有限会社小島製菓

有限会社小島製菓

【岩手県釜石市】

被災で販路を失いBtoCへ業態転換
直営飲食店でのマーケティングでヒット商品を生み出す

企業情報

  • 企業名 有限会社小島製菓
  • ヨミガナ ユウゲンガイシャコジマセイカ
  • 業種 食料品製造業
  • 代表者 菊地広隆氏[代表取締役社長]
  • 所在地 岩手県釜石市上中島町1-2-38
  • TEL 0193-23-6376
  • WEB http://kojimaseika.com/
  • 創業年 1945年
  • 資本金 1,000万円
  • 従業員数 30人
  • 売上高 8,000万円

企業概要

1945年に和菓子店として創業。近隣スーパーが対象のBtoBの企業形態だったが、東日本大震災を機に販路拡大を視野に入れてBtoCへ移行。3代目社長である菊地広隆氏のもとで洋菓子の生産販売にも力を入れ始め、釜石市の定番土産となった「釜石ラグビーパイ」、学校給食にも採用されたクッキー「MUSUBit」など新商品を続々と開発。そのかたわらカフェ経営も行い、販路拡大、ブランドPR、働き手の確保に挑み続けている。

「BtoB」から「BtoC」へ。より消費者を意識した商売に移行

岩手県釜石市にある有限会社小島製菓は、1945年に創業した老舗の菓子製造会社だ。代表取締役社長を務める菊地広隆氏は3代目。「お菓子で笑顔を創る」を企業理念に、祖父の時代から続く伝統を継承している。

快活でバイタリティあふれる菊地広隆代表取締役社長 快活でバイタリティあふれる菊地広隆代表取締役社長

創業時の昭和中期は、あめ作りを中心とした個人商店として営業していた。その後、時代の流れとともに、近隣のスーパーマーケットへ商品を卸す大量生産のスタイルに移行していく。昭和後期から平成初期は、交通網の発達により物流がどんどん盛んになっていた時代。平成中期に入ると相次ぐ競合他社の登場もあり、経営状態は順風満帆とはいえなかった。

そんな中、追い打ちをかけたのが東日本大震災だった。小島製菓が商品を卸していた地元のスーパーマーケットの数々が被災。販路が一斉に途絶え、売り上げは下降の一途をたどる。

菊地氏が帰郷したのは、それから1年後の2012年。2代目として会社を切り盛りしていた父親の体調悪化を受け、経営のかじ取りを任されることとなった。

「それまでの業態は『BtoB』。商品を卸すだけでお金をもらえるというメリットはありましたが、一方で卸先がストップすると何もできず、そのせいで一気に経営が傾いてしまいました。しかも、販路拡大には設備投資が必要でしたが、父は元々私が会社を継がないものだと思っていたようで、その資金は無く、銀行からも借りられない状態。八方ふさがりとはこういうことかと思っていました」。

菊地氏は会社を立て直すべく、大きな決断に打って出る。それが「BtoC」への業態転換だ。

「温故知新ではないですが、創業当時を思い返し、『自分たちで作って、自分たちで売る』という形に戻していかなければ、利益は上げられないだろうと思いました。それで最初に行ったのが、お客さまへのアンケート調査です。当時は応急仮設住宅がありましたので、そこで暮らす人たちはどういったお菓子が欲しいのか、たくさん聞いて回りました。いいマーケティングにもなりましたし、同時に小島製菓の名前を売ることもできました」。

消費者に商品を買ってもらうには信頼度を上げることも必要だと考え、ブランディングにも着手。販売する商品名のすべてに社名を記載したり、目印となるロゴマークを作成したりと、従来の「プロダクトアウト」から、より消費者を意識した「マーケットイン」の形式に切り替え、商品価値をアピールしていった。

