復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

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産業人材の確保

事例名 新たな人材の確保
一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン
場所 宮城県石巻市
取組時期 応急期復旧期復興前期復興後期
取組主体 一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン

取組概要

 一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンは、三陸沿岸部に位置する自治体の基幹産業である漁業・水産加工業の人手不足に対応するために、2014年、漁業に従事する若者によって結成された団体であり、漁業の新しい働き方として「新3K(カッコよくて、稼げて、革新的)」を提唱し、従来の漁業の変革をアピールすることで、新たな人材を確保するために活動している。
 主な活動内容は、海産物水産加工品等の販売に加え、漁業のPR活動やグッズの販売、後継者育成など多岐にわたっており、漁業を通じて被災地の産業復興を目指している。

具体的内容

東日本大震災を契機とした漁業・水産加工業の就業者の減少

 東北地方の沿岸部は、日本有数の漁港のまちとして知られ、街に面している三陸海岸は「世界三大漁場」と呼ばれるなど、多くの漁師が漁に取り組んだ「好漁場」である。
 しかし、地方の過疎化が進んだことに加え、漁業従事者の高齢化も重なったことで、基幹産業である漁業・水産加工業の人手不足が深刻になっていた。その矢先、東日本大震災が発生し、津波により街全体が甚大な被害を受け、まちを支えてきた漁業・水産加工業も施設・設備が流出し、就業者も働く場を失うなどこれまでの産業の低迷がさらに加速するものと思われた。三陸沿岸部に位置する自治体では、人手不足や販路喪失をいち早く解消し、「漁業の復興」が重要な課題となった。

フィッシャーマン・ジャパンの設立

 こうした漁業・水産加工業の人手不足・販路喪失を立て直すために登場したのが「フィッシャーマン・ジャパン」である。フィッシャーマン・ジャパンは「東北の若手漁師軍団」をコンセプトに、2014年に結成された一般社団法人であり、これまでの漁業のイメージ大きく変え、水産業・水産加工業の新たな担い手を確保するために立ち上がった若者中心の団体である。
 団体の設立は、地元漁師たちの「後継者を確保したい」という思いがきっかけである。沿岸部の漁協では、長年の課題として「後継人材の確保」という問題を抱えており、震災後は新たな担い手の確保を目指して地元の若者たちに声をかけ続けた。「東北の水産業の活性化を通じて復興を後押ししたい」という若者たちが集まって結成されたのが、フィッシャーマン・ジャパンである。

「新3K」による新しい漁業の提唱

 主な活動は、漁に出て水揚げした鮮魚の首都圏での販路開拓、銀鮭養殖の世界認証取得(ASC)・ブランド化、漁業の未来をテーマとしたシンポジウムの開催、オンラインショップによるカキ・ホタテなどの水産物販売、若者を対象にしたインターンの実施、キーホルダーなどグッズの販売など若者の視点から斬新な事業を展開している。
 フィッシャーマン・ジャパンは、漁業に対する従来のイメージを刷新し、「新3K」(カッコいい、稼げる、革新的)を提唱している。新しい漁業・漁師のスタイルを社会に打ち出すことで、水産業のイメージ刷新、新たな人材の確保、水産加工品のPRを目指している。
 現在、最も力を入れているのが「後継者の育成」である。ここでは、新しい漁師を育てることを目的としたTRITON PROJECT(トリトンプロジェクト)として、「漁師」や漁業・水産業に関心のある若者のための相談窓口、水産業専用の求人サイトの運営、漁業を学べる短期研修プログラムなどを用意している。また地元漁師、自治体、大学が一丸となって様々なイベントを実施しており、地域を挙げて後継者の確保・育成に取り組んでいる。

他地域への漁業革新の広がり

 現在も、フィッシャーマン・ジャパンは、担い手の確保、販路の開拓を目指して、事業に取り組んでいる。例えば、消費者と漁師の触れ合う場を設けて商品の魅力を発信するために飲食店を開業し、東京で直送の魚介類の販売を行うなど販促活動を全国へ展開している。さらに石巻駅前で漁師たちが集まるコミュニティスペースを開設するなど、石巻の漁業を活性化させるための活動にも精力的に取り組んでいる。
 他県の漁業者とのつながりも生まれており、北海道や福岡でも同様の組織の立ち上げに協力するなど、地域の枠を超えて、活動に取り組んでいる。

若手人材の育成・働きやすい職場環境の整備

写真:フィッシャーマン・ジャパン・イメージフォト
(写真提供:フィッシャーマン・ジャパン)

<出典>(他の事例集等への掲載)
・公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構「事例に学ぶ生活復興」(2018年)
https://www.reconstruction.go.jp/topics/m18/04/20180410_seikatsufukko.pdf

・フィッシャーマン・ジャパン 公式サイト
https://fishermanjapan.com/

・「ヤフーの社員だからこそできること、やるべきことがある! ヤフー株式会社、長谷川琢也さん(フィッシャーマン・ジャパン発起人)」(プランナーズラボ、2017年3月)
・農林水産省「漁業の新潮流(1)水産業の復興に向け担い手を育成」(2019年8月)
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1908/spe1_02.html

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