株式会社のだむら 涼海の丘ワイナリー

株式会社のだむら 涼海の丘ワイナリー

【岩手県野田村】

特産のヤマブドウを使ったワインで野田村の魅力を高める

企業情報

  • 企業名 株式会社のだむら
  • ヨミガナ カブシキガイシャノダムラ
  • 業種 食料品製造業/飲料・たばこ・飼料製造業
  • 代表者 小田祐士氏[代表取締役]
  • 所在地 岩手県九戸郡野田村大字玉川5-104-117
  • TEL 0194-75-3980
  • WEB https://www.suzuminookawinery.com
  • 創業年 1987年
  • 資本金 7,500万円
  • 従業員数 48人
  • 売上高 2, 750万円

企業概要

野田村活性化を目的に1987年に創業し、農産、畜産食料品の製造や販売をはじめ多角的に事業を展開。東日本大震災を機に、現村長の小田祐士社長が野田村で取れるヤマブドウを使ったワインの製造を起案。2016年にワインの生産を始め、ワイナリーを「涼海の丘ワイナリー」と名付ける。2022年には「ふるさとの美しい海を守りたい」というメッセージを込めたワイン「涼海の丘の風」を完成・販売。

特産品のヤマブドウを自分たちの手でワインに。挑戦の始まり

株式会社のだむらが立ち上がったのは1987年のこと。村民から岩手県民、さらには全国の人たちに、野田村の特徴を知ってもらう役割を背負って誕生した。

岩手県野田村で江戸時代に作られていた「のだ塩」を復活させ、加えて、観光物産館ぱあぷる、国民宿舎えぼし荘などの運営を開始。さらに、ホタテやイクラといった海産物の販売も手がけるなど、野田村にある多くの魅力を対外的に発信していた。

明治期に塩が専売制になったことで途絶えてしまった、海水を窯で炊き結晶化させる自然海水塩 明治期に塩が専売制になったことで途絶えてしまった、海水を窯で炊き結晶化させる自然海水塩
観光物産館ぱあぷるは「道の駅のだ」内にある 観光物産館ぱあぷるは「道の駅のだ」内にある

そんな中、東日本大震災が発生。野田村は村の3分の1の住戸が損壊する被害を受けた。復興に向けて、のだむらが新事業として2016年4月に始めたのが、日本有数の生産量を誇る特産品・ヤマブドウを使ったワインの生産だ。醸造所は「涼海の丘ワイナリー」と名付けられた。

涼海の丘ワイナリー外観。ワイナリーとして貯蔵タンクを置いている所は、元々レストハウスだった 涼海の丘ワイナリー外観。ワイナリーとして貯蔵タンクを置いている所は、元々レストハウスだった

ワイナリー事業を興すきっかけとなったのは、村長兼のだむら社長である小田祐士氏のアイデアだった。当時のことを、涼海の丘ワイナリー所長の坂下誠氏はこう振り返る。

「元々野田村に隣接する(岩手県)葛巻町のワイナリーで、野田村のヤマブドウを使ったワインを醸造してもらい、高い評価を得ていました。それを踏まえて社長は、自分たちの手でワインを造り、観光資源として活用してきたマリンローズパーク野田玉川(野田玉川鉱山坑道)で熟成させたいと考えたんです。坑道の中は1年を通して温度が11度程度、湿度は70~80%で、ワインを寝かせるのにぴったり。大きなアピールポイントになると社長は確信していました」。

アイデアの実現を後押しする出来事もあった。

「被災地ボランティアとして野田村に来てくれていた、ネパールとのフェアトレードをしている『特定非営利活動法人』の方たちが、資金調達の方法や事業の始め方も含めて手助けしてくれたんです。それで社長がその気になり、私にお鉢が回ってきました」と笑う。

ワイナリー設立前に“サポート会員制度”で資金調達を始め、2,300万円を集める

坂下氏は野田村の出身。高校卒業後は久慈グランドホテルで働き、2005年にはソムリエの資格を取得した。2010年8月にのだむらに入社した後は、前職の経験を生かしてえぼし荘の運営に携わる。