三陸かまいし小島製菓 刷新により生まれた小島製菓のロゴ
餅処小島カフェ 2021年12月にオープンした和風カフェ「餅処 小島かふぇ」のロゴ

大人気の「釜石ラグビーパイ」。緻密な販売戦略がヒット生み出す

業態の転換と同時に、独自の商品開発に乗り出した小島製菓。2013年に一筋の光が差し込む。岩手県内で開かれた「いわてS-1スイーツフェア」で、菊地氏らが考案した「くるみだれアイス」を出品したところ、約50品目の中から人気投票で3位に選ばれたのだ。

「内部的な意識改革にもつながったと思います。商品の売り方、打ち出し方を変えれば、こんなにも評判が集まるんだなと。以降は催事にも積極的に出店して、お客さまとのつながりを増やしていきました」。

それからというもの、小島製菓は新たな仕掛けを次々と展開していく。その一つが、2015年、釜石市の共同店舗「タウンポート大町」内にオープンした直営飲食店「小島かふぇ」だ。

「小島かふぇ」店内。団子などの和菓子から、パンダの焼印が愛らしいサイコロ型のパン、パンケーキをはじめとした洋菓子までメニューは多彩 「小島かふぇ」店内。団子などの和菓子から、パンダの焼印が愛らしいサイコロ型のパン、パンケーキをはじめとした洋菓子までメニューは多彩

「これまではスーパーにたくさん商品を卸しても、なかなか利益が生まれない状況でした。それならば、店舗を作って、そこで売った方が採算が取れるのではと思ったんです。もう一つの理由として、その場でマーケティングができるというのもありました。商品を食べた瞬間のお客さまの表情が見られるので、すぐに反応をもらうことができ、新商品開発につなげやすいという利点もありました」。

売り方を変えたことで、それまで薄利多売だった経営スタイルから脱却。業績も順調に回復したほか、「小島かふぇ」に多くの住民が訪れたことで、小島製菓自体の認知度も大幅に上がったという。

次に菊地氏が繰り出した戦略は、小島製菓の顔となる商品の開発だった。地元で暮らす人々だけでなく、訪れた市外・県外の観光客にも小島製菓の商品を味わってもらいたい。そこで思い付いたのが、釜石市の新たな定番となる土産品の販売だ。だが、それには苦労を伴った。

「お土産品を売るとなると、JRなどの公共交通機関や、高速道路のサービスエリア、道の駅などが主な販売ルートになります。うちはスーパーへの卸業を中心にやってきたので、それらの販路が一切無い状態でした。販路を押さえるために、まずは自分たちの名前を売って、商品を知ってもらう。そして、お店の棚を確保することから始めなければなりませんでした」。

そこで2015年に販売を始めたのが、地元の甲子川を泳ぐアユにちなんだ「かまいし最中(もなか)サブレ あゆ美人」。サクサクとした食感や、その斬新なフォルムが話題を集め、一店また一店と、着実に販路を広げていく。

そして2017年、満を持して売り出したのが「釜石ラグビーパイ」だ。あんこをしっとりとしたパイ生地で包み、ラグビーボール型に成形。2019年に釜石市で開かれるラグビーワールドカップを見越して作られたこの商品は、その優しい味も相まって、老若男女に親しまれる人気商品となった。

北海道産小豆で作ったあんこ、宮古産の塩、岩手県産の卵を使用。あんから生地まで、すべて小島製菓の自社製造による 北海道産小豆で作ったあんこ、宮古産の塩、岩手県産の卵を使用。あんから生地まで、すべて小島製菓の自社製造による

「明らかに購買層がこれまでと変わり、流動人口に当たる方々にも手に取っていただけるようになったのはうれしかったです。最初の販路の確保は大変でしたが、あゆ美人の販売からラグビーパイのヒットまで、狙い通りに売り上げを伸ばすことができました」。

コロナ禍の危機乗り越えるために、県内全域にマーケット拡大へ

新型コロナウイルスの感染拡大は、小島製菓の経営にも大きな打撃を与えた。観光客の減少により土産品の売り上げが低迷。「倒産がちらつくようになった」と振り返るほど、財務状況も激しく落ち込んだ。

