避難から10年、カムバックした老舗カフェが 新しい町づくりの担い手をバックアップ

軽食・喫茶レインボー

【福島県大熊町】

避難から10年、カムバックした老舗カフェが
新しい町づくりの担い手をバックアップ

企業情報

  • 企業名 軽食・喫茶レインボー
  • ヨミガナ ケイショク・キッサレインボー
  • 業種 飲食店
  • 代表者 武内一司氏[オーナー・店長]
  • 所在地 福島県双葉郡大熊町大川原字南平1207-1(おおくまーと内)
  • TEL 無し
  • WEB 無し
  • 創業年 1978年
  • 資本金 個人事業主のため無し
  • 従業員数 4人
  • 売上高 非公開

企業概要

1978年、店主の武内一司氏が福島県大熊町でオープン。東京電力福島第一原子力発電所の事故により避難した福島県会津若松市で2011年10月に店を開く。2019年に大熊町の避難指示が一部解除され、2021年4月、新たな商業施設で営業を再開する。

30年以上営んだ店残し避難 会津若松市で再出発

東京電力福島第一原子力発電所の1号機の運転が始まったのが1971年。軽食・喫茶レインボーは7年後の1978年、店主の武内一司氏が25歳の時に、福島県大熊町にオープンした。大熊町役場があった町の中心部に店を構え、町の職員や5㎞ほど離れた東京電力福島第一原子力発電所の作業員も多く訪れ、ランチタイムになるといつも満席だった。

それから30年以上たった2011年3月、東日本大震災が発生。激しい揺れに武内氏は数人の客と店の外に避難したが、被害はなかった。その日の営業を終えて帰宅すると、知人や兄とその後の成り行きを見守っていた。

翌日に状況は一変。東京電力福島第一原子力発電所の事故によって町全域が避難指示区域となり、全町民1万1,505人が避難を余儀なくされた。武内氏は「店がどうとか言っている場合ではなかった。すぐに帰れるものと思っていたので、貴重品も何も持たずに、着の身着のままでバスに乗り込みました」と振り返る。

福島県田村市、三春町、喜多方市……。西へ西へと避難し、また次に移るとなった頃には「数年は戻ることはできないんだな」と覚悟したという。そしてたどり着いた会津若松市で2011年10月、居抜き物件で喫茶店をオープン。会津若松市には大熊町から多くの人が身を寄せており、そうした人たちが顔を合わせて話ができるコミュニティー、心のよりどころになればという思いもあった。県内でも所得の高い大熊町との物価の違いや、浜通りとの住民の気質の違いに多少苦労するも、避難者だけでなく近くの病院の利用者など多くの市民が来店し、にぎわった。

「会津の人は面倒見が良く、世話好きなんです。震災前から会津の人も知っていたから、だんだんと地元の人たちとなじんでいったね」。3年半営業を続けた後、惜しまれながらも店を閉め、新たに自宅を建てた南相馬市に移り住む。

オーナーで店長の武内一司氏 オーナーで店長の武内一司氏

商業施設開業の計画に携わり、10年ぶりに大熊町で営業再開

当時の大熊町長、渡辺利綱氏は店の常連客であり武内氏の酒飲み友達でもあった。会津若松市にもたびたび訪れ、「大熊町に町営の商業施設を造るので手伝ってほしい」と頼まれる。

そこで武内氏は入居予定事業者の一人として、喫茶店経営の経験を生かし各店の内装や什器(じゅうき)、調理設備についてアドバイス。また、出店者の負担を軽減するため、人件費や維持管理費の補助に関する提案まで行ったという。結果的に開業まで5年かかったが、ゼネコンをはじめ各種業者、行政との打ち合わせや折衝の日々で忙しい時期だったと当時を振り返る。

業者と意見が合わず、計画も二転三転。不信感が募り、渡辺氏に「もう辞める」と言ってけんかになり、「お前がやらないで誰がやるんだ」と一喝されたこともあった。「前町長がいなかったらやっていませんよ」と武内氏は笑う。

