福島の食の魅力を発掘して 生産者も消費者も喜ぶ地産地消の形を実現

株式会社孫の手

【福島県郡山市】

福島の食の魅力を発掘して
生産者も消費者も喜ぶ地産地消の形を実現

企業情報

  • 企業名 株式会社孫の手
  • ヨミガナ カブシキガイシャマゴノテ
  • 業種 その他の生活関連サービス業
  • 代表者 山口松之進氏[代表取締役]
  • 所在地 本社:福島県郡山市安積町長久保1-2-7
    レストラン「Best Table」:福島県郡山市朝日1-14-1
  • TEL 024-945-1313(本社)
  • WEB https://magonotetravel.co.jp/
  • 創業年 2008年
  • 資本金 5,000万円
  • 従業員数 22人
  • 売上高 1億5,885万円

企業概要

2000年の介護保険制度導入に向け、高齢者や移動困難者の利用を視野に、山口タクシーグループが県内のタクシー事業者の中では先駆けて介護タクシーを導入。2008年に旅行会社を設立、2018年にフードキャンプ事業を始めた。

社員40名がヘルパー2級。高齢化社会を見据え介護タクシーへ参入

福島県を代表する商業工業都市である郡山市では、自家用車が普段の生活に欠かせない移動手段となっている。車を持たない、何らかの理由で運転したくてもできない市民の重要な足となっているのが、創業60年以上の歴史を持つ山口タクシーグループだ。

タクシー事業やバス事業、運送事業など全部で8事業ある中に、トラベル事業を担う「孫の手トラベル」がある。運営する株式会社孫の手代表取締役の山口松之進氏は「かゆいところに手が届く120%のサービスをできるように、孫の手としました」と名付けた理由を教えてくれた。

サービスを始めたきっかけは、2000年4月から施行されることが決まっていた介護保険制度だったという。山口氏は「この制度が制定されたのが1997年。ちょうど私がグループ会社である郡山観光交通株式会社の専務として戻ってきた時で、郡山に限らず全国的にタクシーの利用者が減り、業界は右肩下がりの状況でした」と振り返る。

そんな時に耳にしたのが、福岡県北九州市のタクシー会社が介護タクシーを走らせ始めたという話題だった。山口氏は現地へ視察に赴き、利用する高齢者の感謝の言葉、運行する介護ドライバーの充実した笑顔を見て、介護タクシーは今後さらに進む高齢化社会の中で必ず必要とされる事業となるはず、と実感。そして、新規事業に挑戦した。「制度開始の前年から、私を含めた社員40名でヘルパー2級の資格を取得し、介護タクシー事業を立ち上げました」。

代表取締役の山口松之進氏 代表取締役の山口松之進氏

玄関から玄関まで。軌道に乗りかけたワンストップのバスツアー

事業を始めて利用者の幅が広がったことで、これまで見えていなかったことにも気付くようになったという。「介護保険制度は契約制度なので、書類を頂くためご自宅に伺うのですが、家族と一緒に暮らしていても世話をしてもらえない、買い物に連れていってもらいたいけど遠慮して言えないなど、多くの高齢者が自宅に閉じ込められていると感じました。そこで、楽しみのための外出をしてほしいと立ち上げたのが『孫の手トラベル』でした」と続ける。

2009年に事業開始した孫の手トラベルのバスツアーが他と大きく異なる点は、自宅からタクシーの送迎付きということ。行きも帰りも自宅の玄関までタクシーが利用できるため、集合場所まで向かわなくてもいい。これは移動が困難な高齢者などにはありがたいサービスだ。さらに早朝の出発なら地元の弁当店の愛情がこもったおむすびが付くというから、たまらない。

「一歩家を出て、四季を楽しみ、おいしいものを食べることは元気の源になると思います。何よりお客さまが笑顔になってくれるのがうれしい」と山口氏。

順調に利用者も増えてきた2011年、東日本大震災に見舞われバスツアーは中断を余儀なくされた。「地元の利用者は生活再建が最優先で大変な日々を過ごしており、半年後くらいにツアーが再開できてお客さまの笑顔を見た時はうれしかったです」と当時を思い出す。