それでも、ただでは起きない菊地氏は、このピンチに対して次なる一手を打つ。

「そのころ、大手通販サイトを介さずに直接ネット販売することで無駄なコストを省く、ダイレクト・トゥ・コンシューマー、『DtoC』の業態が注目を集め始めました。同時に顧客情報も入手できるとあって、マーケティングにもつなげられるのではないかと思い、導入することを決めました」。

そうして顧客から直接寄せられた声をきっかけに作られたのが、2021年2月に発売した「MUSUBit」だ。「お菓子は食べるのに、こどもがご飯を食べない」という保護者からの悩みを受けて、野菜パウダーなどを練り込んだクッキーを製造。こどもたちの偏食・栄養不足を解消する食べ物とあって、現在は近隣の学校給食にも採用されるなど、注目を集めている。

また、同年12月には、総務省の事業「地域活性化起業人」で江崎グリコ株式会社から派遣された大窪諒氏と協力し、釜石地方の郷土菓子「かまだんご」からヒントを得た「KAMA MOCCHI(かまもっち)」の販売を始める。コロナ禍の中でも新商品を続々と生み出し、菓子業界に新たな風を吹き込んでいる。

発酵バターを練り込んだ生地の中に、求肥で包んだクルミと黒蜜のジュレを入れ、ふんわりと焼き上げている 発酵バターを練り込んだ生地の中に、求肥で包んだクルミと黒蜜のジュレを入れ、ふんわりと焼き上げている

自社EC、新商品開発に続き、拠点の拡大にも挑んでいる。2022年7月には、JR盛岡駅構内に「小島かふぇ」の2号店である「KOJIMA CAFE 盛岡駅店」をオープン。これまでは釜石市を中心とした沿岸部を拠点にしてきたが、今後は内陸部をはじめ県内全域にマーケットを拡大していく予定だという。

「拠点を広げる理由の一つには、人材の確保という面もあります。これからは人を増やして、会社の力をどんどん付けていきたい。そのためには、大学生をはじめとした若い力がどうしても必要です。釜石だけでなく、県内に裾野を広げて、組織力をもっと強化していきたいです」。

2021年には盛岡駅ビル「フェザン」にフルーツ大福専門店「コジマのフルーツ大福」を出店 2021年には盛岡駅ビル「フェザン」にフルーツ大福専門店「コジマのフルーツ大福」を出店

爽やかな笑顔で、尽きない夢を語る菊地氏。2012年に帰郷する前の20代のころ、単身カナダへ渡り、現地でリクルーティングの仕事を行っていた経歴を持つ。「太平洋に面している釜石だからこそできることがある」と当時の経験を生かし、ゆくゆくは海外での商品販売にも挑戦していきたいと意欲を燃やす。

東日本大震災、新型コロナウイルス禍といった危機にひんしながらも、柔軟な発想と攻めの姿勢で難局を乗り越えていった小島製菓。会社として成長を遂げる中、果たして次はどんな商品を生み出し、どんな事業を仕掛けていくのか。これからの展開が楽しみでならない。

課題

・東日本大震災により卸先のスーパーマーケットが営業停止。販路が止まり、売り上げが大幅に減少した。

・販路の拡大を図ろうにも資金繰りが悪化したために設備投資ができず、八方ふさがりの状態となった。

解決策

・スーパーマーケットへの卸業から直接消費者へ売るスタイルに変更。イベントや催事にも出店し、顧客とのつながりを増やした。

・独自の新商品開発に取り組んだほか、直営店舗「小島かふぇ」を釜石市内にオープンし、認知度の拡大を図った。

効果

・販売先や販売方法を変えたことで、薄利多売のスタイルから脱却。売り上げが右肩上がりになり、業績も順調に回復した。

・釜石の定番土産となる商品を次々と販売し、人気ブランドへと成長。「釜石ラグビーパイ」は老若男女から愛される大ヒット商品となった。

福島宮城岩手の最新事例30