復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

47)

水産業の事業再開に向けた取組

応急期復旧期

課題
① 漁業施設・設備の復旧をどのように進めるか
② 漁業・養殖業の早期再開にどのように取り組むか
③ 水産業・水産加工業者はどのように事業再開に取り組むか

東日本大震災における状況と課題

 東日本大震災の地震・津波による水産関係の被害額は、漁港や漁船、養殖施設、水産加工施設など1兆2600億円にのぼり、全国の漁業・養殖業生産量の5割を占める北海道から千葉県までの7道県は甚大な被害となった。なかでも、津波被害が大きかった東北3県の沿岸部は水産業・水産加工業が基幹産業であり、漁業施設・設備の早期の復旧、漁業・養殖業の早期再開、経営規模の小さな水産加工業の事業再開が地域経済の再生・復興にとっても重要な課題となった。

東日本大震災における取組

国の代行による漁港の早期復旧と漁港機能の高度化(課題①)

 全国的な水産業の拠点漁港である石巻漁港や気仙沼漁港は、管理者である県に代わって、国が災害復旧の代行事業を行うことで早期の復旧を支援した。
 国内有数の水揚げ高を誇る石巻漁港は、震災を機に高度衛生管理に対応した荷さばき所(魚市場)や耐震強化した岸壁を一体的に整備し、新たな水産業を目指した復興に取り組んでいる(1)(2)。また、港の後背地にある石巻市水産加工協同組合は、国の「水産業共同利用施設復旧整備事業」を活用し、加工業者が利用する冷凍冷蔵庫などの設備の復旧を行った(3)

漁業者による漁港のガレキ撤去(課題①)

 漁場のガレキについては、国や県の助成により漁業者が撤去を進めた。例えば、大船渡市漁業協同組合では、2011年度は水産庁の「漁場生産力回復支援事業」を活用、2012年度は緊急雇用創出事業を活用して組合員を雇用しガレキ撤去に従事させた。その結果、ガレキ撤去による漁港の早期復旧と被災漁業者の雇用機会の確保を両立させることができた(4)

国・県の助成による漁業・養殖業の早期再開(課題②)

 水産庁は2011年4月に「復興支援プロジェクトチーム」を設置し、チーム員を被災地に派遣した。チーム員は、漁業者をはじめ漁業協同組合、産地卸売市場等の関係者から被災地の水産業の現状や復興支援のニーズを聞き取り、復旧・復興対策の周知や、国の支援事業についての説明、書類作成等のアドバイスを実施することで、適切な支援が行われるよう、現地支援体制を整備した。
 漁船などに被害を受けた漁業者を支援するため、国が漁協に対して漁船や定置網の購入について助成したほか、一本釣りとまき網の2種類の操業など収益性の高い操業体制への変換や養殖業の共同化による経営再建について国が助成を行った(5)
 被災した漁業協同組合や水産加工業協同組合に対しては、製氷施設などの共同利用施設や、かきやわかめなどの養殖の加工施設、放流用種苗生産施設の復旧についても国の助成制度が有効な支援となった(6)

組合員の共同方式による漁の早期再開(課題②③)

 岩手県宮古市の重茂漁業協同組合は、震災前は養殖ワカメ・天然アワビの水揚げ量日本一を誇り、サケ漁・コンブ漁も盛んに行われてきたが、震災により漁協に所属する漁船814隻のうち798隻が流失し、コンブ・ワカメの養殖・加工施設が全壊するなど壊滅的な被害を受けた。
 震災3日後、漁協の組合長が対策本部を設置し、いち早く漁を再開するために、津波被害を受けなかった日本海側などでの中古船の買い付けやがれきの中や高台に残る定置船の修繕等により漁船を確保し、5月の天然ワカメ漁では70隻が出漁した。それでも全ての漁船を復旧させることはできなかったため、「漁船シェアリング」の仕組みを考案した。具体的には、集まった漁船を4~5名ずつのグループを組んで漁船を共同利用し、船の数が揃うまでには、水揚げによって得た収益はグループ内で平等に分配した。漁船が揃いだした2012年には、共同利用でも時間帯をずらして乗船し、水揚げを出漁ごとの分配にするなど、徐々に元の形に戻していった。その結果、船を失った漁業者も、個人で借金を負わずに早期に漁を再開することができた(7)(8)

水産業・水産加工業の協業化・組織化による事業再開(課題③)

 東日本大震災の津波により、宮城県気仙沼市鹿折地区は全域で壊滅的な被害を受けた。地域の水産業の復興をいち早く目指すため地域で団結し、2012年8月に被災した水産加工業者17社が参加し、複数の大手商社が支援する気仙沼鹿折加工協同組合を設立した。同組合は、水産庁の水産基盤整備事業を活用して土地の嵩上げ工事を実施し、工事終了後、水産業共同利用施設復旧整備事業を活用して大型冷蔵施設・海水滅菌施設を整備した。汎用性の高い施設を地区内に整備することで、業務効率化につながるとともに、施設を共同保有することにより、設備投資の費用が著しく軽減できた(事例47-1)。

教訓・ノウハウ
① 漁港施設の早期復旧とあわせて新たなニーズに応える漁港機能を強化する

水産業の早期復旧のため、国の代行による主要漁港の復旧を行う。

高度衛生管理に対応した魚市場の整備や耐震強化した岸壁を整備する。

② 現地支援体制を迅速に整備し、国・県の多様な支援制度を適切に活用できるようにする

国・県の支援制度を迅速に周知し、適切に活用できるようにすることで、早期再開を実現する。

③ 協業化・組織化により事業の再生と効率的な経営を実現する

漁船シェアリングにより、漁の早期再開を実現する。

組合のつながりを活かして組合員の団結力を高める。

経営規模の小さい水産加工業者は、協業化や組合設立により効率的な経営体制を構築する。

<出典>
(1) 石巻市「復旧・復興に向けた取組状況」p58-61
(2) 農林水産省「水産業共同利用施設復旧整備事業」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/budget/23_hosei/pdf/set4-1.pdf

(3) 亀岡紘平「宮城県内の水産加工業の復興状況と協同組合の貢献」『農林金融2015・6』p328-341
https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n1506re1.pdf

(4) 労働政策研究・研修機構「労働政策研究報告書 No.169 復旧・復興期の被災者雇用―緊急雇用創出事業が果たした役割を「キャッシュ・フォー・ワーク」の視点からみる―」p96-100 2014年
https://www.jil.go.jp/institute/reports/2014/documents/0169_02-1.pdf

(5) 水産庁「2011年水産白書」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h23/pdf/03_dai1shou.pdf

(6) 農林水産省「水産業共同利用施設復旧整備事業」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/budget/23_hosei/pdf/set4-1.pdf

(7) 復興庁「岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ次代の萌芽~東日本大震災から8年~」2019年2月
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat4/sub-cat4-1/20190215142526.html

(8) 農林水産省「MAFF TOPOCS 船を失った漁業者も、漁を続けられる”漁船シェアリング”をいち早く導入[重茂漁業協同組合]」『aff 2013年5月号』

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