復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

17-2)

被災した子どもの心身のケア

事例名 いわてこどもケアセンター
場所 岩手県
取組時期 応急期復旧期復興前期復興後期
取組主体 岩手医科大学、岩手県児童家庭課(現:子ども子育て支援室)

取組概要

 いわてこどもケアセンターは、東日本大震災後の子どもの心のケアを担う専門施設として開設された児童精神科専門医療施設(2019年9月まで)であり、岩手県からの委託を受けて岩手医科大学が運営していた。
 主な機能・宮古、釜石、気仙地区の地域ケアセンターへの医師の派遣及び診療・相談
・内陸部に居住する震災ストレスを抱える子どもの診療・相談
・児童精神科医の確保・育成、小児科医や支援者への研修等

具体的内容

「子どものこころのケアセンター」の設置

 東日本大震災により家族や友だちを亡くした喪失体験、地震・津波による恐怖体験が子どもの心に大きな影響を及ぼしたことから、岩手県は、2011年6月から順次、宮古児童相談所に「宮古・子どものこころのケアセンター」を、児童家庭支援センター大洋に「気仙・子どものこころのケアセンター」を、釜石保健所に「釜石・子どものこころのケアセンター」を地域ケアセンターとして設置し、県内外の医師の協力を得て心のケアを開始した。しかし、当該センターの受診児童の約9割が未就学児、小学生、中学生であったことから長期的なケアが必要との声があがった。

全県的な拠点施設「いわてこどもケアセンター」の設置

 2012年3月、岩手県児童家庭課(現:子ども子育て支援室)を事務局として、県内有識者によるプロジェクトチームを設置し、子どもの心のケアのあり方等について検討した。
 岩手県は震災前から小児科や精神科の医師や医療機関が少なく、県外支援に頼らざるを得ない状況であったことから、長期的に安定して支援が展開できる拠点を整備する必要があるとして、2013年5月、クウェート国・日本赤十字社から援助を受け、「いわてこどもケアセンター」を矢巾町に開設した。
 同センターは岩手県からの事業委託を受けて岩手医科大学が運営し、精神科医4名(児童精神科医1名含む)、総勢20名余りの多職種スタッフが所属(2018年時点)、前身の各地区子どものこころのケアセンターを引継ぎ、宮古、釜石、気仙地区の県立病院にブランチを設置して毎週診療を実施した。さらに、大学病院の児童精神科外来としての機能を持っており、震災に直接関連するトラウマ症状のみならず、メンタルヘルス全般の問題に対応すべく、全県的な診療ネットワークを構築して、診療・支援に取り組んでいる。当該センターにおける被災後の子どものトラウマケアは、①学校や地域との連携による見守り、②何らかの介入を要する子どもに関わる支援者への後方支援、③精神医学的治療を要する子どもの診療の3つの段階を含む多層的なケアシステムによって網羅的に実施している。
 2019年9月、岩手医科大学附属病院の移転・改築に伴い児童精神科病棟の開設等専門的な治療体制の拡充が図られたことから、診療機能については委託事業から岩手医大附属病院へと引継がれ、被災地域での相談や受診支援、学校等への専門的助言、研修等を引続き委託事業において実施している(2020年度~「いわてこどもケアセンター被災地診療支援プロジェクト」)。

〇 設置場所 岩手医科大学マルチメディア教育研究棟(矢巾町)1階
〇 運営 岩手医科大学に委託
〇 機能 ・児童精神科クリニックにおける診療と沿岸地域での診療
・内陸部の子ども(沿岸からの避難者を含む)の診療
・児童精神科医等専門職スタッフの養成確保
・支援者への研修等による支援
・子どもの心のケアに関する啓発活動・研究
〇 整備費 クウェート政府からの救援金を原資として、日本赤十字社が支援
〇 竣工 2013年4月26日

クウェートからの支援

 東日本大震災の復興支援のため、2011年10月、クウェート政府から原油500万バレル(約400億円相当)が日本政府に寄贈され、日本赤十字社を通じ、被害が大きかった岩手、宮城、福島の3県に被災規模や原発事故対応等を総合的に勘案して配分された。
 配分された救援金は、地域基盤の復興をはじめ、医療、教育、福祉・介護といった分野から、農林水産業の復興、雇用創出、原発事故の被災者支援など、各県が独自に行う事業に充てられた。
 また、2012年7月19日には、原油による支援とは別に約1億5,700万円が日本赤十字社に寄せられ、うち約1億3,700万円がいわてこどもケアセンターへの支援に充てられた。

<出典>(他の事例集等への掲載)
・岩手県「東日本大震災津波からの復興 岩手県からの提言」(2020年3月)p130-131
https://www.pref.iwate.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/027/741/fukkou_teigen_i_all.pdf

・八木淳子 他「岩手医科大学付属病院・いわてこどもケアセンターにおけるTF-CBTの実践」児童青年精神医学とその近接領域59巻4号(2018年)p21-28
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscap/59/4/59_369/_pdf

・八木淳子「震災・津波被害の小児のこころに与えた影響~岩手県でのこころのケアのとりくみを中心に~」小児保健研究オンラインジャーナル74巻1号(2015年)p67-70
https://www.jschild.med-all.net/Contents/private/cx3child/2015/007401/014/0067-0070.pdf

・日本赤十字社「5/29『いわてこどもケアセンター』記念プレート除幕式へのご案内」(2013年5月)
<活用された制度>
・被災者支援総合交付金による被災者支援事業(被災した子どもの健康・生活対策等総合支援事業)
<事業費>
・2019年度実績 92,122千円(うち国費 92,121千円)

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