59)
民間企業による復興支援
応急期復旧期復興前期復興後期
② 企業はどのように国・地方公共団体、NPOと連携・協働し復興支援を行う
東日本大震災における状況と課題
東日本大震災の発災に際しては、様々な企業より、義援金の拠出や自社製品の提供など、積極かつ活発な復興支援が行われた(1)。東日本大震災での企業等の支援活動の主な特徴として、金銭面での支援に加えて、①本業の強みを生かした多様な支援活動、②対応の迅速さと長期にわたる支援のコミットメント、③国・地方公共団体、NPO等との連携・協働があげられる(2)。さらに、社員教育も兼ねた社員のボランティア派遣など、企業の支援のあり方が変わった。
また、東日本大震災では、被災地が広域にわたり、復旧・復興が長期に及んだことから、企業はどのように被災地の復興支援に取り組むのか、また、息の長い支援をどのように継続していくかが大きな課題となった。一方で、企業の社会貢献意欲の高まりを背景に、国・地方公共団体、NPO等と連携・協働した復興支援の取組も注目を集めた。
東日本大震災における取組
経団連や経済同友会等による情報の集約・発信(課題①)
一般社団法人日本経済団体連合会では、東日本大震災発生後直ちに「東日本大震災対策本部」を立ち上げるとともに、企業等の社会貢献活動を推進するために1990年に設立した「1%クラブ」を通じ、経団連のホームページや1%クラブニュースにて、支援金の募集や災害ボランティアセンター立ち上げのための資機材の提供、企業人ボランティアプログラムの企画・実施等を呼びかけた。また、東日本大震災支援全国ネットワーク(JCN)の協力を得て、被災地や被災者ニーズを集約し、企業に広く情報を提供した(2)。2015年3月に開催された第3回国連防災世界会議では、企業の防災・減災技術等を世界に発信した(3)。
経済同友会が2012年4月より実施した、復興をリードする人材育成プロジェクトである「東北未来創造イニシアティブ」では、同友会会員企業の社員を被災地の釜石市、大船渡市等の地方公共団体や企業に派遣し、現場の職員と共同して復興業務に従事し互いに学びあうことで成長の機会とした(4)。
本業を生かした多様な支援(課題①)
株式会社資生堂は、被災者へのスキンケア等の美容サービスを行う「ビューティ支援活動」や気仙地区の商材を集めて社内で販売する「復興支援マルシェ」の支援を行った。また、同社のシンボルマークが「花椿」であることから、椿を市の花とする岩手県大船渡市で社会貢献活動として椿の植樹活動を行うとともに、本業の一環として、地元の「気仙椿」の認知度を高める香水やドレッシングの製品開発と販売を行った(事例59-1)。
外資系企業のGoogleは、災害の発生に対応した危機対応チームを常設しており、東日本大震災の発災直後、ハイチ地震などで使われた安否確認サービス「パーソンファインダー」の日本語版を提供した(5)。具体的には、避難所に掲示されている安否情報の写真をネット上にアップロードし、その写真から避難所にいる被災者の氏名を「パーソンファインダー」に入力することとした。3月29日には入力ボランティアは5千人、入力件数は14万件を上回り、迅速な安否確認情報の提供につながった(6)。
長期にわたる支援(課題①)
三菱商事株式会社は、2011年4月、総額100億円の東日本大震災復興支援基金を創設し、義援金や支援物資の提供、奨学金給付、NPOへの助成などさまざまな支援活動を展開した。2012年3月に、より柔軟で継続的な支援を展開するため、「三菱商事復興支援財団」を設立し、従来からの奨学金やNPO等への助成に加え、産業復興や雇用創出の取組を支援することとし、福島県郡山市の「ふくしまワイナリープロジェクト」などの支援を展開している(7)。
ヤマトグループは、発災直後から宅急便1個につき10円の寄付を「ヤマト福祉財団」に行うことによって、総額142億円の「東日本大震災生活・産業基盤復興再生募金」を創設し、2017年までの期間で、被災3県の水産業、農業、商工業、生活を対象に31事業を支援した(事例59-2)。
国・地方公共団体、NPOとの協働・連携(課題①②)
