復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

27)

建設型応急住宅の建物の維持管理

復旧期復興前期復興後期

課題
① 建物の長期利用に向けてどのように対応するか
② 被災地の気候やバリアフリー等に建設費も考慮しつつどのように配慮するか
③ 空き室をどのように活用するか

東日本大震災における状況と課題

 応急仮設住宅の供与期間は建築基準法において最長2年3ヶ月とされている。この期間は著しく激甚な非常災害(特定非常災害)に際しては1年ごとの延長が可能とされている。東日本大震災においても復興が長期化する中でこの規定が適用された(1)(2)。長期にわたって供与される中で、建設型応急住宅の建物が風雨で劣化し補強が必要になる等、建物の修繕対応が課題となった(3)(4)
 発災後、初期に供給されたプレハブ建設型応急住宅は、その後供給された建設型応急住宅に比べ、居住性に課題があり(3)、その改善に向けた様々な工夫がなされた。ただし、それに伴う建設費の高騰が課題となった。
 建設型応急住宅団地の建設後には、必要戸数調査時の人員不足、賃貸型応急住宅の供給、建設用地不足で不便な土地に団地が建設されたことなどにより空き室(5)が発生し、その対応が求められた。

東日本大震災における取組

保守管理センターの設置(課題①)

 建設型応急住宅の長期利用に向けた修繕等については、宮城県では各市町村の窓口を通じて行われたが、岩手県では一般財団法人岩手県建築住宅センターに委託して「応急仮設住宅保守管理センター」を設置し、県内の建設型応急住宅に関する不具合や補修要請を受け付ける窓口を一元化した。高齢者等要配慮者にも使いやすいよう手すりやスロープを設置するなど、入居者の苦情や希望に応じた(事例27-1)。

基礎の補強やコンクリート化(課題①)

 岩手県では、建設型応急住宅に不具合が生じる前(被災から4〜5年後)に、基礎(木杭)の計画的な修繕を進めた。基礎の劣化が認められ、かつ、被災から8年を超えて利用が見込まれる住戸の点検を行い、劣化した木杭の脇に鋼製束を設置するなどの補強工事を行った(6)

被災地の気候やバリアフリー等に配慮した居住性向上への取組(課題②)

 主にプレハブ建設型応急住宅の居住性向上に向けて様々な取り組みがなされた。
 暑さ・寒さ対策としては外壁への断熱材貼り付けや風除室・二重ガラス・日よけ・庇・風呂の追い焚き機能・ストーブ・カーペット・暖房便座の設置、緑化などの対応がなされた(3)(7)
 バリアフリー対策として、先述の手すりやスロープ設置以外では建設型応急住宅団地内の舗装がなされた(7)
 室内外の居住性の向上については、畳への張替え(7)や外部の建築専門家である大学教員や大学生の協力・指導のもとで、居住者自身も作業に参加しながら建設型応急住宅を使いやすいよう改修する取組などが行われた。この取組では軒先収納や縁台、室内棚などが製作され、その活動が建設型応急住宅団地のコミュニティ形成にも役立った(8)
 ただし、このような取組を続ける中で、建設費が高騰した。宮城県では当初から、1戸当たりの基準額238万7千円に建設用地の造成や水道・電気等の新設工事を考慮して、1戸当たり約552万円を見込んでいた。しかし、居住性向上に取り組んだ影響もあり、2012年10月時点で約744万円になる見込みとなった(5)(9)。また、プレハブ建築協会住宅部会による建設コストは建設型応急住宅が500~600万円、地元業者による木造建設型応急住宅が600~650万円程度とされている(3)(いずれも買取りのため、解体費等は含んでいない。)。

空き室の有効活用(課題③)

 厚生労働省は、空き住戸の活用について、2011年8月に集会や談話等のスペース、多人数世帯で居住スペースが著しく狭隘であるなどの場合における複数戸利用等を認めた。また、2012年1月には建設型応急住宅で入居希望者がない空き住戸について、入居希望者が現れるまでの期間に限り、他の地方公共団体からの応援職員や地元の地方公共団体から要望や委託を受けて活動しているボランティア等の宿泊利用について今災害に限り認めた(5)(10)
 これにより空き室が発生した建設型応急住宅団地では、実際に他の地方公共団体からの応援職員の宿舎(5)、談話室(11)、被災者以外のUターン者や被災地での復興事業に従事する新規就職者向けの住まいとして活用する(12)など、今災害に限り特例的に認め、様々に有効活用が図られた。

