炎重工株式会社

炎重工株式会社

【岩手県滝沢市】

屋外に特化したロボット開発の先陣を切り、滝沢の地で炎立つ

企業情報

  • 企業名 炎重工株式会社
  • ヨミガナ ホムラジュウコウカブシキガイシャ
  • 業種 情報サービス業/その他の製造業ほか
  • 代表者 古澤洋将氏[代表取締役]
  • 所在地 岩手県滝沢市穴口57-9
  • TEL 019-618-3408
  • WEB https://www.hmrc.co.jp
  • 創業年 2016年
  • 資本金 12,910万円(資本準備金含む)
  • 従業員数 11人
  • 売上高 非公開

企業概要

株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループの起業家育成プログラムに採択され、2016年に会社を設立、2018年に事業スタート。屋外専用のロボット会社というコンセプトのもと、1年計画で動くプロジェクトの受託業務を中心に行い、遠隔モニタリング用水中カメラや産業用CPUボード、船舶ロボット「Marine Drone」などの自社製品開発につなげた。現在は生体群制御を活用した養殖ビジネスに取り組んでいる。

生き残る道を冷静に分析し、屋外特化のロボット会社立ち上げ

炎重工株式会社代表取締役の古澤洋将氏が、高校まで過ごした故郷・滝沢市に戻って会社を立ち上げたのは2016年。東日本大震災がきっかけだった。

お話を伺った古澤洋将代表取締役 お話を伺った古澤洋将代表取締役

高校時代からロボットコンテストに出場するなど、ロボット開発にのめり込んでいた古澤氏。筑波大学ではコミュニケーションロボットの研究を行い、修士課程在籍時よりCYBERDYNE株式会社でロボットスーツの開発に携わる。

2011年に東日本大震災が発生。その4日後に叔父の住む岩手県山田町を訪れ、津波にのまれ跡形も無くなった町の惨状を目にする。事業を通して地元に貢献しようと、故郷での起業を決めた。

思い立ったらすぐさま、ではなく、しっかりプロセスを踏んでいくのが、根っからの開発者である古澤氏らしさ。大企業を一度経験しようとシャープ株式会社関連の研究所に転職し、ロボット事業の立ち上げに携わる。その後、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループの起業家育成プログラムに採択され、2016年に炎重工を設立。2年間は育成プログラムで銀行やコンサルティング会社に在籍し、実質的な事業開始は2018年となる。

古澤氏は「会社をつくるだけなら簡単ですが継続は難しい。いろいろな人たちの知恵や経験を得ながら準備しました」と振り返る。

かつて「人口日本一の村」だった滝沢市での起業という点についても、冷静かつ客観的に分析。自分が得意なことで、かつ東京に対して地方が有利なものを見定め、屋外専用のロボット会社にするという基本方針を固める。

「東京にあるロボットの会社は、フィールドが工場の中や商業施設の中など、基本的にはほとんどが屋内。地方であれば1次産業の現場も多い屋外がいいだろうと結論付けました。そして、積雪が多く気象変化の激しい東北や北海道で事業を展開する方が有利だと考えました」と古澤氏。「それなら勝ち目がある、というよりも、生き残れるだろうという考察ですね」と苦笑する。

本社同様、滝沢市穴口に位置する滝沢研究所 本社同様、滝沢市穴口に位置する滝沢研究所

難しいものにこそ挑戦し、他社の追随を許さない技術力を蓄積

東北の地の利も生かしながら、屋外専用のロボット会社として立ち上がった炎重工。しかし、研究開発は時間がかかる上に、必ずしも成果につながるとは限らない。ここでも古澤氏は事業を継続するためのやり方を「設計」する。

「会社設立の書籍などには運転資金3カ月分のお金が最低限必要などと書いてありますが、それは健康を害すれば途端につぶれるということも意味しています。ですから私は、1年に一度売り上げがあれば継続できるモデルの方が安全だと考え、1年計画で動くようなプロジェクトの受託を中心に行いました」。

ロボットという枠をいったん取り払って、IoTやカメラなど屋外の開発案件は何でもやるというスタンスで実績を重ね、収入を確保。次第に県内の業界に社名が浸透し始め、「うちの会社を知っているお客さんが増えてきて、営業が楽になった」とほほ笑む。「技術的に難しいものこそ炎重工へ」という共通認識も顧客との間に生まれた。

「逆に簡単な仕事は他の会社に紹介することもあって。難しいことばかりやりますとか、他の会社が諦めた案件を持ってきてくださいとお伝えしたことが、だいぶ浸透したのかもしれません」。

自信を見せる古澤氏

当然、困難は伴う。しかし、だからこそ、経験と技術が会社のレベルを押し上げ、他社を凌駕(りょうが)する圧倒的な開発力として蓄積されていく。

「量産の部分は工場を持っている協力会社に外注していますが、それ以外は基本的に自社で、自分たちで解決するという方針。一般的なベンチャーの開発速度と比べると遅いというデメリットもありますが、暗黙知も含め、屋外の開発に関するノウハウは他社とは比べものにならない蓄積があるはずです」と自信を見せる。

時代の潮流の変化も炎重工にとって追い風になっている。2010年代以降のロボット開発はオープンソースで世界的なコミュニティーの中でシステムを成長させ、ユーザーを増やすのが主流だった。しかし2020年代に入った今、世界的な情勢不安により国内回帰、独自技術志向が高まっている。急な方向転換を迫られる会社が多い中、純国産の独自システム開発を貫いていた炎重工は大きなリードを手にしているといえよう。

