復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

1)

要配慮者の情報把握と保健医療サービス提供体制

応急期復旧期

課題
① 在宅被災者を含む要配慮者の把握と支援をどのように行うか
② 保健医療サービスの提供体制をどのように構築するか

東日本大震災における状況と課題

 東日本大震災では、指定避難所、公共施設、親戚・知人宅、自宅等、様々な場所に避難する被災者が多数発生する中で、高齢者、障害者、乳幼児など特に配慮を要する被災者(以下「要配慮者」という。)の早期把握が重要な課題となった。また、岩手県・宮城県・福島県では、多くの病院(計380 施設)が被災し(1)、医療サービスの供給が逼迫した。こうした中で、被災地外から駆け付けた多くの保健医療チームと被災地の地方公共団体・医療機関等が連携し、限られた保健医療資源を有効に活用して被災者の健康・医療支援にあたることが求められた。

東日本大震災における取組

名簿情報の共有による在宅被災者の戸別訪問(課題①)

 自宅での避難生活を余儀なくされた被災者(在宅被災者)の状況を把握するため、被災地では、地方公共団体や支援団体が被災地を巡回して戸別訪問による状況把握が行われた。
 福島県南相馬市では、避難行動や避難所での生活に困難を抱え在宅被災者となった障害者を支援するため、市と障害者団体が「障害者手帳」の名簿情報を共有し、約590名の障害者に対して戸別訪問を行い、支援に結びつけた。「障害者手帳」の情報提供は、個人情報の目的外利用として他機関への提供を禁じる市の個人情報保護条例に抵触する恐れがあったが、「個人の生命、身体又は財産の安全を守るため、緊急かつやむを得ないと認められるとき」という但し書きの規定を適用して情報の共有を行った(事例1-1)。

避難行動要支援者名簿の作成と関係機関への情報提供(課題①)

 2013年6月の災害対策基本法の改正では、市町村長に対して、要配慮者のうち災害に際して自ら避難することが困難であって、円滑かつ迅速な避難の確保を図るため特に支援を要する避難行動要支援者の名簿の作成を義務づけた。そして、市町村が策定する地域防災計画により、消防機関、都道府県警察、民生委員、市町村社会福祉協議会、自主防災組織等、避難支援等の実施に携わる関係者に対して、名簿情報を提供するものとされた。この名簿情報の平常時からの提供に関しては、原則として本人の同意が必要となるが、市町村の個人情報保護条例等に定めのある場合は本人の同意がなくても情報提供が可能となっている(2)。また、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合には、本人の同意を得ることを要しないとされている。

高齢者や視覚・聴覚障害者への情報提供(課題①)

 東日本大震災における要配慮者の死亡率が高かったことや、障害者の高齢化や中途障害者の実情も踏まえ、福島県会津若松市では「要配慮者全体計画」を策定し、避難所における要配慮者への情報提供にあっては、聞き逃しを防止するため文字による情報提供に努め、内容が把握しやすい平易な言葉や字を使う等の配慮をし、また、視覚障害者への対応として、音声による情報提供も併せて実施するとしている(3)

福祉避難所の設置(課題①)

 東日本大震災では、災害時に一般避難所での生活が困難な高齢者や障害者用の福祉避難所※が最大で152ヵ所開設された(4)。各福祉避難所では、要配慮者を受け入れ、集団生活におけるストレス防止やプライバシーの保護、看護師による健康管理などの支援を行った。また、生活相談員が中心となり、地域での生活再開に向けて被災者の身体や生活状況、自宅環境等の聞き取りを行い、関係機関と連携した支援に取り組んだ(5)。一方で、福祉避難所の数の不足やスペース不足等の理由で、自宅での避難生活を余儀なくされた要配慮者も少なくなかった(6)
 内閣府では、東日本大震災の教訓を受けて、2016年4月に「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」を策定した。このガイドラインでは、東日本大震災における教訓を踏まえ、平時から災害時にかけて取り組むべきことを整理し、市町村における福祉避難所の事前指定と運営体制整備を後押ししている(7)

保健医療支援ネットワークの形成(課題②)

