複数の職場を兼任するマルチワーカーの 派遣事業で人口減少の解消に貢献

奥会津かねやま福業協同組合

【福島県金山町】

複数の職場を兼任するマルチワーカーの
派遣事業で人口減少の解消に貢献

企業情報

  • 企業名 奥会津かねやま福業協同組合
  • ヨミガナ オクアイヅカネヤマフクギョウキョウドウクミアイ
  • 業種 職業紹介・労働者派遣業
  • 代表者 目黒祐一氏[代表理事]
  • 所在地 福島県大沼郡金山町大字玉梨字上中井1384
  • TEL 0241-42-7888
  • WEB https://kanefuku.org/
  • 創業年 2021年
  • 資本金 175万円(※)
  • 従業員数 10人(※)
  • 売上高 3,114万円(2022年度決算時)
  • ※2023年7月時点

企業概要

地域事業者の担い手不足を解消するため、マルチワーカーの派遣事業を行う「特定地域づくり事業協同組合」。福島県では初、全国では13番目に組合として設立された。移住促進や人手不足の解消、新事業の創出などを目指す。

町の担い手不足の解消と移住促進のため組合設立を決意

会津地方の南西部である奥会津に位置する金山町。山に囲まれ、総面積の約90%を森林が占める。海から離れた地域のため、東日本大震災による直接的な被害はほとんどなかった。ただ、金山町にある沼沢湖に生息する地域の名物であったヒメマスが、放射能濃度が基準値を超えた影響で取れない状況に。観光客に人気の名産品ヒメマス寿司が提供できなくなった。

追い打ちをかけるように、2011年7月に新潟・福島豪雨災害が発生。JR只見線の橋梁(きょうりょう)が流出するなどの大きな被害を受け、観光客は大幅に減少した。

町の人口は鉱山の操業開始や発電所の開所などがあり、1960年頃まで1万人をピークに増えたが、1969年の豪雨災害や1971年・1973年の鉱山閉鎖、その後には建設事業の入札形式が変化し町外の業者の流入が起きたことで、金山町の主要産業であった建設業の倒産が加速。建設業者はピーク時に比べて5分の1、雇用も比例して減少し、人口流出が進んだ。代表理事の目黒祐一氏は、当時の苦労を語った。

「金山町の人口は2010年前後から2,000人程度で、高齢化率は約60%、地域活性化に向けた取り組みが急務でした。そこで『企業組合おく愛ズ』を結成し、観光客へヒメマス寿司を提供するなどの施策を行いました。地域内の消費促進などの効果はありましたが、外部からの移住者増にはつながらず、地域の人口減少という課題解消に対する効果はなく、ぬかに釘を打っているような感覚でした」(目黒氏)。

JR只見線第七只見川橋梁。2022年10月に全線再開通し、観光客でにぎわう(撮影:星賢孝氏) JR只見線第七只見川橋梁。2022年10月に全線再開通し、観光客でにぎわう(撮影:星賢孝氏)

そんな中、課題解決の糸口になると考えられたのが「特定地域づくり事業協同組合制度」だ。急激な人口減少に直面する地域において、担い手不足を解消するために2020年に施行された。季節や時期によって職場を変え、さまざまな仕事を行うマルチワーカーの派遣事業「特定地域づくり事業」を行う事業協同組合に対し、行政から組合運営費の財政支援を受けることができる。

「金山町では、後継者不足に悩んでいるものの、人を通年で雇用するほどの余裕がない事業者が多くいました。人口減少の課題も抱える中で、繁忙期など一時的に雇用できるマルチワーカーの存在は課題解決につながるのではと考えたのです。以前より有志で地域振興に向けた活動をしてきたので、事業者間の協力体制はできていた。組合設立は県内では前例のない取り組みでしたが、地域全体で協力して準備を進められました」(目黒氏)。

代表理事の目黒祐一氏(左)と、事務局長の星賢孝氏(右) 代表理事の目黒祐一氏(左)と、事務局長の星賢孝氏(右)

派遣事業が地域の給与水準を改善するきっかけに

福島県内では前例のなかった特定地域づくり事業協同組合の設立。膨大な資料作成や行政との調整などに時間を要したが、多くの関係者を巻き込みながら進め、約半年間の準備期間を経て2021年に設立を実現した。地域全体で推進したとはいえ、組合に対する反発もあった。その一つが派遣スタッフの給与水準だ。当時の苦労を、事務局長の星賢孝氏は語る。

