年現在の面積は14haまで広がっています。今、経営を支えてくれているのは稲作です」(阿部氏)。

一方で、オリーブを植える土地は課題となっていた。まずは日野氏が宮城県女川町指ケ浜地区に持っていた6.8haの土地に、ルッカ、ミッション、ネバディロブランコ、マンザニロの4品種計250本を植栽する。この土地は三陸復興国立公園の特別地域第2種に該当し、開発申請は1ha以下という条件がある。「木は伐採しましたが、根っこを取ると地形が変わるので駄目だと言われ、木を切った間にオリーブを植えました」と上松氏。

その後、同町御前浜地区の0.5haに実を育てオリーブオイルを搾る目的で200本、少し高台の0.3haにオリーブ茶にするための木を800本植えることができた。これは御前浜地区の行政区長、東海進氏との偶然の出会いで実現したという。

「たまたま御前浜で栽培用の水をくんでいたら、東海区長が話しかけてくれて、新産業としてオリーブの栽培を進めていることを話したんです。すると地域活性化につながる事業だと評価していただき、津波跡地を整備したまま活用していない土地を使って栽培したらどうかと提案してもらえました。地権者の皆さまには東海区長が説明してくださり、女川町にも掛け合っていただきました」(阿部氏)。

オリーブは潮風を受ける環境が好適地。潮風を受けると甘く育つといわれる オリーブは潮風を受ける環境が好適地。潮風を受けると甘く育つといわれる
萌芽力が強く、葉の数が多い「ネバディロブランコ」は茶の原料に向く 萌芽力が強く、葉の数が多い「ネバディロブランコ」は茶の原料に向く

さらに「資金面も問題でした」と上松氏。自治体の補助金等も調べたが、受給できそうなものは見つからなかった。

「東北銀行と日本政策金融公庫の協調融資を受けられなかったら、立ち行かなくなっていたかもしれません。宮城県でのオリーブ栽培はこれからのもので、さらにオリーブオイルの出荷は5年後となる。難しいと思いましたが、稲作やオリーブ茶など、オリーブオイル以外も組み込んだ事業計画を評価してもらえたと思います」(上松氏)。

こうして土地と資金、2つの問題をクリアすると、2021年春には新芽を収穫し、6月からオリーブ茶の販売を開始した。「おかげさまで売れ行きは好調。今後は生産数の増加が目標です」と阿部氏は話す。

オリーブ茶はさわやかな苦味のある味わい オリーブ茶はさわやかな苦味のある味わい

地元企業との積極的な連携で、オリーブを使った商品続々と

オリーブ茶は道の駅やインターネット通販で販売するほか、地域企業との連携にも使われている。石巻市内のステーキハウスは、オリーブ茶葉を粉状にして塩と混ぜ合わせた「オリーブ塩」を開発して店舗で提供するほか、小瓶でも販売。利用客に好評を博している。

さらに、石巻市内のカフェとのタイアップでは、オリーブ茶を練り込んだクッキーを商品化。他にもオリーブ茶で漬け込んだシカ肉料理に活用する。

ハーブの代わりにオリーブ茶を使用した鹿肉のミートパイ ハーブの代わりにオリーブ茶を使用した鹿肉のミートパイ

この挑戦の導き手となっているのが、石巻市の無料経営総合相談窓口「I-Biz」センター長・吉田真一氏だ。

I-Bizセンター長 吉田真一氏 I-Bizセンター長 吉田真一氏

「オリーブ茶を見たときに、地域の特産品として非常に可能性のある商品だと感じたんです。まずは販売先を安定して確保するために、業務用で商売にならないかと考えました。そこで私の活動範囲の中でいろいろ紹介して回った結果、いくつか飲食関係の企業が乗ってきてくれたんです」(吉田氏)。

こうした連携について、阿部氏は「地域内での広がりが重要」だと話す。

「自社だけのことを考えるのであれば、東京など高く売れるところに持っていくことも考えられます。でも、それでは地域が衰退して、結局自社も事業を継続できなくなってしまいます。地元で需要を生み出すことで、人の雇用も生まれてくる。地域の経済活動にうまく取り入れられるような仕組みづくりをしていって、地域全体で好循環を生んでいくことが必要なんです」。

そのためにも、ソーシオはさらなる展開を模索している。小豆島では、かまぼこにオリーブを練り込んだ「オリーブかまぼこ」や、養殖ハマチのエサにオリーブの絞りカスを混ぜた「オリーブハマチ」などの活用例があると聞き、「宮城でも試してみたい」と阿部氏。ただ、かまぼこ製造のラインを動かすにも、養殖魚の実験をするにもオリーブの量が必要。地域内でさらなる展開を行うためにも、収穫量を増やしていくことが目標となる。

とはいえ収穫量はすぐには増えない。オリーブ茶も完売状態となっている状況のため、販売量を増やすために改良を行っている最中だ。

「一般的なお茶だと年1回しか製造できず、また、製造を委託できる工場が無くなってしまったんです。いろいろ考えた末、焙煎茶にすれば、葉の摘み取りも年に複数回できるなと思い付きました。

オリーブ茶は抗酸化作用が強く、活性酸素などの有害物質を無害化するといわれるポリフェノールが多く含まれているなど、健康に良いことを打ち出しています。焙煎すればノンカフェインになり、この点もセールスポイントに加わると考えています」(阿部氏)。

製品化は2022年内を想定する。「焙煎するには、新芽よりもしっかりした育った葉の方が向いていて、秋に収穫したものでチャレンジしてみようと考えています」。焙煎を委託するのは椿茶で知られる岩手県大船渡市の企業で、将来は連携も視野に入れているという。

オリーブ畑を活用し観光農園へ。明るい未来のために汗をかく

次代を担う若者に魅力を感じてもらえる産業を、という創業の精神を実現すべく、ソーシオでは今後もさまざまな取り組みを展開していく。ドローンを使った農薬散布事業も、既に数件、依頼を受けて行った経験がある。また、オリーブ畑を活用し、観光農園に発展させたいというアイデアを持つ。

「葉や実の摘み取り体験ができ、オリーブオイル、オリーブ茶などオリーブを使った商品を買える場をつくる考えです。オリーブオイルが生産できるようになれば、レストランの運営なども視野に入ってきます。そういう具合にステップが踏めれば、若者はソーシオ、そして、ソーシオでの仕事に魅力を感じてくれるはずです」(阿部氏)。

日野氏の遺志を継ぎ、周囲の協力を得ながら、ソーシオは地域の明るい未来のために汗をかき続ける。

課題

・東日本大震災からの復興需要が一段落すると、地域経済に陰りが出始めた。若者の故郷離れが加速し、ますます人口が減り、高齢化率も高まる。若者に魅力ある新たな産業が求められる。

・オリーブの実がなるまでには、木を植えてから5年ほどの時間がかかり、その間オリーブオイルは生産できず、売り上げは見込めない。会社を存続するために、別の何かで売り上げを確保する必要がある。

解決策

・健康に良く、宮城では目新しいオリーブ栽培への挑戦を決める。小豆島に行き、栽培法を学び、オリーブ1,250本を植える。

・まずは稲作を主事業とし、年々作付面積を広げるなど事業の柱となっている。葉を利用したオリーブ茶を販売するほか、飲食に利用するコラボレーションも行う。

効果

・オリーブの実がなるまでの間に、葉を利用したオリーブ茶を製造し、ブランド化を進める。女川町でもオリーブ栽培が可能なことを実証し、ソーシオに注目が集まった。

・コラボ製品の成功事例が積み上がり、BtoB分野で引き合いが増えることが見込まれる。

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