丸友しまか有限会社

丸友しまか有限会社

【岩手県宮古市】

風評と台風の被害乗り越え、デザインに注力した新商品で活路開く「魚屋」の挑戦

企業情報

  • 企業名 丸友しまか有限会社
  • ヨミガナ マルトモシマカユウゲンガイシャ
  • 業種 飲食料品卸売業/食料品製造業
  • 代表者 島香友一氏[代表取締役]
  • 所在地 岩手県宮古市千徳第13地割32-15
  • TEL 0193-62-1332
  • WEB https://www.marutomo-shimaka.jp
  • 創業年 1997年
  • 資本金 300万円
  • 従業員数 11人
  • 売上高 9,700万円

企業概要

1984年に島香鮮魚店として創業し、1997年に丸友しまか有限会社を設立。消費者向け個配事業者への卸を中心とした事業が、東日本大震災の影響で売り上げが半減。以降は加工商品の製造、異業種とのコラボレーションなどに挑戦し、2020年に宮古湾で養殖が始まった「宮古トラウトサーモン」の加工品の詰め合わせは「IWATE FOOD&CRAFT AWARD2021」フード部門グランプリを受賞した。

風評被害により売り上げ半減も、信頼揺るがず取引先の9割を維持

三陸で水揚げされた魚介類を長年培った目利きで仕入れ、鮮魚または加工品として卸販売する丸友しまか有限会社。売り上げの8割を占める個人宅配(個配)事業者の先には、安全・安心な食を求める消費者がいる。だからこそ、福島第一原子力発電所の事故による風評の影響は大きかった。

お話を伺った代表取締役 島香友一氏 お話を伺った代表取締役 島香友一氏

東日本大震災による直接的な被害は軽微で、従業員も全員無事。もちろん、漁業者や養殖業者、港や施設に大きな被害があったことで供給はいったん止まったが、1カ月後には宮古市魚市場も再開し、仕入れが行えるようになった。

ところが、個配事業者に受け入れてもらえるのは、東日本大震災前に水揚げされた素材を使った商品のみだった。直前の決算期で1億5,000万円あった売り上げは半減。検査機関で放射能検査を行い、安全性をアピールし続け、10年かけて徐々に取扱量は回復してきたが、現在も売り上げは6、7割程度にとどまる。

消費者のアンケートでは、「不安のある産地の魚介類よりは、明らかに大丈夫だと思える地域のものを選ぶ」という回答が多い。「三陸のものを使っていないアイテムであれば扱う」という取引先もいまだにある。代表取締役社長の島香友一氏は「いまだに検体が欲しいと言われることもあり、何年たっても影響は残っています」と苦い表情を浮かべた。

それでも、取引先の9割とは現在も付き合いが続いている。「良いものだけを届けることには手を抜かず取り組んでいましたので」と言うように、丸友しまかに対する信頼は揺るがなかった。

しかし、またしても自然の猛威が襲いかかる。2016年8月30日、岩手県に上陸した台風10号により、宮古市は観測史上最大となる1時間当たり80mmの雨量を記録。川が氾濫し、1.7mに達する濁流が押し寄せて工場と社屋、自宅が浸水し、すべての機材と在庫、車両が被害を受けた。被害総額は5,000万円に上った。

台風による浸水被害から再建 コラボ商品の開発で可能性広げる

「東日本大震災で津波が来ていたら、こうなっていたのかなと思うような状況でした」と島香氏。「ああ、もう駄目かなと。せっかくここまで回復できたのに、またゼロに戻ってしまった」。東日本大震災の津波被害を受けなかった丸友しまかにとって、建物や設備に大きな被害を受ける初めての災害だった。落胆は大きく、その影響か島香氏は病にも冒されるが、「ここで投げ出すわけにはいかない。がんばるしかない」と自らを奮い立たせる。

「処理が必要な在庫も残っていたし、建物も機材も全部リセットできるからいいじゃないか」と気持ちを切り替えた。取引先など遠方から支援に駆け付けた人たちの力も借り、2週間ほどで復旧にこぎ着けた。洗浄し応急処置を施して使っていた設備は最終的にすべて入れ替えることになった。