「金山町は人口が少ない地域なので、平均給与はほぼ最低賃金に近い。一方で組合から派遣されたスタッフは、町の平均よりも給与が高めに設定されています。そのため派遣スタッフが加わることで、従業員全体の給与を上げなければならなくなり、経営が苦しくなるのではと懸念する事業者もいました。しかし移住者を増やすためには、給与を上げて町で安心して暮らせる環境を整えなければならない。給与の底上げは町の未来に不可欠だと根気強く説得したところ、納得いただいて派遣先を獲得できました」(星氏)。

地域の担い手不足解消のカギを握る派遣スタッフだが、ただ単に人手を確保するだけでは不十分で、「最も重要で難しいことは、『良い人材』に来てもらうこと」だそう。

「良い人材とは、『地域を愛してくれる人』だと考えています。実際、過去に内定を出したものの、親の反対や『イメージと違った』などの理由で辞退する方もいました。金山町は自然豊かな町ですが、コンビニが1軒もなく交通アクセスも良いわけではない。だからこそ、町に対する愛着がなければ長続きしないでしょう。そのため採用時、面接などでできるだけ地域に対する愛情の大きさは確認しています」(目黒氏)。

廃校を利用した金山町自然教育村会館の一室を事務所として町から賃借している
廃校を利用した金山町自然教育村会館の一室を事務所として町から賃借している
廃校を利用した金山町自然教育村会館の一室を事務所として町から賃借している
廃校を利用した金山町自然教育村会館の一室を事務所として町から賃借している

移住・定住をさらに促進するため働きやすい環境整備に注力

現在の派遣スタッフは8人(2023年7月時点)。派遣先である20の事業所で、複数箇所に就業するマルチワーカーとして働いている。マルチワーカーを活用した働き方は、事業者側にとっては必要な時のみ働き手を確保できる点が、労働者側にとっては休日の調整がある程度可能なことなど、自由度の高い働き方ができる点がメリットの一つだ。組合設立から3年目を迎え、その他のメリットが見えてきたという。

「1箇所の事業所でずっと働くより、さまざまな場所で働く方が多くの人と関わるので、地域へ早く溶け込めていると感じます。またさまざまな仕事を経験する中で本人の適性が見つかり、派遣先で直接雇用されたケースや、副業が軌道に乗って地域で起業したケースもあります。派遣事業をきっかけに地域への定住や、地域全体の利益創出になるなど、多様なメリットにつながっていますね」(目黒氏)。

派遣先や派遣スタッフは一定数確保し、安定的な運用を行えている。今後は働きやすさなどの労働環境を整えていくことが必要となる。

「複数の職場を兼任するマルチワーカーの場合、それぞれの派遣先で仕事を覚えるのに時間がかかって、達成感を感じづらいといった課題があります。またスタッフの中には兼業・副業をする人もいるので、休日に副業で働き過ぎて、派遣先に迷惑をかけてしまった事例もありました。今後は働きやすい環境や制度を整え、持続可能な派遣事業を目指したいですね」(星氏)。

派遣事業が金山町の産業や暮らしを支え、地域振興にとってますます重要な存在となっていくだろう。

“福島県初の特定地域づくり事業協同組合”として取り組みが評価され、2023年2月に「第8回ふくしま経済・ 産業・ものづくり賞」にて、「福島民報社奨励賞」を受賞した “福島県初の特定地域づくり事業協同組合”として取り組みが評価され、2023年2月に「第8回ふくしま経済・ 産業・ものづくり賞」にて、「福島民報社奨励賞」を受賞した
課題

・1960年頃の1万人をピークに人口減。東日本大震災の風評被害や、新潟・福島豪雨災害の橋梁流出により観光客も大幅に減少。地域産業の担い手不足が深刻化した。

・地域の給与水準に対し、派遣スタッフの給与を高くせざるを得ない中、雇用側から経営が難しくなるのではと反発があった。

解決策

・2021年5月に特定地域づくり事業協同組合として認定され、7月に複数の職場を兼任するマルチワーカーの派遣事業をスタート。

・移住や定住を増やすためには地域の給与水準を上げ、暮らしやすい環境づくりが不可欠だと事業者に説明。納得いただき、派遣先を獲得できた。

効果

・派遣スタッフは8人、派遣先は20事業所(2023年7月時点)。派遣事業をきっかけに担い手不足の解消だけでなく、派遣先での直接雇用や、地域での起業にもつながった。

・給与水準や労働環境の改善など、持続的に暮らせる環境整備に貢献した。

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