武田薬品工業株式会社は、「日本を元気に・復興支援」プロジェクトを立ち上げ、10年間で13のプログラム等に対して約43億円の支援を行っている。そのうちの「タケダ・いのちとくらし再生プログラム」は、日本NPOセンターと実施している協働事業で、被災地での福祉・保健支援や雇用創出に繋がる生活基盤の整備支援、応急仮設住宅から復興公営住宅への移転に伴う住民主体のコミュニティ形成支援、NPOのリーダー育成などの支援を行っている。このほか、ボランティア活動を希望する社員のサポート、被災地の特産品を社内で販売する「企業内マルシェ」の開催など、「モノ」と「カネ」だけに留まらない幅広い復興支援活動を行っている(事例59-3)。
味の素株式会社は、行政機関、栄養士会、NPO等と連携して、応急仮設住宅の入居者の健康・栄養面での課題を解決するため、住民が調理をし、料理を囲み、語り合う場を提供する「健康・栄養セミナー(後に「ふれあいの赤いエプロンプロジェクト」)」を2011年10月より開始した(8)。
UBSグループは、岩手県釜石市を中心に、地域コミュニティの再活性化、住民主体の取り組みを支援する「釜石コミュニティ復興支援プロジェクト」を実施した。具体的には、パートナー団体である一般社団法人RCFの常駐専門スタッフとUBS社員ボランティアがマンパワーや専門性を提供し、地元の若手事業者のネットワーク「NEXT KAMAISHI」とともに「釜石よいさ」夏祭りの復活、車いすやバギーでも上れる「避難道づくり」、地域住民への聴き取りを重ねた「共同体の記憶と記録を綴る震災本」の発行等、行政機関・企業・非営利組織の協働によって地域ニーズに即した復興支援を行った(9)。
被災地の情報の集約を行い、企業等に広く発信する。
企業の規模に応じて義援金や救援物資の寄付などの支援を行う。
企業の技術力を生かして行政機関やNPOでは対応できない被災者支援を行う。
平時から社会貢献活動に取り組み、その経験を生かす。
社員の自発的なボランティア活動をサポートする。
行政機関の支援が十分に及ばない取組に対して資金的な支援を行う。
NPO等による多様な取組に対する資金的な支援や協働事業を行う。
企業のノウハウを活かし、行政機関やNPO等と連携して被災者支援やコミュニティ復興支援等を行う。
(1) 東洋経済ONLIE「復興支援を継続する、志のある企業」2014年3月
https://toyokeizai.net/articles/-/32489
(2) 一般社団法人日本経済団体連合会「東日本大震災における経済界の被災者・被災地支援活動に関する報告書-経済界による共助の取り組み-」
https://www.keidanren.or.jp/policy/2012/011.pdf
(3) 一般社団法人日本経済団体連合会「防災・減災に資する技術等の普及・開発促進に向けて」2015年2月17日
http://www.keidanren.or.jp/policy/2015/016_honbun.pdf
(4) 公益財団法人経済同友会「経済同友」2017年3月号 No.796
https://www.doyukai.or.jp/publish/2016/pdf/2017_03_01.pdf
(5) Google Crisis Response「東日本大震災と情報、インターネット、Google:クライシスレスポンスの仕組み」2012年3月23日
https://www.google.org/crisisresponse/kiroku311/chapter_04.html
(6) Google Crisis Response「東日本大震災と情報、インターネット、Google:パーソンファインダー、東日本大震災での進化(2)」2012年4月13日
https://www.google.org/crisisresponse/kiroku311/chapter_07.html
(7) 三菱商事株式会社「東日本大震災復興支援活動」
https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/csr/contribution/support-for-natural-disaster/eastjapan/
(8) 公益財団法人味の素ファンデーション「ふれあいの赤いエプロンプロジェクト」
(9) UBSグループ「釜石コミュニティ復興支援プロジェクト」