高い技術力で魚の「雌雄判別装置」を開発 水産業の人手不足問題に一役買う

東杜シーテック株式会社

【宮城県仙台市】

高い技術力で魚の「雌雄判別装置」を開発
水産業の人手不足問題に一役買う

企業情報

  • 企業名 東杜シーテック株式会社
  • ヨミガナ トウトシーテックカブシキガイシャ
  • 業種 情報サービス業
  • 代表者 本田光正氏[代表取締役]
  • 所在地 宮城県仙台市宮城野区銀杏町31-24
  • TEL 022-354-1230
  • WEB https://www.tctec.co.jp/
  • 創業年 2002年
  • 資本金 2,100万円
  • 従業員数 114人
  • 売上高 9億1,000万円

企業概要

2002年設立。ソフトウエアの受託開発を行う。2009年より、自社サービスの開発を開始し、東北大学青木孝文教授の協力の下、最新の画像処理技術を活用した製品開発に着手。2022年1月に「Smart Echo」シリーズが「みやぎ優れMONO」に認定された。

自社サービスの開発で飛躍し水産業の復興支援に乗り出す

AI×超音波の装置を魚に当てるだけで瞬時に魚の内部を観察し、外見からは判断しにくい白子・魚卵が分かる。魚の雌雄判別装置「Smart Echo(スマートエコー)」シリーズを開発したのは宮城県仙台市に本社を置く東杜シーテック株式会社だ。

代表取締役の本田光正氏は、東日本大震災後、被災地の課題に直面した当時のことを思い返す。「自分たちが習得してきた画像処理や先端技術でできることがあるなら、新たなことに挑戦していこうと思いました」。本田氏をはじめ、社員の思いがこの画期的な装置を生み出した。

代表取締役の本田光正氏 代表取締役の本田光正氏

2002年の創業以来、ソフトウエアの受託開発で事業を拡大した同社。しかし2008年のリーマンショックの影響で業績が悪化し、自社サービスの開発を開始。その際に、社員5、6人が東北大学の研究室に通い、最先端技術の習得を開始した。

そこで画像処理、撮像、光学系などを一つ一つ学び、保有する技術と掛け合わせたシステムの開発に成功。画像処理やAIの技術を活用した幅広いツールを開発した。光学式検知装置など多数の特許も取得し、年商は2億円以上にもなった。

2011年の東日本大震災発生時は北仙台に本社があった。電気やガス、水の供給が止まり、食料品の確保に奔走していたが、「沿岸部に比べたら大きな被害ではない。復興の役に立ちたい」と、東北大学の産学官連携に取り組む「情報知能システム(IIS)研究センター」と共同で三陸沿岸部の水産業の困りごとをヒアリング。その中で耳にした「魚の雌雄を見分けられる目利きの人が減っている」という声が、「Smart Echo」開発のきっかけとなった。

震災前から人手不足や高齢化は進んでいたが、被災によりこの課題は加速していた。例えば、タラは熟練者でも雌雄の判別が難しい。しかし、白子の有無で商品価値が5倍以上変わる。正月には白子のあるタラの需要が高まるが、雌雄が分からない状態での仕入れは、売る側も買う側も大きな損失が発生する可能性があるという。熟練者でなくても雌雄判別ができるよう「自動化」するアイデアが浮上した。

初めはさまざまな手法を試した。X線は安全面で敬遠され、可視画像、遠赤外線、近赤外線なども合わない。試行錯誤の中で超音波の活用にたどり着いた。AI技術は東北大学の青木孝文教授、超音波画像技術は同大学の西條芳文教授の支援を受け、ハードウエア、ソフトウエアを自社で開発した。

一番力を注いだのがデータ収集だった。「地域や水揚げの時期によっても脂の乗りが違う。北海道と宮城で反応が違うこともあり、精度が安定しませんでした」と本田氏。タラが白子・魚卵を抱える旬の時期は2、3カ月と短期決戦。各地の漁港を飛び回り、数万のタラを調査した。

