地域における笹かまぼこの重要性を再認識 仙台の食文化を未来へ継承する

株式会社鐘崎

【宮城県仙台市】

地域における笹かまぼこの重要性を再認識
仙台の食文化を未来へ継承する

企業情報

  • 企業名 株式会社鐘崎
  • ヨミガナ カブシキガイシャカネザキ
  • 業種 食料品製造業
  • 代表者 嘉藤明美氏[代表取締役社長]
  • 所在地 宮城県仙台市若林区鶴代町6-65
  • TEL 022-231-5141
  • WEB https://www.kanezaki.co.jp/
  • 創業年 1947年
  • 資本金 4,000万円
  • 従業員数 160人
  • 売上高 非公開

企業概要

1947年創業の笹かまぼこメーカー。東日本大震災で本社工場、沿岸部店舗が被災するも、従業員一丸となって1カ月で復旧。2016年に全ての笹かまぼこ製品を化学調味料・合成保存料・でんぷん・卵白無添加にリニューアルした。

被災後に製造再開した笹かまに涙 地域の人々の思いを知る

宮城県仙台市を代表する老舗笹(ささ)かまぼこメーカー、株式会社鐘崎。創業者の吉田勇氏と妻のキクヨ氏が1945年、第2次世界大戦の空襲で焼け野原となった仙台駅前の広場で、魚の開きなどを販売する露天商を始めた。1947年に仙台市東八番丁にかまぼこを販売する合資会社鐘崎屋を設立。1969年に商号を株式会社鐘崎に変更した。

県内を中心に約30店舗を展開していたが、東日本大震災の津波被害により沿岸部にあった3店舗が流された。本社工場は津波による被害は免れたが、現代表取締役社長の嘉藤明美氏が「建物が全部崩れ落ちるんじゃないかと思うくらいでした」と話すほど、地震被害が甚大だった。

代表取締役社長の嘉藤明美氏 代表取締役社長の嘉藤明美氏

「とにかく1日でも早く笹かまぼこを1枚焼き上げよう。前に進むしかない」と昼夜にわたって復旧作業を続け、約1カ月で1ラインを復旧。笹かまぼこがラインを流れる様子に、従業員から自然と拍手が起きたという。

最初に焼き上がった笹かまぼこは避難所に配ると決めていた。近隣地域の避難所に配り終え、残った400〜500枚を当時営業していた一番町店の前で販売した際、涙を流して感謝する人々の姿を目の当たりにした。「『ありがとう。笹かまぼこができて良かった』と、涙を流しながら私たちにお礼を言ってくださいました」。

嘉藤氏の当時の役職は営業部長。東日本大震災の10日前に着任したばかりだった。これまで営業経験がなかったことから、「自分には無理だ」と迷いがあったが、「地域の人たちの笹かまぼこに対する思いやその大切さを知り、復旧・復興のためはもちろん、地域の人にもっと笹かまぼこを愛してもらうためにもどんどん前に進もうと、迷いが吹っ切れました。東日本大震災でつらいことがたくさんありましたけれども、それによって大きなものを頂いたなと思います」と振り返る。

会社を取り巻く状況や時代の変化、ニーズに素早く対応

鐘崎の商品は、観光客の土産品と、地元客のお中元やお歳暮など贈答品としての需要が中心だった。いずれも被災による影響を受けることは必至。経営陣から今後1年間の売り上げ予測を問われた嘉藤氏は、阪神・淡路大震災の資料を参考に、被災後の小売店の数字の変化を手探りで調べた。

その予測に基づき、会社を存続させるために約400人の正社員を維持しなくてはならないと、やむなく約100人のパート従業員の契約をいったん打ち切る決断を下す。苦境を乗り切った後、地元客がお世話になった全国の方に送る贈答需要もあって売り上げが急回復し、1年以内には復職を希望するパート従業員を全員再雇用できた。

加えて、東京電力福島第一原子力発電所の事故による風評の影響もあり、観光客数が低迷したことから、観光客をメインターゲットにしていた総本店併設のアミューズメント施設「笹かま館」を、笹かまぼこの魅力や文化を発信する「かまぼこの国 笹かま館」として2012年からリニューアルを重ねる。作りたての笹かまぼこと宮城の地酒が味わえる「鐘崎屋」、すり身や魚などを使ったランチ、スイーツを提供する「杜もりのこんだてCafe」を設け、笹かまぼこ作り体験や早朝工場見学などを始めた。