「被災から数年間は、えぼし荘が復興関連工事の方たちの宿泊所として使われていました。私は野田村の海産物を使った駅弁を開発して、百貨店で売るなどしていました」。

ワイナリーの設立が決まり、坂下氏は小田氏から「ソムリエの資格を持っているよね。ワインに詳しい人が造るしかないだろう」と言われる。断る選択肢は無かった。

当時を回顧する坂下誠所長 当時を回顧する坂下誠所長

それから坂下氏の生活は様変わりする。ワインをよく知っているとはいえ、造り方を習ったことは無い。研修させてもらえる所を探し、たどり着いたのが岡山県のひるぜんワイン有限会社だった。2015年9月から12月まで4カ月間修業した。

同時に取り組んだのが資金調達。涼海の丘ワイナリーを立ち上げるに当たって、資金についても野田村に頼るのではなく、自分たちで調達しようというのがのだむらのスタンスだった。そこで特定非営利活動法人の方々の協力を得て、まだワイナリーが完成していない2015年から仕組みを作り、打ち出したのがサポート会員制度だ。

「1口5万円と2万円のサポート会員を募りました。5万円の方は3年間、2万円の方は2年間、年に1回ヤマブドウで造ったワインと野田村の海産物などを組み合わせてお届けする仕組みです」。

今現在2,300万円以上を集め、タンクをはじめ施設の整備に大いに役立った。

ジャムのような果実味と、ヤマブドウ本来の酸味をしっかりと感じられる野田村のワイン ジャムのような果実味と、ヤマブドウ本来の酸味をしっかりと感じられる野田村のワイン

「サポート会員制度は、野田村の復興工事でえぼし荘に寝泊まりしていて仲良くなった建設業の方にもご協力いただいているんです。本当に多くの方に応援していただけて、ありがたい限りです」。

2016年の年明け、修業先の岡山県から野田村に戻ると、坂下氏は酒類製造免許を取るために奮闘した。

「施設を整えたり、法的作業も進めたり。何しろ8月までに免許が下りないと9月の醸造に間に合わない。資金のめどは立ったのに造れなかったら、と思うと本当に重圧は大きかったです」。

「ワインが無事初年度からできてよかった」と振り返る坂下氏。創業当初は重圧を感じつつ、孤独感にもさいなまれていたと漏らす。

「何とかなったからよかったのですが、立ち上げ時は自分しか頼る人がいなかった。身近に相談相手がいなかったんですね。基本、1人で物事を進めていかなければいけない。タンクなどの配置も、各種手続きも携われるのは自分だけで、暗中模索の日々でした。結果的にワインがちゃんと造れて、サポート会員の方々にも届けることができ、喜んでいただけて本当にうれしかったです」。

コラボ商品も好評。自分たちだけでできないことは外部の協力者に頼る

サポート会員制度の成功も手伝って、事業は順調に展開。2020年にはクラウドファンディングも行い、目標金額の120万円を大きく上回る、約170万円の協力金額を達成した。

一方で、ヤマブドウの収穫量が2018年の44tをピークに、減少傾向にあるのは気がかりだ。ワインは2018年に1万8,000本生産できたところ、2021年はその半分程度までに減っている。猛暑の夏や、木が弱って受粉しにくくなることなどが原因だ。

「ありがたいことに引き合いをたくさん頂いていて、ワインだけでなく、『年齢問わず誰でも野田村のヤマブドウに親しめるように』と新たに用意したジュースやジャムも『もっと欲しい』と言われます。一方で、悔しいことに供給が追い付いていません。2022年は収穫量を高められるよう農家さんと協議して、人工授粉の導入を検討しています」。

今やワイン造りは、野田村のヤマブドウの付加価値を高め、生産農家に希望を与える事業となった。ヤマブドウの収穫量が減少傾向にはあるものの、「できることは何でもしたい」という坂下氏のポリシーもあり、新商品開発には手を抜いていない。「消費者とのだむら、涼海の丘ワイナリーとの接点は少しでも多い方がいい」というわけだ。

2022年2月には新商品を2つ、市場に導入した。一つは、海洋ごみ対策事業「海と日本プロジェクト・CHANGE FOR THE BLUE」の趣旨に賛同し開発した「涼海の丘の風」。もう一つは、クラフトビールでその名を全国に知らしめている株式会社ベアレン醸造所とコラボレーションし、開発した「山葡萄スパークリングワイン」だ。