5年以上の歳月をかけて数万件以上のデータを収集し、改良を重ね、98%の高精度で判別できる「Smart Echo BX」の開発に成功。2019年には「みやぎ認定IT商品」に、2022年には「みやぎ優れMONO」に認定された。

目利きを自動化した「Smart Echo BX」 目利きを自動化した「Smart Echo BX」

「Smart Echo」の普及とともに、水産業の新たな課題解決にも挑戦

現在、「Smart Echo」シリーズは、漁業協同組合、大手企業の研究所、国立大学、地方自治体などが購入し活用している。しかし導入時に相応のコストがかかることから、「人の手で何とかできているから」と導入に踏み切れない現場や、ベテランの目利きが勝るという考えから難色を示す人もいる。

「導入助成や補助金制度があれば装置を使うハードルが低くなる。ベテランの引退や新規就労者の確保など、水産業の将来を考えれば、自動化は必要だと感じる」と本田氏。その糸口となるように、現在はレンタルサービスを進めており、13件の利用がある(2023年7月時点)。レンタルなら必要な時期に限って利用できるため、各県の水産試験場や漁業、食品加工業者など、より水産業の現場に近い人たちの利用も増えてきた。

これまで一部の目利きしかできなかった雌雄判別を「誰でも」「簡単に」できる。漁獲時、箱詰め、出荷と、どの段階でも可能で、特に人手不足の現場に導入すると効果が大きい。初めて見た人は「本当に装置を当てるだけで分かるんですね」と驚くという。

もともと雌雄を分けずに出荷していた魚を「Smart Echo」で分別して出荷したところ、3倍もの値が付いたといううれしい事例もあった。タラやサケ以外に、サバやフグなど多彩な魚種の雌雄判別にも活用したいとの声もある。

また、東日本大震災後、沿岸部に何度も足を運び、現場の声を聞く中で「水産業の持続を妨げる課題」に直面し、「水産業を成長産業へ転換し、地域活性化につなげたい」という思いがより強固なものになった。

そこで2019年、東北大学IIS研究センターが中心となって立ち上げた「スマートマリンチェーンプロジェクト」に参加。プロジェクトの一環として現在、「魚種選別装置」を開発している。このプロジェクトでは水揚げされた魚の選別作業の自動化を目指しており、将来的に水揚げされた魚の種類、サイズなどの固有データを、ICTを活用して流通業者、購入者などにリアルタイムで提供できれば、バリューチェーンの変革をもたらすはずだ。

AIと画像処理技術を活用して魚種判定を自動で行う「魚種選別装置」 AIと画像処理技術を活用して魚種判定を自動で行う「魚種選別装置」

水産業の課題を解決するとともに付加価値を向上させて、地域の活性化につなげることがプロジェクトの目的の一つ。気仙沼市大島にある「大島.Base」に加え、2023年9月には同市内に事業所「気仙沼.Office」を開所するなど、活動拠点も増やして力を注いでいる。

全国的に見ても人口減少が進む東北地方から地域課題を解決できる製品を生み出そうと、研究・開発に尽力する同社。最近は「Smart Echo」が国内だけでなく海外からも注目されている。「宮城県から全国へ、ゆくゆくは世界へ。広く発信できるようなものを作りたい」と本田氏。たゆまぬ挑戦は、これからも続いていく。

課題

・水産業の人手不足や高齢化が、東日本大震災で加速。

・「Smart Echo」シリーズの対象が生き物であるため、条件によって反応が異なり、なかなか精度が安定しなかった。

・製品の効果を理解されつつも、導入に相応のコストがかかるため、購入に踏み切れない現場も多い。

解決策

・「魚の目利きが減った」という課題解決のため、雌雄判別装置「Smart Echo」シリーズを開発。

・各地の漁港を飛び回り、数万件以上のデータを取得。

・必要な時期に限って利用できるレンタルサービスを進めている。

効果

・誰でも簡単に雌雄の判別ができるようになり、人手不足の現場で効果を発揮。

・5年の歳月をかけて豊富なデータを収集したことで、98%の高精度を実現。

・レンタル利用は延べ13件(2023年7月時点)。水産試験場や漁業、食品加工業者などの利用も増えた。

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