復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

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避難所の運営・コミュニティ形成

応急期復旧期

課題
① 避難所の運営や避難者のつながりの創出をどのように行うか
② 避難者の多様なニーズに避難所でどのように対応するか

東日本大震災における状況と課題

 東日本大震災における避難所は、発災1週間後には全国で2,182ヶ所となり、広域にわたって分散した避難となった。また、東京電力福島第一原子力発電所の事故により帰還困難区域が設定されたことなどもあり、避難所生活が長期化した(1)
 被災市町村では、職員が十分確保できない中で避難所運営にあたらざるを得なかった。また、多数の避難者が長期にわたって生活を共にする避難所では、避難者が互いに協力・交流し、つながりをつくることにより新たなコミュニティを形成・維持するためのルールづくりが必要となった。
 高齢者や障害者などの要配慮者、乳幼児を抱えた家族、女性、外国人など多様な被災者のニーズをどのように避難所の運営に反映させていくかも大きな課題となった。

東日本大震災における取組

平時からの防災意識の醸成(課題①)

 仙台市にある住宅街では、震災以前から連合町内会を中心に毎年、避難所が設置される小学校と避難所運営における連携体制の確認等を含めた本格的な地域防災訓練を実施しており、震災当日は、他の地区の住民や帰宅困難者など想定外の避難者も押し寄せたものの、それまでの訓練が奏功し、地域の人たちが中心となって体育館に避難所を立ち上げ、多数の避難者の受け入れに尽力した(2)
 日頃から町内会等と学校の連携が緊密な地域では住民の協力が得られ、発災直後に避難者等によって組織される「避難所運営委員会」を速やかに設置することができた。しかし、避難者が中心となって避難所を運営するという意識がなく、地域との交流が少ない避難者が多い避難所では、地域団体や避難者中心の運営への移行が難しく、教職員や区職員、施設管理者が運営を続けざるを得ない場合もあった(3)。また、リーダーのなり手不足等から市町職員や他の地方公共団体からの応援職員が運営を担い続けたところもあった(4)

住民を中心としたルールづくり(課題①)

 各市町村では、避難所の運営ルールの作成について手探りで対応にあたっていた。宮城県では、各避難所において、市町村職員や学校等の施設管理者とともに避難者も避難所運営委員会に参加し、生活環境や食糧の供給に関するルールや役割分担等を取り決めた(5)
 東日本大震災の課題を踏まえて内閣府が策定した「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」においては、平常時における対応として、避難所運営のマニュアル(手引き)の作成や研修や訓練の実施、発災後の対応として、避難者による自主的な避難所運営や役割分担の明確化が記載されている(6)

女性専用スペースの設置と支援人員の配置(課題②)

 避難所の運営の中心的な役割を担う自治会長は、被災3県では約97%が男性であったこともあり、女性や子育て家庭等への配慮が必要であるとの認識が十分浸透していない場合が見られた(7)。女性がリーダーシップを発揮して積極的に運営に加わった宮城県の避難所では、女性の視点が生かされ、女性専用トイレの設置、子どもが遊べるスペースや女性用の物干し場が設けられ、多様なニーズに配慮した事例があった(8)
 福島県最大の避難所となったビッグパレットふくしまでは、女性が安心して過ごせる場所として、女性専用スペースが設置され、福島県男女共生センターや郡山市内の女性団体等が連携し、日替わりで常駐し、様々な形で女性たちの支援を行った (9)
 岩手県では、東日本大震災の経験を踏まえ、避難所を運営する市町村の参考となる「市町村避難所運営マニュアル作成モデル」を作成し、女性等のニーズに応じた配慮事項をとりまとめた(10)

妊産婦・乳児を対象とした避難所や交流の場の設置(課題②)

 被災地からの避難者を受け入れていた山形県では、県とJA山形中央会が協力し、JA山形中央会の研修施設「協同の杜」に、妊産婦及び乳児のいる家族を対象とする避難所を2011年3月25日に開所した。この避難所では、JA山形中央会が食事やミルク、おむつなどを無料で提供したほか、ボランティアによる育児支援や助産師・保健師による健康相談等が行われた。妊産婦と乳児専用の避難所を設けたのは山形県が初めてのことであった(11)。また、岩手県では、陸前高田市のNPO法人きらりんきっずが、粉ミルク等のベビー用品の配布を通じて、子育てをする者同士がつながりを持ち続け、励まし合える交流の場を避難所につくった(事例5-1)。

外国人避難者への情報提供(課題②)

 宮城県仙台市では、震災以前から、外国人住民への多言語防災情報の発信や、災害時に避難所の外国人支援に使用するための「災害時多言語表示シート(9言語)」を作成し、指定避難所に配布していた。しかしながら、実際には表示シートが掲示されないなど、震災という混乱の中で活用されない場合もあった(12)

教訓・ノウハウ
① 住民主体の避難所運営になるような体制やマニュアルを整備する

災害時に備えて、各市町村の担当者や自主防災組織、自治会、避難所施設の管理者等が、住民のコミュニティを重視した避難所の設置運営について協議する機会を設ける。

分かりやすい避難所運営マニュアルを作成し、地域住民も参加する研修・訓練を実施する。

発災時に、避難者自身の一定の役割を割り振るなど避難者が自主的・積極的に避難所の運営に参加できるようにする。

② 避難所における要配慮者の支援体制を構築する

避難所に女性や乳幼児のための個室や専用スペースを確保し、支援人員を配置する。

「災害時多言語表示シート」の活用など、外国人への分かりやすい情報提供の方法に配慮する。

<出典>
(1) 内閣府「避難所における良好な生活環境の確保に関する検討会 第1回 資料8 東日本大震災の避難所生活者数の推移について」
http://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/h24_kentoukai/1/pdf/8.pdf

(2) 公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構「事例に学ぶ生活復興」2018年3月,p51
https://www.reconstruction.go.jp/topics/m18/04/20180410_seikatsufukko.pdf

(3) 仙台市「東日本大震災 仙台市 震災記録誌~発災から1年間の活動記録~」
http://www.city.sendai.jp/shinsaifukko/shise/daishinsai/fukko/hassai.html

(4) 兵庫県「1.17は忘れない-阪神・淡路大震災20年の教訓-伝える」p58
(5) 宮城県「東日本大震災-宮城県の発災後1年間の災害対応の記録とその検証」2015年3月,p355
(6) 内閣府「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」
http://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/h25/kankyoukakuho.html

(7) 内閣府「平成24年版男女共同参画白書」2012年6月,第1部 特集第2節 被災者の状況
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h24/zentai/html/honpen/b1_s00_02.html

(8) 宮城県「東日本大震災-宮城県の発災後1年間の災害対応の記録とその検証」2015年3月,p356
(9) 内閣府男女共同参画局「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針 解説・事例集」2013年5月,p31
(10) 岩手県「東日本大震災津波からの復興-岩手県からの提言-」2020年3月,p81
https://www.pref.iwate.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/027/741/fukkou_teigen_i_all.pdf

(11) 山形県「2011年3月11日に発生した東日本大震災の記録~その時、山形県はいかに対応したか~」p111 
https://www.pref.yamagata.jp/020072/bosai/kochibou/saigai/h23_3_11_daishinsai/h23_3_11_daishinsai_kiroku.html

(12) 仙台市文化観光局交流企画課「東日本大震災前後における外国人住民を対象とした防災への取組」
https://www.isad.or.jp/pdf/information_provision/information_provision/h29/H29_dai2bu1.pdf

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