困難の跡を感じさせない、2022年現在の社屋 困難の跡を感じさせない、2022年現在の社屋

台風から再建を果たした2016年は、ほかにも転機となる出来事があった。この年、岩手県宮古市は青森県黒石市との姉妹都市締結50周年を迎えていた。これをきっかけに、黒石市にある「レストラン御幸(みゆき)」とのコラボレーションにより、宮古産のカキと黒石産の根曲がり竹、青森県産のコメをレストラン御幸のたれとセットにしたコラボ商品「牡蠣(かき)お重」を4月に発売。現在はコメを除いた「牡蠣の炊き込みご飯の素(もと)」として販売している。

同年5月には宮古商業高校(現 宮古商工高校)の生徒と、市のふるさと納税の返礼品の開発に着手する。四季折々の旬の魚介を使った海鮮丼の具材セットという案が固まり、丸友しまかは具材を用意し、高校生はたれを開発。その最中に台風の被害があり頓挫しかけたが、「どうしても」という生徒たちの熱意に打たれ、10月には「旨海(うまみ)丼」として完成にこぎ着けた。

丸友しまかの手がけた商品の一部。パッケージはどれも洗練され、こだわりを感じる 丸友しまかの手がけた商品の一部。パッケージはどれも洗練され、こだわりを感じる

こうしたコラボレーションは一見、積極的に展開しているかのようだが、実際には「話があったら、やってみるかという感じですね」と島香氏。ただし、コラボを組むのであれば異業種の方が発展性があると感じているという。「ワインツーリズムに参加したことがきっかけで知り合った岩手県花巻市の酒屋さんで、うちの加工品をお酒と一緒に売ってもらったこともありました」。

異業種とのコラボにより、今まで常識だと思っていたことが他業種では通じないといったギャップを感じたり、物の捉え方が変わったりと、大いに刺激を受けたという。

自社開発商品を続々展開しBtoCに販路拡大。鍵はデザインにあり

コラボレーション以外にも、自社オリジナルの加工商品を続々と開発し、従来のBtoBからBtoCに販路を広げている。その一つが2017年に発売された「宮古 恵みのからめ味噌」。道の駅などに並ぶ海産物を使った土産は、冷凍されているものか要冷蔵の商品が多い。常温で持って帰れるものとして、島香氏の父親で現会長の尚氏が考案した。

当時、宮古市は漁港別水揚げでマダラが日本一だったことから、タラを使ったおかず味噌を完成させた。土産物としては1種類では弱いと、宮古で取れるタコとホタテもラインアップに加えて3個セットで売り出した。その結果、「平成29年度岩手県水産加工品コンクール」で農林水産大臣賞を受賞する。

2020年には、宮古湾で養殖が始まった「宮古トラウトサーモン」の加工品を開発した。「生の切り身」のほか、他の魚で製造している「味噌漬け」「粕漬け」、宮古水産物商業協同組合の事業でサクラマスを使って作った経験がある「へしこ」、からめ味噌の開発工程でノウハウを得た「燻製(くんせい)」の5種を展開。これまで積み上げてきた製造ノウハウの結晶ともいえる「宮古トラウトサーモンの詰め合わせ」は、「IWATE FOOD&CRAFT AWARD2021」フード部門グランプリを受賞する。

宮古トラウトサーモンの詰め合わせ」は、「IWATE FOOD&CRAFT AWARD2021」フード部門グランプリを受賞

オリジナル商品が評価を受けている理由について、「すべて会長のおかげ」と島香氏。「味付けが絶妙なんですよ。最終的には母親と相談して決めているので、うちの商品開発の要は父親と母親。追い付きたいけどなかなか追い付けません」と、その舌と感覚に脱帽する。

一方で、成功した商品と、思ったほど売り上げが伸びない商品を対比させて、ネーミングも含めたデザインの重要性を感じている。宮古水産高校と岩手県立大学「復興GIRLS&BOYS*」が共同で開発した「鯖しいたけ 煮付缶」は、元々完成していた商品を流通に乗せるために製造先を探し、結果的にデザインを一新して販売を引き受けることに。デザインを変える前後で商談会での反応が大きく違ったといい、その後ヒット商品となった。

