復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

41)

産業人材の確保

復旧期復興前期復興後期

課題
① 震災による失業者にどのように仕事を確保するか
② 被災地の中小企業はどのように人材を確保するか
③ 持続的な成長に向けてどのように経営人材を育成するか

東日本大震災における状況と課題

 被災3県の就業者数は、震災前は約275万人であったが、震災直後の9月には約260万人と減少し、雇用の回復が大きな課題であった(2)。特に、女性の雇用の場であった水産加工業が甚大な被害を受けたことから、女性の雇用状況が厳しくなるなど、産業の復旧対策に加えて雇用対策が求められた(3)。一方、東北経済産業局のアンケート調査(2016年)によると、グループ補助金を受けた事業者の経営課題は、「人材の確保・育成」が業種全体で57.9%、特に水産・食品加工業では60.4%とそれぞれ最も多く、人材の確保が切実な経営課題であった(1)。このような状況にある中、国は「『日本はひとつ』しごとプロジェクト」を立ち上げ、被災者の雇用確保対策に取り組んだ。
 また、地域の中小企業や水産業が確保した人材を育成することや、更には本格的な復興に向け、地域経済が持続的に成長するよう、企業の経営人材をどのように育成するかが課題となった(3)

東日本大震災における取組

キャッシュ・フォー・ワークによる失業者の緊急雇用(課題①)

 東日本大震災の発生直後、被災地では大量の失業者の雇用の確保が課題となった。そこで、被災失業者が災害対応業務で収入を得る「キャッシュ・フォー・ワーク」の考え方に基づいて、地元の被災者を緊急雇用し、作業従事と引き換えに日当を支払う取り組みを展開していった。例えば、大船渡市漁業協同組合では、2011年度は水産庁の漁場生産力回復支援事業を活用してガレキの撤去に取り組んでいたが、2012年度からは緊急雇用創出事業を活用して組合員を雇用しガレキ撤去の作業を行い、漁港の早期復旧と組合員の収入確保を両立させた(4)

ハローワークにおける就職等支援(課題①)

 厚生労働省では、被災者の雇用対策として、被災地を含む全国のハローワークにおける特別相談窓口の設置、広域職業紹介の実施、避難所への出張相談の実施、被災者用求人の確保等により、被災者に対するきめ細かな就職支援を実施した(5)

働きやすい職場環境の整備による地元人材の雇用(課題①②)

 岩手県久慈市にあるアパレル企業の岩手モリヤ株式会社は、地元高校生を積極的に雇用し取引先との商談に参加させ技術向上を図るなど若手育成に力を入れている。また、育児休業制度や子育て支援制度を充実させ女性が長く働ける職場環境づくりを進めている(事例41-1)。
 被災地企業で長期的に働き、被災地に定住する人材の確保を目指した取組として、株式会社リクルートキャリアの「Starting Over三陸」がある。これは2014年から開始され、まちぐるみで人材を募集し、就職希望者に三陸の魅力や人材を募集する被災地企業を紹介するマッチング事業である。また、採用の取組だけでなく、受入側企業には経営者・中堅社員・新入社員の人材育成研修の実施、市町村には新たな企業誘致や就業希望者が定住できる環境整備の提案など、人と企業を結ぶノウハウを活かし被災地の人材確保や育成に貢献した大手企業の事例の一つである(6)

イメージアップによる新たな担い手の確保(課題②③)

 壊滅的な被害を受けた漁業を持続可能な形で発展させていくため、宮城県石巻市の一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンは、若い男性をターゲットに、漁業を「かっこいい、稼げる、革新的」とする「新3K」にイメージアップし、新たな漁業の担い手を確保する活動を行っている。具体的には、漁師の職業としての魅力のアピールや、若者向けのインターン受入れの取組などをホームページで積極的に発信している。また、飲食事業や海外への販路開拓・事業のアピールを行うなど業界イメージの刷新を図り、新たな人材の確保に努めている(事例41-2)。

企業人との交流による経営人材の育成(課題③)

 東北未来創造イニシアティブ(全体主催:東北大学・一般社団法人東北ニュービジネス協議会)は、被災地の自立的、創造的復興をめざし、2012年から5年間、経済同友会の協力を得て、被災地の次代を担うリーダーを育成する「人材育成道場」を実施した。被災地域の経営者に対して同友会会員企業の指導のもと事業構想を作成し、地域住民の前で発表する実践的取組や、起業家の事業モデルの評価やグループディスカッションを行い、次世代産業を担う新たなリーダーを育成した(7)(8)
 また、全国の福島に縁のある経営者らが福島の新しいリーダーを育成する「ふくしま復興塾」を始動させた。具体的には、福島の復興や未来を担う意欲のある県内外の多様な若者を塾生とし、復興塾での活動を通じて福島の次世代のリーダーとして育成しようとしている(9)

教訓・ノウハウ
① 失業した被災者に復旧業務の仕事を提供し、雇用を確保する

「キャッシュ・フォー・ワーク」の考えに基づき、失業した被災者に復旧業務の仕事を提供することで、インフラ等の復旧と雇用の確保の両立を図る。

ハローワークの就職支援機能により、求職者・求人者のマッチング支援を行う。

② 働きやすい職場環境や産業のイメージアップにより若者や女性の雇用を確保する

若手人材の育成や女性の働きやすい職場環境を整備し、若者や女性の雇用を確保する

就業希望者の少ない産業では、従来のイメージを大きく変革する取組を進める。

③ 先進的な企業人との交流により従来の経営のあり方を変革する意識改革を進める

産業界をリードする企業人との交流により、経営のあり方を見直し、経営の革新を進める。

<出典>
(1) 東北経済産業局「東北地域における産業復興の現状と今後の課題~5年を振り返って~」2016年2月
https://www.tohoku.meti.go.jp/somu/topics/pdf/160224_2.pdf

(2) 厚生労働省「第1章労働経済の推移と特徴 第2節 東日本大震災が雇用・労働面に及ぼした影響」 『平成24年版 労働経済の分析―分厚い中間層の復活に向けた課題―』
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/12/

(3) 厚生労働省「『日本はひとつ』仕事プロジェクトの1年の取組 ~東日本大震災からの雇用復興に向けて~」2012年3月
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/shigoto.html

(4) 労働政策研究・研修機構「復旧・復興期の被災者雇用―緊急雇用創出事業が果たした役割を「キャッシュ・フォー・ワーク」の視点から見る―」『労働政策研究報告書』169:2014年12月 p96-100.
https://www.jil.go.jp/institute/reports/2014/0169.html

(5) 厚生労働省「平成23年版厚生労働白書」p157-158
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/11/dl/02-00.pdf

(6) 藤沢烈「復興に関する事例~企業、コミュニティ、人材」(第1回復興創生研究会資料)
(7) 東北未来創造
http://tohokumirai.jp/activity

(8) 経済同友会「経済同友会特別協力による東北未来創造イニシアティブの5年間」『経済同友17年3月号』
https://www.doyukai.or.jp/publish/2016/pdf/2017_03_01.pdf

(9) 福島復興塾
http://fukushima-fj.com/

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