生産者の思いがこもった食材は、福島の魅力、福島の誇り

観光業は回復の兆しが見えてきたものの、福島県は放射能による風評という問題を抱えることになる。当時、福島県の食材は全品に放射能検査が実施され、少しでも放射能反応がある食材は排除されており、出荷される食品は全て「安全な食品」だったが、「安全」と「安心」は別物であり、福島県の食材への風評は消えなかった。

「福島の食材の安心が揺らぐ状況で、もっと安全でおいしいものを作り出そうと奮闘する生産者を見て、彼らが生み出す食材の魅力を多くの人に伝えるにはどうすればいいか模索しました」。

そんな時、山形県鶴岡市でイタリアン「アル・ケッチァーノ」を営む奥田政行シェフが復興レストラン「福ケッチァーノ」を開店。さらに同じ場所で、郡山市の日本調理技術専門学校に事務局を置く一般社団法人食大学が生産者と消費者をつなぐ「開成マルシェ」を開催するなど、農家支援が広がっていった。

そんな動きに協力する中、奥田シェフからお店を引き継ぐこととなった。それが現在の「Best Table」である。2015年には郡山市を中心に生産者の畑を訪れるバスツアー「フードキャンプ」を立ち上げ、2年のランディング期間を経て2018年、フードキャンプツアーを年間通しで本格的に開始した。

「福島の魅力は地元で食す四季折々のおいしい食材。フードキャンプは、お客さまが畑の見学や収穫体験を通して、生産者の工夫や苦労、楽しみなどの思いに触れることができる交流の場。それに、福島の一流の生産者たちを消費者のヒーローにしたいという思いがあるんです」と山口氏は言葉に熱を込める。生産者にとってもシェフが自分の食材をどんな一品に仕上げるのか、それを食べた参加者がどんな表情をするのかを知るまたとない機会となる。

奥田シェフから引き継いだ店を旬のベジカフェバル「Best Table」として運営
奥田シェフから引き継いだ店を旬のベジカフェバル「Best Table」として運営
奥田シェフから引き継いだ店を旬のベジカフェバル「Best Table」として運営
奥田シェフから引き継いだ店を旬のベジカフェバル「Best Table」として運営

生産者、シェフ、客が共有するのは福島の食の魅力と味わう楽しさ

これまでに70回以上開催し、延べ1,600人以上が参加したフードキャンプ。今後の展開はどうなっていくのか。

「まだ正しく評価されていない福島県の農産物の魅力や土地の魅力、そして、そこでがんばる方々の思いにフォーカスして、生産者と消費者をつなぐプロデュースをすることを目指す」と山口氏。さらには県内59市町村全てでフードキャンプを開催すること、各地にいる一流の生産者とシェフを地元の誇りとして自慢する風土づくりが目標だと続ける。孫の手トラベルの本業であるバスツアーで企画募集するだけでなく、フードキャンプを核に2泊3日環境ツアーにするなど、企業や自治体などに活用してもらおうと働きかけも始めた。

「フードキャンプは福島県内の食の魅力を知ってもらうための一つの手段。生産者が作る素晴らしい食材を、シェフが腕によりをかけておいしい一品に仕上げる。参加者はその料理をしっかりと味わう。おいしい・楽しいを入り口にして、福島の地にお越しいただき、福島の今と未来を実感してほしい」と山口氏は思いを口にする。まだ知られていない福島県の食の魅力を紹介するために、孫の手トラベルは今日も行く。

青空の下で福島の食の魅力を伝えるフードキャンプ
青空の下で福島の食の魅力を伝えるフードキャンプ
青空の下で福島の食の魅力を伝えるフードキャンプ
フードキャンプをまとめた本を出版 フードキャンプをまとめた本を出版
課題

・タクシー業界の落ち込みに伴い悪化しつつあった業績の回復が急務だった。

・移動困難者の外出機会を増やすためのサービスの企画が必要。

・東日本大震災の影響により観光業は停滞。さらに「福島県の食材は危険」という風評に直面する。

解決策

・社員40名がヘルパー2級を取得。介護保険制度の施行に合わせて介護タクシーを導入。

・自宅まで送迎付きのバスツアーを企画、運行を開始。

・生産者の畑で調理した料理を味わう「フードキャンプ」をスタートさせる。

効果

・これまで利用の少なかった高齢者や移動困難者の顧客を獲得。

・高齢者や移動困難者の利用が倍増した。

・70回以上開催したフードキャンプに、延べ1,600人以上が参加。福島県の食の魅力のPRにつながった。

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