厳選した三陸産の秋サバと、宮古産の肉厚な原木しいたけがマッチした醤油ベースの缶詰。元々学生たちが考案したかわいらしいデザインのラベルだったが、商談会での声などを受け、本職のデザイナーにリニューアルを依頼した" 元々学生たちが考案したかわいらしいデザインのラベルだったが、商談会での声などを受け、本職のデザイナーにリニューアルを依頼した

デザインによる効果を実感した島香氏は、勝負を懸けたい商品のロゴやパッケージを、「牡蠣お重」の開発時に知り合ったデザイナーに手がけてもらうことに。素材は自身が目利きする確実なもの、味付けは絶対的に信頼する両親によるもの。食べてもらえればその良さは分かってもらえるからこそ、いかに手に取ってもらうかが鍵だと考えた。

実際、「宮古 恵みのからめ味噌」は岩手県水産加工品コンクールの取材に訪れた地元テレビ局アナウンサーから「このパッケージどうしたんですか?すごくいいじゃないですか」と言われたり、初競りの業務開始式の後で工場を訪れた達増拓也県知事からデザインを褒められたりしたという。また、「鯖しいたけ 煮付缶」は、日本一サバ缶の品ぞろえが多いという茨城県行方市の農産物直売所「やさいの声」でトップ10に入る売り上げで、最初に送った1ロット96缶が、半年もたたず完売した。

消費動向の変化を察知。今後の課題は発信力の強化

今後の課題について、自社商品の販売を通して、売り方の工夫も必要だと感じるようになったという島香氏。消費者から寄せられるニーズを個配事業者に聞き、ただ届けてもらうだけでなく、おいしく食べるにはどう調理すればいいのか、一度開封したらどうすればいいかなど、かゆいところに手が届くようなサービスを求められていると知った。

「いくら良いものを作って、賞に選ばれたからといっても必ず売れるわけではなく、企業努力は絶対に必要です。食べ方を提案したり、見せ方を工夫したり、SNSなどネットも活用しながら、もっと発信していく必要がある。積極的に働きかけて、売り上げを伸ばすことを考えていかないといけません」。

一方で、島香氏は「ただ、どれだけ先まで魚が取れるのかという不安要素はあります」と吐露する。鮮魚の卸売り、自社商品の小売り、いずれもその素材が無ければ商売は成り立たない。漁獲量は減少の一途をたどっており、買い付けに行った港で水揚げされる魚にビニール袋やプラスチックが交じっている様子を見るたび、暗い気持ちになる。

厳しい現実を憂えても、その瞳から光が消えることは無い 厳しい現実を憂えても、その瞳から光が消えることは無い

「あと20年魚屋ができればいい方なのかな、なんて思ってしまいますよね。魚を取るのも人だし海を汚しているのも人。でも、手を入れられるのも人なんですから、長く続けていくためには何か工夫して変えていく必要がある。例えば環境に配慮した養殖に私たちも関わっていくとか。1社だけではどうすることもできませんが、真面目に考えていかないと」。

それでも、長く続く風評に立ち向かい、台風の被害から立ち上がり、コラボレーションや商品開発といった新しい取り組みに挑んできた島香氏だ。芯の強さと真摯(しんし)な姿勢で、難局を乗り越えていくことだろう。

課題

・福島第一原子力発電所の事故による風評で個配事業者との取引が減り、売り上げが半減。

・道の駅などに並ぶ海産物を使った土産は、冷凍されているものか要冷蔵の商品が多い。

解決策

・良いものだけを扱う姿勢は変えず、検査機関で放射能検査を行い、安全性をアピールした。

・常温で持って帰れるものとして、宮古の魚介類を使った「宮古 恵みのからめ味噌」を開発。

効果

・10年かけて徐々に取扱量が回復。取引先も9割を維持した。

・「平成29年度岩手県水産加工品コンクール」で農林水産大臣賞を受賞。

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