水上のロボットにフォーカス。長距離の遠隔操作で一躍脚光

炎重工の事業を大きく分けると、研究開発、製品開発、受託開発の3つになる。研究開発はまだ論文も出ていない技術について研究し、技術確立を目指すステージ。その性質上つまびらかにできるものは少ないが、海中の生き物の動きを制御する「生体群制御」の開発を、水産会社の研究チームと共に取り組んでいる。

製品開発は、先行する製品が市場にある事業領域に対して、独自性を見いだした製品を投入するステージ。遠隔モニタリング用水中カメラや産業用CPUボード、船のロボットがこのカテゴリーに入る。遠隔モニタリング用水中カメラは生体群制御のために開発したものだが、顧客から欲しいと言われて商品化したところ、ニーズの掘り起こしにつながり注文が相次いでいるという。

河川湖沼の浮遊ゴミ回収、環境調査などに活用できるMarine Drone 河川湖沼の浮遊ゴミ回収、環境調査などに活用できるMarine Drone

自動運転船舶ロボット「Marine Drone」の開発も手がける。「空飛ぶドローンがあって、工場向けなど陸上のロボットが増えている一方で、船のロボットを手がけているところは少ない。オープンソースの世界では中国などで船に注目が集まっていたので、先行者利益を取るため船にフォーカスを当てました」。

その狙い通り、特に警備の用途で水上ドローンの需要は急速に高まっている。世界的な情勢不安も少なからず影響しているだろう。2021年には密漁対策用の水上ドローン開発に着手。岩手県宮古市協力のもと「令和3年度グローバル・スタートアップ・エコシステム強化事業費補助金(ものづくりスタートアップ・エコシステム構築事業)」に採択。「CEATEC AWARD 2021」でスタートアップ&ユニバーシティ部門準グランプリを受賞するなど、高い評価を得ている。

CEATEC AWARD 2021」でスタートアップ&ユニバーシティ部門準グランプリを受賞

「Japan Drone 2022」ではMarine Droneの遠隔操作のデモを行った。岩手県大船渡市に船を浮かべ、千葉県千葉市の幕張メッセから操作。「民間が使えるロボットシステムで、400kmを超える長距離で遠隔操作ができるものはあまり無いのでは」と古澤氏。それを裏付けるように、Marine Droneではなく遠隔操作のシステムを売ってほしいという引き合いもあったという。

他社にそれができないのは、「おそらく400kmの遠隔操作をするためのオープンソースが無いのでは。自分たちでネットワークやシステムを構築しないと動かないので、それが苦手なのかもしれません」と推察する。しかし、遠隔操作の基幹システムは古澤氏が大学院時代に研究していたコミュニケーションロボットと大きくは違わないという。ここでもまた、独自に積み重ねてきた研究、開発が時代の潮流により一躍脚光を浴びているのである。

食糧生産自動化に挑戦。地域と1次産業の未来に明かりを

マリンドローンであれば、日中、夜間、さらには天候に左右されず水上の作業が可能 Marine Droneであれば、日中、夜間、さらには天候に左右されず水上の作業が可能

2018年には、株式会社竹中工務店、東京海洋大学らから成るコンソーシアムの一員として、都市型自動運転船「海床(うみどこ)ロボット」の開発に参加。2021年12月には大阪城公園(大阪府大阪市)の東外堀で実証実験を行った。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)での実用化を目指している。

水上を含む屋外のロボット開発および制御技術の分野で着実に実績を重ねる一方で、炎重工は大きなミッションとして「食糧生産自動化への挑戦」を掲げる。労働力不足に直面している日本の1次産業をロボット技術開発で救いたい。生体群制御の技術を活用して、新しい養殖の形ができないかと構想を膨らませる。

「海はいわば巨大な水溶液で、太陽の光が当たって、プランクトンがたくさんいて、そこを魚が泳いで大きくなって増えていく。その自然増加分だけを水揚げすればいいのではないか、ということです」。

どこかの湾を丸ごと大きな養殖場として、水の中に入れた電極で魚の動きを制御し、水揚げまで自動化する。あまりにもスケールの大きな構想で「今の達成率を聞かれたら、限りなくゼロです」と古澤氏は笑うが、「ある範囲の水域にいる生物を制御して集めて、そのまま魚粉にするということなら可能性はあるかもしれません。それを陸上も含めた養殖に活用すればビジネス化できるのでは」と、いかに現実に引き寄せるかのロジックを組み立てる。

「炎重工」という珍しい社名の由来は、岩手・東北を舞台に奥州藤原氏の興亡を描いた歴史小説であり、大河ドラマにもなった「炎(ほむら)立つ」。時の朝廷を脅かすほどの栄華を築いた奥州藤原氏のように、高い技術力とぶれない姿勢、冷静な思考で時流を見極めながら滝沢の地で発展を遂げ、地域の、1次産業の未来を明るく照らす。

課題

・大学院時代からベンチャーに在籍し、大企業での経験や起業の知識が不足していた。

・地方での起業は東京と比べて不利な面もある。会社を継続させるために定期的な収入を得る必要がある。

・空飛ぶドローン、工場向けなどの陸上ロボットの分野は先行する競合他社が多い。

解決策

・起業する前に一度大企業に入社。起業家育成プログラムに応募し、会社の本格稼働まで2年間経験を積む。

・屋外専用のロボット会社にするという基本方針を固める。その上で、1年単位の屋外の開発案件を受託。

・オープンソースの動向から船にニーズがあると察知し、先行者利益を取るため船にフォーカスを当てる。

効果

・大企業によるロボット開発の現場を経験。起業から事業継続、発展に向けたノウハウを得る。

・受託開発で収入を確保しながら実績を重ね、「難しいものこそ炎重工へ」という共通認識が顧客との間に生まれる。

・警備の用途など需要が高まっている。他社に先駆けていたことから都市型自動運転船の開発にも関わることになった。

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