2019年4月に大熊町の避難指示が一部解除され、2021年4月に大熊町商業施設「おおくまーと」がオープンを迎える。コンビニエンスストア、美容室、コインランドリー、電器店、商店、食堂などが入居し、その一つとして軽食・喫茶レインボーも10年ぶりに大熊町での営業を再開。客はそれほど来ないだろうという武内氏の想定が外れてにぎわった。

2021年4月にオープンした商業施設「おおくまーと」内に店を構えるレインボー
2021年4月にオープンした商業施設「おおくまーと」内に店を構えるレインボー
2021年4月にオープンした商業施設「おおくまーと」内に店を構えるレインボー

軽食・喫茶レインボー自体は「最初から年金商売だっていう頭で始めたから売り上げは気にしていないよ」と武内氏。長年地元で営業してきた積み重ねがあり、住民だけでなく避難先で暮らす昔の常連客も帰省のたびに顔を出す。2世代、3世代にわたっての利用もあり、「そういうのはありがたいよね」と顔をほころばせる。

軽食・喫茶レインボーの店内。カウンターは3席、テーブルは14席ある 軽食・喫茶レインボーの店内。カウンターは3席、テーブルは14席ある
サイフォンで淹れたコーヒーをカップに注ぐ武内氏 サイフォンで淹れたコーヒーをカップに注ぐ武内氏

移住者や若者を巻き込んだ新しい町づくりを後方からサポート

2023年8月1日時点の大熊町の居住者数は455世帯575人、推計人口(※町に住民登録がない居住者を含めた推計人数)は1,092人。今も県内外には4,867世帯、1万5人が避難している。

「これから10年、20年でどれくらい戻ってくるかな。5,000人くらいになれば良いんじゃないの」と現実を見据える武内氏。「何しろ日本全体で人口が減っているし、双葉郡でも人の引っ張り合いになるでしょうから」とも。だからこそ長く続く廃炉作業に当たる作業員や、ハード面の再建を請け負う建設会社の従業員、その家族といった外部からの移住者に期待し、そのための支援や受け入れ体制づくりを町が積極的に行うべきだと提言する。

「お祭りだとかお盆の時期になればいわきや郡山に避難している人たちも戻ってくるけど、終わったらまた帰ってしまうでしょう。本当は地元の人たちが話し合って新しい町づくりを進めていくのが一番なんだろうけど、そういう状況では何も進んでいかない。東京から来た人も含めて、今いる人たちでつくっていくしかないんです、現実は」。

そのために、これからの町づくりの当事者である若者たちを後方から支援。大熊町の特定復興再生拠点区域で施設栽培を行う株式会社ネクサスファームおおくまのイチゴを使った「おおくまベリーみるく」を店で提供し、PRに一役買う。横浜市のホテルに勤務経験があり、夫の仕事で大熊町に移住した女性に、出張バーテンダーを務めてもらうイベントを開いたことも。大盛況で、月1回程の定期開催も予定しているという。

株式会社ネクサスファームおおくまのイチゴを使った「おおくまベリーみるく」(500円)とブレンドコーヒー(400円) 株式会社ネクサスファームおおくまのイチゴを使った「おおくまベリーみるく」(500円)とブレンドコーヒー(400円)

現在、大熊町ではかつてにぎわいの中心だった大野駅の西側で商業施設の建設が進んでいる。武内氏に施設運営を望む声もあったが、「ふざけんなって言いましたよ。今年でもう70歳ですよ。いつまで私にやらせるんだと」と笑う。町に信頼され、住民たちに親しまれ、移住者に頼られる武内氏。まだゆっくり休むことはできないようだ。

課題

・避難指示解除に伴う、軽食・喫茶レインボーの再建。

・今も県内外に1万人が避難し、町づくりが進まない。

解決策

・町に新たにできる商業施設の設立をサポート。

・移住者にも町づくりに参加してもらおうと活動を後押し。

効果

・10年ぶりに大熊町での営業を再開。

・活躍する若者が増え、新たな町づくりのプレーヤーに。

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