 被災地では、地元の保健医療機関と被災地外から応援にきた保健医療支援チームが連携して被災者の支援にあたった。岩手県では、発災後3月20 日に岩手医科大学、岩手県医師会、日本赤十字社、国立病院機構、岩手県から成る「いわて災害医療支援ネットワーク」を構築し、被災地外からの支援チームの受入を行うとともに、広範な被災地域における保健医療活動のコーディネートを行った。また、現地の活動では、被災地域をよく知る地元の医師や行政職員等が中心となって、巡回する避難所の調整や患者情報の共有を行った。こうした体制が、被災地外の支援チームが撤退した後の支援活動の継続にもつながった。震災後、岩手県では、災害時に県災害対策本部や保健所、市町村災害対策本部等に入り医療救護活動を統括する災害医療コーディネーターの体制整備を進め、2019年12月時点で県本部・地域コーディネーター合わせて45名に委嘱している(事例1-2)。
 厚生労働省は、「災害時における医療体制の充実強化について」(2012年3月医政局長通知)及び「大規模災害時の保健医療活動に係る体制の整備について」(2017 年7月大臣官房厚生科学課長、医政局長、健康局長、医薬・生活衛生局長及び社会・援護局障害保健福祉部長連名通知)を発出し、各都道府県に対し、医療チームの派遣調整等のコーディネート機能を十分に発揮できる体制の整備を求めるとともに、2014 年度より被災都道府県の保健医療調整本部に配置される都道府県災害医療コーディネーターの養成を開始している(2020 年4月1日現在1,003 人が研修修了)。また、各都道府県においては、2017 年度より被災地域の保健所等に配置される地域災害医療コーディネーターの養成を開始している(8)

応急支援から長期的な復旧・復興支援への移行(課題②)

 応急支援で被災地に入った支援関係者の中には、被災地の新たな保健医療資源として地域に根付き、復旧・復興期に至るまで活動を継続する支援者・団体が見られた。日本精神科診療所協会では、全国の開業医を中心とする心のケアチームを被災地へ派遣し、仙台市や石巻市等で支援活動を行った。同協会のチームは避難所閉所後も活動を継承するため、一般社団法人震災こころのケア・ネットワークみやぎを設立し、2011年10月にJR石巻駅前に「からころステーション」を開設した。同ステーションは、石巻市と宮城県からの委託事業により2020 年現在も活動を継続しており、石巻市、女川町、東松島市において、心のケアを中心とした健康相談やサロン活動を行っている(9)(10)

教訓・ノウハウ
① 平時から関係者と連携し要配慮者の支援体制を整備する

市町村は、避難行動要支援者名簿を作成するとともに、平時から名簿情報を関係機関と共有できるよう地域防災計画の見直しや個人情報保護条例等との関係を整理しておく。

災害時は、市町村は、自治会等の地縁団体、医療、福祉関係団体等と連携して避難所外避難者について、要配慮者の所在や支援の要否を把握する。

市町村、施設関係者、支援団体は、福祉避難所の指定及び運営体制について平時から検討し、要配慮者をスムーズに受け入れられるよう訓練しておく。

② 被災地外からの支援チームを受け入れ、活動場所等の調整を行う体制を整備する

県本部及び各地域に災害医療コーディネーターを配置する。

支援チームの活動が撤退後も地域の保健医療等関係機関に引き継がれるよう、定期的なミーティング等により情報共有しながら、連携して被災者支援にあたる。

被災地外の支援チームが復旧期以降も活動を継続できるよう、地方公共団体は事業委託を検討する。

※福祉避難所:主として高齢者、障害者、乳幼児等の要配慮者のために特別の配慮がなされた避難所。
<出典>
(1) 厚生労働省「東日本大震災への医療圏での対応について」内閣府 第3回災害時多目的船に関する検討会 2012年2月,資料1:
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/kentokai/tamokutekisen/3/kentoukai3.html

(2) 内閣府(防災担当)「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」2013年8月
http://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/youengosya/h25/pdf/hinansien-honbun.pdf

(3) 会津若松市「会津若松市災害時要配慮者支援プラン(全体計画)」
(4) 阪神・淡路大震災復興フォローアップ委員会「伝える-阪神・淡路大震災の教訓-」2016年7月,p58
(5) 財団法人仙台市障害者福祉協会「東日本大震災の取り組み記録」p3
(6) 阪神・淡路大震災復興フォローアップ委員会「伝える-阪神・淡路大震災の教訓-」2016年7月,p66
(7) 内閣府(防災担当)「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」2016年4月
http://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/1604hinanjo_hukushi_guideline.pdf

(8) 「災害医療コーディネーター活動要領」及び「災害時小児周産期リエゾン活動要領」について(2019年2月厚生労働省医政局地域医療計画課長通知)
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000503265.pdf

(9) からころステーション
http://karakorostation.jp/

(10) 公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構「事例に学ぶ生活復興(復興庁2017年度委託事業)」p13
https://www.reconstruction.go.jp/topics/m18/04/20180409160607.html

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