教訓・ノウハウ
① 被災状況を踏まえて長期の維持管理対策を検討する

賃貸型応急住宅(2年間で1戸あたり183万円程度(13))を積極的に活用しつつ、被災状況を踏まえて、建設型応急住宅の供与を行う。

なお、特定非常災害特別措置法の規定に基づき、都道府県知事等が応急仮設住宅の存続期間の延長許可をした場合には、維持管理を適切に行う。

② やむを得ず空き室が発生した時は適切な対応を検討する

時間の経過とともにやむを得ず空き室が出た場合には、国と相談の上で用途廃止を行い、他用途に転用することも考えられる。

なお、東日本大震災の特例として、空き室を大人数の世帯や他の地方公共団体等からの応援職員用等の宿舎に活用することが認められたケースがある(ただし、これは東日本大震災のような大規模な災害時においてのみ特例的に認められ得るものであることに留意すること。)。

<出典>
(1) 国土交通省住宅局住宅生産課「応急仮設住宅建設必携中間とりまとめ」2012年5月pp.11,
https://www.mlit.go.jp/common/000211741.pdf

(2) 大水敏弘「岩手県における被災者住宅確保等のための取組み」2012年1月27日pp.40,
https://www.cbr.mlit.go.jp/kensei/jutaku_seibika/h23/pdf/saigaishien-siyou3.pdf

(3) 川崎直宏「仮設住宅等における建築生産システムについて」都市住宅学98号, SUMMER, pp.33-37, 2017 ,
https://www.jstage.jst.go.jp/article/uhs/2017/98/2017_33/_pdf/-char/en

(4) 時事ドットコムニュース「【図解・社会】東日本大震災3年半・プレハブ仮設住宅の入居状況」2014年9月10日,
https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_soc_jishin-higashinihon20140910j-04-w410

(5) 宮城県「東日本大震災―宮城県の発災後1年間の災害対応の記録とその検証―」2015年3月pp.585,590
(6) 岩手県県土整備部建築住宅課「改訂応急仮設住宅の 応急仮設住宅の基礎等改修計画」(2015年3月30日作成、2016年6月2日改定)
https://www.pref.iwate.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/010/338/kaisyuukeikaku280603.pdf

(7) 国土交通省「資料2:東日本大震災における応急仮設住宅の建設に係る対応」(2011年10月・国土交通省 報道発表資料 東日本大震災における応急仮設住宅の建設に関する報告会の開催について)
https://www.mlit.go.jp/common/000170090.pdf

(8) 新井信幸「復興プロセスにおけるコミュニティ・デザインの実践―仙台市・あすと長町仮設住宅での住民主導の復興への取組―」, 都市住宅学, 81号, p.54-57, 2013
(9) 時事ドットコムニュース「【図解・社会】東日本大震災・仮設住宅1戸当たりの建設費用」2012年5月12日,
https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_soc_jishin-higashinihon20120512j-01-w590

(10) 厚生労働省社会・援護局総務課長通知「建設された応急仮設住宅の空き住戸の活用について」2012年1月,
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000020xfe-att/2r98520000020xh2.pdf

(11) 特定非営利活動法人全国コミュニティライフサポートセンター「念願の集いの場!住民の声によってできた談話室」,月刊 地域支え合い情報, Vol.22, pp.7-8, 2014.6,
https://www.clc-japan.com/sasaeai_j/pdf/vol022.pdf

(12) 復 興 庁 被災者に対する健康・生活支援に関するタスクフォース「被災者の健康・生活支援に関する総合施策~現場の課題への対応による施策の強化~」2014年8月25日, pp.18,
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat2/20140825_sougousesaku.pdf

(13) 大水敏弘「東日本大震災における応急仮設住宅の特徴~国及び地方公共団体の役割と対策~」 都市住宅学98号, SUMMER, pp.10-15, 2017 ,
https://www.jstage.jst.go.jp/article/uhs/2017/98/2017_10/_pdf/-char/en

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