「『涼海の丘の風』のラベルには野田村の海水浴場・十府ヶ浦の海岸線をあしらい、美しい海を守りたい、というメッセージを添えています」。

ラインアップも、赤、ロゼ、たる熟成に、スパークリングワインが加わった。さらに、白いヤマブドウから造る白、ナチュラルな甘口、ジビエ専用の赤までもが坂下氏の頭の中にある。

「白、デザートワインまでそろうと、ヤマブドウワインのフルコースができます。その野望の実現を山葡萄スパークリングワインが一歩進めてくれました」。

糖度18度以上のヤマブドウを使ったフルーティな「涼海の丘の風」ロゼ 糖度18度以上のヤマブドウを使ったフルーティな「涼海の丘の風」ロゼ

丁寧に野田村のことを伝えたい。小規模バスツアーで誘客図る

コラボ商品の開発以外にも、坂下氏はさまざまな企業との連携を模索している。それもまた、野田村の魅力を広く伝えるためだ。

「Win-Winになれる協力先は常に探しています。ベアレン醸造所さんもそうですが、マリンローズパーク野田玉川の管理者をしているジェイプランニングさんとは特にいい関係を築けています」。

坂下所長と、ジェイプランニング代表の城内義典氏 坂下氏と、ジェイプランニング代表の城内義典氏

ジェイプランニングはジュエリー製造を手がけ、「てしごと屋」という店舗を展開。マリンローズパーク野田玉川にはマリンローズパーク店が併設されている。中心商品は野田村産バラ輝石を丹念に磨き上げた「マリンローズ」だ。

ロードナイトとも呼ばれるバラ輝石は、日本で唯一野田玉川鉱山からのみ採掘される ロードナイトとも呼ばれるバラ輝石は、日本で唯一野田玉川鉱山からのみ採掘される

マリンローズパークへの来訪者をワイナリーに呼び込み、その逆も、という協力関係を築き、コラボ事業として、「大収穫祭」など季節ごとのイベントを実施。2022年のゴールデンウィークにはワインと食のイベントを開催し、500~600人の誘致に成功した。

ヤマブドウワインはもちろん、北三陸の海と山の幸、そしてベアレンビールが並んだ大収穫祭 ヤマブドウワインはもちろん、北三陸の海と山の幸、そしてベアレンビールが並んだ大収穫祭

「新型コロナウイルス感染症の影響で実際にはできませんでしたが、ジェイプランニングさんとは新酒発表会を坑道でやろうというアイデアもあって。大きな話題になると思いますし、両社の強いアピールにもなるはずなので、いつか実現したいですね」。

そして今、坂下氏が最も実施したいと考えているのが小規模のバスツアーである。

「丁寧な応対が可能な少人数、例えば15~20人程度にバスで来てもらい、マリンローズパークを見学し、その後、坑道の中で食事とワインを楽しんでもらうようなものを思い描いています。野田村の海、ヤマブドウの畑、マリンローズパーク、食事、ワインと組み合わせた、盛りだくさんのツアーも展開したいですね」。

「ここまで夢中で走り続けてきた」と笑う坂下氏。ヤマブドウで造ったワインを中心に、野田村の魅力をできるだけ多くの人に知ってもらおうと、これからも奮闘を続けていく。

課題

・東日本大震災で傷ついた野田村を活気づける新事業が必要だった。

・アイデア実現のためには、ワイン造りができる人材の確保が不可欠だった。

・設備などを整えるための資金調達が必要だった。

解決策

・野田村産のヤマブドウを使った自社でのワイン造りというアイデア実現に向け、NPO団体の力を借りて、資金調達や事業の始め方を学び、アイデアを実現させる段取りをつけた。

・のだむらで運営する宿泊施設「えぼし荘」の改革を行っていた坂下氏がソムリエの資格を持っていることから、ワイン造りの陣頭指揮を一任した。

・ワイナリー設立に向けて、サポート会員制度を導入。年に1回ヤマブドウのワインと野田村の海産物などを組み合わせて届けることを約束し、資金を募った。

効果

・短い準備期間だったにもかかわらず、予定どおり初年度から醸造を行え、ワインを市場に提供できた。

・坂下氏の岡山での修業ののち、2016年夏に酒類製造免許を取得。他社ともコラボし、新商品を作り続けている。

・サポート会員制度により2,300万円を調達し、現在も続けている。2020年にはクラウドファンディングでも目標金額の120万円を達成した。

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