復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

62)

長期にわたる職員派遣の継続

復興前期復興後期

課題
① 応援地方公共団体は復興期における応援職員をどのように確保するか
② 長期派遣職員の負担軽減にどのように配慮するか

東日本大震災における状況と課題

 震災の復旧期から復興期に入ると、復興まちづくりに向けた事業用地確保や建築・土木工事の設計・発注・管理等の業務の比重が高まり、被災地方公共団体で技術系職員のニーズが高まった。しかし、全国の市町村では大量採用世代の退職や公共事業の減少などで、土木職等の技術職員不足が深刻化しており、被災地方公共団体においても復旧・復興事業に従事する技術職員の派遣ニーズの半分が充足されていない状況にある(1)。また、中長期の派遣職員に対する心身のケアや、派遣職員の宿泊場所の確保が求められた。

東日本大震災における取組

任期付職員の採用による職員確保(課題①)

 東京都では、被災地の技術職員不足の課題に応えるため、現役の都職員の派遣に加えて、「任期付職員制度」を活用し、行政機関や民間での経験者を一般任期付職員として採用のうえ、地方自治法に基づき被災市町村に派遣する新たなスキームを導入し実施した。これらの職員は、全員が土木・建築職で、東北3県の被災市町村で土木・建築工事に係る発注、設計、積算、工事監督等の業務に従事した。任期は1年(最大5年)で1年ごとに任期更新を行い、2017年8月までに累計182名を派遣した(事例62-1)。

中長期派遣体制の強化(課題①)

 2020年度には、総務省は、「復旧・復興支援技術職員派遣制度」を創設し、都道府県等が技術職員を増員し、平常時は技術職員不足の市町村を支援するとともに、大規模災害に備えて中長期派遣の要員を確保する場合、当該技術職員の人件費について地方交付税措置で支援することとした(2)(3)

復興庁スキームによる非常勤国家公務員の採用(課題①)

 復興庁では、被災市町村におけるマンパワーの確保のため、一般公募により国家公務員(非常勤職員)を採用し、被災市町村に派遣し、復興業務を直接支援する取組「復興庁スキーム」を2013年から行っている。
 募集に年齢制限等はなく、民間企業出身者や公務員OB等、様々な経歴の人が採用されており、業務内容は、市町村の復興計画・方針の策定、土木、農業、建築、用地取得、保健、専門分野の業務支援である(4)。2020年4月現在82人が被災市町村の支援に当たっている。

専門技術職の派遣のための代替職員の確保(課題①)

 長期間の職員派遣にあたっては、派遣元所属の業務執行体制が円滑に確保されることが前提となる。特に、現職の技術職を派遣した場合、補充職員は公募しても適任者が見つからないケースも多い。そこで、愛知県では従来から専門技術職で臨時的任用を希望する者をあらかじめ登録する仕組みを設けており、補充を必要とする職と希望者とのマッチングを行っている。また、愛知県退職職員による互助組織の協力を得て、県職員OB(約4千人)に対し、会報送付時に被災地地方公共団体の職員採用情報を案内するとともに互助組織の持つホームページへ掲載している(5)

派遣元・派遣先による派遣職員への配慮(課題②)

 宮城県気仙沼市では、工事関係者などによって近隣宿泊施設が不足するなか、派遣職員の住居を確保するため、空き室となっている市内の仮設住宅を派遣職員の宿泊場所として提供した。
 釜石市に職員を派遣した東海市では、釜石市内にアパートの空きが少なく、また、仮設住宅は市街地から遠いことから、市がホテルを借上げ、宿泊場所を確保した(事例60-2)。
 東京都三鷹市と長崎県島原市では、派遣職員向けの相談窓口の設置や月一回程度の帰庁日を設けて派遣先での業務や生活について面談するなど、派遣者の心身のケアを行った(5)
 広島県府中市では、職員派遣に際し、を同じ職場の職員同士2人をペアとし、同じ地方公共団体の同じ部署に派遣することとした。これによって派遣先での勤務負担や精神的な不安を軽減した(5)
 奈良県の田原本町では、被災地の惨状を見て精神的なストレスを受けた職員に対して、元の所属に復帰した後、職務専念義務を免除する対応を行った(6)
 岩手県山田町では、派遣職員全体に年1回のストレスチェックと、気軽に相談できる機会として月2回臨床心理士によるカウンセリングの場を用意することで職員の精神状態に配慮した(6)

教訓・ノウハウ
① 応援地方公共団体は任期付職員や職員OBの再任用の活用により応援職員を中長期に派遣する

応援職員を任期付職員として採用し中長期に派遣する。

長期間の派遣によって派遣元の業務執行体制が維持できるよう、OBのネットワークを活用し、臨時任用職員として補充する。

② 応援地方公共団体は被災地方公共団体と調整の上、派遣職員の生活環境や心身のケアなど、派遣職員の負担軽減に配慮する

現地活動拠点などで派遣職員との面談の機会を設け、派遣者のケアを行う。

同じ職場の職員を2人1組で派遣するなど、勤務や精神面での負担を軽減する。

派遣が中長期になる場合は、被災した地方公共団体において派遣職員の宿泊場所を確保する。

<出典>
(1) 宮城県「県内市町村における任期付職員の募集」2020年11月
(2) 総務省「技術職員の充実による市町村支援・中長期派遣体制の強化」2020年3月
(3) 総務省「復旧・復興支援技術職員派遣制度(復旧・復興技術支援職員確保システム)に関する要綱」2020年3月
(4) 復興庁「令和2年度 復興庁 市町村応援職員募集」
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat9/sub-cat9-3/20171219092156.html

(5) 総務省「東日本大震災の被災地方公共団体への職員派遣に際し、工夫している取組の例」2012年
https://www.soumu.go.jp/main_content/000208135.pdf

(6) 復興庁「復興人材の確保及び運用に関する調査報告書」2018年6月
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat3/material/20180601_manpowerzentai.pdf

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