子どもはもちろん、大人にも人気の笹かま手作り体験教室 子どもはもちろん、大人にも人気の笹かま手作り体験教室
早朝工場見学は、見学後に焼きたての大漁旗付きの特製朝食が食べられる 早朝工場見学は、見学後に焼きたての大漁旗付きの特製朝食が食べられる

2013年11月には惣菜ブランド「杜のこんだて 鐘崎」を立ち上げた。地元の人たちにもっと食される機会をつくりたいと、長年作り続けてきたすり身を基本に、地元産の食材や旬の海の幸・山の幸を組み合わせた「おいしくて体に優しい和惣菜」を、地域の食卓へ提供。現在は、焼き過ぎや形が悪いため廃棄されていた規格外商品を惣菜に加工して販売する、アップサイクルの取り組みも行っている。

また、卵アレルギーの子どもを持つ親からの手紙をきっかけに、卵白やでんぷんを使わない笹かまぼこの開発にも乗り出す。健康志向や自然志向の高まりなども受け、2014年11月には看板商品の「大漁旗」をリニューアルし、卵白・でんぷん・合成保存料・化学調味料を無添加に。2016年6月には全ての笹かまぼこ製品に広げた。

看板商品である笹かまぼこ「大漁旗」 看板商品である笹かまぼこ「大漁旗」

女性が活躍できる環境で新商品を開発 地域の食文化を次世代へ

製品だけでなく社内の体制も刷新。縦割りだった組織を横に広げ、情報を共有。部門間や社員同士のコミュニケーションを高めることで、重複していた作業などの無駄を省き、多能工化。週休2日制、工場定休日の設置、残業時間の削減など、働き方改革を実行した。

女性社員が活躍しやすい環境づくりにも取り組んでいる。有給休暇を半日単位で取れるようにし、仕事と子育ての両立を可能にした。現在では、社員の6割が女性になり、女性社員だけのプロジェクトチームも立ち上げるなど、活躍の場が増している。

2023年には、「お魚で女性のなりたいを応援する」をコンセプトに、良質なたんぱく質であるすり身を生かし、美と健康に特化した商品・サービスを届ける新ブランド「emitotto(えみとっと)」をスタート。第1弾の商品として、魚と大豆のたんぱく質を配合したプロテインバー「シープロテイン10BAR(テンバー)」を発売した。

女性社員だけのプロジェクトチームで商品開発を行った「シープロテイン10BAR」 女性社員だけのプロジェクトチームで商品開発を行った「シープロテイン10BAR」

廃棄される未利用魚に価値を見出し、加工食品として売り出すなど、地域の魚食文化を守る循環を生み出す取り組みにも力を入れている。さらに、笹かまぼこの手焼きを体験できるコンテンツなども提供している。

「われわれの仕事は、魚という地域の海の恵みを頂いて、それに磨きをかけて、より多くのお客さまに提供することです。鐘崎のものというよりも、仙台・宮城・東北の魅力的なものとして発信していければ」と嘉藤氏。

「そのためには、笹かまぼこや魚食といった地域の食文化を、次の世代にどうつなげていけるかが大きなテーマだと考えています」と力を込める。仙台を代表する老舗メーカーとして誇りと責任を持って、未来へ継承していく。

課題

・東日本大震災により本社工場は甚大な被害を受ける。

・製造から販売まで部門が多岐にわたるため、部門間や社員同士の連携不足から作業の重複が発生。

・東京電力福島第一原子力発電所の事故による風評の影響もあり、観光客が減少。

解決策

・「1日でも早く笹かまぼこを焼き上げよう」と復旧作業を昼夜続け、約1カ月で1ラインを復旧。

・部門を横断したプロジェクトチームを編成し、部門間の連携を高めた。

・総本店併設のアミューズメント施設「笹かま館」を、笹かまぼこの魅力や文化を発信する「かまぼこの国 笹かま館」としてリニューアル。

効果

・東日本大震災後初めて笹かまぼこを販売した際、涙を流して感謝する人々の姿を目の当たりにし、地域の人たちの笹かまぼこに対する思いやその大切さを知る。

・部門間や社員同士のコミュニケーションが高まり、重複していた作業の無駄が省け多能工化につながる。

・笹かまぼこや魚食といった、地域の食文化を次の世代につなげている。

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